第十八話 VS森の王
「当然でしょう」
マインはそう言った。
俺には何が当然なのか分からない。
エルダー・ベヒモスは明らかに俺たちを警戒している。
そして。
身体の向きを変えた。
「逃げる?」
地面が揺れる。
巨体が走り出す。
「あ」
その方向。
老ゴブリンが叫んだ。
「里!」
「まずい」
俺は地面を蹴った。
景色が消える。
次の瞬間。
エルダー・ベヒモスの前にいた。
「よっと」
停止。
振り返る。
ベヒモスも急停止した。
遠くでガレスが何か叫んでいる。
聞こえない。
(この世界でもちゃんと動けるな)
ゲームの頃とほぼ同じ。
いや。
自分の身体で動く分、もっと自由だ。
ベヒモスが俺を睨む。
「悪いけど、そっちは駄目」
意味が通じたのかは分からない。
でも敵意は伝わったらしい。
巨大な前脚。
地面を蹴る。
「お」
速い。
グレイヴエイプとは比較にならない。
巨体が迫る。
でも。
遅い。
横へ。
背後。
また横。
ベヒモスの頭が俺を追う。
追いつかない。
(懐かしいな)
ゲームでも同じだった。
防御力を上げるくらいなら速度。
耐えるくらいなら避ける。
その結果。
当たれば痛い。
でも当たらない。
そういうキャラクターになった。
ベヒモスの尾が薙ぎ払われる。
跳ぶ。
頭上。
「ちょっと試すか」
単体相手は苦手だ。
俺の魔法は大量の敵をまとめて狩るために組んである。
だから弱め。
本当に弱め。
「《エア・バレット》」
圧縮した空気の塊。
角を狙った。
バンッ!
「……あ」
巨大な角が飛んだ。
回転しながら森へ落ちる。
ズドン。
地面に刺さった。
「……弱いの選んだつもりなんだけど」
ベヒモスが止まった。
俺を見る。
攻撃してこない。
「もういい?」
ゆっくり近づく。
ベヒモスは動かない。
その巨大な瞳に俺が映っている。
殺す必要はない。
こいつだって、元々ここに来たくて来たわけじゃないらしい。
むしろ俺たちが原因だ。
「ここから出ていってくれれば、それでいいから」
しばらく沈黙。
やがて。
森の王が頭を下げた。
「……分かったのかな?」
後ろから足音。
ガレスたちが追いついてきた。
そして全員止まる。
「お前……」
「はい?」
「何をした?」
「ちょっと角を」
「見れば分かる!」
ガレスが頭を抱える。
その横でバルトは完全に固まっていた。
老ゴブリンたちは。
一体。
また一体。
次々と跪いていく。
「何?」
「あるじ様」
マインたちも追いついた。
「どうやら、彼らにとって決定的な出来事だったようですね」
「追い払っただけだけど」
「森の王を、でございます」
「……」
そう言われると少し大事に聞こえる。
エルダー・ベヒモスはもう一度俺を見る。
そしてゆっくり森の奥へ消えていった。
俺は知らなかった。
その瞳が最後に俺を見た時。
そこにあった感情が。
恐怖だけではなかったことを。




