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第十七話 責任

「困ってるなら、できる範囲で助けたいだけです」

 俺としては、それだけだった。

 ところが。

 マインがこちらを見ていた。

「何?」

「……いいえ」

 妙に真剣な顔だ。

「あるじ様は、そこまでお考えなのですね」

「何を?」

「我々が及ぼした影響、その先まで」

「え?」

「力ある者は、自らの行いが生み出した結果に責任を持つ」

 マインが胸へ手を当てる。

「しかと胸に刻みました」

「いや、そんな大層な――」

「私もです」

 サラまで。

「あるじ様のお考え、理解いたしました」

「待って」

 エルが微笑む。

「素晴らしいお考えだと思います」

 夏も頷く。

「支配とは力を示すだけではないのですね」

「支配?」

 何の話?

 マジカだけが静かに俺を見ている。

「あるじ様」

「マジカまで何?」

「私は、あるじ様にお仕えできることを誇りに思います」

「話がどんどん大きくなってない?」

 誰も答えなかった。

 老ゴブリンが俺の前へ進み出る。

「助ケル?」

「まだできるか分からないけど」

「我ラ、従ウ」

「……え?」

「我ラ、オ前ニ従ウ」

「いやいや」

 手を振る。

「別に従わなくていいよ」

 老ゴブリンが困った顔をした。

「何故?」

「何故って……」

 逆に聞かれると困る。

「あるじ様」

 マインが口を挟んだ。

「彼ら自身に選ばせてはいかがでしょう」

「本人たちに?」

「はい。あるじ様が強制する必要はございません。しかし、彼らが自ら望んで庇護を求めるのであれば」

「庇護……」

 また大袈裟な言葉が出てきた。

 でも。

 三百人以上いる。

 自分たちの土地を追われた。

 頼れる相手もいない。

「まあ……本人たちがそうしたいなら」

 老ゴブリンの顔が変わった。

 振り返る。

 何かを叫ぶ。

 次の瞬間。

「「「オオオオオオオオオッ!!」」」

 三百を超えるゴブリンが一斉に武器を掲げた。

「うわっ」

 びっくりした。

「何て言ったの?」

「我らに新たな主ができた、と」

 マインが答えた。

「……そこまで言ってないよね?」

「本人たちが望んだ結果でございます」

「そうなの?」

「はい」

 まあ。

 いいか。

 ゴブリン全員で森の王のところへ行くわけにはいかない。

 老ゴブリンと精鋭十体だけが案内役として同行することになった。

「ガレスさんたちは戻った方がいいと思います」

「……何?」

「ここから先、危ないんですよね?」

「お前が言うな」

「いや、だからこそ」

 俺たちはある程度戦える。

 でもガレスたちは違う。

 銀級冒険者。

 十分強いのだろう。

 ただ、森の王がどの程度か分からない。

「何がいるか分からないので」

 ガレスが黙った。

「……俺たちじゃ足手まといってことか?」

「いや、そうじゃなくて」

「なら行く」

「危ないですよ?」

「新人に心配されて帰れるか」

 面倒くさい人だな。

 バルトも残ると言った。

 ただし斥候の一人をガルディアへ戻し、状況を報告させる。

 それから、さらに森の奥へ進んだ。

 木々が変わる。

 巨大だ。

 幹の太さが家ほどある。

 日の光がほとんど届かない。

 そして。

 魔物がいない。

「静かすぎる」

 ガレスが呟く。

 ズン。

 地面が揺れた。

「……何だ?」

 ズン。

 もう一度。

 木々の向こう。

 何かが動いた。

 最初は岩山かと思った。

 巨大な背中。

 苔に覆われた黒い体毛。

 太い四肢。

 頭部から伸びる巨大な角。

「王……」

 老ゴブリンが地面へ伏せた。

 エルダー・ベヒモス。

 森の王。

「でかいな」

 俺は見上げる。

 魔力を探る。

 確かに強い。

 この世界へ来てから出会った中では、間違いなく一番だ。

 でも。

(これなら普通に倒せそうだな)

 その時。

 エルダー・ベヒモスがこちらを見た。

 俺。

 マイン。

 サラ。

 エル。

 夏。

 マジカ。

 一体ずつ確認する。

 そして。

 ズン。

 一歩。

 後ろへ下がった。

「……え?」

 ガレスが呟く。

 さらに一歩。

 森の王が下がる。

「怯えてる……?」

 俺は首を傾げた。

 マインだけが静かに微笑む。

「当然でしょう」

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