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第十五話 森の序列

 森へ入って一時間。

 遅い。

 ものすごく遅い。

「止まれ」

 まただ。

 ガレスが片手を上げる。

 全員が止まった。

 彼は地面へしゃがみ込む。

「足跡だ」

「何の?」

「黙ってろ」

「はい」

 怒られた。

 ガレスが土へ触れる。

 折れた草。

 泥に残った窪み。

 木の幹についた傷。

 それらを順番に確認する。

(ゲームだったらマップ開いて走るだけだったんだけどな)

 もちろん、ここはゲームではない。

 分かっている。

 分かっているけど。

 遅い。

「グレイヴエイプだ」

 ガレスが立ち上がる。

「一体?」

「いや」

 周囲を見回す。

「少なくとも四体」

 バルトの部下たちの表情が強張った。

 金級指定魔獣が四体。

 普通なら大事件なのだろう。

「でも、おかしい」

 ガレスが足跡を見る。

「全部、外へ向かってる」

「やっぱり逃げてる?」

「ああ」

 巨大な木が何本も倒れている。

 縄張りを歩いて移動したのではない。

 何かから必死に逃げた。

 そんな痕跡だった。

「先へ進むぞ。ただし慎重にだ」

 さらに森の奥へ。

 しばらくして。

「……止まれ」

 今度の声は違った。

 ガレスの顔から血の気が引いている。

 視線の先。

 巨大な何かが倒れていた。

「トカゲ?」

「アーマード・バジリスクだ」

 全長七メートルほど。

 黒い甲殻に覆われた巨大な爬虫類。

 ただし、その身体の半分近くがない。

 食われていた。

「危険度は?」

「白金級相当」

「これが?」

「ああ」

 ガレスが立ち上がる。

「帰るぞ」

「え?」

「調査は終了だ」

 即決。

「でもまだ――」

「白金級相当の魔物を餌にする何かが、この近くにいる」

 ガレスが俺を見る。

「銀級の俺たちが調べていい領域じゃねえ」

 なるほど。

 正しい判断だと思う。

 ただ。

「ちょっと待って」

 死体へ近づく。

「おい!」

「見るだけです」

 傷を見る。

 食われ方が妙だ。

 大きな何かに噛み千切られたようには見えない。

 細かい。

 たくさんの傷。

「これ、一匹じゃないと思いますよ」

「何?」

「ほら」

 地面を指す。

 小さな足跡。

 一つ。

 二つ。

 十。

 もっと。

「……多いな」

 ガレスも気づいた。

「数十?」

「違います」

 夏が静かに言った。

「もっとおります」

「何?」

 夏が森を見る。

「あるじ様」

「うん」

「囲まれております」

 ガレスたちの空気が凍る。

 俺も魔力探知を広げた。

「あ、本当だ」

「ど、どれくらいいる?」

 ガレスが聞く。

「ちょっと待って」

 数える。

「三百……」

「三百!?」

「いや、もっといるな」

 茂みが揺れた。

 一体。

 また一体。

 木々の間から姿を現す。

「ゴブリン……?」

 ガレスが剣を抜く。

 でも。

「違う」

 以前戦ったフォレストゴブリンとも違う。

 身体が大きい。

 装備が整っている。

 槍。

 弓。

 盾。

 杖を持つ個体までいる。

 隊列すら組んでいる。

「ハイ・フォレストゴブリン……」

 ガレスの声が震えた。

「知ってるんですか?」

「記録でだけだ。単体でも鉄級以上。上位個体なら銀級に届く」

「へえ」

「へえ、じゃねえ! 三百以上いるんだぞ!」

 確かに多い。

 でも。

「攻撃してこないですね」

「……何?」

 そう。

 包囲している。

 武器も持っている。

 なのに誰も攻撃してこない。

 やがて、ゴブリンたちが左右へ分かれた。

 一体の老いたゴブリンが歩いてくる。

 杖を持っている。

 俺の前まで来る。

 ガレスが前へ出ようとした。

「待って」

 何となく敵意を感じない。

 老ゴブリンが俺を見る。

 次にマイン。

 サラ。

 エル。

 夏。

 マジカ。

 そして再び俺。

 杖を地面へ置いた。

 膝をつく。

 頭を垂れる。

「森ノ……」

 低い声。

「王ヨ」

「……はい?」

 俺は首を傾げた。

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