アイランと黒幕の存在
サリーナ達は、アイランの魔力を辿り、国境付近までやってきた。
空にいるサリーナ達の視線の先では、隣の国の旗が風でなびいている。旗を掲げているのは、武装した集団だ。
「あの集団の中にいますね。」
「そうだな。」
「とりあえず、パールに騎士団へ伝えてもらいましょうか。」
「ああ。隊長なら大丈夫だ。頼む」
「分かりました。」
サリーナは、すぐにパールへ現状を伝えた。
“分かったわ。任せて。”
「さて、どうするか。」
「まだ、何をするつもりか分かりませんし、様子を見ますか?」
「うーん………直接、話を聞くか。」
「ザック様。案外、大胆ですね。…ま、分かりやすくて、私は好きです。」
「リーナ。魔力が俺たちより高いやつはいなそうだが…」
「気は抜きません。…念の為、アルとルーフは離れて見ていてね。何かあった時の為に、別にいた方が動きやすい事もあるわ。」
「「了解。」」
「では、ザック様。」
「ああ。行こう。」
ふたりは集団の中へ、アイランの魔力へ向かって入って行った。
アイランの魔力は、集団の真ん中にあった大きな馬車の中から感じられる。
サリーナ達が、馬車の前に降りると馬車は止まり、それに合わせて、周りの兵も止まる。
馬車には御者ともうひとり男が付いている。
「何者だ!!」
「#馬車の__その__#中の女に話がある。そこをどいてくれないか?」
「女?!なんの事だ?!」
「その馬車の中にいるだろう?」
「知らんな!」
「アイランという女だ。」
「おい!馬車を出せ!」
男が御者へ怒鳴る。御者は前にサリーナ達がいるため、馬車を動かせずにいた。
「武装してどこへ行く気だ?」
「関係なかろう!それより、お前らは誰だ!名を名乗れ!!」
「俺か?俺は……ザックだ。」
「私は、リーナです。」
本名は名乗らず愛称を伝える。
本名で無いとはいえ、あっさり名乗った事に驚いたのだろうか。返事まで間が空いた。
「………おい!お前等!このふたりを頼んだぞ!我々は先に行く!」
男は周りの兵に命令する。
…が、兵達は動かない。
「おい!お前等何やっているんだ!!早くしろ!!!」
「話を邪魔されたくございませんので、動きは止めてありますよ。」
「さすが、リーナ。」
「褒めていただけて嬉しいです。」
「クソッ!使えん奴らだ!!俺が!」
男はこちらへ向かって掌を向け、魔法を放った。
「…………は?何故だ?」
サリーナ達は何事もなく立っていた。
「この集団に入ってくるんだ。それなりの準備はするさ。」
そう。私達はしっかりバリアを張っている。
その時…
「ちょっと!なぜ、動かないの?!」
馬車の扉が開き、中から身体を半分出したのはアイランだった。
「あ!貴方達!なぜ、ここに!?」
「あら、アイラン様。お久し振りですね。」
「屋敷にいるはずじゃ…」
「屋敷?どこのですか?」
サリーナは、とぼけて聞いてみた。
「チッ!失敗したのね。全く!作戦が崩れるじゃない!」
「作戦ね…。どんなものか教えてもらってもいいか?」
アイザックが鋭い目つきでアイランを見る。
「言うはずないでしょうが!!」
「そりゃそうだ。」
アイランとそんなやり取りをしていると、魔法を放ってきた男が口を挟む。
「せ、聖女様…。」
「貴方!彼奴等を捕えなさい!」
「それが、魔法が効かないのです…。」
「え!?………そうね。そうよね。貴方では無理ね。私がしなくては。貴方達!!以前の私だと思わないでね!!!」
アイランは、左手を腰に当て、右手でアイザックとサリーナの方へ指を指した。
「えーと…ザック様、どうしましょう?」
「受けて立つしかないだろうな…。雨との関連も聞き出さないとならない。」
「では、私が。」
「いや、俺が。」
「いいえ、ザック様は体力温存を…」
「ちょっと!何、話してるのよ!もう!」
アイランが両手をサリーナへ向け、魔法を放つと、水の渦がサリーナを襲った。
思っていたより、勢いが凄い。
サリーナはバリアを厚くする。
「リーナ!」
「ザック様、大丈夫ですわ。でも、本当に以前とは比べ物になりませんね。」
「そうか。早々に捕縛しよう。」
「分かりました。」
そう決めてからのふたりの行動は速かった。
アイザックが、動きを止めていた兵をより強力に魔法で縛っていく。目に見えない縄でぐるぐる巻にした状態だ。
サリーナは、一気にアイランに近づく。
「きゃ!!」
アイランはそれに反応することが出来ず、そばまで来たサリーナに驚いた。
「貴方、何者よ!」
「え?知らなかったの?私は、サリーナ·」
「それは、知ってるわよ!サリーナ·スウィーティー!」
「なんだ、知っているじゃない。」
サリーナはにっこり笑い、アイランの手を取った。
「捕まえたわ。」
「ひぃ!」
「……そんなに怯えられることはしてないと思うけれど。」
「今ので十分怖いわ!!」
「あら、怖がっている割に元気じゃない?大丈夫ね。」
「大丈夫じゃないわよ!」
「…ねぇ、この雨は貴方の力?」
「そうよ!すごいでしょ!天気も操れるようになったのよ!」
アイランは自慢げに話す。
「では、止ますことも出来るのよね?」
「ふん!出来てもしないわよ!」
「出来ないの?」
「出来るわよ!」
「本当に?」
「出来るって言ってるでしょ!!」
「ごめんなさい。あまりに凄い力だから信じられなくて…。」
「そうよ!私は貴方と違うのよ!見てなさい!!!」
アイランは、サリーナが掴んでいない方の手を挙げ、空に向けた。
ちょろっ…
空に向かって、手を挙げていたアイランは首を傾げた。
「………あれ?」
「雨…止まないわね。」
「そ、そんな筈はないわ!ちょっと!その手を離しなさいよ!」
「うーん…逃げないかしら?」
「心配なら足でも何でも掴んでなさい!」
「それでは、お言葉に甘えて。」
サリーナは、アイランの腰に抱きついた。
「ちょっと!くっつき過ぎよ!離れて!」
「はぁ…。」
サリーナは溜息をつき、アイランの腰にあった大きなリボンを掴んだ。
「これでいいかしら?」
「いいわ!それじゃ、やるわよ!」
アイランは、両手を空に向けた。
「うぬぬぬぬぬぬ!!!」
アイランは、顔に力を入れて真っ赤にしている。
雨に変化はない。
「…止まないわね。」
「そんな筈…。」
「この雨、貴方が降らしたのよね?」
「そうよ!隣の国の魔法使いと一緒に…」
「隣の国の魔法使い?」
サリーナは先程の偉そうな男に視線を送る。
「そいつじゃないわよ。」
サリーナの視線に気づいたアイランが否定する。
「リーナ。こっちは終わった。」
その時、アイザックがサリーナとアイランの方にやってきた。
「ザック様。実は…」
サリーナは、アイザックにアイランの話を伝えた。
「なるほど。…その魔法使いの名前は?」
アイザックがアイランに問いかける。
「知らないわ。」
「聞かなかったの?」
「必要ないでしょ?」
…そうかなぁ?
「…名前が分かれば、何とかなったかもしれないが…。それで、どうやって雨を降らせたんだ?」
「教えないわよ!」
「…説明ができないのか?」
「ち、違うわよ!できるに決まっているじゃない!」
説明、できなそうね…。
アイランの様子を見て、サリーナとアイザックは顔を見合わせた。
「良いように使われただけだろうな。」
「そのようですね…。しかし、魔法が強くなっていたのは確かです。何か、」
サリーナはアイランに問いかけようと見て、ある物に気づいた。
「それは?」
サリーナが指したのは、右手小指にはめられていた指輪だ。
「これ?かわいいでしょう?その魔法使いに貰ったのよ。」
「…ザック様。」
なぜ、今まで気付かなかったのだろう。
「この指輪に強い魔力を感じます。」
アイザックはサリーナの言葉に頷き、アイランに視線を向ける。
「その指輪外してくれないか?」
「なんでよ!嫌よ!」
「そうか、それなら…」
「痛!」
アイザックはアイランの腕をひねり上げ、指輪を無理やり外し取った。
「ちょっと!なんてことすんのよ!最低ね!」
「犯罪者に一度でもチャンスをやったんだ。十分だろう?……………やはり。俺は、この指輪に込められた魔力の持ち主を知っている。」
「え?」
「隣国の宰相『ミン』だ。」
「隣国の宰相ですか?」
「ああ。すぐに戻って、報告と今後の動きの相談をしよう。」
「分かりました。」
あちらの扉の方はどうしたかしら?
“パール。そちらはどう?”
“無事、移動終了。武装集団を迎え討つ準備も始まってるわ。”
“あ、それなんだけど…”
“どうしたの?”
“また、状況が変わったの。そちらの移動が終わったのなら、一度扉を閉じて、こちらと新しい扉を繋ぐわ。”
“は~い!………隊長さんに伝えたわよ。OKですって~。”
「ザック様。先程の扉、こちらに繋げますね。」
「大丈夫か?」
「ええ。向こうの移動は済んだそうなので。」
「そうではなく。リーナの魔力は?」
アイザックは、心配そうにサリーナを見る。
「今の所、体調に変わりはありません。」
「少しでも、何かあったらすぐに言うんだよ。」
「はい。…それでは、行きます。」
サリーナは、扉を出した。
「なっ!どういうこと!?貴方、なにをしたの!?」
アイランが騒いでいるが、サリーナとアイザックは気にせずにやる事を進めていく。
扉の向こう側には、パールと、パールから話を聞いたのであろうハンス隊長、騎士団長がいた。
「話は聞いた。今、隣国との戦いの準備をしていたのだが…。」
騎士団長は、アイザックとサリーナの後ろを見渡す。
「必要なかったか?」
騎士団長の問にアイザックが答える。
「いいえ。必要です。黒幕は隣国の宰相、いえ…宰相が動いているという事は…。」
「国自体か…。」
「…はい。」
「王に報告だな。準備も大掛かりになるか。」
「しかし、指輪の魔力だけでは証拠が乏しいかと。」
「指輪か…そうだな。」
騎士団長は考え込む。
団長の後方をよく見ると、少し離れたところに騎士達が集まっている。
あ、リオン兄様!
険しい顔をしたダリオンを騎士団の中に発見したサリーナが小さく手を振ると、ダリオンの険しかった顔が少し緩んだ。
考えがまとまったのか、騎士団長が再度口を開く。
「先程の捕虜もいるし、何よりこの人数を置いとく場所がない。上官たちを捕らえて、あとは放っておこう。」
「分かりました。」
アイザックは騎士団長の指示通りに動き、あの偉そうだった男と数名を連れてきた。
「さて、知っていることをすべて話してもらおう。連れて行け!魔力対策は怠るなよ!」
アイランと男達は、騎士団へ連れて行かれた。
「アイザックは俺と一緒に王の元へ。」
「はい。リーナ、報告に行ってくる。」
「はい。行ってらっしゃい。」
「…終わったら、リーナに会いに行くから。」
「お待ちいたしております。」
アイザックは、パールと共に騎士団長と歩いていった。
「こちらの後処理は私がいたします。」
ハンス隊長達第2部隊が残り、扉を越えてきた。




