黒い物体、雨の終わり
「そちらの上官は我が国で捕虜とした!これ以上の戦いはせず、帰国するよう!」
ハンス隊長は捕まっている人達に向かって大声で話す。
これ、皆に聞こえているのかしら?
………あれだ!
「ハンス隊長。」
「サリーナ様、少しお待ち下さい。今は、」
「失礼いたします。」
サリーナはハンス隊長の首に触れた。
「な!何を!?」
ハンス隊長は顔を赤くして狼狽えている。
「そのまま話してください。」
「サリーナ様、お手を……え?」
普通の声で話していたハンス隊長の声は、大声を出すよりも大きな音で周りに響き渡る。
「ハンス隊長、お話を。」
「あ、はい。…コホン。あー、もう一度言う!」
名付けて拡張器魔法。成功ね!
話を終えたハンス隊長は、サリーナに向かって頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「勝手にしてしまって申し訳ありませんでした。」
「いいえ。助かりました。このような魔法があるとは知りませんでした。」
「今、思いついたので…。」
「え?!」
「はい?」
「………何でもございません。」
サリーナとハンスの話が途切れたタイミングで、一人の騎士がハンス隊長に話しかけた。
「あの~、隊長。話し中に申し訳ありません。」
「どうした?」
「兵達が動こうとしません。」
「どういうことだ?」
…あ!
「捕縛魔法が解けていませんね。今、解きます。あ、でもザック様の魔法…本人ではないと解除できませんね。」
“パール。捕縛魔法なんだけど…。”
“アイザックくんも、思い出したようよ。報告が終わったらすぐに行くって。”
「-と言う事です。」
「分かりました。その間、周辺を調べたり、この兵たちに話を聞いたりしたいと思います。」
「では、アル~、ルーフ~!」
サリーナが名を呼ぶと、待機していたアルとルーフが姿を表した。
「ハンス隊長の手伝いをお願いできるかしら?」
2匹は頷き、ハンス隊長の側に行く。その時、思い出したようにアルがこちらへ話しかけてきた。
“あ!そうだ!リーナ。何か変なのがあったんだけど。”
“変な物?”
“うん。黒くて大きいの。”
“黒くて大きいもの…”
「ハンス隊長。」
「はい、何でしょうか。」
「その子達が何かを見つけたようです。」
「何か…ですか?」
「ええ。」
「…案内を頼めますか?」
「アル、案内を。」
“は~い。”
アルは返事をして、動き出す。
「アルに付いて行ってください。」
「はい。こちらはお前たちに任せる。」
そう言うと、ハンス隊長と数名の騎士はアルを追いかけて行った。
残りの騎士は囚われている隣国の兵たちに話を聞いて回っている。
“俺は何をすればいいんだ?”
置いて行かれたルーフは、不満そうだ。
“アル達とは別方向を一緒に見に行きましょうか?”
“いいのか?”
“私もやることが無いし、扉から離れても問題ないと思うから、良いわよ。”
“行く。”
サリーナは近くにいる騎士に話しかけ、その旨を伝えた。
「畏まりました。お気をつけて。」
◇
「なぁ、リーナ。黒い物体ってあれか?」
「…そうでしょうね。」
探索を始めてすぐに黒い石の様な塊を見つけた。
それは、サリーナの足首の高さの物が、一定の距離で点々と並んでいた。
「こんなに…。思っていたのと違うわ。ルーフは、気づかなかったの?」
「さっきか?こちらへは来なかったからな。…クンクンクン。」
「ルーフ?」
「これ。妙なニオイがする。」
「匂い?私には、分からないわ。」
近づいても大丈夫かしら。
サリーナは石に近づき、嗅いでみる。
バチッ!!
「痛っ!」
「リーナ!」
「大丈夫よ。」
この感じ、この世界では無かった。久々に感じたわ…静電気。
これで、雨雲を発生させているのね。
……誰がこんな事を思いついたの?
……もしかして…いえ…まさか…
「ま、いいわ。考えるのはあとにしましょう。…これ、壊せるかしら?それとも掘り出す?」
「どちらもやってみたらどうだ?」
「そうね。」
サリーナとルーフは、黒い石に向かって様々な攻撃魔法を放ったが、変化はない。
「次に掘り出し作戦!」
「おう!」
ルーフが石に近づき、前足で石の周りを掘ろうとした。
バチッ!
「いてっ!」
「静電気…忘れてた。」
「離れて掘るしかないな。」
「離れて掘る?どうやって?」
「「ぅ~ん…」」
何か使えそうな物あったっけ?
サリーナは前世の記憶をたどる。
「あっ!」
サリーナは、水魔法をジェット噴射の様な状態で放ち、石の周りの土に当てていく。
土は削られ、埋められている石が少しずつ姿を現す。
掘っていくと、石は杭の形になっていて、始めに見えていたのは、頭の部分だけであった。
「さて、次は…」
サリーナは、手に魔法で膜を作り、杭に触れた。
「ビリっと来ない。大丈夫そうね。」
そして、杭を引き抜くと隣に移る。その工程を続けていく。
雨は弱まり、次第に止んでいった。
「杭はまだ残っているけれど、とりあえず戻りましょう。」
「俺…役に立たなかった…。」
ルーフは、サリーナの足元で肩を落としている。
「ルーフの出番は、まだ先なのよ。力を温存しておけばいいわ。」
「それは、いつだ?」
「それは、」
「それは?」
「分からないけど。」
「なんだよ!」
「クスクス。さぁ戻りましょう。ね!」
「おお。これはどうする?」
ルーフが抜いた杭を指す。
「何本か持ち帰りましょう。残りは、また後で。」
サリーナとルーフが元いた扉の場所へ戻ると、アイザックとパールがいた。
「リーナ!」
「ザック様。お話は終わったのですね。」
「ああ。それより、リーナ説明してくれるか?」
雨が止んだことを言っているのだろう。
黒い石の対処をしていたことは、きっとパールから話がいっている。
「戻ったら説明しますね。」
「分かった。」
アイザックが兵たちの拘束を解き終わる頃には、アルたちも戻り騎士団へ帰る準備も終わっていた。
---アイザックside---
アイザックは、騎士団長と共に陛下への報告に来ていた。
「隣国のミンだと?」
「ええ。」
「はあ…面倒なことだな。」
「それでは、まだやることが残っていますので、失礼します。」
「ああ。」
陛下の御前を離れるその時、アイザックは、ふと窓が視界に入り、あることに気づいた。
「雨が止んでいる?」
「なんだと!?」
その場にいた全員が窓の外を見た。
「本当だ!」
「止んでいる!」
「彼奴等を倒したからか?」
その騒ぎの中、パールはアイザックの足を軽く叩いた。
「どうした?」
アイザックは身を屈め、パールの顔に自分の耳を近づける。
“リーナよ。”
「そうか、リーナが…。」
アイザックは駆け足でサリーナの元へ向かった。
隣国の兵へと続く扉を越えると、ハンス隊長もサリーナも姿が見えなかった。
「リーナ?」
周りを見回すと、サリーナとルーフがこちらへやって来るのが見えた。
「リーナ!」
「ザック様。お話は終わったのですね。」
「ああ。それより、リーナ説明してくれるか?」
雨はどうやって、止ますことができたのだ?
「戻ったら説明しますね。」
サリーナはアイザックへ笑顔を向けた。
終わった…のか?
「分かった。…兵たちの拘束を解いてくる。」
「はい。」
アイザックが後処理を終えた後、再び王の御前へやってきた。
そして、サリーナからの説明を聞いた。
「そうか。この杭が。」
王がサリーナが持ってきた杭に手を伸ばすと、騎士団長が止めに入る。
「触れて何事か起こる事もあるかもしれません。お止めになった方がよろしいかと。」
「ふむ。ジャック、どうだろうか?」
「私も、同意見です。詳しく調べ終えるまで厳重に保管し、残りの杭も回収しましょう。」
「そうだな。団長、頼むぞ。」
「は!騎士団をすぐに向かわせます。」
俺が見たところ、魔力も残っていなそうだ。そこまでする必要はなさそうだが?
アイザックがサリーナを見ると、サリーナも何か言いたそうだ。
しかし、用心に越したことはないか。
蓋付きの箱が運ばれてきて、サリーナはその中へ杭を入れる。
「サリーナ嬢、協力感謝する。後の事はこちらでやろう。アイザック、送ってあげなさい。」
「はい。」
エスコートする為、アイザックがサリーナの手を出すと、その手を取ったサリーナは小声でアイザックへ問いかけた。
「ザック様。杭の場所と扉を繋げなくてよろしいのでしょうか?」
「リーナ?」
「まだ体調の変化もございませんし。」
本当に大丈夫なのか?
しかし、今日は魔力を使いっぱなしだ。リーナを休ませてあげたい。
「ザック様?」
「やはり、リーナの体調が心配だから、今日はもう…」
「どうした?何かあるなら言いなさい。」
手を取ったまま、動かないアイザックとサリーナに王は声をかけた。
「はあ…。実はリーナが」
ため息をつきながら話すと、宰相である公爵からも体調に関する心配をされ、サリーナは否定している。
結果、送ったら扉は閉じ、騎士達は自力で帰ってくるということになった。




