止まない雨
明日はリック兄様の結婚式…の筈だった。
「雨…止まないわね。」
サリーナは、家の窓から空を眺める。
あれから、雨は止むことがなく、降り続いている。
各地で雨による被害も出ており、王城も騎士団も忙しく動いていた。
その為、リック兄様とサラ様は『結婚式どころではない』と判断し、少し前に式は延期すると決定された。
「どうしちゃったのかしらね…。はぁ…他に、嫌な気配も感じるというのに…。」
「見に行くか?」
サリーナが溜息をついていると、ソファ下で伏せていたルーフが顔を上げた。
「僕も行こうか?」
アルもお嫁さんに寄り添いながら話す。
お嫁さんは、卵を暖めている。
あの日、木にいる事を選んだアル達だったが、卵を産む時に安全なサリーナの部屋へ移動してきたのだ。
「いいえ。お父様達も気づいている様だから、もう少し待ちましょう。雨との関係性も調べているだろうし、幸い死傷者は出ていないと言うから。それに、アルはここから動いては駄目よ。お嫁さんと卵を守っていなさい。」
「リーナ…。でも、大事になったら動くからね。」
アルの横でお嫁さんも首を縦に振っている。
「…分かったわ。その時は頼むわね。」
「サリーナ様。お茶をご用意いたしました。」
「ありがとう。」
メルが用意してくれたお茶に口をつける。
「ふぅ…、落ち着く。」
その時だった。サリーナが座る椅子の下が光りだした。
それを見たサリーナは焦る…事はなく冷静だった。
「う~ん、これは防御した方がいいのかしら?」
「サリーナ様。早くこちらへ!」
メルが手をのばすが、サリーナは動かない。その間に光は段々広がっていく。
「ちょっと行って来ようかしら。」
その言葉を聞き、ルーフがサリーナの元へ走り、身体を寄せた。
「おやめ下さい!」
メルの叫びが響き、サリーナの足元が見えなくなった時…
「俺が行ってくる。」
ルーフはサリーナを光から押し出し、自ら光の中へ潜っていった。
「ルーフ!」
そして、光は消えた。
「一人で行くなんて…」
「何を仰っているのですか!サリーナ様が、すぐに対処なさればこうはなりませんでした!」
メルがサリーナへ怒鳴る。
「…そうね。」
お父様に任せると言ったものの、気になっていたし、この機会に色々確かめようと思った事がルーフには伝わっていたのね。
「申し訳ない事をしたわ。お父様たちにも、怒られるわね。」
魔力の繋がりは、まだ感じる。場所は…分かる。
「メル。私は皆の元へ行ってくるわ。そのままルーフの所に出掛けるから、ロンドにもよろしくね。」
「え?」
「僕も行く。」
「さっきここを守るように言ったばかりよ?」
「これは大事でしょ?」
申し訳ない…。
「………では、行きましょうか。」
サリーナは、そのまま窓から外に出る。
「サリーナ様!」
サリーナは勢いよく、王城へ向かって飛んだ。
人目につくときには飛ばないようにしていたけれど、これが一番速いから…うん!仕方ない!
他の人を驚かせるかもしれないけど、別に隠すことでもないしね!
サリーナは、誰にともなく言い訳をして飛びながら、ルーフに呼びかける。
何もないと良いけど…。
“ルーフ。聞こえる?”
“問題ない。”
“すぐ行くわ。”
“魔力封じがあるから気をつけろ。”
“………ん?魔力封じ?”
“ああ。”
“でも、私達…会話しているわよね?”
“そうだな。”
“これは、関係ないの?”
“実感としては、少々力が落ちるくらいだな。”
“…そうなの?”
“リーナが来ても問題ないと思うが、王子もつれて来るのが無難だな。”
“敵は?”
“術者と見張りは、俺の横で寝てる。”
それって…
“…例の気配は?”
“ここの近くにはない。”
“分かったわ。”
「アル、聞いてた?」
「うん。ルーフ、元気そうだったね。」
「大した事なさそうだし、アルは家に戻る?」
「油断大敵!それに、ここまで来て戻れないよ~。」
“リーナ!”
“パール。”
“どう言うことよ!説明なさい!”
“あ、うん…。今、お父様に会うために王城へ向かっているわ。”
“アイザックくん連れてすぐ行く!”
“ザック様だって、仕事中の筈よ?!”
“犬が言っていたでしょ?あいつの言う王子は、アイザックくんでしょうが!”
“そうだけど…。”
“いいから!あとで!”
「また迷惑を…。」
「あの時、防いでいれば良かったね~。」
「アル…。」
「何?」
「いえ…。その通りです。」
そんなやり取りをしながらも、猛スピードで飛んでいたサリーナたちは、すぐに王城に着いた。
王城の裏庭に降りる。
「お父様の所へ急ぎましょう。」
その場から移動しようとすると、お父様がこちらに向かって早足でやってきた。
私の魔力に気づき、急いで来たのだろう。
息が上がっている。
「リーナ、何事だ?」
「お父様。実は…」
サリーナは、声を潜めて経緯を説明した。
「全く、お前は…。」
「申し訳ございません。」
「いや…こちらも手間取っていて、すまない。」
「そんな。お父様が謝ることでは!」
「…アイザック殿下へ連絡は?」
「パールから話がいっています。」
「あとは、剣の…団長に話を通すか?」
「?」
「魔力封じがあるのだろう?」
「そうです。ですから、ザック様が…。」
「アイザック殿下は、強い。しかし、経験不足だ。魔法を使えないとなると、どうなるか。用心に越したことはない。」
「それは…。」
その時、遠くから名前を呼ばれた。
「リーナ!」
「ザック様。」
ザック様とパール、そして黒豹に、ハンス隊長…と騎士の皆さん?
「ザック様。」
「パールから話は聞いた。」
「あ、はい。えーと、」
皆、びしょ濡れだ…。
「とりあえず雨を防ぎましょうか。」
サリーナは、駆け寄ってきたアイザックと、その後ろの騎士達を見て、雨よけの魔法を使った。ついでに隊服も乾かしておく。
ハンス隊長を含めた騎士達は、自分達の服を見て驚き、何かを話し合っている。
「リーナ、ありがとう。…隊長に事情を話したら、皆で行くことになった。」
「…お仕事は?」
色々な問題が起きて大変な筈よね?
すると、ハンス隊長が説明してくれる。
「今は落ち着いています。隊の半分ですが、同行させていただきます。大元を叩けば、この雨も被害も終わるだろうと言う結論に至りまして…。団長からの命でもあり、騎士の配置も変更済みです。」
「しかし、関係があるとは言えません。」
「無いとも言えませんよね?我々は、可能性は高いと考えております。」
「魔力封じがあるなら、騎士団の手助けはありがたい。不甲斐ないが、剣だけなら俺はまだ隊長に勝てないしな。」
「……分かりました。しかし…」
ザック様となら飛んで一直線。
でも、騎士達に魔法をかけて『飛んで下さい』も無理よね?
飛ぶのにも慣れが必要だし、どうしましょう…。
「リーナ。騎士団では、」
「そうです!あれを試してみましょう!」
考え込んでいたサリーナとアイザックの声が重なった。
ある事を思いついたサリーナは、それに気づかず、某アニメのある道具を思い浮かべ、何もない所へ手をかざした。
瞬間移動は無理でも、もしかしたら…。
ルーフの魔力を感じて…、ここの場所と繋げて、っと…。
すると、何も無かったところに扉が現れた。
…!!!!!…
サリーナとアル、パール以外のそこにいた人達は、驚きの表情を浮かべ固まる。
「これってあれだよね?」
「ええ。あれね。」
アルとパールの声が呑気に響く。
「リーナ?何だこれは?」
「扉、だよな?」
免疫のあるアイザックとジャックはすぐに我に返り、サリーナへ問いかける。
「はい。扉です。…ちょっと失礼します。」
サリーナはその問いに肯定し、扉に近づく。
「おい!リーナ?!」
「リーナ!危険かもしれない。俺がまず見る。」
それらの言葉でサリーナは止まることはなく、側にアイザックが来る前にドアノブを回した。
ガチャ
キー…
サリーナは、覗き込むようにしながら、扉をゆっくり開けた。
「リーナ、来たな。」
扉の向こうには、ルーフの姿があった。




