雨の日
ザアアアー
「雨?」
「サリーナ様、おはようございます。」
「おはよう、メル。…今日は雨になってしまったようね。」
「はい。それも、強めの。」
メルは、そう言いながらカーテンを開けた。
外は土砂降り。
「これでは、森の訓練場は無理かしらね。」
「行けないのか?」
サリーナの隣で寝ていたルーフが、顔を上げた。
「そうね。お父様やザック様に聞いてみるけれど、難しいと思うわ。」
「そうか…。」
ルーフはシュンとし、ベッドに伏せた。
「雨が弱まればいいのだけれど…。」
サリーナは、ルーフを撫でながら、再度外を見た。
アル達は大丈夫かしら?
“アル。”
“…”
“アル?”
“リーナ?”
“すごい雨だけれど、そちらは大丈夫?#家の中__こちら__#へ避難する?”
“雨風よけの壁を作っているから問題ないよ~。今、移動する方が面倒かも。”
確かに、この雨ではね…。
“分かったわ。気をつけるのよ?何かあったらすぐにこちらへいらっしゃいね。”
“は~い。”
「メル、おまたせ。支度をするわ。」
朝の支度の準備をしてくれていたメルに声をかける。
「畏まりました。」
支度を整えて食堂に向かう途中、ザック様と一緒になった。
「ザック様、おはようございます。」
「リーナ、おはよう。天気…残念だったな。」
「やはり、行くのは難しいですよね?」
「そうだな。この雨では何があるか分からないから。」
「そうですよね。」
「ルーフは、部屋?」
「ええ。残念がっています。パールはどうですか?」
ザック様は、パールを連れていない。
きっと雨だし、気分が乗らずに寝ているのだろうとは思うが…。
「パールも部屋で寝ると言っていたよ。」
やっぱり…。
「ザック様は、お食事されたらどうなさいますか?もしよろしければ、一緒に過ごしても?」
「もちろん。そのつもりだった。」
「良かった。簡単なお菓子ならすぐに作れますから、食べながらのんびりしましょうね。」
「…その言い方だと、リーナが作るのか?」
「はい。」
「見たい。」
「作っている所をですか?」
「ああ。」
「私は構いませんが…。」
サリーナは、後ろからついて来ていたメルを見ると、メルは頷き、向かう方向を変えた。
調理場へ確認へ行ってくれたのだろう。
お父様は、たぶん大丈夫。
「先に朝ごはんですね。」
そして、食事中にお父様へお菓子作りの許可を取り、食後に作ることになった。
因みに、お父様とお兄様は仕事だ。
「帰ってきたら食べるから、残しておくように!」
そう言って、でかけていった。
◇
「急に、ごめんなさいね。」
「いいえ。この時間にやる事といえば、後片付けくらいなので問題ございません。」
私達がキッチンへ行くと、料理長が出迎えてくれる。
「材料を用意しておきました。いつものように、硬いパンやクッキー等も用意しておきましたが…。」
料理長は、ちらりとアイザックを見た。
ザック様の性格上忘れがちだが、ザック様は王子。
料理長は残り物を出す事に抵抗があるのだろう。
「ありがとう。ザック様は、大丈夫よ。」
「ん?俺?」
「料理長は硬くなったパンやクッキーを出すことを気にしているのです。」
「そうなのか?」
「それは、まぁ…。」
「気にする必要はない。」
「ね!…それでは、始めましょう。」
驚く料理長を他所にサリーナは、用意された材料をざっと見る。
「簡単に作れるものがいいですかね。」
「そうなのか?俺は時間がかかってもいいぞ?」
「しかし、見ているだけではつまらなくはないですか?」
「リーナが作っている所を見たいと思ったからここに来たんだ。つまらないということはない。」
全く…ザック様ったら、見たことがないのに断言するのだから…。
「そうだ。ザック様も一緒に作りましょう。」
そうね、それがいい。それなら、作るものはあれにしよう!
「俺も?」
「はい。」
「サリーナ様、それは…」
料理長は難色を示すが、サリーナはまたもや気にせず、アイザックへ再度問いかける。
「ザック様、どうでしょうか?」
「…俺にできるだろうか?」
「簡単なものにしますから、できますよ。」
「リーナがそう言うなら、やってみよう。」
「はい!…ふふっ。」
「リーナ、どうした?」
「ザック様とお菓子作り…ふふっ、楽しそうですね。」
「そうか?」
「ええ。」
「で…俺は、どうすればいい?」
「ザック様には、力仕事をお願いします。」
「力仕事?お菓子作りで?」
「そうですよ~。お菓子作りも体力を使うのです。」
「サリーナ様、本日は何を作るのですか?」
「甘いものが苦手なザック様も大好きなティラミスを作ります。」
「では、こちらを…。」
料理長はボウルや泡立て器、器などを並べてくれる。
「ありがとう。ザック様、どうぞ。」
サリーナは、アイザックへボウルと泡立て器を渡した。
「生クリームを泡立ててください。」
「泡立てる?」
「はい。とにかく、かき混ぜてください。」
そう言いながら、サリーナはボウルに材料を入れる。
「私は、他をしますね。」
「分かった。」
サリーナは、コーヒーシロップや、マスカルポーネチーズクリームを作っていく。
手際よく進めるサリーナからアイザックは目が離せなくなる。
「ザック様…。進んでませんよ?」
「あ、ごめん。つい…。」
アイザックは、すぐに作業に戻る。
「ふふっ。もっとフワッとなるまで、もう少し頑張ってください。」
「任せろ。」
サリーナは、勢いよくかき混ぜるアイザックを微笑んで見ていた。
「リーナ、どうだ?」
ザック様は目をキラキラさせて、こちらへボウルの中身を見せてくる。
可愛らしい…。
撫で回してもいいかしら。
「リーナ?」
あ、いけない。返事しなくちゃ。
「すみません。もう少し…角が立つくらいです。」
「つの?」
「ちょっと貸してください。」
サリーナは、ボウルごと受け取り、泡立て器をクリームからゆっくり引き上げた。
「この時にクリームが角のように表面に残るまで、です。」
「なるほど。分かった。」
アイザックは、再び泡立て始める。
「今度こそ、どうだろう?」
アイザックは、サリーナに泡立て器を持ち上げてみせた。
「はい、大丈夫です。お疲れ様でした。」
「ふぅ…本当に体力勝負だな。」
「ふふふっ、そうですよ~。それでは次はクリームとチーズを混ぜましょう。」
「まだ、混ぜるのか!?」
「はい。ザック様は休憩なさってください。」
「いや、それでは、リーナが疲れてしまう。俺がやる。」
「今度はフワッと優しくなので、大丈夫です。」
「そうか?…混ぜ方も色々あるのだな。」
「ええ。」
混ぜ終えると、器に敷いたコーヒーシロップにつけたクッキーの上へクリームを乗せる。そしてまたクッキー、クリームを重ねてココアを振るう。
「ザック様、完成です。」
「おお!美味しそうだな。」
「美味しいですよ~。ここを片付け終わったら、食べましょうね。」
「ああ、楽しみだ。」
ふたりで、にこにこしながら片付け始めると、料理長が焦って止めに入った。
「あとは、私共でしておきます!」
「でも、片付けまでが料理よ。最後までするわ。」
「何を仰っているのですか。アイザック殿下もいらっしゃるのです。今日くらいはゆっくりなさってください!」
「……ん、分かったわ。ザック様、ここは任せて、作りたてをいただきましょう。」
「そうか?それでは、皆申し訳ない。あとを頼む。」
「お任せください。」
料理長始め、料理人達は頭を下げた。
「お父様とお兄様の分以外は、いつも通り皆で食べてね。」
「はい。ありがとうございます。」
私とザック様は、自分達の食べる分を持ち、談話室に向かった。
「サリーナ様、私がお持ちいたします。」
「良いのよ。それより、お茶をお願い。」
「畏まりました。」
「ザック様、こちらへどうぞ。」
談話室につくと、私達はソファに並んで座った。
メルがお茶を用意し、後ろへ下がる。
「ザック様、食べましょう。メルも食べてきていいわよ?」
「残して置くように言ってありますので、後でいただきます。」
「そうなの?…いつの間に。」
「出てくる時に声をかけてきました。」
「そうなのね。では、ザック様。改めて。」
「ああ、頂こう。」
サリーナは、スプーンでティラミスをすくい、口に運んだ。
「ん~!美味しい。」
「うん。旨い。」
「ザック様が頑張って混ぜてくれたお陰ですね。」
「そうだろうか?」
「そうですよ。腕、疲れたのではないですか?」
「どうってことない。…と言いたいが、剣ではしない動きだからか、多少腕が重いな。」
「それでは、マッサージでもしましょうか?」
「できるのか?」
「見様見真似ですが…。」
「頼む。」
アイザックは、サリーナへ腕を伸ばす。
「では、失礼します。」
サリーナは、アイザックの腕を取り、力を入れて揉んでいく。
「力の強さはどうですか?痛くはないですか?」
「ああ、大丈夫。もう少し強くても良いくらいだ。」
「分かりました。」
もみもみもみもみ…
「ありがとう。楽になったよ。」
「それは、良かったです。…ザック様、また一緒に作ってくれますか?」
「もちろん。リーナと一緒にお菓子を作るのは、楽しかったからな。」
「私も楽しかったです。」
「結婚したら、そういう機会も増えるんだろうな。」
「そうかもしれませんね。」
「その時が待ち遠しいな。」
「はい。」
結婚かぁ~。
いつになるのかな~?
その時は、思っていたよりもすぐにやってきた。




