来客
「アイザック殿下。ごゆっくりどうぞ。」
夕食後ひと休憩すると、お父様とリック兄様は談話室に私達を残し、私室へ戻って行った。
「結局、泊めてもらうことになってしまったな。」
「急な事で申し訳ございません。大丈夫でしたか?」
「さっきも言ったが、明日は休みを取っているので大丈夫だ。こちらこそ、気を使わせてすまない。」
「いいえ。そんな…」
どうしよう。夕食前の会話が頭から離れな~い!
ルーフもパールもいる。メルだって控えてる!
でも…緊張する。
「リーナ。」
「は、はい!」
うわっ、思ったより声が大きくなった。
「クククッ、そんなに緊張しなくても。」
「す、すみません。」
「それで、だな…。」
「はい。」
「えーと、触るか?」
なんと!?
「ざ、ザック様!?」
思わず周りをみると、誰もいなかった。
「あれ、いない?」
「さっき、皆出ていったよ。」
「え?」
…もしかして、気を使って?
「ああいった事を聞くと驚くが、好いてくれているのが分かって嬉しいものだな。」
「そ、そうですか。」
「夜空のデートもしなくては。…今から行くか?」
「今からですか?」
「ああ。」
サリーナは窓の外を見る。
「確かに今夜は星が綺麗ですね。」
「どうする?」
「行きましょうか。メルに伝えてきます。」
「ああ」
私は部屋の外にいるであろうメルに声をかけようとした。
「「あ。」」
その時、強い魔力を2つ感じた。
「はぁ…。来たな。夜空デートは、お預けか…。」
「…早かったですね。」
「「リーナ!」」
ルーフとパールが勢いよく部屋へ入ってきた。
「ふたりとも分かっているわ。ザック様、私はお父様へ知らせてきます。」
「俺は彼奴等の元へ行ってくる。街中に入られては騒ぎになってしまう。パール一緒に。」
バルコニーに面した窓を開けながら、ザック様は言う。
「…はぁ、行きたくないけどね。」
パールは渋々だ。
「パール、お願い。」
「分かっているわ。」
「ルーフも。」
「俺もか?」
「そうよ。貴方のお客様もいるでしょう?」
「あれは、客なのか?」
ルーフは首を捻る。
「リーナ~。」
「アル。」
窓からアルが入ってくる。
「強い魔力が近づいてきてるよ~。」
「ええ。今からザック様とパールとルーフが行ってくれるわ。貴方はお嫁さんの所にいて良いわよ。」
「リーナの側にいる。」
「初夜くらい一緒にいてあげなさいな。何かあったら呼ぶから。」
アルがパールやルーフをみると、パールもルーフも頷いた。
「面倒くさいのが来ただけだから、大丈夫よ。」
「すぐ終わらせてくる。問題ない。」
「じゃあ、行ってくる。」
ザック様とパール、ルーフは、2つの魔力の元へ窓から飛び立った。
「アルも戻っていいわ。私はお父様の所へ行ってくる。」
「分かった…。」
アルは、窓から飛んでいった。
「さあ、私も行かなきゃ。メル、お父様の所へ行くわ。」
「畏まりました。」
私達家族は、家の裏の森にいた。
アルも木の上にいる。
結局立ち会っているわね。
「アル…。お嫁さんの所に戻っていいといったのに。」
「『主を大切にしなさい』って追い出されたの。ここなら巣も近いし良いでしょ。」
「そう…。ありがとう。お嫁さんにもお礼を言っておいてね。」
「は~い。」
ザック様達は、空を飛んで戻ってきた。ザック様、パール、ルーフ、件の2匹の順で森へ降りる。
「アイザック殿下。お手数おかけして申し訳ございません。」
お父様はザック様へ頭を下げる。
「公爵のせいではない。気にしないでくれ。」
「そうよ。アイザックくんではなく、このバカ達のせいよ。」
パールは、後ろの2匹を見る。
「えへ。来ちゃった!」
最初に、口を開いたのは黒豹だ。
「『来ちゃった!』じゃないわよ。断ったでしょ?」
「でも、諦められないんだよ~。と言うことで、また口説きに来た!」
「…」
パールは答えない。
呆れているわね…。
「俺は、兄貴についていこうと決めたんだ!」
今度は、黒狼が胸を張る。
「兄貴になった覚えはない。」
「兄貴になってくれ!」
「お前が思う兄貴とは何だ?」
「兄貴か?俺より強い。」
「…それだけか?」
「強かったら、ついて行きたくなる。俺は心を入れ替えて兄貴の為に動くぞ。」
「はぁ…。無用な戦いはしないと約束しろ。」
「え?」
「どうなんだ?」
黒狼は、首をブンブンと縦に振る。
「リーナ。俺はこいつの兄貴になる。」
「分かったわ。」
「ルーフ!貴方、面倒くさいと言っていたじゃないの!?」
パールが驚く。
「これが続く方が面倒くさいと分かった。」
「兄貴。俺の気持ち分かってくれたんですね!」
ルーフ、そんな事言ってないわよね?
「それでだ。」
スルー!
「お前は森を守れ。他にも強いやつがいるらしいが、弱いものも多いのだろう?黒豹は今後もこちらへ来る気がする。今まで守っていた場所の奴が困ることもあるだろう。そっちも守ってやれ。」
「はい!兄貴!」
「では、森へ戻れ。」
「イエッサー!」
黒狼はそのまま森を出て行こうとする。
「ちょっと待て!街を抜けないと、元の森へ帰れないでしょ?」
「そうだったな…。」
「後で街の外れまで送るわ。」
「は!兄貴の主、ありがとうございます!」
随分、素直になったわね。
さて、次は…
「パール。」
「私?」
「貴方は…」
「私は、変わらないわよ!」
「分かったわ。…黒豹くん、パールはこう言っているけれど、どうするの?」
「諦めない!何度でも口説くよ。」
「しかし、俺もパールも住まいは、まだ王城だ。魔獣が通うのは、少し問題だな。」
「それでは、騎士団の方では如何ですか?」
お父様が口を開いた。
「騎士団ですか?」
「それなら、パールとも会えましょう。」
「ちょっと、余計な事を言わないでよ。」
お父様の提案に、パールは御立腹だ。
「頻繁に街を通る方が騒ぎになるし、市民にも迷惑がかかってしまう。」
「私の迷惑はどうでもいいのかしら?」
「相手に諦めさせるしかないな。」
「リーナ~!」
「パール。そんなに嫌?」
「嫌よ!」
「何故?」
「何故って、おしゃべりだし、しつこい。」
「パールの好みとは違うのね?」
「そうよ。私の好みは、強くて私を甘やかしてくれる人なの。」
「ふ~ん。」
先々どうなるか分からないけれど、この黒豹くんの感じだと甘々よね。
それに、魔力量から見てもパールと同等かそれ以上の強さだと思うのだけど…。
「何?」
今のパールに言っても納得はしないわね。
「いいえ。何でもないわ。ザック様はどう思いますか?」
「パールに任せると言いたいが、騎士団で保護するという形が、1番良いように感じる。」
「おっ!俺の行き先が決まったか!」
「それよ!その軽そうなところが嫌なのよ。」
「ですって、黒豹くん。パールの好みはもう分かったでしょ?頑張ってね。」
「分かった!サリーナ、ありがとう!」
「ちょっと、リーナ。どちらの味方?」
「もちろん、パールよ。」
「それなら、」
「あら。好みの男性になる為に努力してくれるってとても幸せなことよ?私も頑張らなくちゃと思うし。」
私はザック様を見た。ザック様は笑い返してくれる。
「……はぁ、そうだったわね。」
パールは、溜息をつきながら言う。その様子は、諦めが混じっていた。
「言っとくけど!好みになるのと受け入れるのとは別ですからね。」
「おう。俺、頑張るよ!」
「それでは話がまとまったようだから、解散にしよう。魔獣の保護と、明日の森の訓練場の使用については騎士団長と陛下に伝えておく。普段は使っていないから問題ないだろう。」
「「よろしくお願いします。」」
そして、その場は終わったのだった。




