パールと黒豹
「どういうことかしら?」
パールの顔が引きつっている…様に感じる。
「聞こえなかった?マイスウィート。」
黒豹は機嫌の良さそうな声で再びパールに話しかけた。
「聞こえているわよ。何故、私をその恥ずかしい呼び名で呼ぶのか聞いているのよ。」
恥ずかしい呼び名…パール、はっきり言うわね。
「一目惚れっていうの?君を見た瞬間に、『俺の番は、この子だ!』って思っちゃったんだよね~。」
「迷惑も良い所ね。」
「つれないところも俺好み!」
「は!?」
パールの物言いに動じていない!?
「えーと、話し中ごめんなさいね。」
この子はどういう子なのかしら。
「アンタは、マイスウィートと同じ匂いがするな。ん?クンクン…そっちの男もか?」
黒豹は、ザック様の方向の匂いもかぐ。
「そりゃそうよ。私の主達だもの。」
「なるほど、だからか!マイスウィートの主殿、失礼しました。」
「その呼び方やめてくれるかしら?」
パールが、心底嫌そうに言う。
「名前を知らないし、似合ってると思うんだけどな~。」
「…リーナ、気分が悪いわ。帰りましょう。」
「…帰るの?」
「帰るの!」
「ちょっと待て!」
帰るというパールの事をルーフが止めた。
「何よ。」
「俺は戦いに来たんだ。帰るならひとりで帰れ。」
「あなただけ残ればいいじゃない。ほら、相手も出てきたんだし。」
パールは、鼻で黒豹を指した。
「そいつは戦う気がなさそうだから嫌だ。」
「我儘な犬ね。」
「犬って言うな。」
パールとルーフは睨み合う。
最近は良い距離を保っていたのに、関係性は変わらないのね…。
「ふたりとも落ち着いてね。」
「そうだ。話はできそうだし、もう少し話してみたらどうだ?」
「アイザックくん!これのどこが話ができそうなのよ!?リーナをあげないわよ!?」
「それは困る…。」
「あげるって…私は物ではないわよ。」
「リーナぁぁぁ~。帰りましょ~。」
パールがこちらへ泣きついてくる。それを宥めて、私は黒豹に話しかけた。
「黒豹くん。」
「どうした?主殿。」
「私はサリーナよ。貴方の主ではないから、そちらでよんでね。」
「はい、サリーナ。」
あら、素直…。
「先程も説明をしてくれていたけれど、いくつか質問をいい?」
「もちろん。」
「貴方の自己紹介をお願いできる?」
「自己紹介?」
「あなたのことが分からないと、この子が怖がってしまうわ。」
私はパールを撫でた。
「そうか、ごめん。マイスウィート。」
「だから!その呼び方!」
「さっきも言ったけど、名前が分からないからそう呼ぶよ。それとも、名前を教えてくれる?」
「嫌よ。」
「じゃ、マイスウィートだ。」
「…」
パールは諦めたのか、黙ってしまった。
「それで、俺のことだよね?俺は、名前はない。人と契約をしたことがないから。したいと思ったこともないし。この辺りは俺の縄張りだから見回りしてたところだよ。敵が来たら、他の魔獣を逃さないといけないからね。」
「逃がす?」
「この辺りは弱い魔獣が多いんだ。」
「そうなのね。貴方は他の子を守っているのね?」
「守っているとか大層なことではないよ。俺の縄張りで勝手なことをされると気分が悪いだけ。」
この子、良い子ね。
あれ?ルーフは森で戦いを挑んでいたのよね?もしかして…
「話は変わるのだけれど、この子…ルーフの事は知ってる?」
「見たことはある。でも、俺の縄張りでは何もなかったから、特に何もないよ。」
「貴方の縄張りでは?」
「他の所の事は興味ない。」
黒豹は、本当に興味がなさそうだ。
「他に質問は?」
「そうね…」
私が質問をしようとすると、ルーフが横から口を出した。
「血の気の多いやつはどこにいる?」
「血の気が多い?」
「俺は、力比べに戦いたいんだ。」
「あ~、そういう面倒くさいやつなら、もっと奥にいるよ。」
「分かった。奥だな。」
ルーフ、貴方も面倒くさいと言われているのよ…。
「リーナ、行こう!」
ルーフは嬉々として奥に向かう。
「おい!サリーナやマイスウィートも連れて行く気か!?」
「は?当たり前だろう。」
「わざわざ危険地帯に連れて行ってどうするんだ!」
「危険地帯なのか?」
「争い好きな奴らのところが危険じゃなかったら、何なんだ。」
「あら、面白そうね。」
「マイスウィート!?」
「はぁー、パールよ…私の名前。」
パールは大きく溜息をついた後に、黒豹へ名乗った。
名前を隠すのを諦めたわね。
「パール…。いい名前だな。」
「それは、ありがとう。リーナがつけてくれた名前よ。」
「俺は、ルーフだ。」
「聞いてないんだが。」
「一応、知っとけ。それと主が一緒だ。」
「え?ひとりに契約獣が2匹!?」
「いいえ。2匹と1羽よ。」
サリーナは、空を指さした。
そこでは、アルが楽しそうに回転している。
目が回らないのかしら?
「全てサリーナとの契約?」
「ええ。」
「アンタ何者?」
「?」
「魔力の供給負担が多いだろうに…。」
「そうなの?確かに複数の契約は珍しいようだけど、魔力の供給云々は気にならないわ。」
「凄いな…。で、そっちの主殿は?」
黒豹はアイザックに声をかけた。
「俺?俺は、誰とも契約していない。」
「でも、さっきパールが…。」
「ああ、ふたりが主というやつか。それは、俺がパールと生活をしているからだな。」
「は!?…俺のライバルはアンタか!」
「それは、勘違いだ。俺はリーナの婚約者。リーナからパールを預かっているんだ。」
「何だそれ。意味分からないな。」
「分からなくていいのよ。関係ないんだから。」
「そうだね。これから知っていけばいい。」
アイザックと話していた黒豹に、パールが冷たく言い放ったが、黒豹は特に気にした様子がない。
「…本当に話が通じないわ。」
「ポジティブね…。」
「リーナ、良いように言ったわね。」
「…」
私達は森の奥へと進んだ。
「貴方は付いてこなくても良かったのよ?」
パールは、付いてきた黒豹に、また冷たく言った。黒豹は、やはり動じない。
「せっかくパールを見つけたのに、諦められないからね。いい返事をもらうまで離れないよ。」
「…うざいわ。」
「パール…。もう少し、言い方を優しく…。」
「気持ちがないのに良い顔をするのは、相手の為にならないわよ。」
「…そう。」
ツンデレのパールと、押せ押せの黒豹。
ふたりの相性は、いいと思うけど…。
「それにしても、静かですね。」
「そうだな。森の奥とは思えないくらいに明るいしな。」
「ザック様もそう思いますか?」
「ああ。もっと薄暗いのを想像していた。」
「私もです。」
「いちいち魔獣に喧嘩を吹っ掛けるやつがいるから、皆この辺りを避けてるんだ。」
「ん?それってルーフ?」
「あ~、違う違う。そいつじゃない。あっちを縄張りにしているやつ。」
「そりゃ、楽しみだな。」
それを聞いたルーフの声が弾んでいる。その言葉に黒豹は溜息をついた。
「はぁ、戦いなんて面倒くさいだけだろうに…。」
「あら?貴方は戦う事が嫌いなのね。自分の力量を知る事は良いことよ?」
パールはルーフの行動を肯定する発言をした。
「そうかもしれないが、虚しくもなる…。」
黒豹の声のトーンが落ちる。
何かあったのかしら?
「……では、帰ったら?」
前を見て歩きながら話していたパールは立ち止まり、黒豹を見た。
「嫌なものにわざわざ付き合うことは無いわよ。」
パールから離れてもらう理由にしたいのか、単純に黒豹の会話の間から感じて思った事を言っているのか。
パールのこの言葉は、後者でしょうね。パールはそういう子…。
「黒豹くん。パールは貴方を離したくて言っているのではないわ。心配してるのよ。」
「してないわよ!」
「はいはい。心配ではないのね。でも、言葉通りの意味でとればいいのよね?」
「当たり前よ。それ以外にないでしょう?」
「ふふふっ。ですって、黒豹くん。」
「パール…。俺にはやっぱり君しかいない!」
「は!?やめてくれるかしら。」
パールは、早足で歩き出した。
「何だかんだ、良い感じに思えるのは俺だけか?」
ザック様が小声で私に聞いてきた。
「私もそう思います。」
私も小声で答え、二人で微笑みあった。
「いいようになるといいな。」
「はい。」
「しかし、そうなった場合、パールは森に住むのか?黒豹にこちらへ来てもらうか?」
「パールが森にとどまったら私が寂しいですし、黒豹くんにこっちに来てもらったら、森の子たちが困りますよね?どちらも何かしらの問題が出そうです。どうしましょう…。」
「通い婚か?」
「それもありましたね!」
「リーナ!アイザックくん!何を話しているの!?早く行くわよ!」
「ふふふっ。は~い。」
「ハハハッ。今、行くよ。」




