仕事初日
今日から学校での講師生活が始まる。
と言っても、週2回だけど…。
「魔力操作を教えてくださる講師を紹介します。サリーナ·スウィーティー先生です。」
「よろしくお願いいたします。魔力操作は基本中の基本。魔力量にも関係してきますので、一緒に頑張りましょう。」
パチパチパチパチ。
生徒達から、拍手が送られた。
私が早速、魔法操作について説明すると…
「そんなの分かってるよ。俺、もうできるぜ!」
ひとりの男子生徒が胸を張った。
この子は…アントニーだったわよね?
サリーナは、この日を迎える前に肖像画付きの名簿をみて覚えた記憶を探る。
「お名前は?」
「アントニーだ!」
正解。
「そう。それなら、やって見せてもらおうかしら。お願いできます?」
サリーナは穏やかな口調で、微笑んだ。
「!……良いよ。見せてやるよ。」
アントニーは一瞬固まった後、目を閉じて深呼吸をした。
すると、全身が魔力で包まれていく。
薄いけれど、全体を覆われている。
「良くできていますね。」
「そうだろう!」
その言葉と同時に、魔力は霧散した。
「アイザック師匠に教えて頂いたからな!」
「…アイザック師匠?」
ザック様と同名?
「知らないのか?アイザック殿下だよ。」
よぉぉぉぉぉく、知っていますとも!
「師匠とお呼びする程の仲なのですか?」
ザック様から、話を聞いた事あったかしら?
「サリーナ。その話は後にしてください。今は授業中ですよ。」
ジェシー先生に小声で注意された。
そうでした!
「失礼いたしました。それでは、皆さんもやってみましょう。できる方はそのままの位置で操作してみてください。行なったことがない方、苦手な方はこちらへ。」
できない子へやり方の説明をした後、できる子の精度を見て、アドバイスをしていく。
「魔力操作は基礎中の基礎と話しましたが、意識せずなるべく長く保てるようになるまで練習しましょうね。とはいえ、時間はあります。一気に行おうと焦らなくて良いです。少しずつ出来るようになれば、それで良いのです。」
生徒達は頷き、真剣に取り組んでいるようだ。
因みに、端の方でジェシー先生も魔力操作をしている。
魔力操作の方法が変わって、先生達は覚え直したとはいえ、やはり精度は荒いわ。
明日の魔力酔いが心配ね…。
「ジェシー先生。気になるようなら、後で改めてコツを教えますが?」
サリーナは、ジェシーへ近づき小声で話しかけた。
「よろしくお願いします!」
ジェシー先生が勢いよく、敬礼の真似をする。
こういうキャラだったの?
「…ゴホン。ジェシー先生も、今は授業中ですよ?」
「…そうでした。失礼。」
この後も授業は問題なく進み、1時間が終わったのだった。
◇
『そうか、そんなことが。』
「心当たりはお有りですか?」
サリーナとアイザックは、習慣になっている『夜に行なう、1日の出来事を話す会』をしていた。
決めていないのに、ほぼ毎日と言っていいくらいの頻度で、小型手紙魔法陣を使った遣り取りをしているのだ。
『う~ん…たぶん。あの時だと思う。』
「あの時?」
『隊長の家にお邪魔したら、妹君とお子さん達が来ていた。』
「そのひとりがアントニーさん?」
『たぶん。魔力操作のコツを聞かれたから、リーナから教えてもらった事を話した。』
「それで、師匠なのね。」
『その1回だけだけどな。』
「ザック様にアドバイスをもらった事や、そのアドバイスで出来るようになった事が嬉しかったのね。」
『その気持ちは分かる。俺もリーナに見てもらえて、魔法で世界が変わった。』
「ザック様は魔法が苦手でしたものね。」
『ああ。それにしても、師匠という呼び方は、変えてもらわないとな。』
「何があるか分かりませんものね…。」
『弟子を持った覚えもないしね。』
冷たくも感じるかもしれないが、子供が言っている事とはいえ、ザック様と繋がりを持とうとする変な人がアントニーに近づいたり、命を狙われたりする事が考えられる為、そのままにはしておけない。
『隊長に頼むことにするよ。』
「私も、学校で聞いたらお話させてもらいます。」
『ありがとう。よろしく。』
「はい。」
『話は変わるのだが、今度武道大会がある。見に来てくれるか?』
「もちろんです。」
今まで学校があって、行きたくても行けなかったのよね。
武道大会は、騎士達が競い合うもので、鍛錬の1つに位置し、騎士とは関係なく一般人も見学が出来る。
『ルーフやアルも一緒に来ていいから、けしてひとりでは来ない様に!』
「分かりました。」
『それと、侍女や侍従も一緒がいいと思う。』
「メルは一緒に行ってくれると思いますが。」
『女性ふたりでは危なくないかな?』
「大丈夫ですよ。」
『声をかけられたら、逃げるんだよ?』
「それでは、こちらが不審者です…。」
『そんなことない。リーナは可愛いのだから。』
「可愛いと、不審者じゃないのは、結びつきません。………ザック様、お父様のようですね。」
『それは、嫌だ…。』
「クスクスッ。…それで、日にちはいつですか?」
『来週の金の日だ。』
金曜日。
曜日はこちらにもあり、~の日と呼ぶ。
「分かりました。必ず見に行きます。」
『それでは、張り切らせてもらう。』
「はい。楽しみにしていますね。」
そして、あっという間に武道大会の日となった。




