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騎士団②

すぐに訓練の時間は作られ、ザック様はリオン兄様にバリア魔法を教えることになった。


そりゃそうだ。バリアは2日くらいしか持たないらしいから、急いで覚えなくてはならない。


「これを僕にやれと?」

「できるだろ?」

「そんな簡単に…。魔法が苦手だったのが嘘のようだね。」

「ああ。スウィンティー家の皆には、感謝しているよ。」

「『皆』ね~。」

「特にリーナ…と言うのは、言わなくても分かっていると思ってな。」

「はいはい。分かっていますよ。」

「リオン兄様。頑張ってください。」


『まだ離れ難い』と言うザック様に呆れたハンス隊長が、訓練を私も見学できるよう取り計らってくれた。

その為、アルが家へ報告に飛んでくれている。


リオン兄様にも会えたし、良かった。


「リーナ、ありがとう。…ナイス、頑張るしかないみたいだよ。」


ダリオンに話しかけられた契約獣のナイスは頷く。

ナイスは口数が少ないが、表情や仕草で気持ちを伝える。


「では、続きを。俺にバリアをかけてみてくれ。」

「…リーナにかけるのじゃ駄目かな?」

「何故?」

「ザックの手を握るとか…考えただけで、ちょっと…。」

「身体に触れていれば、手を握る必要はない。」

「…はいはい。」

「それに失敗して、リーナに何かあったら困るだろう。」

「それは困るな。」

「ザック様に何かあっても困ります!」

「その時は、リーナも協力して助けてくれ。」

「そうだな。リーナなら何とかしてくれそうだ。」

「リオン兄様まで…。」


そして、リオン兄様はザック様の左肩に触れ、練習を始めた。


「う~ん…違うな。こうか?…出来ない。だったら…」


小声でブツブツ言いながら試行錯誤していく。その間、ザック様は口を開かず、只々その場に立っていた。


「お!」


ザック様の肩から腕がバリアの膜に覆われ、少しして消えた。


「リオン兄様、惜しいです。」

「うん。だんだん掴めてきたよ。」



「はぁ…疲れた。リーナ、少し早いけど、騎士団の食堂で、夕飯を一緒にどう?」

「お昼を食べれてなかったので嬉しいですが…。」

「そうだったのか!?」

「ええ。タイミングが悪く…。」


そう。アイラン様に絡まれたのは、軽食をとりに行こうとしていた途中だった。


「気が付かなくてごめん。」


ザック様が、肩を落とす。


「いいえ、私も言いませんでしたし。…食堂には、騎士ではなくても行って良いのですか?」

「大丈夫、大丈夫!味も、案外イケるよ。」

「それなら…」

「帰りは、送っていくから安心して。父さんとロンドに連絡しておこう。」

「よろしくお願いします。」

「いや、帰りは俺が送るよ。」

「ザックが?」


リオン兄様は、ジッとザック様を見た。

ザック様は、にこりと笑う。


「………はぁ、分かった。そう連絡しておくよ。」


何?今の間…。


「ここだよ。」

「ルーフ達が、入っても?」


食堂に来る途中に、アルも家からこちらへ戻ってきていた。


「もちろん、良いよ。ナイスもパールもいつも一緒だしね。」

「ああ。リーナ、何にする?」


入口近くにあるメニュー表を見ていると、何やら周りがざわつき始める。


何だろう?


「あー、大丈夫、大丈夫。気にしない。」

「?」

「ここには女性が来ることが珍しいから。」

「リーナ、こっち。」


ザック様が、他の騎士達の視線を遮るように、私の肩を引き寄せた。


「ありがとうございます?」


で良いのかな?


「あの…おすすめは、どのメニューですか?」

「うーん…おすすめかぁ。僕は、いつも肉を頼むよ。」

「うん、俺もだな。」

「では、兄様とザック様と同じ物にします。」

「リーナに食べきれるかな?」

「そんなに量が多いのですか?」

「騎士用だからね。…よし、僕のを大盛りにして分けようか。」

「はい。それでお願いします。」


私達は厨房のカウンターまで移動した。

カウンターで注文し、受け取るシステムのようだ。

ザック様とリオン兄様に注文を任せると、大皿に山盛りの骨付き肉と大きなステーキが用意された。


「すごい…。」

「でしょ。」

「席は、あそこが空いている。リーナ、離れないで付いてきて。」

「はい。」


私は、前にザック様、後ろにリオン兄様、周りには契約獣達という状態で席に向かった。

その間も騎士達からの視線は、ビシビシ感じる。


少し居心地が悪い…。


「いただきま~す。」


席につくと、リオン兄様はすぐに食べ始める。


「リーナもここから取って。ナイスも、はい。ルーフ達は?」


“いる!”


「欲しいそうです。」

「はいよ。」


リオン兄様は取皿に、ルーフとアル、パールの分を乗せて渡してくれた。


「こっちもある。」


ザック様も同様だ。


「ふたりともありがとうございます。」


ルーフもアルもパールも、もちろんナイスも、美味しそうに食べている。


「いただきます。…んー、美味しいですね。」

「でしょ?でも、これも美味しいけど、久しぶりにリーナの料理も食べたいな。」

「俺も、久しく食べていない…。」

「リオン兄様は、休みの日に帰ってきてください。いつでも作ります。ザック様も遊びにいらしてくださいね。」

「必ず行く。」

「僕は、面倒くさい仕事を振られたから、ゆっくりできそうには無いけど、合間を見つけて帰るよ。」

「はい。お待ちしています。」


話しながら食べているのに、ふたりのお皿は、あっという間に空になった。


「…兄様、はやいですね。」

「そうだね。騎士団に入ってから早食いになったよ。」

「仕事が立て込んで、合間に急いで食べないといけないこともあるから、そうなってしまうな。」

「そうそう。」

「そうなのですね。」

「リーナはゆっくり食べていいからね。」

「はい。」


食事を終え、帰宅する為の馬車を待っていると、そう時間がかからずに馬車はやってきた。


「馬車が来たね。」

「リオン。また明日、時間を作るから頼んだ。」

「了解~。…リーナ、兄さんや父さんによろしく!」

「はい。リオン兄様は、元気だと伝えます。」

「うん。…なんか、いつでも会えるのに大げさな気もするけど、よろしくね。」

「はい。近いうちにまた。」

「じゃあ、ザック。リーナを頼んだよ。」

「ああ。ちゃんと送り届ける。」


私は、ザック様にエスコートされ、馬車に乗り込んだ。ルーフとアル、パールも一緒だ。


「お手数をおかけしてすみません。」

「婚約者を送るのは、俺の仕事だから。」

「ありがとうございます。…貴方達も今日はありがとう。」


サリーナは、契約獣たちに向かって礼を言った。


「今日は、本当に何もなくて良かったわ。」

「うん、うん。」

「なぁ、リーナ。学校には俺達はついていけないんだよな?」

「そうね…。契約獣を持つ方が少しずつ増えてきていても、それは変わらないわね。」


それに、ザック様も頷く。


「増えてきたと言っても、まだ少ないからな。」


ルーフは不満そうだ。


「それでは、何かあった時にすぐに駆けつけられない。」

「もう何かあることはないと思うわよ。」

「「「…」」」


3匹が、沈黙する。


「え?何かあるの?」

「分からないけど…。僕は近くを飛んでいることにするよ。」

「近くに森があったよな?」

「あったわね。」

「俺は、そこにいる。」


それぞれの待機場所が決まったようだが…。


「ザック様。良いのでしょうか?」

「いいと思う。俺もその方が安心出来る。なんなら俺も…。」

「無理ですからね?」

「…分かっているよ。リーナは、仕事をきちんとしている男が良いと言っていたし。」


私だけではなくて、皆そうだと思うけど…。


「しっかり仕事をして、続きの続きもしてもらわないと。」

「続きの続きですか?………あ。」


また忘れてた。


「約束だからね。」

「はい。」


見つめ合う私達を見て、パールが嬉しそうに言った。


「私達は気にしなくていいのよ?」

「そうはいかないわ…。」

「でも、昼間は気にしていなかったでしょう?」

「え?」


あ、1回目の未遂のとき…。


「あ、と、あれは…。」

「パール。ムードというものがあってね…。」

「アイザック君。失礼ね!それくらい分かるわよ!」

「ねぇねぇ。僕、外で風に当たりたいな~。」

「俺も、ここは少し窮屈だ。」

「…ザック様。私達、気を使われている様ですよ?」

「そうだな。」


コンコン


ザック様が、馬車の御者側の窓を叩いた。

すると、馬車がゆっくり停まる。


「え?」


そして、馬車の扉が空いた。


“じゃあね~。”

“私も御者さんの隣に乗せてもらうわ。あの方優しいのよ。”

“俺は走って帰るとするか。王子がいるなら安心だしな。”


安心!?

別の意味で安心ではないのでは!?


3匹は外へ出ていった。

再度、扉が閉じる。


「ザック様?」

「3匹の気持ちに甘えよう。」

「!?」

「リーナ、失礼する。」


対面に座っていたザック様が私の隣に移動してきた。


「リーナ…。」

「はい!?」

「嫌ならしないから安心して。」

「そんな!」


思ったより、大きな声が出た。


「あ、改まると緊張しているだけで、嫌ではありません。こんなに緊張した事は初めてです…。」

「………それは、前世も含めて?」

「…え?」

「いや、ごめん。」

「ザック様…前世の私が気になるのですか?」

「………気にしても仕方ないのは分かっている。しかし、前世のリーナまでも独り占めしたいと思ってしまうんだ。」


重い…重いけど、この重さが心地良いと思ってしまう私は可笑しいのかしら?


サリーナは微笑んでアイザックの手を両手で握りしめた。


「前世でお付き合いしたことが無いとは言えません。しかし、ここまで想ってくださる方も、緊張したのも初めてです。ザック様、私は今、幸せです。」

「リーナ…。」

「ザック様…。」


ふたりの顔が近づき、サリーナとアイザックは、この日3度目にして、やっとキスに成功した。



---アイザックside---


リーナは可愛い…


おでこや頬へのキスから、先日初めて口へキスをした。


キスをした後の顔は艶っぽかった。

13歳なのにあの色気は何なんだ。


「…ク、ザック、おい、ザック!」

「あー、リオン。何?」

「何じゃない!できたぞ、バリア!」

「ああ。お疲れ。」

「それだけかよ!…ったく!ボーとして、何考えてたんだか。」

「リーナのことに決まってる。」

「あ~そうですかぁ!…はぁ、ザックの友人としては喜ばしいが、リーナの兄としては心配だよ。」

「何が心配?」

「色々!」

「そうか?」

「そうなんだよ!」

「大変だな。」

「お前が言うな!」

「…なぁ、リオン。リーナを他の男の目に映したくない。どうすればいい?」

「は?!」

「あんなに可愛い子、誰でも好きになってしまうだろ?………どこかに隠すか?」

「隠すな。…お前、日々重くなっていくな。」

「可愛いのだから、仕方ないだろう。それに、リーナは『幸せです』と言ってくれているんだよ。」

「そうかよ!…はぁ、リーナが幸せな事は良い事だ。良い事だが、妹の恋愛模様はあまり聞きたくないなぁ…。」

「そうか?それなら、もう相談は…」

「それはそれで心配だから、何かあったらこれからも僕に相談して!」

「ああ、うん。リーナをよく知るリオンに、相談できるのは有り難い。これからも頼む。それから、明日からのバリアも頼んだ。」

「はいよ。」

「それから、1つ言っておくことがあるんだ。」

「何?」

「リーナが、ハンニー嬢は前世の記憶を持っているかもしれない、と言っていた。」

「は?」

「父さんと公爵には報告済みだ。」

「で?対応は?」

「それに関しては、聞かなかったことにする、と…。」

「それは…」

「極刑にしろ、国外追放にしろ、記憶があるからといって、今と何かが変わることはないだろうとの判断だ。」

「それなら、なぜ僕に話したんだ?」

「バリアを張るときに、何があるか分からないからな。」

「あー。」

「それと、ふたりきりには、ならない様にしろよ。」

「…ならないよ。リーナに危害を加えたやつとふたりになったら、抑えられないものがあるからね。…まだ、騎士を辞めたくないし、リーナを悲しませたくもないからね。」

「ああ。」


その時だった。

騎士のひとりがこちらへ駆けてきて、アイラン·ハンニーがいなくなったと話されたのは…。


---------------------------------



事件の次の日、午前の授業がもうすぐ終わるという時間に、パールから連絡が入った。


“リーナ!大変よ!バカ娘が逃げたわ!”

“バカ娘?”

“えーと、名前は何だったかしら…昨日の犯人よ、犯人!”

“…アイラン·ハンニー様?”

“その娘!牢から消えたそうよ。急いでリーナに連絡するには、私からが一番早いから、頼まれたの。またそっちに行く可能性もあるから、気をつけて!アルとルーフもリーナをよろしくね。”

“言われなくても。”

“僕は、すぐに学校の上を飛ぶよ~。”

“皆、気をつけてね。…それにしても、どうやって逃げたのかしら。”

“魔力を封じられていたから、自力での脱出は困難。協力者がいたのではないかとの事よ。”

“そう。”


「サリーナ様?授業が終わりましたよ。ボーとして大丈夫ですか?」

「ナンシー様。…ええ、大丈夫ですよ。食事に行きましょうか?」

「はい。昨日は食べ損ねましたからね。今日のメニューは何でしょうね~?」

「楽しみですね。」


他の生徒は、アイラン様が逃げた事を知らなそうね。

すでに知っていたら問題だけど…。


今の時点で知っているとなると、協力者の身内である可能性が高い。

帰宅までの時間、私は警戒しながらも周りに悟られない様、いつも通りの行動をした。


家に帰ると、ロンドから今日はお父様が王城に泊まり込むと知らされた。

その為、夕食はリック兄様と私の二人でとった。


「まだ見つからないのですね。」

「今日は父さんだけじゃなく、騎士団も休めないだろうな。」

「リック兄様は、大丈夫でしたの?」

「ああ。下っ端の文官が出来る事は、無いからな。ただ、ヨウにお願いして、近くは見てきてもらっている。」

「アルにも手伝って貰いましょうか?」

「いや、リーナは自分を守る事を第一に考えて欲しい。また、リーナの所に来るかもしれないからな。」

「…はい。パールにも言われました。気を付けておきます。」

「そうしてくれ。」


私は夕食を食べ、早々に部屋へ戻った。


「私にできることはあるかしら…」


サリーナが呟くと、ルーフがそれに答えた。


「それは、大人しくしておくことだな。」

「…分かっているわ。」


結局、騎士団はアイランを探すことができず、サリーナの前にアイランが姿を現すことも無かった。




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