騎士団②
すぐに訓練の時間は作られ、ザック様はリオン兄様にバリア魔法を教えることになった。
そりゃそうだ。バリアは2日くらいしか持たないらしいから、急いで覚えなくてはならない。
「これを僕にやれと?」
「できるだろ?」
「そんな簡単に…。魔法が苦手だったのが嘘のようだね。」
「ああ。スウィンティー家の皆には、感謝しているよ。」
「『皆』ね~。」
「特にリーナ…と言うのは、言わなくても分かっていると思ってな。」
「はいはい。分かっていますよ。」
「リオン兄様。頑張ってください。」
『まだ離れ難い』と言うザック様に呆れたハンス隊長が、訓練を私も見学できるよう取り計らってくれた。
その為、アルが家へ報告に飛んでくれている。
リオン兄様にも会えたし、良かった。
「リーナ、ありがとう。…ナイス、頑張るしかないみたいだよ。」
ダリオンに話しかけられた契約獣のナイスは頷く。
ナイスは口数が少ないが、表情や仕草で気持ちを伝える。
「では、続きを。俺にバリアをかけてみてくれ。」
「…リーナにかけるのじゃ駄目かな?」
「何故?」
「ザックの手を握るとか…考えただけで、ちょっと…。」
「身体に触れていれば、手を握る必要はない。」
「…はいはい。」
「それに失敗して、リーナに何かあったら困るだろう。」
「それは困るな。」
「ザック様に何かあっても困ります!」
「その時は、リーナも協力して助けてくれ。」
「そうだな。リーナなら何とかしてくれそうだ。」
「リオン兄様まで…。」
そして、リオン兄様はザック様の左肩に触れ、練習を始めた。
「う~ん…違うな。こうか?…出来ない。だったら…」
小声でブツブツ言いながら試行錯誤していく。その間、ザック様は口を開かず、只々その場に立っていた。
「お!」
ザック様の肩から腕がバリアの膜に覆われ、少しして消えた。
「リオン兄様、惜しいです。」
「うん。だんだん掴めてきたよ。」
◇
「はぁ…疲れた。リーナ、少し早いけど、騎士団の食堂で、夕飯を一緒にどう?」
「お昼を食べれてなかったので嬉しいですが…。」
「そうだったのか!?」
「ええ。タイミングが悪く…。」
そう。アイラン様に絡まれたのは、軽食をとりに行こうとしていた途中だった。
「気が付かなくてごめん。」
ザック様が、肩を落とす。
「いいえ、私も言いませんでしたし。…食堂には、騎士ではなくても行って良いのですか?」
「大丈夫、大丈夫!味も、案外イケるよ。」
「それなら…」
「帰りは、送っていくから安心して。父さんとロンドに連絡しておこう。」
「よろしくお願いします。」
「いや、帰りは俺が送るよ。」
「ザックが?」
リオン兄様は、ジッとザック様を見た。
ザック様は、にこりと笑う。
「………はぁ、分かった。そう連絡しておくよ。」
何?今の間…。
「ここだよ。」
「ルーフ達が、入っても?」
食堂に来る途中に、アルも家からこちらへ戻ってきていた。
「もちろん、良いよ。ナイスもパールもいつも一緒だしね。」
「ああ。リーナ、何にする?」
入口近くにあるメニュー表を見ていると、何やら周りがざわつき始める。
何だろう?
「あー、大丈夫、大丈夫。気にしない。」
「?」
「ここには女性が来ることが珍しいから。」
「リーナ、こっち。」
ザック様が、他の騎士達の視線を遮るように、私の肩を引き寄せた。
「ありがとうございます?」
で良いのかな?
「あの…おすすめは、どのメニューですか?」
「うーん…おすすめかぁ。僕は、いつも肉を頼むよ。」
「うん、俺もだな。」
「では、兄様とザック様と同じ物にします。」
「リーナに食べきれるかな?」
「そんなに量が多いのですか?」
「騎士用だからね。…よし、僕のを大盛りにして分けようか。」
「はい。それでお願いします。」
私達は厨房のカウンターまで移動した。
カウンターで注文し、受け取るシステムのようだ。
ザック様とリオン兄様に注文を任せると、大皿に山盛りの骨付き肉と大きなステーキが用意された。
「すごい…。」
「でしょ。」
「席は、あそこが空いている。リーナ、離れないで付いてきて。」
「はい。」
私は、前にザック様、後ろにリオン兄様、周りには契約獣達という状態で席に向かった。
その間も騎士達からの視線は、ビシビシ感じる。
少し居心地が悪い…。
「いただきま~す。」
席につくと、リオン兄様はすぐに食べ始める。
「リーナもここから取って。ナイスも、はい。ルーフ達は?」
“いる!”
「欲しいそうです。」
「はいよ。」
リオン兄様は取皿に、ルーフとアル、パールの分を乗せて渡してくれた。
「こっちもある。」
ザック様も同様だ。
「ふたりともありがとうございます。」
ルーフもアルもパールも、もちろんナイスも、美味しそうに食べている。
「いただきます。…んー、美味しいですね。」
「でしょ?でも、これも美味しいけど、久しぶりにリーナの料理も食べたいな。」
「俺も、久しく食べていない…。」
「リオン兄様は、休みの日に帰ってきてください。いつでも作ります。ザック様も遊びにいらしてくださいね。」
「必ず行く。」
「僕は、面倒くさい仕事を振られたから、ゆっくりできそうには無いけど、合間を見つけて帰るよ。」
「はい。お待ちしています。」
話しながら食べているのに、ふたりのお皿は、あっという間に空になった。
「…兄様、はやいですね。」
「そうだね。騎士団に入ってから早食いになったよ。」
「仕事が立て込んで、合間に急いで食べないといけないこともあるから、そうなってしまうな。」
「そうそう。」
「そうなのですね。」
「リーナはゆっくり食べていいからね。」
「はい。」
食事を終え、帰宅する為の馬車を待っていると、そう時間がかからずに馬車はやってきた。
「馬車が来たね。」
「リオン。また明日、時間を作るから頼んだ。」
「了解~。…リーナ、兄さんや父さんによろしく!」
「はい。リオン兄様は、元気だと伝えます。」
「うん。…なんか、いつでも会えるのに大げさな気もするけど、よろしくね。」
「はい。近いうちにまた。」
「じゃあ、ザック。リーナを頼んだよ。」
「ああ。ちゃんと送り届ける。」
私は、ザック様にエスコートされ、馬車に乗り込んだ。ルーフとアル、パールも一緒だ。
「お手数をおかけしてすみません。」
「婚約者を送るのは、俺の仕事だから。」
「ありがとうございます。…貴方達も今日はありがとう。」
サリーナは、契約獣たちに向かって礼を言った。
「今日は、本当に何もなくて良かったわ。」
「うん、うん。」
「なぁ、リーナ。学校には俺達はついていけないんだよな?」
「そうね…。契約獣を持つ方が少しずつ増えてきていても、それは変わらないわね。」
それに、ザック様も頷く。
「増えてきたと言っても、まだ少ないからな。」
ルーフは不満そうだ。
「それでは、何かあった時にすぐに駆けつけられない。」
「もう何かあることはないと思うわよ。」
「「「…」」」
3匹が、沈黙する。
「え?何かあるの?」
「分からないけど…。僕は近くを飛んでいることにするよ。」
「近くに森があったよな?」
「あったわね。」
「俺は、そこにいる。」
それぞれの待機場所が決まったようだが…。
「ザック様。良いのでしょうか?」
「いいと思う。俺もその方が安心出来る。なんなら俺も…。」
「無理ですからね?」
「…分かっているよ。リーナは、仕事をきちんとしている男が良いと言っていたし。」
私だけではなくて、皆そうだと思うけど…。
「しっかり仕事をして、続きの続きもしてもらわないと。」
「続きの続きですか?………あ。」
また忘れてた。
「約束だからね。」
「はい。」
見つめ合う私達を見て、パールが嬉しそうに言った。
「私達は気にしなくていいのよ?」
「そうはいかないわ…。」
「でも、昼間は気にしていなかったでしょう?」
「え?」
あ、1回目の未遂のとき…。
「あ、と、あれは…。」
「パール。ムードというものがあってね…。」
「アイザック君。失礼ね!それくらい分かるわよ!」
「ねぇねぇ。僕、外で風に当たりたいな~。」
「俺も、ここは少し窮屈だ。」
「…ザック様。私達、気を使われている様ですよ?」
「そうだな。」
コンコン
ザック様が、馬車の御者側の窓を叩いた。
すると、馬車がゆっくり停まる。
「え?」
そして、馬車の扉が空いた。
“じゃあね~。”
“私も御者さんの隣に乗せてもらうわ。あの方優しいのよ。”
“俺は走って帰るとするか。王子がいるなら安心だしな。”
安心!?
別の意味で安心ではないのでは!?
3匹は外へ出ていった。
再度、扉が閉じる。
「ザック様?」
「3匹の気持ちに甘えよう。」
「!?」
「リーナ、失礼する。」
対面に座っていたザック様が私の隣に移動してきた。
「リーナ…。」
「はい!?」
「嫌ならしないから安心して。」
「そんな!」
思ったより、大きな声が出た。
「あ、改まると緊張しているだけで、嫌ではありません。こんなに緊張した事は初めてです…。」
「………それは、前世も含めて?」
「…え?」
「いや、ごめん。」
「ザック様…前世の私が気になるのですか?」
「………気にしても仕方ないのは分かっている。しかし、前世のリーナまでも独り占めしたいと思ってしまうんだ。」
重い…重いけど、この重さが心地良いと思ってしまう私は可笑しいのかしら?
サリーナは微笑んでアイザックの手を両手で握りしめた。
「前世でお付き合いしたことが無いとは言えません。しかし、ここまで想ってくださる方も、緊張したのも初めてです。ザック様、私は今、幸せです。」
「リーナ…。」
「ザック様…。」
ふたりの顔が近づき、サリーナとアイザックは、この日3度目にして、やっとキスに成功した。
---アイザックside---
リーナは可愛い…
おでこや頬へのキスから、先日初めて口へキスをした。
キスをした後の顔は艶っぽかった。
13歳なのにあの色気は何なんだ。
「…ク、ザック、おい、ザック!」
「あー、リオン。何?」
「何じゃない!できたぞ、バリア!」
「ああ。お疲れ。」
「それだけかよ!…ったく!ボーとして、何考えてたんだか。」
「リーナのことに決まってる。」
「あ~そうですかぁ!…はぁ、ザックの友人としては喜ばしいが、リーナの兄としては心配だよ。」
「何が心配?」
「色々!」
「そうか?」
「そうなんだよ!」
「大変だな。」
「お前が言うな!」
「…なぁ、リオン。リーナを他の男の目に映したくない。どうすればいい?」
「は?!」
「あんなに可愛い子、誰でも好きになってしまうだろ?………どこかに隠すか?」
「隠すな。…お前、日々重くなっていくな。」
「可愛いのだから、仕方ないだろう。それに、リーナは『幸せです』と言ってくれているんだよ。」
「そうかよ!…はぁ、リーナが幸せな事は良い事だ。良い事だが、妹の恋愛模様はあまり聞きたくないなぁ…。」
「そうか?それなら、もう相談は…」
「それはそれで心配だから、何かあったらこれからも僕に相談して!」
「ああ、うん。リーナをよく知るリオンに、相談できるのは有り難い。これからも頼む。それから、明日からのバリアも頼んだ。」
「はいよ。」
「それから、1つ言っておくことがあるんだ。」
「何?」
「リーナが、ハンニー嬢は前世の記憶を持っているかもしれない、と言っていた。」
「は?」
「父さんと公爵には報告済みだ。」
「で?対応は?」
「それに関しては、聞かなかったことにする、と…。」
「それは…」
「極刑にしろ、国外追放にしろ、記憶があるからといって、今と何かが変わることはないだろうとの判断だ。」
「それなら、なぜ僕に話したんだ?」
「バリアを張るときに、何があるか分からないからな。」
「あー。」
「それと、ふたりきりには、ならない様にしろよ。」
「…ならないよ。リーナに危害を加えたやつとふたりになったら、抑えられないものがあるからね。…まだ、騎士を辞めたくないし、リーナを悲しませたくもないからね。」
「ああ。」
その時だった。
騎士のひとりがこちらへ駆けてきて、アイラン·ハンニーがいなくなったと話されたのは…。
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事件の次の日、午前の授業がもうすぐ終わるという時間に、パールから連絡が入った。
“リーナ!大変よ!バカ娘が逃げたわ!”
“バカ娘?”
“えーと、名前は何だったかしら…昨日の犯人よ、犯人!”
“…アイラン·ハンニー様?”
“その娘!牢から消えたそうよ。急いでリーナに連絡するには、私からが一番早いから、頼まれたの。またそっちに行く可能性もあるから、気をつけて!アルとルーフもリーナをよろしくね。”
“言われなくても。”
“僕は、すぐに学校の上を飛ぶよ~。”
“皆、気をつけてね。…それにしても、どうやって逃げたのかしら。”
“魔力を封じられていたから、自力での脱出は困難。協力者がいたのではないかとの事よ。”
“そう。”
「サリーナ様?授業が終わりましたよ。ボーとして大丈夫ですか?」
「ナンシー様。…ええ、大丈夫ですよ。食事に行きましょうか?」
「はい。昨日は食べ損ねましたからね。今日のメニューは何でしょうね~?」
「楽しみですね。」
他の生徒は、アイラン様が逃げた事を知らなそうね。
すでに知っていたら問題だけど…。
今の時点で知っているとなると、協力者の身内である可能性が高い。
帰宅までの時間、私は警戒しながらも周りに悟られない様、いつも通りの行動をした。
家に帰ると、ロンドから今日はお父様が王城に泊まり込むと知らされた。
その為、夕食はリック兄様と私の二人でとった。
「まだ見つからないのですね。」
「今日は父さんだけじゃなく、騎士団も休めないだろうな。」
「リック兄様は、大丈夫でしたの?」
「ああ。下っ端の文官が出来る事は、無いからな。ただ、ヨウにお願いして、近くは見てきてもらっている。」
「アルにも手伝って貰いましょうか?」
「いや、リーナは自分を守る事を第一に考えて欲しい。また、リーナの所に来るかもしれないからな。」
「…はい。パールにも言われました。気を付けておきます。」
「そうしてくれ。」
私は夕食を食べ、早々に部屋へ戻った。
「私にできることはあるかしら…」
サリーナが呟くと、ルーフがそれに答えた。
「それは、大人しくしておくことだな。」
「…分かっているわ。」
結局、騎士団はアイランを探すことができず、サリーナの前にアイランが姿を現すことも無かった。




