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騎士団

「ここがザック様の仕事場ですか?」

「仕事場と言うか、休憩や待機する場所だよ。」

「俺は、お茶を用意するから、お前は先に行ってろ。」


隊長さんが用意するの?


「はい。応接室ですね。」

「ああ。……すぐ行くからな。」

「………分かりました。」


ん?

変な間があった?


「リーナ。こっち。」

「あ、はい。」


私はザック様の後ろをついていく。その後ろをパールとルーフ、アルも続く。

詰め所にいる騎士たちが、こちらを目を丸くしてみている。


“ねぇ…私どこか変?”

“変ではない。”

“うん。いつも通り!”

“可愛いわよ~。”

“でも何か…”

“女の子がいるのが珍しいのよ。気にしない、気にしない。”

“これだけ見られていると気になるけど…。”

“周りは見ずに、アイザック君だけ見ていなさい!”

“え?”


ドン。


サリーナは、立ち止まったアイザックにぶつかってしまった。


“ほら言ったじゃない。”

“そういう意味か…。”

“何よ。”

“何でもないわ。”


「リーナ。大丈夫か?」

「はい。ぶつかってしまってすみません。」


私は鼻を抑えながら、顔を上げた。ザック様の動きが止まる。


「ザック様?」

「…可愛いな。」

「え?か…。」


可愛い!?ぶつかったのが?

ザック様のこういう感覚は未だに分からないわ…。


「あ、いや…うん。ここが来客があったときに使う応接室のような部屋になっているんだ。どうぞ。」


アイザックは、目の前の扉を開けて、サリーナに中へ入るよう促した。


「はい。失礼いたします。」


部屋には、テーブルと椅子、そしてソファが置かれている。


「座って。」

「はい。」


サリーナは、入口に近いソファに腰を下ろした。アイザックもその隣に座る。

足元にはパールとルーフ、背もたれにはアルがいる。


「リーナ。本当に怪我はないかい?」


ザック様に両手を片手ずつギュッと握られる。


「ええ、全く。私まで攻撃は届きませんでしたから。」

「それなら良い。」

「…アイラン様はどうなったのでしょうか。」

「騎士団の牢に連れて行った。」

「魔力は?…あの魔道具が関係しています?」

「その通り。あれは、魔力を抑える力を持っているんだ。つけた人物しか外せないから、ハンニー嬢にも外せない筈だよ。それに、バリアもかけているから、魔法は使えない。」

「バリアは、そんなに長時間持つのですか?」

「訓練では2日くらいかな。またかけ直しに行った方が良いだろうね。」

「ザック様がですか?」

「うん。今の所俺しかできないから。」

「…」


サリーナは、アイザックがアイランの周りにバリアを張る光景を思い出した。


モヤモヤする…。

この、モヤモヤはなんだろう。


「リーナ?どうした?」

「………バリアは触らないとかけられないのですか?」

「ん?そうだな。あそこまで身体に沿って覆おうとすると触っていたほうが確実だね。」

「身体に沿って、覆わなくても良いのですよね?」

「でも、そうすると魔道具をつけていて抑えられているとはいえ、先程のようにバリアの中で魔法を起こされたら、近づけなくなってしまう。」

「…そうですね。」

「リーナ?」


ザック様が言う通りだ。

皆の安全の為には仕方ない。…ないのだけれど…。


「全く、アイザック君は鈍感ね!リーナはヤキモチを焼いているのよ。」

「ヤキモチ?」

「嫉妬。ジェラシーともいうわね。」

「「え!?」」

「えっ、て…何でリーナも驚いているのよ。」

「え~と…。」

「リーナ、そうなのか?」


ザック様は、こちらを見て目を丸くしている。


「あ、アイラン様を捕まえたとき、差し出された手を握らなくていいのではないかと思いました…。それを思い出してモヤモヤして…。」

「あの時は、気付かれずバリアを張るためにああしたんだ。」

「…はい、そうですよね。よく考えればそれに気づくのに…すみません。」

「謝らないでくれ。謝るのはこちらだ。」

「謝る?何をですか?」

「ごめん。…俺は、リーナが嫉妬したと知り、嬉しい。」

「嬉しい…ですか?」

「リーナに好かれていると感じる。」

「もちろんですよ。…す、好きと普段は伝わりませんか?」

「伝わってない、事はない。しかし、比べるものではないが…俺の方が好いているように思うよ。」

「そんな事。」

「何せ騎士を目指し始めの動機は、リーナの好みに近づく為だし。」

「あ…」

「重いよな。」

「…不思議と、重いと思った事はございません。」

「そうなのか?」

「ええ。」

「これを話すと、『重い』と言われるのに。」

「誰にです?」

「同僚達。」

「…私は嬉しかったです。問題ありません。それにパールでザック様を縛っているのは私です。私のほうが重い。」

「リーナ、それは…」

「私はパールがザック様の傍にいてくれる事で安心します。他に良い人がいてもそちらを向かないと思えるのです。それがザック様にとって良い事なのかどうか。」

「良い事に決まっている。それに、監視しているのは俺の方かもしれない。パールを通してだが、リーナの様子が分かるし、安心する。」


アイザックとサリーナは、顔を見合わせる。


「お互い様…ですかね?」

「そうだな。」

「ふふっ。」

「リーナ。」

「ザック様。」


二人の顔は近づいていく。


ふたりの顔は近づき、お互いの唇が触れる寸前…。


ガチャ


音がした方を見ると、ハンス隊長が片手にお茶が用意されたおぼんを持って、ドアを開けていた。


「あ、すまん。まだだったか。」


『まだ』って何…!?


「隊長。ノックくらいしてください…。」

「したぞ。」

「…気づきませんでした。」

「出直すか?」

「そうしてください。」

「ザック様!?」

「………冗談です。どうぞ。」

「クククッ。不本意そうだな。」

「そうですね。」

「ザック様!ハンス隊長、申し訳ございません。」


ハンス隊長は、私達と対面の椅子に座る。


「いいえ、スウィンティー様。噂の可愛い婚約者が来ているのですから、仕方ありません。」

「噂?」

「はい。新人ルーキーは、幼い頃より婚約者一筋のおも…情熱的な騎士。」


今、『重い』と言いかけましたよね?


「それに、婚約者がこの世で一番可愛いと断言していましたからね。」

「え?」

「本当の事です。最近は『可愛い』の中に『美しさ』も出てきて、困っています。」

「困る?」

「リーナは、分からなくても良いよ。隊長、それより今日の話を。」

「そうだな。スウィンティー様、事の次第を説明してもらっても宜しいですか?それと、メモを取らせてください。」

「ええ、どうぞ。…まずお友達と中庭へ行くと、アイラン·ハンニー様が私達の前にいらっしゃって、『アイザック様は私と結ばれるの。』と仰って、魔力を放出し始めました。」


ザック様が顔をしかめる。


「それをバリアで防いだら、先日の舞踏会での襲撃未遂が私のせいだと思われたようですね。さらに、激昂されました。」

「サリーナ様は大丈夫でしたか?被害は?」

「大丈夫です。周りへの被害もありません。バリアでアイラン様を囲んでいたので、その中だけ荒れていました。」

「この世界一番の魔法使い…そう言っていたんだよね?」

「ええ。」

「どういうことだ?この国で一番魔力が強いと言われているのは…」


ハンス隊長がサリーナを見る。


「リーナですね。…他に魔力が強いのは、王族とスウィンティー公爵家の面々。」

「…他の国から来たのか?」

「それもあり得ます。引き取られたのは最近の様ですから。」

「学校も特別編入枠だそうです。」

「特別編入?なぜ?」

「それは、分かりません。詳しく聞く時間がありませんでした。」

「そうですか。では、その事はこちらで学校へ確認することにいたします。」

「よろしくお願いいたします。」

「はい。…それにしても、バリアの張替えは、アイザックとは違う者に行ってもらった方が良さそうだな。」

「え?」

「そうしてください。」

「ザック様。」

「ん?」

「バリアの張替え、行かれないのですか?」


私が不思議に思っていると、隊長さんが答えてくれた。


「あ~。あの娘がアイザックが狙いなら、近づける事は良策とは言えませんから。」


あ、そうか…。


「しかし、それが出来る魔力と操作性の持ち主というとな…。」

「それなら、わた…」

「駄目。」


言い終える前に、ザック様に止められた。


「私も、それはやめた方が良いと思います。」


ハンス隊長も反対の様だ。


「スウィンティー様にも敵意を向けている限り、近づけられません。」

「…おそらく、私は彼女の被害を受けることは無いかと思うのです。」


たぶん、と言うか、高い確率で私の方が強い。


「それは、俺もそう。何があるか分からないから駄目。」

「…はい。」

「隊長、いるではないですか。俺と同じくらいの魔力の持ち主。」

「アイザックと同じくらい?」

「?」

「契約獣もいて、騎士団所属の…」

「第3部隊のダリオンか!」

「リオン兄様?」

「リオンならバリアの仕方もすぐ覚えるだろうし、多少の無茶をしてもナイスがいる。」

「負担は軽減されますね…。」

「よし!第3部隊長に話をつけてくる!」


そう言って、ハンス隊長は部屋を出ていった。

それを見て、私はある事を切り出した。


「リオン兄様は、引き受けてくれるのかしら。」

「大丈夫だろ。リーナを危険に陥れたやつを、そのままにはしたくないだろうからな。」

「あの、ザック様…。」

「どうした?」

「もう1つ…ハンス隊長の前では言えませんでしたが、アイラン様は私と同じかもしれません。」


「リーナと同じ?」

「はい。」

「前世の記憶を持っていると?」

「話していた内容からの推測でしかありませんが…。」

「話していた内容?」

「先程言った『アイザック様と結ばれる』の他に、『この世界で1番の魔法使い』『貴方なんか知らない』などの発言がありました。」

「それで?」

「この国の方が『この世界』と言うでしょうか?仮に他国から来ているにしても、『世界一』とは言っても、『この』を付けるかどうか。」

「うん。」

「それに、もしこの世界が私の知らない何かの漫画や、ゲームと似た世界だとしたら…。」

「漫画?ゲーム?」

「物語や舞台のような物と思っていただければ良いです。前の世界で流行っていたのです。異世界へ転生や転移する話が…。」

「なるほど。ハンニー嬢は、その物語と同じ様な人物や状況が目の前にあったと言う事か。」

「はい。私の考えすぎかもしれませんが、私が存在している以上、他にいても可笑しくはないかと思います。」

「分かった。一応、リオンには話しておこう。それから、父さんと公爵にも。後のことは、父さんと公爵の判断に任せよう。」

「分かりました。………え~と、もう帰っても良いのでしょうか?」

「話も終わったから良いと思うけど、皆寝てるし、もう少し休憩していったらどうだろう?」


ザック様が、周りを見て言った。私も続いて見ると、ルーフもパールも伏せて寝ている。アルは背もたれに止まっているが、翼に顔を乗せて寝ていた。


「急いで助けに来てくれたのだもの。疲れたのね。」

「パールも知らせを聞いて、すぐに走り出したからな。そして、途中でリーナからも情報が入ったと教えてくれた。俺も馬に魔法をかけながら走らせたんだ。」

「そうですか。ザック様もありがとうございました。」

「…リーナ。ご褒美をもらえるかな?」

「え?」

「さっきの続き…。」

「さっき?」

「そう、さっき。」

「………………あ。」

「思い出した?」


私は、自分の顔が熱くなるのを感じた。


きっと赤くなっている…。


「良いかな?」

「は、はい…。」

「それでは…」


ザック様の顔が近付いてきた。私は目を閉じる。

…と、その時


ガチャ!


その音で私は思わず目を開けた。

ザック様の顔が近い。


「許可をもらったぞ!ダリオンも、…あ、すまん。」

「隊長…。」

「本当にすまん。許せ。」

「はぁ~。」


アイザックは大きなため息を付き、肩を落とした。


「ザック様。また別の機会に…」

「!!…それは、しても良いと言うことかな?」

「も、もちろん…ですよ。」


サリーナの声がだんだん小さくなる。顔だけでなく、耳まで真っ赤だ。


「隊長。早退させてください!」

「駄目だろう。」

「何故ですか?こんなに可愛いリーナと離れるなど出来ません。」


何!?


「お前には、やる事があるだろうが。」

「何かありましたか?」

「ダリオンにバリアの張替えを教えてくれ。」

「紙に書きますから。」

「それで伝わるのか?」

「大丈夫でしょう。」


そんな簡単な物ではない気がするのだけれど…。


「ざ、ザック様。私はお仕事をきちんとこなしているザック様が、格好いいと思っています。ですから…」

「隊長。リオンには、いつ教えたらいいですか?」

「…現金なやつだな。」


ザック様の新たな一面を見たわ…。





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