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アイザック成人祝の舞踏会②

私達は、バルコニーまで移動してきた。


「待たせて、ごめん。」


二人になった所でザック様は私に頭を下げた。


「今日の主役はザック様なのですから、仕方のない事ですよ。この人数の挨拶が早く終わるはずがございません。」

「リーナ…。」

「私はリック兄様やサラ様と楽しくお話していましたから大丈夫です。」

「それはそれで寂しい…。」


犬の耳と尻尾が見えるのは気のせいかしら?


私は思わず、ザック様の頭を撫でた。


「俺はパールでも、ルーフでもない。」

「知っています。」

「リーナ。俺も撫でてくれ。」

「私も~。」

「良いわよ。」


私は、ザック様の頭から手を離し、座って2匹を撫でる。

すると、ザック様もしゃがみこんだ。


「リーナ。今日も可愛い。」

「!?…ありがとうございます。」


ザック様に、面と向かって言われると照れる…。


「うん。…それにしても、ハンニー伯爵達は何をしたかったのか。」

「先程のですか。」

「そう、先程の。」


その問いに答えたのは、パールだった。


「あれ、精神に干渉する系だと思うわよ。変な匂いがしたもの。」

「匂い?」

「甘ったるいの。」

「確かにしたな。」


ルーフも頷いている。


「匂いは分からなかったわ。」

「人間には分からないかもね。」

「それほど微かということ?」

「私でも少し香る程度よ。」

「俺もだ。」

「……甘ったるくて精神系。まさかとは思うけど、魅了とか?」

「それは分からないけれど、可能性は大いにあるわね。」

「お父様へは…アルから伝えてもらいましょう。陛下と王妃様を守る為に、まだ一緒のはずよ。」

「ふたりは今日は早々に切り上げる予定になっているよ。」

「そうなのですか?」

「主役は俺だから、後半は任せるとか言っていた。…けれど、先程の事があるから、残る事にしたみたいだ。」


ザック様は話の途中で、会場内をちらりと見た。私もそちらを見る。陛下と王妃様がにこやかに専用の椅子に座っており、その近くにはお父様とアルの姿もある。


「ハンニー伯爵達をどうするつもりかしら?」

「このあと何も無ければ、見張りをつけて終わりだろうね。」


その時、バルコニーの手摺にカラスがとまった。脚にはシルバーの小さなリングがついている。


「ジャズ。」


そのカラスはお父様の契約獣だった。


6年前、お父様達にもザック様とパールと話した仮説を伝えた。お父様は契約獣を持ち、魔力操作練習後の体調不良が軽減された。さらに、魔力操作に関してはすぐに学校へ通達され授業内容が変えられた。今では、契約獣を持つ者も多くはないが、増えてきている。


ちなみに、リック兄様、リオン兄様の他に、話を聞いた陛下とアレックス様も魔力操作含め訓練を始め、契約獣も持っている。ザック様は、様々な理由により契約獣を持たず、魔力酔いは気合で乗り切ると決めたそうだ。その努力の成果か寝込む回数は徐々に減っている。


「主、頼マレマシタ。女、ミハル。」


ジャズは、片言で話す。


「見張る?」

「アイラン嬢か。」

「ソウ。」

「気をつけてね。」

「マカセテ。」


そして、隣のバルコニーへと移っていった。


「何もないと良いけど。」

「そうだね。」

「ザック様は他人事ではございませんからね?」

「分かっているよ。魔力もだいぶ上がったし、パールもいてくれる。それに、俺は結構強いよ。」

「知っています。期待のルーキーですものね。」

「なんだい?それ。」

「噂です。それから、リオン兄様も話していました。」

「リオンが?」

「ええ。見習い中、ザック様は段違いで強くなったと…。負けていられないと言っていました。」

「あいつがそんなこと。」

「しかし、油断は禁物です!」

「分かった。気をつけるよ。」

「パールもザック様をよろしくね。」

「もちろんよ!」


パールが大きく頷き、胸を張った。


可愛い…。


「ふふっ。あ、そういえばリオン兄様は、今日はどこの配置ですか?会場では見かけなかったので。」

「確か…外だったかな。ナイスと見回っていると思う。」


ナイスとは、リオン兄様の犬型の契約獣の事だ。


「そうだったのですね。最近お会いできていないので、顔だけでも見たかったのですが、仕方ありませんね。」

「伝えておくよ。」

「ありがとうございます。私も今度、手紙を送ることにします。」

「リオンも喜ぶだろう。俺にも忘れないでくれよ。」

「ザック様とは、ほぼ毎日何らかの形でやり取りをしていると思いますが。」

「私も協力しているしね!」

「パール。いつも感謝しているわ。ありがとう。」

「本当にそうだ。ありがとう。」


私の言葉に続いて、ザック様もパールへ向かってお礼を言う。


「どういたしまして!」

「リーナ。」

「もちろん、ルーフもいつも私を守ってくれて感謝しているわ。」

「それは、当たり前だ。そうではなくて、戻らなくていいのか?」

「ん?」

「あれ。」


私達はルーフに示された室内に目を向けると、中にいる人と目が合い、すぐにそらされた。


「…もしかして、すごく注目されていたの?」

「そうみたいだな。話の内容までは分からないだろうから、大丈夫だと思うけど。」

「戻りますか?」

「そうだな。このまま帰りたいけど、そうもいかないし…。リーナ、ダンスでもいかがですか?」


ザック様は恭しく手を出した。


「クスッ。はい、喜んで。」


私は笑顔でその手を取り、私達は室内へ戻った。



皆に注目される中、私達はダンス開始の構えをする。


「緊張します。」

「そうなの?」

「そりゃそうです。こんなに注目される事なんてありませんから。」

「そう?」

「?」

「フッ、分かってないんだね。」

「どういうことでしょうか?」

「リーナが可愛いと言うことだよ。」

「もう…。ザック様はいつもそうやって、はぐらかすのですから。」

「はぐらかしたつもりはないんだけどな。…さぁ、始まるよ。」

「はい。」


♪~♫~


アイザックとサリーナのダンス姿は、招待客を釘付けにした。


「美しいわ。」

「本当に…。姫を守るナイトね。」

「やはり敵わないわ…。」

「でも、万が一という事が!」

「諦めなさいな。」


見つめ合って楽しそうに踊るふたりには、周りの声は耳に入らない。


「おかしい。こんなの知らない…。」


何やら他の者と種類の違う呟きも、もちろん聞こえていなかった。



王城から帰る馬車の中


「リーナは楽しめたか?」

「はい。気になることはありますが、楽しめました。」

「ハンニー伯爵親子か?」

「そうです。パールやルーフは甘ったるい匂いがしたと…。精神に干渉するものでは、と言っておりました。」

「それは父さんには?」

「アルを通して伝えてあります。」

「アルは、まだ向こうか?」

「舞踏会も終わりましたし、もう戻ると思いますが、何かありますか?」

「いや、そのまま父さんの傍にいてもらうことは可能か?」

「ええ。」


“アル。”

“は~い。”

“まだお父様の所?”

“そうだけど、もうそっちに行くよ。”

“ちょっと待って…もう少しお父様の傍にいてくれる?”

“OK~”


「でも、どうして?」

「あの時、パール達が対処してくれたけど、俺達は違和感を感じていても、何もできなかった。魔獣の嗅覚が魔法の種類も分かるなら…。」

「ジャズは見張りについているし、アルが居たほうが良いですね。」

「そういう事だ。」

「…ところで、狙いはどなたでしょうね。」

「精神に干渉だろう?自分の思う通りに動かそうとしたなら、陛下か…殿下か…あの場にいたすべての人か…。何にしても注意が必要だな。すでに魔法をかけられている者もいるかもしれない。」

「!」


そうか、その可能性もあるのか!


「面倒くさい事になりそうですね…。」

「嫌か?」

「もちろん。ザック様や皆と楽しく過ごしているのですから、変な事件はノーサンキューです。」

「そうか…。俺は気持ちが高ぶっている。どう仕掛けてくるのか、考えると楽しい。」


リック兄様がニヤリと笑った。


「そ、そうですか。」


リック兄様に、そんな趣味が…。

いや、色んな戦略とか練るためには、必要な考え方なのかな。

さすが未来の宰相候補?


「父さんからも話を聞きたいが、帰りは遅いかもしれないな。」

「そうなのですか?」

「今後の対策も考えないといけないだろうし、騎士団長と話でもするのではないか?」

「舞踏会の後にですか?」

「対策は早い方が良い。」

「それもそうですが、見張りもついていますし…。」

「それでも、万が一も考えて対策しないといけないからな。話し合うことは多いだろ。」

「すでに面倒くさい事になっているのですね…。」

「ははは!面倒くさい事になっているのは、ほぼ陛下と父さんだから。関係ないとは言わないけど、リーナはまだ気にしなくていいと思うぞ。」

「そうでしょうか?嫌な予感がしてなりませんが…。」

「リーナの感は、当たりそうだな。」

「…」

「冗談だ。」


嘘だ。


私はジッとリック兄様を見ると、リック兄様は、私から視線を反らし、馬車の窓につけられたカーテンを開け、外を見る。


「ヨウが迎えに来てくれているはずなんだが、いるかな?」


ヨウとは、リック兄様の梟型の契約獣だ。


「とっくに馬車の屋根に止まっているぞ。パトリックも知っているだろう。」


ルーフの言葉でリック兄様は一瞬固まり、ゆっくりカーテンを締めた。


「リック兄様。」

「何だ?」


表情は変わらない。


「ヨウを中に入れてあげたらいかが?」

「風を受けられる馬車の上が好きなんだ。」

「そうですか。」

「ああ。」


私達の微妙な空気に、ルーフは首を傾げていた。


「俺は何か変なことを言ったのか?」



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