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魔力酔い

翌朝


「サリーナ様、おはようございます。」

「おはよう。」


今朝も、私とメルは身支度を整えて、馬車の外へ出た。


あれ?

誰もいない?


ルーフとアルの他に姿が見えない。


「おはようございます。サリーナ様。」


馬車の影から、朝食の材料を持ったロンドが出てくる。


「おはよう、ロンド。皆は?」

「まだ起きてきておりませんね。」

「どうしたのかしら?見てこよ…のはロンドにお願いしたほうがいいわね。」


私が見に行こうとすると、ロンドとメルに首を振られたので、ロンドにお願いすることにする。


「私達は朝食の準備をしましょう。」

「畏まりました。」


その時に、ふとロンドの後ろ姿をみると、何やら違和感を感じた。


何だろう?


「それにしても、どうしたのかしらね。私、いつもより早く起きてしまった?」

「いえ、昨日より遅いくらいです。」

「そうよね。」


そうなのだ。

やはり、夜眠れなかった事もあって、起きる時間が少し遅くなったのだ。


皆、起きていると思っていたのに、本当にどうしちゃったのかしら。


不思議に思いながら、朝食の準備を進めていく。


ガシャン!


メルがお皿を落としてしまった。


「メル!大丈夫!?」

「怪我はない?」

「申し訳ございません。お皿が…。」

「それは気にしないで。お父様には私が話しておくわ。」

「申し訳ございません。」

「それにしても、珍しいわね。」

「その…実は今朝から、手に力が入りづらいのです。」

「え?」

「身体のだるさもありまして。」

「昨夜は?」

「昨夜は、いつもと変わりありませんでした。」


確かに元気そうだった。


サリーナは、昨夜の散歩後のメルの様子を思い浮かべる。


「魔力量が増えているぞ。」

「「え?」」


ルーフの言葉に私達は驚いた。


「リーナは、魔力の気配がまだ分からないか。」

「ええ。」

「可視化してみろ。」


ルーフに言われた通り、メルの魔力操作を可視化する。


「モヤが広がっている…。」

「だろ?」

「何で?」

「それは分からん!」

「えー!」

「分からないものは仕方ないだろう?」

「もしかして、昨日の魔力操作の練習が原因でしょうか?」

「普段との違いはそれだけ?」

「魔法は日常的に使いますし、他はキャンプ生活をしている事ですね。」

「キャンプで魔力量が増える事はないものね。」

「そうですね。」

「では、魔力操作で魔力量が増えて、体調不良を起こしていると言う事になるのね。それでは、お父様達は…」


メルと同じ状況と言うこと?


「サリーナ様。」

「ロンド。お父様達は?」

「それが、起き上がれないようです。」

「え!?皆?」

「はい。」

「えーと、ロンド。こういう時は誰の所から行けばいいのかしら?」

「アイザック殿下と言いたい所ですが、一番体調が悪いのは旦那様でございます。」

「分かったわ。…ロンドも休んで。」


私は、先程のロンドの違和感は、この怠さから来るものなのだろうと推測した。


「そういうわけにはございません。」

「貴方は、メルよりも酷いように見えるわ。本当は立っているのがやっとなのではない?」

「ですが…。」

「とりあえず、魔力を見せてね。いえ、ちょっと待って…」


メルよりも辛そうだし、魔力操作をすると負担が掛かりそうね。


「ルーフ。魔力を感じてくれる?」

「おう!リーナも早く分かるようになると便利だぞ。」

「そうね、練習するわ。」

「集中してみたら出来るかもよ~。」


今まで黙っていたアルが口を開いた。


「そうなの?」

「魔力の流れが分かっているなら、できると思うよ。僕にだって分かるんだから!」

「アルと比べるのは正しいのかしら?でも、まぁ、やってみるわ。とりあえずルーフはロンドをお願い。私はアルと行ってくる。」

「はいよ!」


私とアルは、お父様の所へ向かった。


「そうだ!」


“パール”

“リーナ?”

“ザック様はどう?”

“だるそうね。それに、魔力量がまた増えたわ。”

“また?昨日の時点で増えていたけど…。”

“眠れなくて、自主練してたからね。”

“そうなのね。大丈夫そう?”

“休めば治ると思うわよ。”

“お父様達の様子を見たら、そちらに行くわ。”

“了解~。”


サリーナはパールとの会話を終えると、父と兄達のいるテントに入った。


「お父様、兄様。具合はどうですか?」

「俺は大丈夫。足に力が入らないくらい。」


リック兄様は上体を起こした。


「それは、大丈夫と言わないと思います。」

「僕は全身だるい。極力動きたくない。」


リオン兄様は、横になったまま答える。


「お父様は?」

「気持ち悪い…。」

「え?」

「吐く…」

「ちょっと待って。」


周りを探すが何もない。


もう!


サリーナは手をお椀型にして、桶のようなものを思い浮かべる。


「器!」


間一髪、ボウルのような氷の器をつくる事に成功した。


「すまん…」

「いえ。間に合ってよかったです。これは…とりあえず凍らせておきます。後で捨てましょう。」


凍らせておけば、臭いもしないはず…。


「大丈夫ですか?」

「この感覚は覚えがある。たぶん、魔力酔いだ。」

「魔力酔い?」

「許容量を超えた魔力が体内にあるんだろうな。魔力操作の練習で増えたか?」

「それは…」

「大丈夫だ。身体が慣れれば、すぐに良くなる。」


…二日酔いみたいなものかしら?


「3人とも魔力が増えているよ~。」


様子を見ていたアルが教えてくれる。


「アル、ありがとう。」


サリーナも魔力の気配を探ってみる。


「…駄目だわ。」

「どうしたんだ?」

「魔力の気配がよめるようになりたいと思って。」

「可視化できるから良いではないか。」

「それでは、魔力操作をしてもらわないとできないから、こういう時に何もできないでしょう?」

「そうか。それは、経験としか言いようがないな。」

「はい。…お父様、今日もここで一泊ですかね?」

「…すまんがそうなる。」

「では、食料も必要ですね。帰宅が遅れることも知らせないと…。」

「手紙魔法陣を持ってきているから、陛下へは私から連絡する。…鞄を取ってくれ。」

「はい。我が家へは…アル、お願いできる?」

「手紙を運べばいいんだよね?いいよ~。」

「ありがとう。…気をつけてね。危ない事があったら、すぐに逃げるのよ?」

「は~い。」


私はアルをお父様へ預け、今度はザック様のテントへ向かった。


「ザック様、体調はいかがですか?」


サリーナはザックのテントに向かって外から声をかける。


「リーナ。待っていたわ。」


パールがテントから顔を出した。


「パール。ザック様は?」

「寝ているわ。」

「それならまた後で…」

「いいえ。リーナが来たら、起こすように言われているの。中に入っていれば良いのではない?」

「でも、無断で入れないわ。」

「そうなの?婚約者なのに?」

「そうよ。」

「分かったわ。まず、アイザック君を起こしてくるわ。」


パールはテントの中へ戻っていく。そして、すぐにまた顔を出した。


「良いって。」

「…お邪魔いたします。」


サリーナはテントの中へ入った。


「リーナ。こんな格好でごめん。」


ザック様は、軽装でベットに座っていた。


「ザック様。辛かったら横になったままで。」

「大丈夫。先程より楽なんだ。」

「それならいいのですが…。」

「リーナは?変わりない?」

「はい、いつも通りです。しかし、お父様達も体調が悪いので、もう1泊するそうです。陛下へは、お父様が連絡していますのでご安心ください。」

「分かった。」

「…魔力操作で魔力が増えた為の魔力酔いと考えられるようです。私が余計なことをしたから…申し訳ございません。」

「いや、僕が教えてくれるように頼んだんだ。パールが言うには、休めば治るようだし、謝らないで。」

「休んだら、魔力も身体に馴染むわよ。」

「パール。これを積み重ねると、強くなることが可能なの?」

「さぁ…でも、魔力は増えていくのではないかしら。後は、それを使う為の練習次第じゃない?」

「そうなのね。…それにしても、私は何で元気なのかしら?」

「何故かしらね。…他との違いを考えると、私達がいる事と魔力量が元から多い事が関係しているかも?」

「契約獣を持てば、これからの体調不良が無くなるかもしれないということかな?」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。」

「「「うーん…」」」


私達、2人と1匹は首をひねる。


「とりあえず、ザック様は休んでください。」

「ありがとう。もう少し寝させてもらうよ。」


私がテントを出る時、パールをちらりと見ると、パールが後ろをついてくる。ルーフもこちらへやって来た。


「ふたりに寝るように言ったが、聞かない。朝飯の準備をしている。」

「分かった。私から話すわ。今、動けるのは私とパール、ルーフよ。一泊するとなると、お米はあるけど他の食料の調達にいかないと…。朝ごはんを作ったら、行ってくるわ。」

「食料調達は俺が行ってくる。リーナはここにいた方が良い。肉を狩って来ればいいのだろ?」

「まぁ、そうね。野菜もほしいけど、贅沢は言っていられないわ。」

「私も行ってくるわよ。」

「パールはザック様を…。何もないとは限らない。」

「分かった。」

「さぁ、それぞれやる事をやりましょう!」

「「OK~」」


サリーナは、まずロンドとメルの元へ向かった。


「朝食は私が準備するから、ふたりとも休んでいて。」

「そのような事はできません。」

「そうです。準備は私達が。」

「明日までに治してもらわないと困るのよ。魔力酔いの様だから、休んでね。」

「しかし…」

「大丈夫。足りない食料調達はルーフがしてくれるし、食事は胃に負担をかけないように、お粥を作るから。」

「胃の負担?」

「魔力酔いだから関係ないのかしら?とにかく、休んでいて。そして、早く良くなってね。」

「「…畏まりました。」」


ロンドとメルは、顔を合わせて観念した様に返事をし、テントと馬車へ入っていった。


「さてと、作りましょう!」


サリーナは食事の準備と並行して、飲み物の準備もしていく。


「さっぱり飲めるものがいいわよね。レモン水なら飲みやすいかな。レモンはあったかしら。」


完成した食事とレモン水は、それぞれの場所へ運ぶ。


「お父様、リック兄様、リオン兄様、食べられれば食べてください。」

「「「ありがとう。」」」


「ザック様、お口に合うか分かりませんが、少しでもどうぞ。」

「頂くよ。ありがとう。」


「ロンド、ここに置いておくから食べてね。」

「申し訳ございません。」


「メル、食べられそうなら食べてね。」

「はい。ありがとうございます。」


サリーナは、調理スペースに戻り、ひとりで食事をしながら次にすることを考えた。


「洗濯は…ない。皆、熱があるわけではないから、看病という看病もいらない…。後で、水分だけ見に行きましょう。それから、ルーフを待って下処理ね。」


そう時間が経たないうちに、ルーフはうさぎと鳥数匹を咥えて戻ってきた。


「狩ってきたぞ!」

「早かったわね。さっそく血抜きと内臓抜き。」


やったことは無いが、知識はある。


よし、やるしかない!


「命を頂きます。」


サリーナは目を閉じ、手を合わせてから、以前読んだことのあるジビエ料理の本を思い出しながら、下処理を進めていく。


「結構、力がいるのね。…包丁に魔力を乗せてみたら楽になるかな?」


早速、試す。


「うん。やっぱり楽になった。このままさっさっと進めましょう。」


黙々と作業を進めていると、後ろから声をかけられた。


「サリーナ様!?」

「あら。メル、寝ていなくては駄目ではないの。」

「は、はい。先程のお水を頂きたくて…」

「それは、気付かなかったわ。ごめんなさい。」


下処理を始めて、案外時間が経っていたようだ。


他の皆の分も用意しといた方がいいわよね。


「これが終わったら、持っていくわね。」

「それよりも、血塗れではないですか!?」


メルが駆け寄ってくる。

サリーナは、それを制止した。


「メル、止まって!汚れてしまうから、近づいては駄目よ。今、下処理中なの。」

「サリーナ様がそんな事…。」

「でも、元気になる為に、食べない事には仕方ないでしょ?大丈夫。今の所順調よ。」

「そういうことでは…。」


サリーナは下処理をやり終えて、手を洗った。服にも血がついてしまっている。


「着替えは、前の日のものを着ればいいか。これは、後で洗いましょう。」


予定より滞在が延びた為、服は着回すしかない。


「お手伝い致します。」

「良いわよ。そこで座って待っていて。」


サリーナは急いで着替えに行った。


「メル、待たせてしまってごめんなさい。レモン水、皆の分も、」

「サリーナ様。」


メルが泣きそうな顔でこちらを見ている。


「ど、どうしたの?」

「私は、サリーナ様の侍女で幸せでございます。使用人の為に、ここまでなさって下さるなんて…。」

「そ、そう。」


サリーナに使用人の為という意識はないが、メルは改めてサリーナへの敬愛と、仕える事の誇りを感じた。


その後、サリーナはレモン水を足す為に、それぞれのテントを回った。


そして夕方には、皆が動けるようになっていた。


夕食は、皆で食べることができた。


「皆、元気になって良かった。」

「ね、寝ていれば治ると言ったでしょ?」

「本当に、パールの言う通りね。」


サリーナが笑顔で言うと、パールは得意気だ。


「リーナ、色々ありがとう。」

「本当に助かったよ。」

「肉の下処理も出来たとは驚きだったな。」

「サリーナ様でございますから。」

「そうだな。驚いてはいけない。」

「本当にご迷惑をおかけいたしました。」


皆がにこやかに話している中、アイザックだけが眉間に皺を寄せている。


「ザック様?まだ体調が優れませんか?」

「いや、大丈夫。リーナは、疲れていない?」

「心遣いありがとうございます。問題ありません。」

「そうかな?」

「どうかなさいましたか?」

「うーん…こころなしか表情が硬い気がする。」

「え?そうですか?」

「色々任せてしまったから、疲れたか?我々はリーナのお陰で回復したから、早めに休みなさい。」

「お父様。でも、片付けなど…」

「後片付けは私共にお任せください。もとより、それが仕事でございます。」

「分かったわ。ロンド、メル、お願いします。それでは、先に失礼いたします。」


サリーナは、ルーフと共に馬車へ向かった。その後ろ姿を、心配そうにアイザックとパールは見つめている。

馬車に入ると、サリーナは『ふぅ…』と息を吐きながら座席に座った。


「リーナ。大丈夫か?」

「身体は大丈夫よ。…でも、確かに疲れたわ。皆が動けない間に何かあったらと、気を張っていたからかしらね。」

「お陰で、気配の探り方が分かったのではないか?」


そうなのだ。作業をしながら、五感を使って周りを気にしていたら、魔力の気配と言う物が少し分かるようになったのだ。


「そうだけど、こんなに集中しなくてはならないのは、ちょっと…。」

「そのうち慣れる。」

「うん、頑張るわ。」

「頑張る必要はない気もするが?」

「そうなの?」

「使っているうちに慣れるだろう。」

「それなら良いんだけど。」


サリーナは座席に横になり、目を閉じた。


サリーナに自覚はなかったが、初めて魔法を使ってからの2日間の魔力の使用は、サリーナの身体に負担をかけていた。



次の日


いつも自分で起きるサリーナが、起きない。


「サリーナ様、朝でございます。」

「…」

「サリーナ様。」

「…」

「失礼いたします。」


メルは、今度はサリーナの肩を軽く叩きながら名前を呼んだ。


「サリーナ様。」

「…」


起きない。


メルは少し、声のボリュームをあげる。


「サリーナ様。朝でございますよ。」

「…」


こんな事は今までにない。

…いいえ、あった。

3歳のあの時…。


「だ、旦那様!」


メルは、急いで馬車を出て、ジャックの元へ報告に向かった。




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