サリーナの力
「お父様。私も魔法を使ってみたいのですが、良いですか?」
「学校では、まだ魔力操作だけしかしていないだろう?」
「それです!意識しなくても、魔力操作ができるようになったのに、授業では次に進めません!お父様、魔法を教えて下さい!」
「…イメージだよ。それは、どの魔法も変わらない。」
「お父様…良いのですか?」
「せっかくここに来たのだから、練習して行こうか。」
「お父様、ありがとうございます。」
「リック、リオン、アイザック殿下も。」
「「はい!」」
「僕は良い…。」
「ザック様。一緒にやりましょう。」
サリーナはアイザックの手を取った。
「リーナ…。」
「魔力操作をしてみてください。」
「あ、うん。」
魔力の流れを見るのはどうしたらいいの?
透視…ではないか。
サリーナは、アイザックをじっと見つめる。
魔力を感じる…。
これを可視化できないかな?
この魔力に、私の魔力を乗せて…
アイザックの周りにモヤモヤした煙が現れた。その煙は反時計回りに出現し、身体全体が包まれると、止まって揺らめきだした。
「見えた!」
あれ?1箇所だけ揺らめきが濃い…。
アイザックの右腹部に、モヤは濃く出ていた。
「滞っているのかな?うーん…揉んで見る?」
サリーナはアイザックの手を離し、右腹部に手を伸ばした。サリーナがアイザックの手を離しても、モヤは変わらない。
「リーナ!?」
「ザック様。動かないでください。」
「この辺りをこうして…」
「クッ!」
ザック様は、何かを耐えるように歯を食いしばった。
私は気にせずに、手から魔力を送りながら、右腹部をもみもみグリグリする。
徐々にモヤが均等になってくる。
「もう良いかな。」
サリーナは、アイザックから手を離すと、モヤが消えた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ザック様、息切れすごいな。きっと、やられる方も負担があるのね。
「ザック様、大丈夫ですか?」
「はぁ…。う、うん。大丈夫…。」
実際は、サリーナに触られた事による自分との葛藤と、くすぐられる感覚の笑いを堪えていたための息切れであった。
「もう1度、魔力操作をお願いします。」
「分かった。はあ、ふぅ…。」
アイザックは、深呼吸をしてから再度魔力を巡らせた。サリーナはアイザックの手を取り、先程の様に魔力を乗せる。
今度はモヤが均等に揺らめく。
「…楽だ。いつもは気合を入れないと出来ないのに、今は楽にできているよ。」
「それは、良かったです。ちなみに、魔法も使ってみてください。」
「分かった。」
アイザックは、苦手な魔法の中でも、マシな火魔法を使ってみることにした。
ザック様は、近くにあった小枝に手をかざす。
ボッ!!!
火が大きく、一瞬にして小枝周辺を焦がした。
「………え?」
「ザック様、どうしました?」
「僕、小さな火種を出そうとしただけなのに…。こんな威力、出したことないんだけど。」
「え?そうなのですか?」
「うん…。」
私達は顔を見合わせてから、お父様を見る。
今、気づいたけど、また変な顔してる…。
お父様達は、少し前同様、口を開けて目を点にしていた。
「ザック様…。お父様達は、放っといて魔法の練習しましょうか。」
「良いのか?」
「私まだ何もしていないのですよ?それなのに…。」
この先も繰り返す予感しかしないもん…。
「何もしていない事は、ないと思うよ?」
「でも、まだ火も風も水も氷も土も光も闇も、使えていません。」
「あの煙は、なんの魔法?」
「………さぁ?」
何だろう…?
そこで、パールに話しかけられた。
「リーナの魔法は、こちらの世界で分類分けできないかもしれないわね。ただ魔力を流しただけでしょ?」
「うん。目に見えるようになったら良いな、と思って流しただけ。」
「深く考えないで、リーナ独自の魔法でいいんじゃない?」
「…そうかな?」
「だって、アイザック君に言われるまで、気にしていなかったでしょ?」
「うん、まぁ…。」
「別に分類分けしなきゃいけないこともないんでしょ?」
私はザック様を見た。
「確かに、そんな決まりはないね。」
「ほら!」
「じゃあ、リーナ魔法ってところか。」
「ザック様、リーナ魔法って…。」
そのままのネーミング…。
「そういえば、ルーフとアルは?」
「離れて、魔法の練習をしているわよ。ほら、あれ。」
私とザック様はパールが見た方向に視線を移した。遠くの方に、爆発や竜巻などが見える。
「いつの間に…。」
「リーナが魔法の練習をしたいと話した時くらいかしら。」
「もう、1言あってもいいのに。」
「私はこっちに残ったし、取り込み中だったからね。」
「取り込み中って…。」
「あら?ふたりでイチャイチャしていたでしょ?」
「イッ!?」
ザック様の顔が一気に赤くなる。
「あれは、魔力の滞りを直していただけよ?」
「はいはい。」
「パール!」
「魔法練習するんでしょ?とっととやりなさいな。」
「もう!ザック様、始めましょう。」
「あ、うん。…リックとリオンは、どうする?」
「忘れてました。…それにしても、まだあの顔のままですか?さっきから結構話していますよね?」
「そうだね…。」
「全くもう…。お父様!リック兄様!リオン兄様!ロンド!メル!いい加減になさってください!」
サリーナは声のボリュームをあげ、皆に声をかけた。
「「「リーナ。」」」
「「サリーナ様。」」
「私達は、魔法の練習をしますよ。リック兄様、リオン兄様はどうなさいますか?」
「「…する。」」
「お父様。良いですよね?」
「ああ。…もう何があっても驚かない。」
私達はお父様から少し離れて、各々練習することにした。
「えーと、まずは火から…」
イメージは、ロウソクの炎。
サリーナの指先に、火が揺らめいた。
「できた!次は水!」
シャボン玉の中に水を入れるイメージ。
手のひらの上に小さな水の球体ができた。
「次は氷!」
手のひらの球体を凍らせる。
「うん、うん!後は、土…何すればいいんだ?うーん…土人形しか思い浮かばない…。」
私は地面に手を置き、小さな人形を思い浮かべる。すると、少しずつ形作られて、小さなマネキンができた。
「これを動かすこともできるのかな?」
イメージするが、それは無理だった。
「闇魔法で憑依させるとか?………怖いから、今はやめておこう。次、風!」
作った人形を浮かせてみる。
「人形の周りに風を纏わせて、ヒューン!」
ヒューンまでは行かなくても、浮かす事はできた。
「最後は光か…。」
どうしよう…。そもそも、何が光魔法?
私は、お父様に聞くことにした。
「お父様!」
「リーナ。どうしたんだ?」
「光魔法とはどのようなものですか?」
「光魔法は使い手が少ないから、よく分かっていない。光の玉を浮かせる程度とか、その辺りだ。」
「なるほど。ちなみに、漫画では怪我を治したりしていましたが、そんな事もできますか?」
「漫画?聞いたことはないな。そのような事ができたら、もはや神だな。」
「そうですよね…。」
「他の魔法は出来ていたようだが、得意な魔法は分かったか?」
「分かりません。」
私は、今していた魔法の練習を話した。
「…というわけで、光魔法と闇魔法は、よく分からないのでしていませんが、風魔法はイメージよりも効果が弱かったです。他は、おなじくらいでしょうか。」
「そうか。もう、そこまでできるのか…。風魔法も聞いた感じだと、十分だと思うぞ。大人でも、それくらいだ。得意不得意は、これからかもしれないな。」
「そうなんですね。」
「光魔法と闇魔法は、少しずつ学んでいけば良い。パールに聞いてもいいしな。」
「その手がありました!」
私は、すぐにパールの元へ。
「パール。闇魔法を教えて。」
「良いわよ~。」
「闇魔法って人形に魂を憑依させるとかできるの?」
「分からないわ。」
「分からないのか…。」
「でも、フェロモン系は教えられるわよ。」
「それも、闇魔法なのね。」
「ええ。惚れ魔法とか、認識阻害とか。」
「認識阻害魔法は覚えたい所ね。うーん…透明になるイメージ?カバーをかけるイメージ?でも、認識阻害と透明人間て違うわよね?」
「そんなに色々考えてると、できる物も出来なくなるわよ?私のは、相手の感覚を鈍くする感じね。」
「なるほど。………どうかな?」
サリーナは、相手の感覚に蓋をしモヤに包まれるイメージをした。
“目が見えなくなったわ。耳も聞こえない。これじゃ、なにかされたってすぐに分かるわね…。”
“分からないようにしないと認識阻害じゃないわよね。”
“五感を奪うのも、十分すごいけどね。”
サリーナはイメージを消した。
すると、パールの五感も戻る。
「私には向いてないかも…。」
「何言っているの?これから、練習をするんでしょう?」
「は~い。」
そこへ、魔法の練習をしていたザック様、リック兄様、リオン兄様がやってきた。
「リーナ!魔法がスムーズに出せるし、全ての魔法で威力も上がったんだ。リーナのお陰だよ。ありがとう。」
ザック様は、満面の笑みで言う。
魔法が苦手な事、少し気にしていたんだろうな…。
「そんな、お礼なんていりません。」
「リーナ、俺達も見てくれないか?」
そう、リック兄様とリオン兄様にお願いされた。
「調子でも悪いのですか?」
「そう言うことではないんだが…。」
「自分の魔力がどうなっているか、自分でも見てみたいんだよ。」
「なるほど。流れの改善というよりも、可視化して欲しいと言う事ですね。分かりました。」
リック兄様の手を取ろうとすると…
「リーナ。ちょっと待て!」
お父様に止められた。
「?」
「先程からずっと、魔力を使い続けているよな?」
言われて、私は思い返す。
「…そういえば、そうですね。」
「魔力が枯渇すると、体調が悪くなったり、倒れることがある。…体調の変化は?」
「全く。」
「そうか。…念の為、ルーフとアルは呼び戻してくれ。3方向から魔力を放出している事になるのだから、それはやめよう。」
………あ、そうか。
ルーフとアル、パールに私の魔力が流れているから、そういう事になるのか。
「分かりました。」
私は、ルーフとアルを呼び戻した。
「では、いきます。」
私はみんなが見ている中、兄様達の魔力操作を順に可視化した。
結果、リック兄様もリオン兄様も滞りはなし。
ついでに、お父様とロンド、メルにも行なった。…滞りなし。
「リーナ。体調は本当に大丈夫なのか?」
「はい。」
「そうか。…魔力量が計り知れないな。」
その時、リオン兄様がおずおずと手を挙げた。
「もうひとつ、気になるんだけど良いかな?」
「どうした?」
「父上ではなく、リーナになんだけど…。」
「はい。何でしょうか?」
「リーナの魔力操作の可視化?って出来るの?僕、見てみたいんだけど…。」
「私の、ですか?」
「うん。」
自分でもみたいかも…。
「お父様、やってみても?」
「ああ。」
私は魔力を可視化しながら、身体中に巡らせる。
「これは…。」
「俺達とは段違いだな。」
「隅々まで行き渡り、リーナの身体の中から溢れ出して来るのが分かるね。」
お父様と兄様達の声で、自分の腕を見てみると、腕自体はモヤで覆われていてみえない。
何か、怖っ…。
「…やめます。」
そう言って、モヤを消した。
私の小さな声に、お父様達は焦ったようだ。
「どうした!?体調が悪いか!?」
「すぐ休める準備をいたします!」
「頼んだ!」
メルが馬車に走る。
「ちょっ、ちょっ!違います!…心配かけてすみません。自分が見えなくて、怖くなっただけです。」
メルはその言葉を聞いて、止まって振り返った。
「本当に大丈夫なのか?」
「はい。」
お父様は私の顔をじっと見つめる。
「メル、休む準備はしなくて良い。リーナの顔色もいいし、大丈夫な様だ。」
「畏まりました。」
「しかし…、魔力操作の可視化も初めてだが、全身を包む操作方法はどうやって…。魔力量の差か?」
ん?今、引っかかったぞ?
「お父様は魔力が見えていましたよね?」
「見えてないぞ?」
「え?だって、魔力操作の練習のときに…。」
「魔力の気配を感じとる事はできるが、目では見えない。」
「うそ…。」
「嘘を言ってどうする。」
「えーと、私、てっきり…。」
「驚いていた理由が分かったか?」
「はい…。」
「まぁ、今更だな。他で使うときは、注意するんだよ。」
「はい…。」
私が肩を落としていると、ザック様が横に来た。
「リーナ。少し気になった事があるんだけど。」
「今度はザック様ですか…。何でしょうか?」
「凄いことなのに、なぜ落ち込んでいるか分からないが、それは置いておいて。」
「置いておかれるのですね…。」
「リーナの魔力操作が、僕達と違う様に感じたんだけど?」
「え?」
「あ、確かに。僕達は一定方向に回って、ユラユラ~だけど、リーナのは全体に染み渡って、身体の中からドバッって感じ。」
リオン兄様が説明をしてくれる。
「どうやってるの?」
私は、魔力操作の時に考えているイメージを伝えた。
「身体の中を血が巡り、そこから栄養や酸素を吸収する様に…。」
「「「「「「?」」」」」」
「えーと…。こういうふうに血管が繋がっていまして…。」
地面に人形を書き、心臓と静脈、動脈を付け足していく。
「この血管が、栄養や酸素を身体に運ぶのです。…ここから、身体に滲み出るイメージを考えました。」
「…やってみよう。」
お父様も兄様達もロンドもメルも、目を閉じ集中する。それを見たザック様も続く。
私は可視化しないと、魔力の流れが分からないので、終わるのを待つ。
「リーナ。」
「何、ルーフ?」
「また、ここに来れるか?」
「来れるとは思うけど、遠いからすぐには難しいと思うわ。」
「それなら、もう少し練習したいんだが…。」
「うーん…この後、私が可視化するのかどうか。…もう少し待ってくれる?」
「分かった。」
私達は、その場で5分ほど雑談しながら過ごした。




