3匹の力
学校が始まって、初めての5連休。
入学してから、1ヶ月程が経ったこの日。
契約獣達の力を試す為、1日がかりで森を抜けて、草原へ向かっている。
「もう暗くなる。このあたりで休もう。」
周りには宿などは無い。今日は、森の中でキャンプだ。馬車が止まると、ルーフ達は森に駆け出していく。
「ちょっと散歩してくる。」
「私も。」
「僕も!」
移動中、ずっと馬車の中にだったので、動きたいのだろう。
「気をつけてね~!」
3匹の背中に声をかけた。
「リーナ。疲れていない?野営も初めてだろう?」
ザック様に心配そうに話しかけられる。
ザック様とは、あの次の日から毎日欠かさず手紙のやり取りをしていて、前よりも近い存在に感じるようになった。
「テントもありますし、大丈夫ですよ。…とは言っても、虫は苦手です。」
「それは、まかせて。」
「頼りにしています。」
今日は目的が目的なだけに、ルーフ達の他、家族とザック様、ロンドとメルしか来ていない。必然的にできる事は、自分達でやる事になる。
「話し中、申し訳ない。リーナ、料理の準備は何をすればいい?」
お父様が聞きに来た。
「そうですね。今日は簡単なものだから、材料を切るくらいですかね。」
「分かった。火は私がしよう。」
「よろしくお願いします。」
お父様が、調理場になるであろうメルのいる方へ向かった。
「リーナが作るの?」
「あ、はい。ザック様も一緒に作りますか?」
「いや。また、今度。今日はあっちの手伝いに行くよ。」
ザック様が指した方では、荷卸や寝床の準備をしているロンドや兄様達が見えた。
「力仕事ですね。」
「行ってくる。」
「私も準備します。」
アイザックは、力仕事へ、サリーナは、料理の準備をするメルの所へ行った。
今日は、バーベキューをする。
お肉は、すでにタレに漬けてあり、焼くだけになっており、他に準備する事は、野菜を切って、ご飯を炊く事。
火の準備はOK!
魔法って素晴らしい!
因みに、お肉など傷みやすい材料は、氷魔法が得意なロンドに氷をたくさん作ってもらい、冷やしている。
火の用意を終えたお父様は、力仕事組の方へ合流した。
「始めちょろちょろ中ぱっぱ。赤子が泣いても蓋取るな~♪」
「サリーナ様。それはなんですか?」
「ご飯を炊くときの歌?」
これ、歌でいいのかな?
言い伝え?
いや、違うか…。
「そのような物があるのですね。」
「はじめは弱火で、中間は強火、蓋は開けない。美味しく炊くポイントよ。」
「覚えておきます。」
ご飯を炊きながら、お肉や野菜も焼いていく。
楽しい。こういうの久々。
「♪~」
皆、サリーナが鼻歌を歌いながら料理している姿を、微笑ましく見ていた。
そこへ、ルーフ、アル、パールが戻ってきた。
「おかえり。」
「「「ただいま。」」」
「どうだった?」
「森だったよ。」
「あ、うん。何事もなくて良かったわ。」
「全くアルは…。怪しい所や人は、なかったわよ。」
「パール、ありがとう。」
「おかげで、気持ちよく走れた。」
「良かったわね、ルーフ。もうすぐできるわよ。」
「美味しそうね。」
「いい匂いだな。」
「今日は、まだ食べてないから、楽しみだなぁ。」
「お父様達を呼んできてくれる?」
「了解!」
アルが皆を呼びに行ってくれる。
「メル。お皿に盛り付けてしまいましょう。」
「はい。」
皆が集まる頃には、盛り付けも終わり、食べられる状態に。
「さぁ、頂こう。」
私達家族と、ザック様が食事を持ち、小さな椅子やシートに座る。ロンドとメルは横に立ち、給仕係に徹しようとする。
「ロンドとメルは?」
「後で、いただきます。」
ザック様もいるし『一緒に』とは、いかないのかな…。
「私の事は、気にしなくて良いですよ?自分でできる事は、自分でするから大丈夫です。お願いしたい時は言いますので、一緒に食べましょう。その方が、リーナが喜びそうです。」
ザック様が、こちらを見てにっこり笑った。
「ザック様…。」
「ロンド、メル。お言葉に甘えなさい。一緒に食べよう。」
「畏まりました。」
こうして、この旅ではロンドとメルも一緒に食べることになった。
「皆で食べると、よりいっそう美味しく感じますね。」
「そうだな。」
◇
夜は、お父様とロンドが順番に火の番をするようだ。
「私も手伝います。」
「気持ちはありがたいが、明日はリーナ達が主役だ。今日はゆっくり休みなさい。」
「でも…。」
「では、今のうちに休んでください。少ししたら呼びますから。」
「分かったわ。」
子供扱いされたのは分かった。きっと、時間になっても呼びに来ないだろう。
私は、馬車の中へ入った。
男性陣はテントだが、私とメルは馬車で寝るように言われた。
テントで寝る事も、火のそばで過ごす事も
楽しみにしてたんだけどなぁ…。
しょうがない。虫が来ないから、こっちでも良しとするか。
ルーフとアルは馬車の周りで寝るようだ。パールは、ザック様と一緒にいる。
「いいなぁ~。」
私は、思わず声が出た。
「テントですか?」
それを聞いたメルに、聞き返された。
「ううん。それはもう、しょうがないと諦めたわ。」
「では、何が良いのですか?」
「えーと…パールが、ザック様と一緒な事が…。」
「まぁ!」
「一緒に寝たいとかではないのよ!ただ…もう少し話したかったなと思ったの。」
「そうですか。」
「また明日があるのに、可笑しいわよね。」
「婚約者と話したい、一緒にいたいと思うことは、全く可笑しくありませんよ。」
穏やかにそう言われる。
「ありがとう、メル。」
「アイザック殿下へ、その気持ちを伝えたら、きっと喜んで時間を作ってくださいますよ。」
「今日はお父様の言うように、寝るわ。また明日、話してみる。」
「はい。」
「メル、おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
サリーナは目を閉じると、すぐに眠りについた。
◇
「はあ、よく寝た。」
「サリーナ様、おはようございます。」
「おはよう、メル。」
軽く身支度を整え、馬車の外へ出ると、皆すでに集まっていた。
「リーナ。おはよう。」
「お父様、おはようございます。ザック様、リック兄様、リオン兄様、おはようございます。」
「「「おはよう。」」」
「ロンド、おはよう。」
「おはようございます。」
「昨夜は良く寝かせてくれてありがとう。」
ちょっと意地悪を言いたくなった私のその言葉に、ロンドは驚いた様な顔をした。
「申し訳ございません。お休みになる事ができる時に、休まれた方がよろしいかと思いまして。」
やっぱり、声をかけに来なかったのね。
「そうね。…私は子供だから、仕方ないわね。」
「サリーナ様。そういう事では…。」
「その子供は、朝食を作ります。」
「サリーナ様…。」
ロンドが焦った顔をする。
「ふっ。」
その顔を見て、思わず笑ってしまった。
「サリーナ様。」
あ、ちょっと怒った?
「ごめんなさい。ちょっと意地悪を言いたかったの。分かっているわ。ルーフ達が力を使ったら、私にも影響が出るかもしれないし、体力は温存していた方がいいのよね?」
「その通りでございます。」
「さて、朝は昨日の残りとパンでサンドイッチを作りましょう。スープもあった方がいいかな。」
私とメルは、朝食準備を始めた。
「リーナ。なにか手伝うことはある?」
「ザック様。えーと、そうですね…。その鍋の中へ、これを入れて炒めてください。」
「分かった。」
「お願いします。」
「リーナは、怖くないか?」
「何がですか?」
「力を使う事が…。」
「あ、そういう事ですか。どうなるか分かりませんけど、ワクワクの方が強いです。」
「そうか。無理はしないでね。」
「はい。」
食事が完成すると、素早くパパッと食べて、目的地に向かった。
「リーナ。着いたぞ。」
馬車から降りると、そこは開けた場所だった。
草原?にしては緑が少ないような…。
「お父様。ここが草原ですか?」
「ん?草原は通り過ぎたぞ。」
「え?」
「ここなら、何をしても迷惑はかからない。」
「リーナ。ここは、国の訓練場だよ。」
「ザック様は、来たことがあるのですか?」
「うん。王族は魔力が強い確率が高いから、初めて魔法を使う時はここに来るんだ。」
「ザック様も少数派ですか?」
「魔力は、ある程度あるみたいなんだけど、苦手なんだ。僕は、剣の方が楽しいし向いているよ。」
「そうなのですか?」
「そう。剣は、やればやるだけ強くなるんだ。」
ザック様は、本当に楽しそうに笑った。
「さぁ。リーナ、始めようか。」
「はい。ルーフ、アル、パール。」
お父様に言われ、ルーフ達を私の側に呼んだ。
「皆、一緒では何かあった時の対処ができない事もある。順番に試していこう。…まず誰から行こうか」
「俺から行こう。自分の力を知りたかったんだ。」
ルーフが前に出る。
「では、向こうに向かって魔力を放ってみてくれ。始めは弱く。」
「おう!…ゔー。」
ルーフが、唸り始めると口から煙が出てきた。
「ゔーーーーー!ウォン!」
吠えた瞬間に、火の玉がすごいスピードで口から放たれた。
「すごぉい!」
「スッキリした。」
「スッキリした?」
「おう。何かモヤモヤしたものを出した感じ。」
「へえー。」
「次も行けるぜ!」
「お父様、どうしますか?」
私とルーフが興奮しながら話した後、お父様の方へ振り向くと、口を開けて目を点にしていた。
「漫画みたい…。ひとって本当にこんな顔するのね。お父様!お父様!」
「…は!すまん。ルーフ、私は弱くといったのだが…。」
「弱いだろ?」
「そ、そうか。…ゴホン。ルーフは、火の属性なのだね。焚き火をしたり、小さな炎を出すことはできるかな?」
「…やってみる。」
ルーフは落ちていた枯れ木に火をつけようとしたが、黒ずみにしてしまった…。
「力の調節が苦手のようだね。ルーフも練習が必要だな。」
「ルーフ。お疲れ様。」
「次は、アルか?パールか?」
「アルからでいいわよ。」
「じゃあ、僕!弱いやつからだよね。」
「ああ、頼む。」
アルは羽を小刻みに動かし、小さな風の渦を作る。
「なるほど。今度はもう少し強く。」
「はーい。…よいしょ!」
今度は、大きく羽を動かす。すると、空気の塊が遠くまで飛んでいった。
「アルは風属性だな。コントロールも悪くない。力は、まだ出せそうか?」
「もちろん!やる?」
「…頼む。」
アルは空に舞い上がり、旋回し始めた。だんだんスピードが速くなる。
アルの下には巨大な竜巻ができつつある。
「ちょっ!やめ!ストップだ!」
お父様からストップがかかると、アルは回るのをやめて、空から降りてきた。それと同時に竜巻も消える。
「アルもお疲れ様。」
「楽しかったよ。もっとやりたい。」
「後で、お父様に聞きましょうね。」
「うん。」
「最後にパールだな。」
「はーい。まずは弱め…。」
パールの周りから黒い煙のような物が出てきて、周囲を包み込んだ。
周りがみえない…。
少しすると、パーッと暗闇が晴れた。
「こんな感じよ。」
「パールは、闇魔法か。闇魔法はフェロモン攻撃もあるが…。」
「やってみる?」
「いや、やめておこう。攻撃魔法はどうだ?」
「攻撃魔法ね…。」
パールは、目を閉じたと思ったら、一気に目を見開くと、パールの周りに小さな黒い玉がいくつも浮かんだ。その玉を一斉に放つ。遠くで爆発するのが見えた。
「わぁー!」
「パール。それは、強い方か?弱めの方か?」
「手加減してるに、決まっているじゃないの。」
「そうか。」
「パール、お疲れ様。」
これで、3匹とも試し打ちは終わった。
「3匹とも、力は相当強い。」
お父様が、結論を言う。
「ね!だから、言ったじゃない。色々心配しないで大丈夫よ。」
「…違う意味の心配が出てきたかも。」
私がつぶやくと、その声を聞いていたのだろう。ザック様も1言。
「やりすぎないように見ていないとね…。」
「はい。」
私達は、頷きあった。




