新型手紙魔法陣
次の日の朝食中、パールと話した事を、お父様へ話した。
「というわけで…お父様、小型手紙魔法陣を、もうひとつ作ってみても良いですか?」
「朝から、何かと思えば…。1対ではなく1つで良いのか?」
「はい。ちょっと試したい事があるんです。空いた時間にやるので、私への手紙は届かないと思ってください。兄様達もよろしくお願いします。」
「「分かった。」」
朝食を食べ終えると、お父様は先に出勤した。
私達の登校時間までは、まだ少し時間がある。
「ちょっとやってみようかな。」
私がやりたかった事、それは…設定の上書き。
パスワードはそのままに、手紙にアドレスを書けば、相手を唱えなくても自動認識して送れるようにならないかという事。
でも、アドレスを覚えておくのって面倒かしら?
スタンプでも作っておく?手紙のやり取りでしか使用しないし、それでも良いわよね。
……うーん、…スタンプは持ち運び向きではないか。
とりあえず、覚えやすい簡単なアドレスでもいいか。やってみよう!
“パール。”
“なぁに?”
“今はひとり?”
“アイザック君もいるわよ。”
“ふたり?”
“お付きの人はいるわ。内緒の話なら出てもらう?”
“伝えられるの?”
“私は話せないから、アイザック君に合図を送ってみるわ。”
“お願い。”
“ok!………伝わったみたい。アイザック君が動いてくれたわよ。”
“ありがとう。今、手紙魔法陣を作っているんだけど、アドレスをつけてみようかと思って。”
“アドレス?”
“携帯メールみたいにできないかなって。”
“あー、あの小さい板みたいなやつ?”
“板…。そう見えていたのね。”
“リーナ?”
“なんでもないわ。…それで、アドレスに何か好きなものや言葉を設定しようと思っているんだけど。”
“アイザック君のだから、アイザック君の好きなものって事でいいのよね?”
“ええ。やっぱりザック様と私用の事だったのね。”
“そうよ。お互いを知る為の会話は大事でしょう?でも、その都度私を通されるのはちょっとね。”
“そうね…。”
“………ご飯、油淋鶏、トレーニングですって。”
“それって…。”
“全部、リーナ関連ね。”
“…他に無いの?”
“………剣は好きだって。”
“分かった。ありがとう。また後でね。”
“はーい”
「剣…ご飯…油淋鶏…トレーニング…。うーん……………分からない!先に、私のだけ書き換えておこう。私は、芝桜が好きだから、モスフロックスにしとこう。モスフロックス.S。ドットの後ろは適当!よし!」
サリーナは自分の小型手紙魔法陣に手をかざす。
「イメージ…イメージ…。」
設定の変更…。
手紙に書かれた宛名を認識できるように…。
前世のメールをイメージ…。
「………できたかな?もうひとつ作らないと試せないけど、時間がなくなっちゃったし、また後で。」
サリーナは急いで用意をして、兄達と学校へ向かった。
◇
学校へ着くと、すでにザック様とパールが到着しており、周りに注目されていた。
「あ~、すごいね。」
「ただでさえ目立つのに、パールを連れていればそりゃあな。」
「ザック様。パール!」
私はふたりに駆け寄る。
その後ろから兄様達が叫んだ。
「リーナ、俺達は先に行くぞ!」
「はい。」
「ザック、リーナをよろしくぅ!」
「分かった。リオン、また後で。」
兄様達は手を振り、行ってしまった。
「ザック様、おはようございます。パール。元気だった?」
私は、パールを撫でる。
ふわふわで滑らかな肌触り。
「ブラッシングも、してもらったの?」
“ええ。きれいな毛並みでしょ?”
“とても良いわ。”
パールを撫で続ける。
「ザック様、ありがとうございます。」
「リーナの契約獣だ。そりゃあ大切にするよ。」
「は、はい…。」
“リーナ、顔が赤いわよ。”
“そ、そう?”
「リーナ、今朝の事だけど。」
「はい?」
私はパールを撫でながら顔をあげた。
「好きな物…。」
「剣、ですよね?」
「まぁ…うん、そうなんだけど。」
「?」
「ごめん、なんでもない。」
「そうですか?」
私は、時間までパールを撫でた。
「リーナ。そろそろ、時間だよ。」
「あ、はい。パール、また帰りね。」
パールは、尻尾をゆっくり振って、横にとめられていた馬車へ乗っていった。
「昼間は、王城や馬車で過ごすそうだ。」
「大丈夫かしら。アルみたいに何かされたら…。」
「パールは大丈夫だと言っていた。アルは無傷で捕まえようとして苦戦しただけで、私は強いからと。」
「強い?」
「戦う所を、見たことは?」
「そんな機会はありませんでしたから。」
「それもそうか。」
ザック様は、私を教室まで送ってくれた。
「ありがとうございました。」
「婚約者なら当たり前だよ。また帰りに迎えに来るから。」
「え?そんな。待ち合わせとかでも…。」
「迎えに来たいんだ。」
「…待ってます。」
そう答えると、ザック様はにこやかに手を振り、自分の教室に向かった。
「スウィンティー様、おはようございます。」
「おはようございます。…コーセット様、私の事はリーナで良いですよ。」
「リーナ様…。で、では、私の事もナンシーとお呼びください!」
「ナンシー様。」
「は、はい!」
「ふふふっ。元気ですね。」
「お陰様で!…で、リーナ様。お聞きしたいのですが…。」
「何?」
「アイザック殿下と婚約されたのですか?」
ナンシー様は、目をキラキラさせ、大声で質問してくる。
「ちょ、ナンシー様、声が大きいですわ。」
「申し訳ございません。つい…。」
「もうすぐ、授業が始まります。その話は後ほど。」
「はい。」
◇
「そうですか!婚約されたんですね。おめでとうございます。」
「正式な手続は、これからだけれどね。」
休憩中、ナンシー様に婚約のことを話した。
「いや~、朝の光景しかり、アイザック殿下の発言が耳に入ってきた時の驚きったら。」
「朝の光景?」
「仲睦まじく、ヒョウ様を撫でられて…。皆、どういう事かと噂していました。」
「そ、そうなんだ…。」
確かに注目されていた。
パールに駆け寄ってからは、気にならなかったけど…。
「ヒョウ様は、随分リーナ様に慣れているのですね。」
「あの子は私の契約獣だから。」
「まぁ!失礼いたしました。てっきりアイザック殿下のペットかと思いましたわ。」
「婚約を期に、お預けしているのよ。」
「それって、婚約の印ということですか?」
「そうなるわね。」
「それは、それは…。」
「噂…流さなくていいからね。私達の秘密ね。」
ナンシー様は、私の言葉でバッと口を抑え、すごい勢いで首を縦に振っている。
首、大丈夫かしら。
◇
そして、あっという間に帰りの時間になった。
「リーナ、おまたせ。」
「全然待っていませんよ。今、終わったばかりです。」
そう、今終わったばかりなのだ。
「ザック様。授業を早めに抜けたりなんて…。」
「してないから、安心して。」
「それならいいのですが。」
…帰ったら、リオン兄様に聞いてみよう。
私とザック様は、馬車乗り場に移動した。
「パール。」
名前を呼ぶと、馬車からパールが降りてくる。まずは私の所に来て、その後にザック様の元へ。そして、またこちらへ戻ってきた。パールは足元にすり寄ってくる。
可愛い…。
パールを思いっきり撫でると、
“ちょっと、リーナ。やりすぎよ。毛が乱れるわ!”
「ごめん…。」
「パール、なんだって?」
「毛が乱れるって…。」
「はははっ。そうか。帰ったら、ブラッシングをしよう。」
“お願い。”
「お願いします。」
「任せて。」
ザック様は、笑顔で答えてくれた。
優しい、いい笑顔…。
「リーナ、帰ろうか。」
「リオン兄様?」
リオン兄様の声が聞こえて振り返ると、リオン兄様とリック兄様がいた。
「ザック様。…また明日。」
「うん。また。」
「パールもまた明日ね。」
私達はそれぞれの馬車に乗り、帰路についた。
「リオン兄様。昨日も今日もザック様が、私のクラスの授業が終わってすぐに迎えにいらしたのですが、そちらの授業は早く終わるのですか?」
「いや、全学年同じ時間だよ。」
「それにしては…。」
「早すぎる?そりゃあ、終わりの合図の鳴り始めと同時に、教室を出ていくからね。」
「そうなのですか?」
「そうそう。…まぁ、大丈夫だから、リーナは気にしなくて良いよ。」
「…分かりました。」
「リーナ。新しい手紙魔法陣は、もう作り始めているのか?」
「はい。帰ってから続きをしようと思います。」
◇
家に着くと、私は手紙魔法陣の続きに取りかかった。
「新しいハンカチも貰ってきたし、まずは手紙魔法陣を…。」
サリーナが手をかざすと、ハンカチに魔法陣が浮かび上がる。
「慣れてきたわ。前よりも簡単にできるようになった。」
次はアドレスの設定。
「スパーダ.Z」
スパーダは、剣の事。
Zはザック様の事だ。
Aと迷ったけど…どっちでもいいよね!
「さてと、試してみようかな。」
紙に『モスフロックス.S』と書いて、新しく作った魔法陣の上へ置く。
すると、何も言わなくても、サリーナの魔法陣へ移動した。
「パスワードも言ってないけど…。」
逆も試す。
やはり、移動できる。
「違うバージョンも試しとこう。」
サリーナは、文章を書いた後ろや前にアドレスを書いて試してみた。
送れない…。
次は文章を書き折って、アドレスを書く。
送れる…。
今度は、文章から離してアドレスを書く。
送れた…。
「アドレスの周りを空白にすれば、送れるということで良さそう。これは、できたでいいんじゃない?……他のやつの書き換えは、お父様が来てからが良いわよね。」
「お?作業は終わったのか?」
「ええ。」
大人しくソファで寝ていたルーフが、サリーナの側に近づいた。
「さすが、俺達の主!終わったなら遊んでくれ!」
「僕も!」
遊ぶという言葉で、アルも飛んできた。
「よし、よし。」
サリーナは、両手を使ってそれぞれを撫でる。
「あ、そうだ。ルーフもアルも強いの?」
「急にどうした?」
「パールが、ザック様に『強い』って言ってたみたいで。」
「知らん。」
「え!?」
「俺は戦ったことないし。」
「僕も全力を出したことは無いから、よく分からない。」
「そうなんだ…。」
強さを知る事って、できるのかな?
この事もお父様に相談してみよう。
夕食後
「お父様、手紙魔法陣はこんな感じになりました。これで良ければ、皆の物も設定を変えます。」
お父様、ロンド、兄様達、が見守る中、サリーナはアドレス仕様の手紙を送ってみせた。
「なんてことだ…。」
「駄目でしたか?」
「いや、素晴らしい。どういう仕組みなんだい?」
「アドレスを認識して、読み取って、送る…です。」
「「「「?」」」」
みんなの頭の上に、はてなマークが見えるようだ。
「とにかく、すごい。…が、他の者では真似はできないだろうな。量産は無理だな。」
「量産?」
「便利だから欲しい人は多いだろうが、作り手がいないと…。」
「手紙魔法陣は出回っていますよね?」
「しかし、アドレスを認識云々がつくと、イメージがつかないし、どうしようもない。」
「サリーナ様だからこそ、可能な物ですね。」
そっか、メールとか使った事がないとイメージがつかないか…。
「リーナ。他の物は、変えなくていい。」
「え?」
「このままでは、リーナへ送れなくなってしまうか?」
「い、いえ。パスワードは、そのままですので、送れると思いますが…。」
「やってみよう。」
両方から問題なく送れる。
「お父様…。どうして?」
そのままでいいの?
「小型にするのは、ある程度の実力で可能だとしても、アドレス云々は難しそうだ。」
「…」
「いくら王族と婚約しても、誘拐されて、利用される事だってあるんだ。身の危険が予測される物は、少ない方がいい。」
お父様の言葉に、兄様達も頷いている。
「…では、これらも書き換え直します。」
私は、ザック様用と自分用の魔法陣を手に取った。
「いや、せっかく作ったのだ。その2つだけは持っていなさい。家で使う分には問題ないし、外で使う時には対で作ったとか、理由をつけらればいい。」
「…分かりました。それで良いなら。」
「アイザック殿下へは、きちんと説明するんだよ。」
「はい。…お父様、もうひとつ話したい事があるのですが…。」
「何だい?」
「ルーフとアルの事です。強さが分かる方法はありませんか?」
「強さ?」
「はい。」
「力を出さない事には、なんとも…。しかし、自分の契約獣の力を知っておくのは、大事なことだな。」
「旦那様。周りに被害の出ない森や広い場所などで魔力の放出や、試し打ちをなさってはいかがですか?」
そう、ロンドが提案してくれた。
「そうだな。リーナ、次の連休に遠出をしよう。アイザック殿下にもお願いして、パールの力も見せてもらわないとな。」
「はい。」
「その頃には、婚約も正式なものになっているだろう。…そういえば、婚約の印は決まったか?」
「………あ。」
忘れてた…。




