事件、そして婚約
兄様達が帰宅し、皆と一緒に談話室で談笑していると、お父様とアル、そしてアイザック様がいらっしゃった。
本日3度目の来訪ですか…。
「なんで、ザックがいるの?」
「ちょっと話があって。」
「何?どうしたの?」
リオン兄様への用事だと思ったのだろう。アイザック様へ用件をきいた。
「いや、リオンではないよ。…サリーナ。」
「は、はい!」
「話があるんだけど、少し良いかな?」
「えーと、あーと、……………はい。」
「リーナ。応接室を使いなさい。」
「分かりました、お父様。」
「公爵、心遣い感謝します。」
「ルーフ達は連れて行くこと。殿下、良いですよね?」
「もちろんです。」
「ルーフ、パール、アル、行きましょう。」
「「「はーい。」」」
「アイザック様、こちらです。」
私達は、応接室へ移動した。
「時間をもらってしまって、ごめん。」
「いえ、こちらこそ何度も足を運んで頂いてありがとうございます。」
「確かに…今日一日、色々なことがあったよ。」
「迷惑をおかけして、申し訳ございません。」
「謝らないで、お陰で前に進むことができるから。」
「?」
「サリーナ。僕と婚約してくれないか?」
「…………………………え?」
聞き間違いかしら…?
「リーナ、聞き間違いではないわよ?」
パールが呆れたように言う。
「伝わった?」
「いいえ、今のは伝わっていないけど、なんとなく考えている事は分かるわよ。」
「あの、アイザック様。」
「何かな?」
「どうして、私なのでしょうか?」
「どうしてって?」
「だって、3回しか会っていなくて、性格とか嫌いなタイプかもしれませんよ?」
「それはない。」
「なんでそう言えるのですか?」
「確かに、最初は見た目で可愛いと思った。その後にリオン達の態度と、契約獣達の言動からも、サリーナの人となりが伝わり、好ましいと思ったんだ。」
「そ、そうですか。…しかし、私、面倒くさいですよ?私といたら、変な事に巻き込まれるかもしれません。」
「?」
「私は魔力が強いです。」
「知っているよ。三匹の契約獣を持てるなどなかなかいないしね。」
「何かの陰謀とか、戦争とかあったらきっと…。」
「うん。守れるように強くなるよ。」
「実は、産まれてからの記憶もありません。」
「そうなんだね。」
「常識が分からない所もあるので、迷惑を掛けるかも…。」
「今まで、気になったことはないな。…あ、不思議に思ったことはある。」
「…それです。」
「でも、別に迷惑ではないよ。」
そんなやり取りをしていると、パールが痺れを切らし、口を開いた。
「リーナ、諦めたら?」
「パール?」
「僕も、そう思うよ。今日、少しいただけだけど、悪い感じがしなかったし。」
「アル。」
「リーナの気持ちは良いのか、悪いのか、それだけじゃないか?婚約は嫌なのか?」
「ルーフ。…じゃないよ。」
「サリーナ?」
声が小さくて聞こえなかったのだろう。アイザック様に聞き返される。
「嫌じゃないです…。」
「では!」
「しかし、もう1つだけ気になることが…。」
「何かな?」
「何故今日なのか。それを聞いておきたいです。アルが襲われた事と関係がありますか?」
「…。」
「私に話したくないのだろうという事は、昼間の様子で感じましたが、また戻られてまで婚約を急ぐ理由は知っておきたいです。」
「…公爵のところへ戻ろうか。」
「?」
「公爵に話す許可を得ないと。」
私達は再び、談話室に向かった。
「アイザック様、リーナ、話はまとまりましたか?」
「公爵。その事だが、婚約は嫌ではないと言ってもらえた。」
「…。」
お父様、微妙な顔…。
分かってるわよ。はっきりしない答えだもんね。そんな顔にもなるわよ。
「今日の事を説明していいか?」
「その必要はないかと…。」
「お父様は、今日のアルの事を説明する気は無かったと言う事ですか?」
「「「…」」」
お父様だけでなく、お兄様達も何も言わない。きっと、私がアイザック様と話している間に、あらましを聞いたのだろう。
そうでなければ、『なんの事?』『どうかした?』などの言葉が出る筈だ。
「私のアルの事ですよ?」
「…。」
「私はお父様からきちんと話をしてくださると思って、先程はアイザック様へついていく事をやめました。それなのに、少しの説明もなく、その日の内に婚約の話…。」
「リーナ。知ったら危険が及ぶ可能性が高い。」
「知らない方が危険なのではないですか?」
「…まだ、小さい。」
「兄様たちだって大人とは言えません。」
「リーナ、分かってくれ。」
「分かりました。」
「そうか。それなら、」
「アル。今日あった事教えて。」
「リーナ!?」
「は~い。僕が襲われた時、『こいつを捕まえればサリーナ嬢に近づける。』とか、『少数派を血に交えられる。』とか言ってたんだ。それが、複数人いたんだよ。」
これが、初めからお父様達が懸念されていた事なのね。だから、私を守ろうとした。
複数人か…。
私に契約獣がいる事は、きっと情報で流れているんだろう。それは、そのうち分かってしまう事だったから、良いとして…。
入学式で、アルがお父様といたのを見たのね。そして、行動に移す者が現れたということかしら。
「アル。リーナを守る為に内緒にしてくれと言っただろう?何故言ってしまうんだ。」
「何故って、主はリーナだもん。」
「そうなのだが…。」
「ねぇ…。貴方達、何か間違っていない?」
談話室に入ってから、静かにしていたパールが口を開く。
「私達はリーナの契約獣。何故、貴方達の言う事を聞かねばならないの?アルが今までリーナへ事情を話さず、貴方達に付き合っていたのは、リーナがそれを望んだからよ。」
ルーフもパールの言葉に続く。
「リーナが、知らなくていいと言うなら知らせないし、知りたいと言うなら知らせるし、何をしても調べて報告する。」
「言っとくけど、知らせておいた方が安全だと思うわよ。知っていた方が対処できるという事もあるんだから。」
「…分かった。リーナ、隠そうとしてすまなかった。」
お父様は謝ってくれた。
「いいえ。私の為にしてくれたのは分かっています。でも、何も知らずに守られるだけなのは嫌だったのです。…私のわがままです。」
「では、きちんと話そうか。」
「リーナが契約獣を持ったという話は、申請した時から噂として広がっていた。今までは、殆ど家で過ごしていた事もあり、その噂止まりだった。野心のある者達が、学校の入学式で実物を見た。その後は分かるな?」
「今日の事件ですか?」
「まぁ、それもそうだが、実はその前に…」
「その前?まだ入学式翌日ですけど?」
他にも何かあるの?
「昨日だけでも、婚約希望の手紙が何通も来てる。」
「え?」
「全てその場で送り返しているから安心しなさい。」
知らなかった…。
「それから、手紙魔法陣の件もある。あれだけのことをやり遂げる力、思考…。結婚先は慎重に選ばねばならない。」
「…それで、王家ですか?」
「ああ。陛下もお前を守ると約束してくれた。そして…」
お父様はアイザック様を見る。
「僕もサリーナを守るよ。もし王家がサリーナに無理やり力を使わせる様な事があれば、盾になる。」
「家族で争う事になりますよ?」
「分かってる。」
アイザック様の真剣な顔。
覚悟してくれているのが分かる。
「私を守ってくれるのですね?」
「もちろん。僕は今よりもずっとずっと強くなるよ。」
「では、私もアイザック様を守ります。」
「サリーナ。…女の子に守られるって少し情けないけど。」
「私は、アイザック様に体力や、剣で勝つ事はできません。魔力と前世の知識で守ります。」
「「「!」」」
「……前世?」
「あれ?」
「リーナ。それは、まだ話していない…。」
「申し訳ございません。手紙魔法陣とか、ルーフ達が話せる事とか知っているから、もう説明しているとばかり…。」
「アイザック殿下。前世の記憶の事は陛下には話しておりません。申し訳ございませんが…。」
「分かっている。僕の中で留めておく。」
「ありがとうございます。リーナから、きちんと説明させます。」
「いや。詳しい事は話したいと思った時でいいよ。」
アイザック様…。
私は、私を全力で守ろうとしてくれるこの方ときちんと向き合おうと思った。
「説明させてください。」
私は、前世の事や、契約獣達のことを話した。
「これで、いくつかの謎が解けたよ。ルーフ殿、パール殿、アル殿、君達の大事な主を一緒に守らせて欲しい。」
アイザック様は、三匹の前に膝をついた。
「アイザック様!?そんな事、やめてください。」
サリーナはアイザックを立たせようとするが、立ち上がらない。
「そんなに改まらなくていいぞ。リーナが認めているんだから、俺から言うことはない。」
「そうよ。『殿』なんて言わないで、普通で良いわ。それに、私は最初から王子推しよ!」
「僕も、今日一緒にいて、リーナと同じくらい居心地が良かったから、文句ないよぉ~。」
「皆…。」
アイザック様がこちらを見て、私の手を取った。
「サリーナ、改めて言うね。…僕と婚約してほしい。」
「…はい。よろしくお願いいたします。」
こうして、私とアイザック様は婚約する事になった。




