アイザックへの気持ち
結局、見えなくなるまで、馬車を見送ってしまった…。
「サリーナ様、家へ入りましょう。」
ロンドに声をかけられる。
「そうね。」
「お着替え手伝います。」
「メル、ありがとう。」
私室へ入ると、パールが近づいてきた。
「今、王子様の魔力が感じられたけど、来てたの?」
「ええ。兄様達と帰りの時間が合わなかったから、送ってくださったのよ。」
「ふたりきりで、送ってもらったの?うちの馬車で先に帰って来れるのに。」
「でも、家と学校の往復を何度もすると、馬たちが疲れてしまうでしょ?だからよ。」
「何頭もいるんだから、変えてまた行けばいいじゃない。」
「…あ。」
「思いつかなかったの?」
「うん。…メル、兄様達が帰りの時間が合わない時は、どうしているか分かる?」
「…パトリック様か、ダリオン様のどちらかが待って一緒に帰るか、パール様の言うように馬を交換するか、ですね。」
私は頭を抱えた。
「はぁ…。何で思いつかなかったんだろう。」
「何をそんなに落ち込んでるんだ?」
ソファで伏せながら、ルーフが質問する。
「この世界では婚約者や恋人ではない男女が、ふたりでいる事を良しとしないのよ。」
「ふ~ん。それを分かってて乗ったのか?」
「アイザック様に言われて、『確かに』と思ってしまって…。」
サリーナは項垂れた。
「王子がどうのより、リーナが王子といたかったからじゃないの?」
「そうなの?」
「私に聞かないでよ。」
「パール…。今日はツンの日なのね…。」
「なにそれ?」
「はぁ…。」
サリーナは溜息をついた。
私、自分が分からない…。
私が、アイザック様といたかった?
私の中身は20代、アイザック様は12歳、どう考えても犯罪の匂いがする。
でも、実際の私は7歳。
もう!頭の中ゴチャゴチャ!
……なくなった記憶が戻れば、この感じ変わるかな?
「サリーナ様。深く考えずとも、良いのではないですか?」
「メル…。」
「サリーナ様が感じたまま、したい事をされても良いと思いますよ。今日はアイザック殿下に送ってもらっただけ。それで良いではないですか。」
穏やかなメルの声。
なんだろう。泣きたくないのに、泣けてくる…。
「サリーナ様!?」
「「リーナ。」」
メルは驚き、パールは顔を覗き込み、ルーフ急いでサリーナへ近づく。
そっか…自覚は無かったけど私、この世界の記憶が無いことでストレスを感じてたんだ。
記憶がないから勘違いしていたけど、中身が大人って違う…。前世の記憶があるだけの子供。
「私、7歳なんだ…。」
「そうですよ?」
メルは、私の涙を拭いてくれた。
パールとルーフも手や顔を舐めてくれる。
「何か、スッキリした。ありがとう。」
サリーナは、ひとりと2匹に笑顔を見せた。
「それは良かったわね。」
「なんだか分からんが、リーナが笑ってくれればそれで良い。」
ルーフとパールは安心したのか、それぞれソファとベットに行き、寝転んだ。
「あれ?アルは?」
「アル様は、まだですよ。」
「どこにいるのかしら?」
“アル~、どこ~?”
返事がない。
「アル?」
私だけではなく、ルーフ、パールにも呼びかけてもらったが、アルからの返事はない。
「どうしたんだろう?」
「繋がりが切れている感じがしないから、生きてはいるな。」
「どこかで寝ているんじゃない?」
「そうなのかな…。」
“アル…。”
改めて呼び掛けてみる。
“はい、は~い。”
すると、軽い返事が帰ってきた。
“アル!良かった。今どこにいるの?”
“馬車の中。”
“え?どこの?”
“今から帰るよ。”
“アル。ちょっと、”
そこで、話は途切れてしまった。
「全然、話が見えないんだけど…。」
少しすると、ロンドが呼びに来た。
「お客様がいらっしゃいました。」
「お客様?」
「アイザック殿下でございます。」
「………え?」
さっき、別れたばかりよね?
「どういう事?」
「サリーナ様、とりあえず準備をいたしましょう。」
「そ、そうよね。メル、お願い。」
「畏まりました。」
「私は先に挨拶に行ってくるわね。」
そういい、パールが先に部屋を出た。
準備を終えて、急いで応接室に行くと、そこにはアイザック様とアル、パールがいた。
「アル!?」
「ただいまぁ。」
「えーと、何でアイザック様と?」
「襲われた所を助けられたそうよ。」
アイザック様でも、アルでもなく、パールが答える。
「襲われた!?」
「襲われたというか、捕まえられそうになった。」
「大丈夫だったの?怪我はない?」
「ないよ。」
「良かった。連絡も取れないし、心配したのよ?」
「ちょうど、戦ってる所だったから返せなかった。」
「戦う?何で?」
「何でも、犯人を捕まえようとしたらしい。」
「え?えーと…アルを捕まえようとした犯人を捕まえようとした。で、あってる?」
「うん。相手に怪我させると、リーナが困ると思って、気を付けていたら苦戦しちゃった。」
「アル…。」
…なんて賢い子。
「そこに、王子様が通り掛かって、手伝ってもらった。」
「犯人は騎士団に引き渡し済みだから安心して。」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました。」
「いや、なんてことないよ。ただ、公爵に話す事ができたから、待たせてもらっても良い?あ、でも城に戻ったほうが早いかな?」
「お父様に連絡して、確認を取ります。…ロンド、お願い。」
「畏まりました。」
ロンドは応接室を出ていった。
「アイザック様、本当にありがとうございました。」
私は改めてお礼を言った。
「良いんだよ。それに、僕は騎士団を呼んだ以外、殆ど何もしてないからね。…アルは強いね。」
「え?そうなのですか?」
私はアイザック様からアルヘ視線を移す。
アルは、得意そうに胸を張っている。
「この子達の強さなど考えた事がありませんでした。」
「魔獣だから攻撃魔法も使えるはずだよ。」
アイザック様の言葉に驚いた。
争う為に3匹を使う事は、頭になかったからだ。
「…そうか。戦争時に契約されていたくらいですものね。」
「そうだね。」
私は3匹を見た。
「皆、自分の力の事は知っているの?」
「「「もちろん。」」」
「僕は、風魔法が使えるよ。」
「俺は、火魔法。」
「私は、闇魔法ね。」
「そうだったのね…。でも、どこで覚えたの。」
「「「さぁ?」」」
「え?分からないの?」
「本能というか。」
「身体が勝手に動く。」
「不思議な感覚よ。」
そんな話をしていると、ロンドが戻ってきた。
「サリーナ様。旦那様との連絡が取れました。」
「どうでした?」
「陛下を交えて、王城で話を聞かせてほしいとのことです。」
「アイザック様…。」
「分かった。すぐに帰るよ。…サリーナ、また明日。」
「はい。…あ、あの、アルも連れて行ってください。状況説明も本人がいた方が良いですよね?」
「そりゃあ、僕も途中からしか分からないし、本人から説明してくれると助かるけど。」
「アル。」
「は~い。行ってくるよ。」
「お願いね。」
「任せて!」
「アイザック様、よろしくお願いいたします。」
こうして、アルはアイザック様と王城へ行くことになった。
「私も行ったほうが良かったかな?でも、アイザック様、私に聞かせたくない感じだったし…。」
「そうかもね。後で聞くのが無難なんじゃない?」
「…うん、そうする。お父様からも話があるだろうし、気になる事はその時に聞くことにする。」
「じゃあ、私は寝るわ。」
パールはサリーナの部屋へ戻っていった。
「外で遊ぼうぜ。」
ルーフは尻尾を大きく振っている。
「メル、良いかしら?」
「もちろんでございます。しかし、アル様のことがございます。気をつけて遊びましょう。」
「分かったわ。」
「俺がいるから大丈夫だ。」
「では、遊びましょう。」
ルーフとボールや綱引きで遊んでいると、頭に声が聞こえてきた。
“リーナ。”
「ん?アル?」
今、王城の筈よね?
“王子様の事どう思ってる?”
「何!?どうしたの、急に?」
「サリーナ様。どうしましたか?」
「今、アルからちょっと…。」
「左様ですか…。」
“ジャックさんが聞いてくれって。”
“お父様が?”
“で、どう?”
“どうって、まだ再会して数日だし、その前も1回しか会ってないし、良い人だとは思うけれど分からないわ。”
そうだ。まだ合計3回しか会ってないんだ。それにしては…。
「この人は大丈夫という安心感は、あるのよね。不思議…。」
“分かった。”
「え?聞こえてた?」
“うん。まだ3回しか会ってないも聞こえてたよ。”
「なんてこと!?言わなくていいからね!」
“もう言っちゃった。”
……………。
“まさか、今…そこにアイザック様がいるなんてこと…。”
“いるよ。”
!!!
サリーナの顔が真っ赤になっていく。
そして、顔を覆って座り込んだ。
「次に会うときに、どんな顔をすればいいの?」
「普通じゃ駄目なのか?」
ルーフが不思議そうに聞いてくる。
「…できないかも。」
「なんで?」
「何でって…。恥ずかしいじゃん。」
「何が?」
「私が好意を持っているとバレたのよ?」
「好きって言ってたか?」
「………あれ?言ってない。…安心感と好意は違う。そうよ、違うわよね。」
“リーナ。それ、全体的に好きって言っているようなものよ~。”
パールの声まで聞こえてきた。
“パール、寝てたんじゃないの?”
“面白そうな話になってたから!”
“パール…。”
“良いと思うわよ。自分の好みのタイプに育つ努力をしてくれて、好きにならない事はないでしょ。”
「…そうね。」
“それに、これも全部筒抜けだろうし、諦めなさいな。”
「……………え?」
“アル?”
“はぁーい。伝えたよ~。”
「伝えなくて良いのぉぉぉぉぉ~!」




