入学式後、初登校
サリーナは、持ち運び手紙魔法陣をポケットに入れる。手紙魔法陣は、昨日の内に、ジャックから兄たちにも渡っている。
離れたところで使用可能か分からない為、今日は試しに送り合うことになっている。
食堂へ行くと、お父様も兄様達もすでに着席していた。
「おはようございます。おまたせしました。」
「おはよう。待っていないから大丈夫だよ。」
「リーナ、おはよう。」
「おはよう、リーナ。」
朝食は、手紙の事には触れず、いつも通りに経過した。
◇
学校へ向かう馬車の中…
「リーナ。手紙魔法陣をもらったが、これは隠れて使うようにとの事だ。」
「変な事に巻き込まれない様に…ですか?」
「分かっているならいいんだ。リーナを利用しようという、私利私欲で動く馬鹿が近づいてくる可能性が高いからな。」
「子供の内に丸め込もうとする大人ですか…?」
「その通り。」
「リーナ。気をつけるんだよ?すぐに人を信じない事!リーナは、魔力!見た目!身分!どれをとっても完璧なんだから。」
「…魔力と、身分はその通りだとしても、見た目は家族の欲目です。」
「また、そんな事を…。」
「だから、心配なんだよね。」
学校に着くと、馬車降り場にアイザック様がいた。
「リオン兄様、いつも待ちあわせして教室に行っているのですか?」
「そんなわけ無いでしょ。気持ち悪い。」
「きも…。そうですか。」
「リオン、お前だけだと思わないでね。僕もだ。…サリーナ、昨日はありがとう。」
私?
兄様達を見ると、頷いた。
よく分からないけど、私が答えておけということよね。
「いえ。また、いらしてください。」
「お言葉に甘えて、近いうちにまた。さあ、教室まで送るよ。」
「え?良いですよ。教室も遠いですし…。」
「僕も一緒に行くよ。」
「リオン兄様?」
「心配だからね。」
「大丈夫なのですが…。」
「まぁまぁ。」
リオン兄様は、私の背を押して歩き出した。
「あ、リック兄様。また後で!」
「ああ。帰りは教室に迎えに行くからな。」
「はい。分かりました。」
これを過保護と言うのよね…。
「あれ?リオン兄様、リック兄様が迎えに来ると言いましたが、帰りの時間って一緒でしたっけ?」
「…違うね。」
「そうですよね。」
「後で話せばいいんじゃないかな。」
そう言うと、リオン兄様はこちらに向かってにっこり笑った。
これは、手紙魔法陣で…と言うことよね。
「分かりました。そうします。」
「僕も迎えに行きたいけど、予定が入っているんだ。待たせてしまうから、先に帰ってね。」
「分かりました。」
「僕が迎えに行く。」
「アイザック様が?そんな、悪いです。ひとりで大丈夫ですよ。」
「まだ慣れていないだろう?」
「それはそうですが、他の方もひとりで行き来していますし…。」
「兄弟が送り迎えしている人もいるよね?」
私は周りを見た。
「そうですが、アイザック様は兄では…。」
「兄代理。」
「と言うことで。」
「…お願いいたします。」
これ以上断っても、きっと無駄なのだろうな。
サリーナは諦めて、アイザックに迎えに来てもらうことにした。
「それじゃ、帰りに。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
私を教室に送ってくれたあと、リオン兄様とアイザック様は自分達の教室に向かった。
適当に空いている席に座ると、隣の席の女の子が挨拶をしてくれた。
「スウィンティー様。おはようございます。」
「おはようございます。すみません。えーと、」
「ナンシー·コーセットですわ。よろしくお願いします。」
コーセット…。侯爵家よね?
サリーナは、基本として貴族名簿は覚えさせられていた。顔は分からないが、名前は分かる。
「サリーナ·スウィンティーです。こちらこそよろしくお願いします。」
「いきなりですが、お聞きしてもよろしいですか?」
「何でしょうか?」
「アイザック殿下とそういう関係なのですか?」
「はい?」
「やはりそうなのですね!」
「いや、今の『はい』は違くて…。」
「?」
「因みにそういう関係とは、どういう事でしょうか?」
「婚約するとか、恋人とかですが…。」
「違います。私とアイザック様は、お兄様の友人と妹という関係です。」
「…え?」
「え?」
「送り迎えをされていますよね?」
「兄様と一緒に。」
「お家に遊びに来られているのですよね?」
「兄様とご予定があったようです。」
「先程、帰りにって。デートでは?」
「兄様たちが予定があるので、変わりに来ていただけるようです。」
「いやいやいやいやいやいやいや。」
「『いや』が多い…。」
「王子が変わりに来るとか、そんなのありえませんでしょう?」
「優しいですよね。」
「…」
ナンシー·コーセットは驚いた顔をした。
「?」
…が、すぐに納得したような顔になった。
どうしたのかな?
「そういう事ですか。分かりました。」
「何が?」
「周りの心配と言いますか、苦労と言いますか…。とにかく、分かりました。」
「はあ。」
「スウィンティー様。」
「はい。」
「お友達になってくださいませ。」
「!?」
「駄目ですか?」
「えーと、駄目ではないのですが、お友達とは『なってください』と言われてなるものではないと思いますので…。」
「では、まずはクラスメートから。」
何その、告白された時の返事『まずは友達から』みたいなの…。
「もうクラスメートですが?」
「そうですわね!」
その後、他のクラスメートとも挨拶を交わし、一日が始まった。
◇
「あ。…私、お花を摘みに行ってまいります。」
「私も一緒に。」
「ひとりで大丈夫ですよ。」
私はナンシーの言葉を断り、トイレへ向かった。
個室に入り、ポケットから手紙を出す。
「お父様から?」
『ついたかな?』
サリーナは、手紙を取り出したのと反対のポケットからペンと紙を出す。
「無事つきました、っと。」
手紙魔法陣を取り出し、その上に手紙を置く。
「ジャック、ジパダサ。…あ、リック兄様へも手紙を送らないと。」
サリーナは、帰りの事を紙に書き、パトリックにも送った。
「そしたら、リオン兄様へも送っておこうかな。でも、内容はどうしよう…。う~ん…。友達ができそうです、で良いか。」
サリーナは送り終えると教室へ戻った。
「大丈夫でしたか?」
「…コーセット様。私ってそんなに頼りなく見えます?」
「いえ。そんな事はありませんわ。」
「でも、兄様達といい、コーセット様といい、心配されているので…。」
「これは、違う心配です。」
「違う心配?」
「さぁ、次の授業ですわ。」
なんの心配なのかは、結局教えてくれなかった…。
次の授業は、魔法だ。
待ちに待った魔法の授業!
「魔法は、火、風、土、水、氷、そして光と闇に関連したものがあります。今後使っていく内に、得意不得意が出てくると思います。それは、当たり前の事なので、必要以上に気にしないように。では、魔力操作をしましょうか。」
あっ、そうか。そこからか…。
とりあえず、言われた通りにしておこう。
「魔法は魔力操作から始まります。ここを疎かにすると、得意不得意どころではありませんので、日々行なっていきましょう。さぁ、集中して…魔力を身体に行き渡らせてください。」
え?説明それだけ?
周りを見てみると、殆どができている。
あの説明で出来るってことは、家でやってくるんだろうな。
「スウィンティーさん、魔力操作を開始してください。」
「え?」
もうしてるけど?
「え、ではなくて始めて。」
「すでに、始めていますが?」
「周りを見ていたじゃない。」
「見ながらでも、できますよ?」
確かに、皆は動かず目を閉じたり、顔に力が入ったりしていて、周りを見る余裕は無さそうだ。
「………うそ!?本当に出来てる…。」
何かしらの方法で確かめたのだろう。ジェシー先生が目を丸くしている。
見れば分かるんじゃないんだ…。
お父様は見て、分かってくれていたけど、それは少数派と言われる人だからなのかな?
う~ん…。
「スウィンティーさんは、そのままキープしていてください。」
「はい。」
そして、授業が終わった。
「スウィンティー様。お昼はどうなさるのですか?」
「食堂に行くつもりよ。コーセット様は?」
「私も食堂です。一緒に行っても良いですか?」
「ぜひ。」
私達は話しながら、食堂へ向かった。
「すごいですね。1年生で魔力操作が完璧にできるなんて!」
「完璧かどうかは置いといて…。先生が良いから。」
「先生は、スウィンティー公爵ですよね?」
「ええ。」
「国1番の使い手ですものね~。」
「そうなの?」
「知らなかったのですか!?」
「知らなかったわ。お父様って凄いの?」
「そりゃあ、もう!宰相で、国1番の風魔法の使い手!すごくない訳がありません!」
「…そうなんだ。」
すごい熱量…。
「それにしてもよく御存知ね。」
「スウィンティー様は、ご自分に関する事をもう少し、気にした方がいいかもしれません。」
「では、教えてくれるかしら?」
「…私がですか?」
「他にいます?」
「教えさせていただきます。」
コーセット様は、深々と頭を下げた。
「公爵の事は先程話しましたよね?」
「ええ。」
「次はお兄様方です。パトリック様は第1王子の側近!次期宰相!眉目秀麗!無愛想ではありますが、結婚したい男性トップ3に入ります!」
「!」
「ダリオン様は笑顔が可愛いと評判で、特にお姉様方に人気です。時折見られる棘々しさにも、ヤラれる方続出です。」
「…。」
「アイザック殿下は、」
「アイザック様は兄ではありませんので…。」
「そうですか?知りたくないですか?」
「…ないことも無いけど、やめておきます。」
「では、1つだけ…。結婚したい男性トップです!」
「え!?」
「それから、あたりは柔らかいですが、女の子になびかない、で有名なのですよ。」
「1つと言ったのに。」
それに、なびかないって…まだ小学生。
前から思っていたけど、こちらの精神年齢高いわよね。
「おまけですわ。」
「はぁ。…それにしても、今日が初日と思えないほど、詳しいですわね。」
「お姉様が9年生で、よく話を聞いています。婚約者がほしい女性の話は、ほぼ格好いい男性の話ですから!」
「…そう。」
「あっ。あそこに並ぶみたいです。」
見ると、お盆を持った生徒が列をつくっている。
「えーと、システムは?」
「それは、私も分かりません。」
困っていると、後ろから名前を呼ばれる。
「リーナ。」
「リック兄様。」
「会えてよかった。…友達か?」
「ナンシー·コーセットでございます。よろしくお願いいたします。」
「よろしく。お昼は今から?」
「はい。でも、どうすればいいのか…。」
「一緒に行こう。…ここでお盆を持ち、並ぶ。メニューは2種類から選ぶことができる。メニューは日によって変わって、ここに書いてあるから。」
指された壁を見ると、ハンバーグと魚のソテーと書かれている紙が貼ってある。
「順番が回ってきたら、選んだメインを取る。パンとサイドは皆一緒だ。」
私は今回、ハンバーグを選んだ。
「席は自由だな。…あそこが空いているから行こう。」
「はい。」
「では、私はこれで。」
「コーセット様?一緒に食べないのですか?」
「兄妹、水入らずの方が良いかなと…。」
それを聞いて、何かイラッとした。
「ここまで一緒に来たのですから、一緒に食べましょうね。」
「俺だったら大丈夫だ。気にするな。」
「…はい。」
私達は、空いていた席に座り、食べ始める。
「このハンバーグ、ふわふわで美味しい。」
「魚のソテーもホロホロほぐれて、美味しいですわ。」
「それは良かった。…リーナ。帰りの事だが、時間が違うのを失念していた。教えてくれてありがとう。」
「はい。」
良かった。手紙がついたのね。
そういえば…
サリーナはポケットをそっと触る。
来てるっぽいけど、今は見れないわね。
昼食を終えて、リック兄様と分かれた後、私はトイレへ行った。コーセット様も一緒だ。
早くしないと、怪しまれるよね?
トイレへ入り、ドアを閉めると、すぐに手紙を取り出す。
「お父様から『了解。』、リオン兄様から『良かったね』、リック兄様から『食堂で』、か…リック兄様と会えてよかった。…あ、ロンドにも書かないと『昼食はハンバーグでした。』よし。…ロンド、ジパダサ。」
トイレから出ると、コーセット様が待っていた。
「おまたせしましたか?すみません。」
「いえ、大丈夫ですわ。」
そして、私達は教室に戻り、午後の授業を受けたのだった。
◇
教室にいると、予定通りアイザック様が迎えに来てくれた。
「サリーナ。」
「アイザック様。お手数おかけして、すみません。」
「いや、僕が言ったんだ。サリーナが気にすることではないよ。では、行こうか。」
「はい。…コーセット様、また明日。」
「はーい。また明日。」
コーセット様は、笑顔で手をふっている。
コーセット様は、まだ帰らないのかしら?
「授業の初日はどうだった?」
「戸惑いもありましたが、発見が多かったです。」
「発見?」
「はい。魔法の事とか、兄様達が人気があるとか。楽しかったです。」
サリーナは、にっこり笑いアイザックを見る。
「そ、そうか。楽しかったようで何より。」
アイザックは、サリーナから目をそらした。
サリーナ、可愛いな…。
「アイザック様?」
「ゴホン…。馬車が、見えてきた。」
馬車乗り場には、多くの馬車が並んでいる。アイザック様は、1つの馬車に近づいていく。
「さぁ、どうぞ。」
「え?」
この馬車、我が家のではなく王家のものですけど!?
「送っていくから。」
「え?」
「リックとリオンは、まだ終わらないし、スウィンティー家の馬車が、帰ってまた戻って来るのは、馬が疲れてしまうだろ?」
確かに…。
馬を変えればいいとか、馬車の中で兄二人が終わるのを待つとか、色々方法はあるだろうに、その時のサリーナは思いつかなかった。
「では、お願いいたします。」
サリーナは、馬車に乗り込んだ。
「…」
「…」
えーと、何を話せばいいんだろう。
アイザックは窓の外を見ている。
結婚したい男ナンバーワンか…。
12歳で、すでにそんなランキングが作られているのが驚きよね。
でもまぁ、この世界の貴族にとったら、若いうちに婚約する事は当たり前みたいだし。
成人は18歳で、結婚もできる。
ランキングがあっても、おかしくないか…。
それにしても、本当に印象が変わった。成長期と言うのもあるかもしれないけど、身長も伸びて、筋肉もついた?
!!
「アイザック様!」
「サリーナ、どうした?」
「筋トレ、無理し過ぎていませんよね?」
「何?急に。」
「小さいうちに筋トレをしすぎると、身長が伸びませんよ。」
「………え?」
「あくまで、し過ぎたらですが…。」
「どの程度が、『し過ぎ』に入る?」
「重いものを持って運動とか、ですかね。自分の体のみ使う運動なら問題ないと思います。」
「分かった。…サリーナ、何で詳しいんだ?」
あれ?アイザック様に記憶のことって…。
誤魔化すか!
「なんの本かは忘れましたが、本で読みました。因みに、牛乳や大豆が成長に良いそうです。」
「そうか。覚えておくよ。」
「ぜひ。」
誤魔化せたかな?
「僕がサリーナの心を射止めたあかつきには、きちんと説明して貰うからね。」
アイザックは呟いた。
「え?すみません。聞き取れませんでした。もう一度お願いします。」
「大したことじゃないから。…あ、もうすぐ着く。」
「本当だ。今日はありがとうございました。」
「こちらこそ。良いことを教えてもらえた。ありがとう。」
馬車が止まり、扉が開いた。
ロンドと、メルが出迎えてくれる。
「「おかえりなさいませ」」
「ただいま。」
アイザック様が馬車から降り、私が降りるのを支えてくれる。
紳士!12歳の紳士!
感動していると、手をギュッと握られた。と思ったら、すぐに離された。
「また明日。」
「あ、はい。今日は本当にありがとうございました。」
アイザック様は手を振り、馬車で帰っていった。




