手紙魔法陣·改正版
家に帰ると、使用人たちが外にズラリと並んでいた。
馬車の扉が開くと、皆が頭を下げる。
普段は、この人数が外に並ぶことはない。
「おかえりなさいませ。」
先頭のロンドが口を開く。
「アイザック殿下がいらっしゃった。応接間へ案内してくれ。」
「畏まりました。」
アイザック様とリオン兄様、リック兄様はロンドと一緒に応接間へ向かった。
「リーナ。アルに頼んで、家へ連絡をしてくれたんだろ?ありがとう。」
「…いえ。リオン兄様が知らせを出していたかもしれませんが、念の為…。勝手しました。」
「助かったよ。リーナは、着替えておいで。」
「はい。私はそのまま部屋にいて良いですか?それとも、再度挨拶に伺った方が良いでしょうか?」
「リオンと殿下の約束だからね。必要なら声をかけるから、好きに過ごしていて良いよ。」
「はい。」
「サリーナ様。荷物をお持ちいたします。」
「メル、ありがとう。でも、軽いから大丈夫よ。あの子達は、部屋?」
「はい。パール様は1日寝ておいででした。ルーフ様は庭を散歩されていましたが、今はお戻りになっています。アル様も部屋で休まれています。」
「分かったわ。ありがとう。」
私室のドアを開けると、中からルーフが飛び出してきた。
「リーナ!遊ぼう!」
「ルーフ。外で散歩していたのではないの?」
「していたが、やはりひとりではつまらん。」
「私も外に行きたいわ。」
パールが伸びをしながら言う。
「リーナ。僕、ロンドに伝えたよ。ご褒美にソーセージもらった!」
「そう。良かったわね、アル。助かったわ。ありがとう。」
「うん。こういうのいつでも言って!」
「俺もリーナの為になにかしたい。」
「私も。」
「そうね。何かあればお願いするわ。」
「「OK!」」
サリーナは着替えてから庭に出ることにした。
「3人は、もうなにか食べた?」
「「「まだ。」」」
「私もまだだから、少し遅いお昼を外で食べましょう。…そうだ。お父様達も、今日はまだ食べていないわよね?アイザック様と召し上がっているかしら?」
「用意していましたから、今召し上がっているかと。旦那様は別かもしれませんので、確認してきます。」
「うん。お願い。」
部屋で少し待っていると、そう時間がかからずメルが戻ってきた。
「旦那様も一緒に召し上がるそうです。外のガゼボに用意いたしております。」
「ありがとう。では、お父様を誘いながら、外に行きましょう。」
私達は、お父様の部屋に寄り、一緒にガゼボへ行った。ロンドも一緒だ。
軽食を食べ、お茶を飲んでいるとロンドから先程のお礼を言われた。
「本日はありがとうございました。準備も滞りなく行うことができました。」
「それなら良かった。もしかしたら、リオン兄様の使いと二重になってしまうかと思っていたの。」
「学校から家への連絡方法は無いに等しいからな…。使いを出すのも難しい。」
「そうなのですか?手紙の魔法陣を使うとか。」
「使用するには許可が必要で、それに時間がかかるから、生徒はめったに使わないんだ。」
「個人で持ち込めないのですか?」
「嵩張るから、持ち運びがしにくい。」
「小さくしたり、薄くしたりは?」
「魔法陣が細かくなって作るのが難しいのと、手紙も小さくしなくてはならないから、需要がなく作られていない。」
「小さくとも、必要事項だけ書けば問題ないのでは?」
「…」
「前置きなどは、家族なら必要ありませんよね?『客を連れて帰る。』くらいなら…。」
「…」
「準備をする側としたら、その一言は無いよりあった方が助かるのでは?」
「ロンド。どうだ?」
「確かにその通りです。」
「…作れる職人を探してみよう。」
「畏まりました。」
「お父様。魔法陣を書く専用のものなどあるのですか?」
「手書きできるものなら、素材はなんでも良いが?」
ふーん、手書き…。コピーとかないんだ。魔法で出来そうなものだけど。
もしかして…
「お父様。話は変わりますが、魔法を使うときに大切なものとは何ですか?」
「イメージだな。」
やっぱり…。
これって、私ならできるパターンじゃ…。
まさか…でも試したい。
「お父様。私、試したいことがあるんですけど…。」
「ん?」
ロンドが手紙魔法陣と手のひらサイズの小さめハンカチ5枚を持ってきてくれた。A4サイズ程の厚い板に魔法陣が書かれている。
「お父様。これは王城の物としかやり取りできないのですよね?どうしてですか?」
「魔法でロックがかけられている。」
「なるほど…。」
縮小コピーして、手紙が行き来するイメージ…。
まずは魔法陣のコピー。
サリーナは、手紙魔法陣の上に左手をかざし、右手をハンカチの上にかざす。
ハンカチに縮小した魔法陣が浮かんだ。
「「「!」」」
ジャック、ロンド、メルの目が丸くなる。
「お父様。魔法陣の確認をお願いします。」
「あ、ああ。」
お父様は、ハンカチを手に取り確認していく。
「全く同じだ…。」
「そしたら、他のハンカチにもしてみます。」
同じ事を4回行い、合計5枚の魔法陣ハンカチが完成した。
「ここから、ロックをかけるのですよね。」
5つを繋げて、パスワードを設定。
「できた。…かな?」
「手紙をお持ちします。」
ロンドがまた家へ戻って、今度は便箋と封筒を持ってきた。
そのままでは魔法陣をはみ出そうだ。便箋を4等分に切り、お父様が文字を書いてハンカチの上においた。
「何も起らないな。」
「このハンカチを使う為には、パスワードが必要です。パスワードは、ジパダサ。私達家族の頭の文字にしました。」
「パスワード?」
「頭の中で唱えるか、口に出すかしてみてください。」
「…」
何も起こらない。
「頭の中だけでは駄目なようだ。今度は口に出してみよう。……ジパダサ。」
すると、ジャックの目の前のハンカチから、右のハンカチに手紙が移動した。
「「「!」」」
「ハンカチは私達家族とロンドが持つで良いでしょうか?」
「ああ。そうだな。」
「そんな恐れ多い…。」
「でも、今回の様にロンドに連絡する事も多いと思うのです。私にはルーフやアル、パールがいて伝えてくれるけど、兄様達には必要よね。それに家族間で連絡が取れると便利。そして、宛先ですが、1つずつ名前を刻んでみます。」
サリーナが、ハンカチに名前を念じていくと、驚く事にハンカチの隅にそれぞれの名前が浮かんだ。
「お父様。送りたい相手の名前とパスワードを言ってみてください。」
「…分かった。サリーナ、ジパダサ。」
今度は、ジャックのハンカチからサリーナのハンカチへ手紙が移動した。
「ロンド、ジパダサ。」
サリーナのハンカチから、ロンドのハンカチへ移動する。
できた。…けど、なにか引っかかる。
「あ!」
「リーナ、どうした?」
「ハンカチ…。畳んで持っていたら手紙が届かないかもしれません…。」
「ああ、そうか。私も気づかなくてすまない。折ったら、魔法陣も不安定になるかもしれないな。」
「しかし、この大きさのハンカチでしたらポケットに広げたままでも入りますよ。」
「そうだな。ポケットへ入れて試してみよう。」
試した結果、問題なく送ることができた。
「リーナ。これだけ魔力を使ったのだ、疲れていないかい?」
「いつも通りですが?」
「そうか、それならいい。…しかし、本当に完成させてしまったな。」
「自分でビックリです。」
「まだ、魔力操作しかしていないんだよな?」
「今、イメージが大切だと教えてもらいました。」
「それだけで、これか…。これだけの才能、変な事に巻き込まれない様に、なにかあったらすぐに言いなさい。」
「それは前にも聞いたような気がします。」
「そうだったか?」
「はい。」
「疲れていなくても、魔力を多く使ったんだ。ある程度、遊んだら休みなさい。」
「分かりました。」
その後、お父様は部屋へ戻ったが、私はルーフ達と遊んでいた。
「リーナ。」
遠くへボールを投げ、ルーフ達がそれを取りに行ったとき、兄様たちがやってきた。
「用事は、終わったのですか?」
「ああ。バッチリ作戦会議ができたよ。」
「なんの作戦会議ですか?」
「リーナを守る会、のだ。」
「何ですか、それ?」
「だから、可愛いリーナを守るんだよ。」
「何からですか?」
「「虫!」」
「はぁ…。それは、虫よけハーブを持ち歩く様にします。…アイザック様、兄様達に付き合わせてしまって、申し訳ございません。」
「いや。僕も必要だと思ったから、ここにいるんだよ。」
「虫よけハーブですか?ハーブはこちらではなく、裏庭にございます。メル案内を…」
「リーナ。ハーブは、いらないから!」
メルに案内を頼もうとしたら、リオン兄様に止められた。
「そうですか?欲しいときは、いつでも仰ってくださいね。」
「ありがとう。」
その時、ルーフがボールを咥えて戻ってきた。
「いーな!ほってきたぞ!」
「え?」
「「「あっ…」」」
ボールを咥えているため、はっきりと話せていないが、ルーフが話す姿をアイザック様に見られた。
すぐさま、お父様へ連絡。
ルーフ達が話せる事を説明。
「どうか、内密にお願いいたします。」
「分かった。」
アイザック様は何も言わず、了承してくれた。
「…そんな簡単に。」
「サリーナが困ることはしたくない。」
「優しいですね…。ありがとうございます。」
私達がアイザック様へ頭を下げると、待ってましたとばかりに、パールが話し出す。
「王子様、久しぶりね。お城であった以来。あの時から随分変わりましたわね。リーナの好みに近づいているわ。」
「ヒョウ殿!そう思いますか!?この辺りは筋肉も良い感じだと思うのです!」
「ええ!頑張ってるのね。私の事はパールと呼んで!」
パール…。
何を言っているの…。
サリーナの顔が赤くなる。それを見たアイザックも自分の発言を振り返り、顔を赤くした。
「ふたりとも、顔が赤いね。」
そのアルの言葉で、ますます熱が上がるようだった。
「なんか、わりぃ。俺のせいで。」
ルーフが申し訳なさそうに言った。
「あれは、不可抗力よ。気にしないで。」
「ゴホン!では、殿下。よろしくお願いいたします。」
「はい。」
そして、アイザック様は帰って行った。




