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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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渡せなかった誕生日プレゼント

 そんな。

 そんな恐ろしい禁術があるなんて。

 その禁術によって、約束に魂が縛られているなんて。

 その約束から、何回死んでも逃れられないなんて。

 約束を果たすまでは、何回死んでも、何回生きても。

 エリオットと、結婚するまでは。


 ていうか、私、呪われすぎでは?


 血楔病だって、その病の根源は呪いだ。

 約束が出来ないことについては、その原因についてはまだ分かっていないが、言ってみれば呪いみたいなものだ。

 そして、エリオットに恋愛感情を持てないというのも一種の呪いなのではないかと前にヌッちゃんは言っていた。

 こんなに数多くの呪いを抱えている人間もなかなか居ないという気がする。

 世界呪われ人選手権があったら優勝出来るのではないだろうか。

 

「ジャイム様、私の呪いがまた増えちゃった。

 血楔病だけでも大変なのに、また問題が増えちゃった」


「いや、リシュリーちゃんの前世がシエラであることが分かった今、リシュリーちゃんにかけられた呪いについて、これまでとは違った視点から考えることが出来る。これは大きな前進だ」


「と、いいますと? ジャイム様?」


 ヌッちゃんが身を乗り出して聞いた。


「もしかするとだが、リシュリーちゃんにかけられた呪いの根源は一つなのではないか。

 もしくは、ある一つの出来事から派生したものなのではないか。

 少なくとも、血楔病と、魂における婚約が全くの無関係とは考え辛い。

 前世でなされた魂における婚約が、今世において血楔病として現れている可能性すらあると考える。

 この二つには相当の因果関係があるだろう」


「確かに言われてみればそうかもしれないですわ!

 約束が出来ないことと、エリオット氏に恋愛感情を抱けないことについては、呪いの方向性が違う気がするけど、でもそれらもリッちゃんがシエラだった時にその原因があるのかもしれないわ。

 リッちゃん、そこらへんのことって思い出せないの?」


「うーん、さっきエリオットと言い争って感情が昂っている時は色々思い出せたんだけど、今はダメだ。

 自分がシエラだったことを思い出しはしたけど、何もかもをすぐに思い出すことはまだ出来ないみたい。

 記憶の扉みたいなものが閉じちゃってる感じがする。

 私の理性がしっかり働いてる時は、シエラだった時の記憶は出てきにくいのかも。

 あ、言い争ってる時思い出したことの一つに、カインがシエラとした約束を何回も破ったことがあったんだった。

 私が約束が出来ないことはそれが関係あるのかな」


「確かにそうかもしれんな。

 もしかすると、約束が出来ないことと、エリオットに恋愛感情を持てないことは、リシュリーちゃん自身がリシュリーちゃんにかけた呪いなのかもしれぬな。

 シエラがリシュリーちゃんにかけた呪いとも言えるかもしれない」


「それか、ただ単にシエラがカインのおバカのことがめっちゃ嫌いになったから、もうカインのことは好きになりたくないし、どんな約束もしたくないってだけのことかもしれないけどねん」


「確かにそれも一理あるって気がする。

 シエラには、カインをすごく忌避する気持ちがあったことを感じるもん。

 これでもうカインと離れられるっていう時に、もう二度と会いたくないって思ったのを覚えてるの。

 とても強くそう思った記憶がある。

 裏切りの他にも、カインに何かされたのかもしれない」


「そうなのね〜。 あんもう! シエラ可哀想!

 一体全体、何があったの〜!?

 これからどんどんシエラだった時のことを思い出して、どんどんカインについて愚痴りまくりましょ〜!

 それがシエラの成仏にも、ひいては血楔病問題の解決にも繋がる気がするわ!」


「そうだね。

 血楔病についてで思い出したけど、ジャイム様、金色の羊の毛のお守りが見つかったの。

 ステラがジャイム様の部屋に飾ってあった岩石を食べたら、おしりから金色の毛が生えてきて。

 ヌッちゃんが編んでくれたそれを手首に巻いたら、外に出てもあれに絡み付かれず済んだの。

 帰ってくる頃には変な炎のせいで燃え尽きちゃったけど……

 それで、お守りが燃え尽きた後に左手の薬指にあれが侵入したみたいで、こんなアザが出来てしまいました」

 

 私は朱いアザをジャイム様に見せながら言った。


「そうか。良かった。

 ステラがリシュリーちゃんのことを真の友達と認めたんだな。

 なら、大丈夫だ。金色の羊の毛のお守りについては心配無い。

 然るべき時に、リシュリーちゃんは金色の羊の毛のお守りを再び手に入れられる。必ず。

 しかし、その朱いアザは厄介なものだ。

 おそらく、そこからリシュリーちゃんを侵食してゆくだろう。心臓を目指して。

 心臓にそれが辿り着いてしまった時、血楔病が再発する。おそらくな。

 リシュリーちゃん、申し訳ないがしばらくはこの隠し部屋で過ごしておくれ。

 この部屋は私の家の中で最も強い力で守られた場所だ。

 その朱いアザの侵食のスピードを遅らせることが出来る。

 それに、これから毎日エリオットがここへやって来るだろうからな。

 狭いし、暗いかもしれないが、我慢しておくれ。

 時が来れば、ここから出られる。それはきっとそう遠い話ではないからね」


「分かりました。ここに居ます。

 なんだかこの部屋にいると安心するから、全然大丈夫」


「あたしもこの部屋好きだわ〜。

 なんとなく、秘密基地っていう感じ!

 この部屋にいる間は、あたしとカードゲームしまくりましょうね。

 無限ゲーム地獄よ〜 覚悟なさい!」


「楽しみ〜」


 こうして私はしばらくの間、隠し部屋で過ごすことになった。

 ジャイム様とヌッちゃんが簡易ベッドを運びこんでくれて、壁際に設置してくれた。

 そのベッドは簡易ベッドとは思えないほど寝心地が良くて、寝転んでいるだけで気持ちが安らいだ。

 ずっと続いていた小さな揺れは、いつの間にかおさまっていた。

 ジャイム様とヌッちゃんがおやすみの挨拶をして隠し部屋から出て行って一人になると、やはりエリオットのことが頭に浮かんだ。


 そういえばあの時、エリオットは紙袋を持っていた。

 多分あの袋の中には私への誕生日プレゼントが入っていた。

 きっと、誕生日プレゼントをどうしても私に渡したかったんだ。

 きっとプレゼントはいつものように編み物で、エリオットらしく細かく丁寧に編んでくれていたのだろう。

 いつも寒がりの私のために、より暖かさが増すような編み方を考えて編んでくれていた。

 

 辛くて仕方なくなった。

 まだ私の中でエリオットはエリオットのままだった。とてもひどいカインとエリオットが同一人物というか、同じ魂を持つ人物だと分かってはいても、まだ心がついていっていなかった。


 エリオットをまたひどく傷付けてしまった。

 どうして私達は、こんな風になってしまったのだろう。

 あんなに仲が良くていつも一緒に居たのに。

 あんなに大切に思っていたのに。


 ……シルビアちゃんが現れたから?


 いや、きっと違う。

 シルビアちゃんは多分、きっかけの一つに過ぎない。

 私とエリオットとの間には、おそらくずっと昔から不穏なものが横たわっていたのだ。気付かなかっただけで。

 それは前世でなされた魂における婚約なのかもしれないし、血楔病かもしれない。または、エリオットが隠し持っていた狂気なのかもしれない。

 もしくは……

 

 とてつもなく悲しくて残酷なイメージが浮かんだ。

 それは、全てを燃やし覆い尽くす炎のようにも見えたが、何もかもを飲み込んだ後、最初からそこに何も無かったように静まりかえる水のようにも見えた。

 

 なんだ、このイメージ?

 全く訳が分からないのに、とても悲しい。

 涙が一粒ポロッとこぼれた。


 死ぬほど自分勝手で自己中心的なこととは分かっているが、誕生日おめでとうエリオット、あらゆる幸せがあなたに訪れますように、と祈った。


 エリオットに誕生日プレゼントのマフラーはあげられなかった。

 最初はセーターをプレゼントする予定だったが、あまりに寒い冬が来たため、マフラーに変更したのだった。

 サンティ=ハイメ神領島で手に入る一番暖かい毛糸を使って、長いマフラーを完成させてプレゼントするつもりだった。

 エリオットをどんな寒さからも守ってくれるようなマフラーを作りたかった。

 叶うことならば、他の何かがエリオットを温め、エリオットが寒さから守られますように。


 そんなことを考えているうちに、眠りに誘われていった。

 そして夢の中にカインが現れた。

 

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