星の砂子
「あ、星の砂子だ!
リシュリー、願い事しなくちゃ」
「うん、星の砂子が消えるまでに願い終わらないとね! 急げ急げ」
私達は夜空を落ちていく星の砂子を見つめながら、願いを頭に思い浮かべた。
私の家族や、エリオットや、エリオットの家族、エミルを始めとする友達たち、その全員が元気で幸せに暮らせますようにと集中して願った。
あの時、エリオットは何を願っていたのだろう。
すぐ隣からとてつもない集中の気配を感じたのを覚えている。
あの日のエリオットの願いは叶っただろうか。
私は、十六歳の合同誕生日パーティーを一緒に過ごすというエリオットの願いをきっと叶えることが出来ないだろう。
だから、あの時エリオットが願った事がどうか叶っていますように。
もし叶っていなければ、これから叶いますように。
勝手なことだとは分かっているが、そう願わずにはいられなかった。
いつも見る星の砂子は流星群としてやって来ることが多いのに、あの星の砂子はたった一つ空から落ちてきた。
空からたくさんの小さな星の粒がパラパラと落ちてくるように見えるから星の砂子というのだと、子供の頃エリオットと読んだ本に書いてあった。
だから、あの星の砂子はとても珍しい。はぐれ星砂子とでも呼べば良いのだろうか。
はぐれ星砂子はどこからやって来たのだろう。
はるか遠くからであることに間違いはないが、なぜだかあの子の故郷のことがとても気になった。
なぜだかあのはぐれ星砂子は、とても水を欲している感じがしたのだ。
はぐれ星砂子は最後に弾けるような光を発しながらキノル湖へと落ちていったように見えた。
「誕生日の日に星の砂子が見られるなんて。
あれ、もう日付変わったのかな?
まあどっちの誕生日の日とも重なった時間に星の砂子が降ってきたことにしよう。
エリオットも私もなんてラッキーなの。
きっと良い一年になるよ」
「うん。きっと良い一年になるね。
きっと、リシュリーも僕もこれまでで一番良い一年になるよ」
「ありがとうエリオット。
再誕日もすぐだし、さっそく良いことがすぐそこに待ってるね」
「そうだね。
ジャイム様の家に行くの、とっても楽しみだね。
ステラにも会える。
僕ジャイム様に会うの久しぶりだから、また教えて欲しいことを色々準備していくつもりなんだ。
いつもジャイム様と会うと質問攻めにしちゃうから、ジャイム様にめんどくさく思われてたりして」
「そんなことないよ。
ジャイム様、いっつもエリオットに質問されてる時、なんだかすごく嬉しそうな顔してるんだよ。
あの顔は私には向けたこと無いよ。
きっとジャイム様はエリオットのこと気に入ってると思う。
もしかしたら、息子みたいに思ってるんじゃないかなあ」
「そうかな。そうだとしたらすごく嬉しい。
僕、ジャイム様のことをすごく尊敬してるんだ。
ジャイム様みたいになりたいって思ってる」
「エリオットがジャイム様のこと尊敬してるのはもう知ってるよ。
態度にすっごく出てるもん。
でも、エリオットはエリオットのままで良いんじゃないかな。
今のままのエリオットが十分素晴らしいんだよ。
もちろんジャイム様への憧れも素敵なことだけど」
「………………」
エリオットはまた、下を向いて手を握りしめ、黙り込んでしまった。
きっと涙をこらえている。
私はなんだかどうしたら良いか分からなくなって、たくましくなり始めたエリオットの肩に自分の頭をつけて夜空を見上げた。
「エリオット、星って一体どのくらいあるんだろうね。
今目で見えるだけでも、信じられないくらいたくさんあるね」
「……色んな説があるんだ。
星は次々生まれきてるんじゃないかっていう説もあるし、もっとびっくりなのは宇宙全体がどんどん広がってるんじゃないかって言う学者もいるんだよ」
「へー! そうなんだ!
さすがエリオット先生だね。
私の知らないことをたくさん知っててすごいよ」
「ありがとう、リシュリー。
僕、新しいことをどんどん知りたいんだ。
新しい知識を得れば得るほど、新しい自分になれる気がするから。
リシュリーは、今の僕のままで良いって言ってくれる。
でも僕は出来ればより良く変わっていきたい。
新しい自分になって、それで、もう……」
エリオットは最後何かを言いかけてやめた。
「そっか。エリオットがそう思うならそれがエリオットにとっての正解なんだね。
確かに考えてみたら、より良く変わるって素敵なことだね。
私も十五歳はより良く変われるようにしたいな」
「リシュリーは今のままで良い。
変わるなんて!
し、しない方が良いと僕は思うな。
今のままで十分なんだから」
何かを言い淀んでいたのが嘘のように、エリオットは突然早口になって言った。
「えー。エリオット、さっき言ってたことと矛盾してなーい? 変なエリオット」
早口なエリオットの様子が面白くて、私は少し笑いながらエリオットにそう言った。
「えっと、あの……
あ! あのさ、この前なんだけど僕、リシュリーの大好物の甘い卵焼きを今までで一番上手く焼けたんだ。
まだトマおばさんほどじゃないけど。
今度サンドイッチに挟んで持っていくね」
「本当? ありがとう、エリオット。
楽しみにしてるね! 嬉しいな。
あー、なんだかますますとっても良い十五歳になる気がしてきたぞー!」
「うん、楽しみにしてて。
僕もなんだかとっても良い十五歳になる気がしてきた!」
私達は、互いから貰った誕生日プレゼントを胸に抱えて、新しい一年への希望に胸を膨らませた。
これから始まる十五歳の一年間、きっと毎日楽しくて、エリオットといつでも笑い合っているのだろうとあの時は思っていた。
確かにそう思っていたのに、こんな風に全てが変わってしまうなんて。
エリオットがあんなに楽しみにしていた合同誕生日パーティーの日を一緒に過ごせないなんて。
あんなに大好きだったエリオットのことを怖いと思って、エリオットから逃げ続けているなんて。
人間の運命とはなんて予測の出来ないものなのだろう。
そしてありきたりで幸福な日常とは、なんて儚いものなのだろう。
十五歳の合同誕生日パーティーの日のことを一通り思い出し今に戻ってくると、気がつけば泣いていた。
あの日のことを思い出している時は、自分の目から涙が出ていることに全く気がつかなかった。
最初はただ涙がポロポロ溢れていただけだったのに、だんだん嗚咽が出て来て、次第に止められなくなった。
しゃくり上げて泣くことをもう止めることが出来なかった。
ジャイム様や、ヌッちゃんやステラに気付かれたくなかったのに、部屋中に聞こえるような大声でしゃくり上げていた。
ステラが心配そうにこちらを見ていた。
そして、私の顔中を濡らしている涙を舐めてくれた。
しかし、そうされるとなぜだかもっと悲しくなってしまってステラの背中に顔を埋めさせてもらって泣き続けた。
ステラはじっとしてくれていて、泣きながらも聞こえたステラの心臓の音にとても安心した。
ジャイム様とヌッちゃんも私が泣いていることに気づいているはずなのにそっとしておいてくれて、そのまま泣かせ続けてくれた。
私はそのことにとても救われた。
私はしばらくの間、エリオットとの別れへの身を裂くような悲しみのため泣き続けた。
涙を流すことによってその悲しみが和らいでくると、エリオットとの幸せな日々と叶えられなかった願いの為に泣いた。
私は結局昼ごろまで泣き続けた。




