十五歳の合同誕生日パーティー
あの日は、兄弟達が朝から牧場仕事の合間に、私達の十五歳の合同誕生日パーティーのための準備をしてくれていた。
今より小さく、かつ、今より暴れん坊だったパロマは、フェルマー兄さんに肩車してもらい、頑張って天井を飾りつけていた。
「お兄ちゃん、もっとたかくー!
とどかないよー」
「ごめんごめん、パロマ。
お兄ちゃん頑張るから、そんなに何度も肩を蹴らないでくれ」
「じゃあ髪の毛ひっぱっちゃえ」
「やめてくれー」
パロマを猫可愛がりしているフェルマー兄さんは、痛がりつつもパロマを決して怒らなかった。
なんなら少し嬉しそうだった。
フェルマー兄さんがパロマのことを怒らない記録は、パロマが生まれた日から更新され続けている。
ちなみに、バンダーとミグラがパロマを怒らない記録は、一日を超したことがない。
バンダーとミグラは二人でせっせと、蝋燭を食堂のあちこちに配置したり、エリオットのお兄さん達やお父さんのためにお客様用椅子を物置から運んできたりしていた。
二人とも少しでも食堂が素敵になるように頑張ってくれていた。
自分達が置いた蝋燭を少し離れた所から二人して見て、熱心になにやら話し合って蝋燭の位置を数センチ単位で動かしてはまた戻し、また動かし、とやっていた。
バンダーとミグラのセンスはなかなか良くて、夜になり蝋燭に火が灯されたら、きっととても素敵だろうなと思った。
兄弟達の楽しそうな様子を見ると私も仲間に入って一緒に準備したかったけれど、今日の主役は私とエリオットなんだから大人しくしてろとフェルマー兄さんに言われ、私はエリオットがやって来るまで大人しく自分の部屋にいた。
「おはよう、リシュリー。
部屋に入っても良い?」
エリオットの弾んだ声が扉の向こうから聞こえてきた。
声を聞くだけでエリオットがとても嬉しそうな顔をしていることが分かる。
エリオットも、今日の私達の合同誕生日パーティーを何週間も前からとても楽しみにしていた。
前の年も、その前の年も、その前の前の年もそうだった。
どうやら合同誕生日パーティーはエリオットにとって一年で最も素敵なイベントのようだった。
もちろん、私にとっても合同誕生日パーティーは一年で一番楽しみにしているイベントだったけれど。
でもどんな日でも、いつものあのザワザワとした感覚はやって来てしまう。
特別で楽しい最高な日に、こんな感覚を感じてしまうことがとても嫌だった。
「おはよう、エリオット。どうぞ」
私はいつものように深呼吸をして、ザワザワした感覚を落ち着けた。
エリオットが扉を開けて私の部屋に入って来た。
ギリギリ十四歳のエリオットは、まだ私より少し高いくらいの背で、あどけなさを顔に残していた。
それでも、その美しさと妖艶さは日に日に増し、完璧な姿へとエリオットが近付いていっているのを感じていた。
「リシュリー、今日で十五歳だね。
お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、エリオット。
もう十五歳かあ。なんだかあっという間だね。
十四歳の合同誕生日パーティーからまだちょっとしか経ってないように感じる」
「確かにそうだね。
きっとあっという間に十六歳の合同誕生日パーティーの日も来ちゃうんだろうな。
十六歳のパーティーも、もう今から楽しみだ」
「エリオットは本当に合同誕生日パーティーが好きだよね。もちろん私も大好きだけどね」
「うん。僕、合同誕生日パーティーが本当に大好きなんだ。
だって僕とリシュリーが、この世界に生まれて来られたことを祝うパーティーだから。
この世界で生きていられてなんて最高なんだろうっていつも思う。……リシュリーと、一緒にいられて」
エリオットが輝くような笑顔で、そう言った。
その笑顔からは強い喜びが伝わってくるのに、なぜかひどく切ない雰囲気があった。
「そうだね、私もこの世界に生まれて来られて嬉しい。
それで、毎日エリオットと一緒に遊んだり、牧場の仕事をしたり、学び舎に行ったりして楽しく過ごせて嬉しいよ」
「本当?本当に?
リシュリーも僕といられて嬉しいの?
本当にリシュリーは、そう思ってくれているの?」
エリオットは、瞳を揺らしながら私にそう聞いた。
私の答えを聞くのがとても怖いような、それでもどうしても聞きたいような、そんな心の揺れがそのまま紺碧の瞳にあらわれていた。
「もちろん本当だよ!
エリオットと一緒にいられて、嬉しいに決まってるじゃない」
「……ありがとう、リシュリー」
エリオットは泣きそうな顔で下を向いて、手をきつく握りしめながら言った。
これは、涙がこみ上げるのを我慢している時エリオットがいつもやる癖だ。
もう、何十回と見ているので分かる。
エリオットが泣き虫なことは知っているが、たまにこういう風に私にはよく分からないポイントで泣きそうになっていることが多々あった。
「……あの、リシュリー、血は飲まなくても大丈夫?」
エリオットが上目遣いで、恥ずかしそうな感じで聞いてきた。
この頃からエリオットは私に血を奪われている時に前とは違う反応を見せるようになり始めた。
ぐっと息を押し殺しながら震えて、血を飲まれている時私に抱きつくようになっていた。
そんな様子を見ると心が痛んで、罪悪感を感じた。
自分達が普通の幼馴染みではないことを強く実感するようになったのもこの頃からだった。
「大丈夫。
昨日飲ませてもらったから、今日は大丈夫だよ。
瞳の色も薄紅色のままでしょ。
でも、気にしてくれてありがとう」
「そっか……
でももしも、僕の血が必要になったらいつでも言ってね。いつでもそばにいるから」
「うん、ありがとうエリオット」
「じゃあ、今日はリシュリーの髪を特別な日のための髪型に結うね。
今日の為に新しい髪留めも実は作っていたんだ。
誕生日プレゼントとはまた別のプレゼントだよ」
エリオットは私の髪をアップに編み込んでくれた。
プレゼントの髪留めは、エリオットの髪の色のような金色の石にエリオットの紋章が刻まれたものだった。
髪が結われ終わり、その髪留めがつけられると、エリオットの存在を非常に近く感じた。
夕方になるとフェレール家の人達がにぎやかにやって来て、私達の合同誕生日パーティーが始まった。
バンダーとミグラがこだわって置いてくれた蝋燭達に火が灯されると、フェルマー兄さんとパロマが飾り付けをしてくれたいつもと違う食堂が明るく照らし出され、これから始まる楽しいパーティーへのワクワクが一層高まった。
オルノお兄さんは手作りの料理をたくさん持って来てくれて、母さんとオルノお兄さんの料理で食堂のテーブルは埋め尽くされた。
皆あまり椅子には座らず、立ったまま歓談したり料理を食べたりしていたので立食パーティーのようだった。
父さんとカルボおじさんだけは、椅子に腰掛けてゆったり二人で話しながらお酒を飲んでいたがけれど。
パロマはお気に入りのベレトお兄さんにちょっかいをかけまくっていた。
突然背中に飛び乗ったり、どこで見つけてきたのか限りなくトカゲに似た形の木の枝を突然見せたりして、ベレトお兄さんを驚かせ続けていた。
トカゲが苦手なベレトお兄さんは飛び上がって驚き、パロマを抱っこして捕まえていた。
しかし、パロマはさながら暴れ猫のようにそこから抜け出し猛スピードで走って逃げると、またすぐ戻ってきてベレトお兄さんにちょっかいを出し続けていたのであった。
ちなみに二人の関係性は今も変わっておらず、ベレトお兄さんが用事があってうちに来ると、いつもとても嬉しそうに暴れている。
バンダーとミグラはカルデロお兄さんに遊んでもらっていた。
二人とも物知りなカルデロお兄さんに話をしてもらうのが大好きで、二人して膝に乗せてもらって色々なことを教えてもらっているようだった。
バンダーもミグラも、フェルマー兄さんのことはどことなく舐めてかかっているところがあるが、カルデロお兄さんのことは尊敬しているようだった。
オルノお兄さんは、フェルマー兄さんと母さんと、とても楽しそうに話し込んでいた。
フェルマー兄さんと仲が良いオルノお兄さんは、四兄弟の中ではエリオットの次に母さんと親しかった。
そしてペロ・アルコはみんなに平等にごはんをねだっていた。
優しいオルノお兄さんは自分のご飯をあげようとしたが、母さんにやんわり止められていた。
ペロ・アルコは、そのあまりの食に対する強欲さを母さんに注意されたが、ぼく何もわからない。という顔をしていた。
結局父さんが、ペロ・アルコのうるうる攻撃に負けて食べ物をあげてしまい、ペロ・アルコではなく、父さんが母さんにこってりしぼられていた。
カルボおじさんはそれを優しく笑って見ていた。
私とエリオットの家族がみんな揃って良い匂いの食事を囲んで輪になっていて、それが蝋燭や暖炉の火の灯りに温かく照らされている光景は、涙が出るほど幸せなものだった。
毎日合同誕生日パーティーなら良いのにと思った。
毎日合同誕生日パーティーをしても、きっと話も笑いも尽きはしないのに。
私とエリオットもその輪の中に入り、みんなと笑って楽しく過ごした。
エリオットも、私と同じようにとても楽しそうだったけれど、あまりに楽しすぎたせいなのか、嬉しかったからなのか、それとも他に何か理由があったのか、その目には涙が浮かんでいたのを覚えている。




