↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
PR
51/153

涙ポロリ

 くー、やっぱタイプ!


 アダン・プラタスが久しぶりにリシュリー・アルコを見た時の感想である。

 やっぱ可愛い、やっぱ好き……!

 アダンの胸はキュンっと乙女のようにときめいた。

 アダンのリシュリー・アルコに対する恋心はいまだ健在であった。


 リシュリー・アルコと仲良くなって、あわよくば父ちゃんにリシュリー・アルコを紹介しようと目論み秋に決行したあの作戦は、結果的に大失敗に終わった。

 エリオット・フェレールのせいである。

 なんとかやつを出し抜こうとしたところ、ものすごいカウンターをくらってしまった。

 まあ、何も起こらないとは思わなかったが、まさかあそこまでの攻撃をくらうとは。

 あの後しばらく、アダンのハートはボロボロであった。


 そして何より、あの時のエリオット・フェレールはアダンにはとても恐ろしかった。

 あの時の、あの地獄の捕食者のような目。

 そしてとてつもなく美しいが心臓を握り潰されそうなほど恐ろしい笑顔。

 何回か夢の中にまで出てきて、うなされたのだった。

 そんな時アダンは、いつも傍らに居てくれる子供の時からの友達の白くまのぬいぐるみをギューっと抱きしめるのであった。


 だが、あのショッキングな光景を見てしばらく経っても一つの疑念を拭うことが出来なかった。


 リシュリー・アルコとエリオット・フェレールは本当にそういう関係なのだろうか。


 あの時二人は確かに抱き合ってはいたが、ロマンティックな雰囲気では無かった。

 少なくともリシュリー・アルコの方は。

 なにか、そうしなければ生きていけないからしている、みたいな義務感を感じた。

 まあエリオット・フェレールの方はまさに快楽に溺れているという感じだったが。

 

 そんな疑念を抱いてしまったこともあり、アダンはやはりまだリシュリー・アルコのことが諦めきれないのであった。

 我ながらしつこいと思うが。



「おい、アダン。

 今度こそ、嫁さん決めるんだぞ。

 お前選り好み出来る立場か? あん?」


「へいへい。

 でもさあ、父ちゃん。

 もし結婚するってなったら、六十年とか七十年とか一緒にいるんだぜ。

 慎重になっちまうのも当たり前だろ」


 アダンは思った。

 あーあ、リシュリーと結婚出来たなら、こんな苦労しなくていいのにな。ちぇっ。

 六十年、七十年ずっと一緒にいられるなんて、最高過ぎる。

 しかも、夫婦として。むふふ。

 

 最近のアダンは、父ちゃんがどこからか見つけてくる相手とのお見合いで忙しかった。

 お見合い相手はサンティ=ハイメ神領島外からもやって来ていた。

 プラタス果樹園はそれなりに儲かっていたし、色素濃い目の見た目を気に入ってくれる女の子も結構いて、アダンはお見合い相手として結構人気があるようだった。

 もしかして、俺って、わりとモテるのでは?

 でへへ、とちょっぴりつった目をアダンはにやけさせた。

 

 しかし、それでもアダンの頭のどこかにはリシュリー・アルコのことがあり、どんなに可愛いらしいお見合い相手でも一回目のデートの後にお断りをしてしまっていた。

 それで何度父ちゃんからゲンコツをくらったか、アダンはもう覚えていない。

 さすがに、もうこんなことを続けていてはいけないと最近思うようになってきていた。

 もう成人年齢の十七歳は近づいてきているのだ。

 結婚して子供を沢山作り、プラタス果樹園の経営を盤石なものにしなければならない。

 なんたってアダンは長男なのだ。

 一応そこらへんの責任感はちゃんと持っていた。


 だから、アダンは決意した。

 リシュリー・アルコにこの溢れる想いを伝えようと!


 リシュリー・アルコの様子からして、確実にアダンのことをどうとも思っていないが、砕け散っても構わない。

 むしろ、砕け散ることがアダンの目的だった。

 華々しく砕け散り、その後はスッキリした気持ちで本気の嫁さん探しをしたい。

 アダンはそう思っていた。


 そしてそう決めてから、アダンはリシュリー・アルコに接触しようと頑張っていた。

 しかし、最近リシュリー・アルコは前よりも更に学び舎に来なくなった。

 なかなか顔を合わせることすら出来ない。

 聞くところによると、エリオット・フェレールについて神官養成学校へ行っているらしい。

 そういえば、刃物を重要なものとして取り扱う家の者のための特別講義が神官養成学校で行われているはずだ。

 鍛冶屋の息子のエリオット・フェレールはそれに出ているってことか。

 

 すると、特別講義の日に神官養成学校に行けば、リシュリーに会えるってわけか。


 そういうわけでアダンは特別講義が行われる日、朝早くから神官養成学校の敷地に入り、正門近くではあるが、程よく木の陰にあって目立たないベンチに座り、ドキドキしながら機会をうかがうことにしたのであった。

 

 そして、正門から神官養成学校に入ってきた久しぶりにリシュリー・アルコの姿を見た時、先程の感想が出てきたという訳である。

 だがしかし、リシュリー・アルコの隣には当たり前だがエリオット・フェレールがいた。

 まあ、それはもちろん想定範囲内である。

 だが。秋に見た時と雰囲気が少し違う気がした。

 あのドロドロが増している。謎の色気も。

 しかし、切れ長の大きな目の下にはクマが出来ており、良く眠れていないことが丸わかりである。

 血色もあまり良くない。

 なにか精神的に不安定というか、危うい感じがした。

 二人はたわいもない話をしているようだが、ニコニコと楽しそうに話すリシュリー・アルコの方を、じっと底が無いような昏い瞳で見つめている。

 しかし、リシュリー・アルコと目が合うとすぐ優しそうな笑顔を作り、微笑みを交わしていた。

 ヘッ。あの優しそうな笑顔が、ただ単に優しいだけの笑顔じゃないってことを俺は知ってるんだい。

 アダンは思った。


 そういえば、転校生のシルビア・ティヘラがエリオット・フェレールに猛アタックしていると学び舎の友達から聞いたな。

 あのすっごく可愛くて、男心をくすぐる才能があるシルビア・ティヘラに好かれて何が嫌なのか、アダンとしては理解出来ないが、エリオット・フェレールがシルビア・ティヘラに暴言を吐きひどい態度を取った事件のことは、アダンの耳にも入っていた。


 シルビア・ティヘラがあの二人の関係になにか影響を及ぼしていたりするのか?

 あの、いつでもピッタリくっついている二人の間の粘着力が、もしかしたら今は少し弱くなっている?

 だとしたら、もしや、今ってチャンス?

 エリオット・フェレールの不安定で危うげな様子とは違い、リシュリー・アルコは前よりも楽しそうで、元気な感じがする。

 前よりも生命力を感じるというか。

 やはり、秋とは確実に何かが変わっているのだ。

 

 だが下手を踏むと、この前よりもっとエリオット・フェレールがおっかなくなるかもしれない。

 リシュリー・アルコへの愛の告白は、エリオット・フェレールがいない時を見計らい、慎重に行わなければならない。

 アダンはゴクリと唾を飲み込んだ。


 二人にバレないように、だいぶ後ろから二人の後をつけていった。

 二人は大図書館前で互いに手を振り別れていった。

 

 ぷぷぷ。エリオット・フェレールが非常に名残惜しそうにずっとリシュリー・アルコを見つめているのに対し、リシュリー・アルコはさっさと大図書館に入っていっていた。ぷぷぷ。

 

 そして、アダンもリシュリー・アルコの後を追って大図書館に入っていった。

 大図書館の中で告白。

 なかなかロマンティックなんじゃあないの?

 ウキウキしながら大図書館に入っていったアダンであったが、リシュリー・アルコは司書と思われる紫髪のおかっぱ頭の男とすごく親しげにエレベーターに乗ってどこかに行ってしまった。

 会った時互いに、きゃー!という感じで両手を合わせてぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 とても嬉しそうだった。

 エリオット・フェレールといる時よりも、はしゃいでいる感じだった。


 え?

 ……えー?


 なにあいつ? なにあいつ?

 まさかの展開にアダンは放心状態となってしまった。

 こんなことって……

 リシュリーがあんなに、エリオット以外の男と親しげにしてるなんて…え? どういうこと?

 アダンの頭はパニックになっていた。

 俺はずーっとすんごく頑張ったのに、リシュリーとそんなに仲良くなれなかったっていうのに……


 明日銀のハサミに髪の毛切りに行こ。

 すんごく短くしよ。


 なぜかそんな考えが浮かんできたアダンは、涙を一粒ポロリと流し、大図書館からトボトボ出て行った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。