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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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考察B

「え、そんな。

 そりゃ、別にエリオットのことはそういう意味では愛してはいないけど、人間としては愛してるよ。

 幼馴染みとしては大好きだもん」


「えー。

 だってさあぁ? 普通、あんなイケメンにあんな恐ろしいくらい想われて優しくされたら好きになっちゃわない?

 恋心、抱いちゃわない?」


「あ、でも。

 確かに、子供の頃エリオットのこと恋愛的に好きになりそうなことはあったけど、途中で心が固まっちゃうってことはあった。

 それでいつもエリオットに恋心は持たずに終わったの」


「なんじゃい、それ。

 確実になんらかの力が働いてるでしょ。

 確実に呪いの一種でしょ」


「えー、そうかな。

 エリオットの運命の人がそのうち現れる予感はあったから、そのせいかと思ってたよ。

 もしくは、エリオットに対して起こる、あのザワザワした感覚のせいだと思ってた」


「え? なにそれ」


「あれ? ヌッちゃんに言ってなかったっけ?

 なぜかエリオットにザワザワした変な感覚を感じることがあるって」


「聞いてないわよ。

 リッちゃんのおバカ! 大バカちん!

 なにゆえ、そんな重大なヒントになりそうなことを黙ってるわけ?

 もう、グリグリしちゃうんだから!」


 ヌッちゃんはパッチワークのソファから立ち上がり、私の背後を取ると、私のこめかみをグリグリしてきた。

 一連の動きはとても素早く、まるで風のようになめらかであった。


「痛いよー! あれ、でもなんかちょっと気持ち良いかも?

 痛気持ち良い? なにこの感覚。

 ごめんごめん。なぜかすっかり伝えるの忘れてた。

 あのザワザワした感覚は、血楔病を発病するより前から感じてたものだったから、つい」


「いつからなの? その感覚」


「エリオットと初めて出会ったその日から」


「まじ?

 その感覚を具体的に言うと? 

 どんなん?」


「うーん。なんか、体中がゾワゾワするというか、何かが体に絡まってくるような感じというか……

 あ、でも、心の奥にある扉を向こうから無理矢理押し開けられそうな感じでもある」


「えー……それってもう……

 ごほん。

 えと、それってかなり特殊な感覚じゃない。しかもなんか辛そうね」


「うん。そういえば、なぜかこの前のキャンプの時はただの気持ち悪い感覚じゃなくて、本当に痛く感じたの」


「あれま……

 あのさ、このことって、他の信頼出来る神官に話しても良いかしら?

 信頼出来て、より大きな視点を持ってる人に」

 

「うん。ヌッちゃんの信用出来る人になら良いよ」


「ありがとう。

 きっとリッちゃんの助けになってくれるはずよ。

 リッちゃんの患う血楔病の大元となる呪いは、私達二人では手に負えないかもしれないわ。

 リッちゃんから話しを聞けば聞くほど、そう思うの。

 これからは頼れる人にはバンバン頼っていきましょう」


「うん。そうしよう。

 あ、あとそれとね、ヌッちゃん。

 この前血楔病を治すにはどうすればいいんだろうって強く思った時、巡礼の旅っていう言葉が頭に浮かんで来たの。

 子供の頃、血楔病を発病した時にね。ジャイム様に私はいつか巡礼の旅に出るだろうとは言われてはいて。

 この世界に本当に生まれるためにって。

 エリオットがいなければサンティ=ハイメ神領島でさえ一人で歩くのも不安なのに、巡礼の旅なんて出られるはずないって、これまでは思ってた。

 でも、もしかすると巡礼の旅が私の何かを変えてくれるのかもしれないって、最近思うの」


「そんなことがあったのね。

 あのねリッちゃん。聖地を目指して旅をする、いわゆる巡礼の旅には目指す聖地ごとに異なる意味と目的があるの。

 そして、この聖地サンティ=ハイメ神領島を目指し行われる巡礼の旅こそ、この世界に再び生まれるという、再生の旅という意味合いと目的があるのよ」


「そうなんだ。

 でも、もともとサンティ=ハイメ神領島に住んでる人はどうしたら良いんだろう?

 家から出て島を一周しても、何かが変わるとは思えないのに再生なんて、大そうなことだったら尚更だよ」


「確かにぃぃぃ〜。

 でも、これはもしかしなくても超絶大きなヒントよ。ってか、もはや答えなのかもしれない。

 リッちゃんが生命力が枯渇しやすかったり、世界との繋がりが弱いっていうのは、生まれるはずではなかったこの世界に無理矢理生まれさせられたから。

 そして、"供物"の血によって、今もなおこの世界に縛り付けられている。

 この前はそこまで話を進めたわね。

 つまりそれって、リッちゃんはこの世界にまだ完全には生まれてはいないってことだと言える。

 肉体的には生まれていたのだとしても、魂はまだ半分くらいしか生まれていないから、世界との繋がりも弱い。

 逆に言えば、リッちゃんがリッちゃん自身の力でこの世界に完全に生まれることさえ出来れば、世界との繋がりは完全なものとなる。

 つまり、血楔病の呪いを解くことが出来るかもしれない。

 血楔病の症状、つまり"供物"の血を求めることが、この世界に生まれるはずでない魂を無理矢理降誕させ存在させ続けるために現れているものであれば。

 罹患者の方から進んでこちらの世界に完全に生まれてしまえば、呪いの一番の目的は達成されてしまうから、血楔病はその存在の理由を失うはずよ。

 だってぇ、完全にこちらの世界の人になれば、"供物"の血を楔にしなくても、世界との繋がりを保てるんだもん。

 どう? なかなか良い筋いってると思うんだけど。

 この考察」


「うん! すっごく良いよ!

 その通りって感じがする!

 確かに、私ずっと地に足がついてない感じというか、本当に自分が生きてるか分からない感覚があったの。

 時折どこか違う世界へ引っ張られるような感覚もあった気がする。

 それがこの世界に半分しか生まれていないことが原因だったとしたら、すごく納得するの」


「あらあ〜! 良かったわあ〜!

 なかなか天才でしょ、ヌッちゃん」


「大天才だよ!

 あのね、ヌッちゃん。

 もしも私に他に生まれるべき世界があったとしても、私この世界が大好きなんだ。

 この世界は私にとっての天国だって感じるの。

 ヌッちゃんもいるしね。

 だから私、この世界に完全に生まれてみたいの。

 そのために巡礼の旅が必要だっていうなら、なんとかして旅に出てみたいって、今は強く思う。

 もしかすると、スタート地点は自分の家じゃなくてもいいのかもだし」


「きゃー! 泣いちゃうんですけどー!

 あたしもリッちゃんにこの世界に完全に生まれてほしいっ!

 ただ、巡礼の旅に出るために目下の課題なのは、"供物"の血問題よね〜。

 きっと巡礼の旅は、リッちゃんが一人で行かなきゃ意味ないもんね」


「うん。ジャイム様も、必ず一人で行かなきゃいけないって言ってた。

 どんなにつらくても、必ず一人で行かなきゃいけないって」


「ジャイム様ってもしかして全てお見通し?

 いや〜ん、惚れ直しちゃうっ!

 でも、そうね。

 今はそれをどうにか解決しましょう。

 あたしがあらゆる本で調査した、精力がつく食べ物百選は全部食べたんだっけ?」


「うん。ほとんどまずかったけど頑張った。

 でもダメだった」


「おうの〜う。

 ま、他のやり方考えましょう」


 今日のヌッちゃんとの対話で、血楔病を治す大きな手がかりを掴めた気がする。

 巡礼の旅。

 それにさえ、ただ一人でゆくことが出来さえすれば、きっと何かが変わる。

 具体的な希望を見つけることが出来たのだ。

 ヌッちゃんには感謝しかない。

 シエラの夢についてはヌッちゃんは何か分かっているけれど隠していることがある気がしたけど、そんなことどうでも良いくらい、胸の底から希望が湧いてきていた。

 すると、ヌッちゃんの研究室の扉がノックされた。


「フーゴ様、アイオラス海中湖神殿が至急フーゴ様と通信を行いたいとのことです」


「あらやだ! 事態は悪くなるばかりなの!?

 ごめん、リッちゃん。あたしちょっとドロンするわね。

 好きなだけこの部屋にいていいから。

 おくつろぎあそばせ。 じゃーねー」


「うん、じゃあね。ヌッちゃん」

 

 ヌッちゃんはあの不思議な走り方で、パタパタと部屋から出て行った。

 私はエリオットが特別講義を終える時間までヌッちゃんの部屋で、生命力の補充についてのあらゆる手段について調べた。

 しかし、なかなか効果を期待出来そうなものを見つけることは出来なかった。

 ヌッちゃんの研究室を後にし、私はいつものようにエリオットと待ち合わせて家路についた。

 

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