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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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第三の呪い

「バンダーミ……あ、違った。

 B&M渡り鳥観察隊諸君、カラフルおケツちゃんの調査研究は進んでいるかね」


 今日はエリオットが特別講義に行く日だ。

 エリオットが来る前に自分の出来る仕事を済ませようと、牧場をあちこち動き回っていたところ、B&M渡り鳥観察隊を発見した。


「あ、姉ちゃん。

 僕達この前、ジャイム様の家に行ってきたんだ。

 ジャイム様にヒントを貰おうと思って。

 あくまでヒントね。

 そしたら、カラフルおケツはこれまでも、ごくたまーにキノル湖に来てはいたらしい」


「へぇー。全くの新人さんってわけではないんだね。

 ふーん」


「うん。カラフルおケツの飛来にはなんらかの周期があるらしいんだけど、それについてはジャイム様は詳しく教えてくれなかった。

 君達なら自分達だけでその謎を解き明かせるはずだって。

 僕達のこと分かってるよねー、ジャイム様」


 バンダーとミグラには、このようにチョロいところがあるのであった。


「そうなんだ。

 ねぇあのさ、B&M渡り鳥観察隊に姉ちゃんも入れてくれない?

 姉ちゃんも、カラフルおケツちゃんのことすごく気になるんだよね」


「えー、ヤダ」


「なんでよ! この前あんた達が門開け忘れた時、姉ちゃんも父さんに一緒に謝ってあげたでしょ?」


「あー。そういえば」


「ね。だから入れてよ」


「仕方ない。ただし、見習いね」


「やったあ。

 じゃあ、これからよろしく先輩方。

 今日、姉ちゃんは大図書館に行くから、もし出来たら鳥類図鑑を探してみてあげる」


「よろしく頼むぞ、見習い隊員」

 

「ラジャ!」


 私はバンダーとミグラに敬礼し、ブランコ3号のところまで歩いていって座った。考えをまとめる為に。

 プロメナリウム海浜公園で壊れる前のシエラの夢を見てからというもの、なぜかカラフルおケツちゃんのことが気になるようになっていた。

 カラフルおケツちゃんも、血楔病を治す手がかりの一つになる。そんな直感があった。

 ヌッちゃんにもそのことをシエラの夢のことと一緒に話そうと思っていた。


 しかし、この前エリオットが言ったことが私の心に重く残り続けていた。

 エリオットは、私に血を飲まれることはこれ以上ない薬だと言った。

 私に血を飲まれることで癒されると。

 あの言葉の全てを理解することは出来なかったけれど、エリオットが私に血を飲まれたがっていることを強く感じた。

 そして、シルビアちゃんの熱烈な告白への応対を見て、それが運命に逆らうことだったとしても、エリオットはシルビアちゃんと結ばれることを望んでいないことも分かった。

 それにより、私は血楔病を治そうとすることが本当にエリオットの為に良いことなのか、分からなくなってしまったのだった。


 しかし……

 ヌッちゃんと大図書館で血楔病を調べたり考察したりしていくうちに、私の中には強い願望が生まれてしまっていた。

 血楔病のことについてもっと知りたいという願望が。

 私はなぜ呪われ、なぜこの世界に縛られ続けているのか。

 私が本当に生まれるはずだった世界とは、どんな世界だったのか。

 そして、"供物"はなぜエリオットなのか。

 これらの疑問の答えを、どうしても見つけたくなっていた。

 もしエリオットが、私にエリオットの血を飲み続けて欲しいと言うのなら、血楔病を治さない方が良いのかもしれない。

 しかし、私は答えをどうしても知りたかった。



 そしてあの、シルビアちゃんの告白へ返されたエリオットの言葉を聞いた時。


「エリオットの心が変わらないはずがない」


 という声が、どこからか聞こえてきたのだった。

 そしてその声は真実だと直感で感じてしまった。

 やはり血楔病を治すか"供物"の血の代替品を見つけるかしないと、とても悲しいめにあうと。


 それがどんなにエリオットに失礼なことか、後から気付いてエリオットに申し訳ないと心から思った。

 

 

「おはよう、リシュリー」


「うわああ!!!

 エ、エリオット! おはよう」


「……もう、リシュリー。びっくりし過ぎだよ」


「ごめんね、エリオット。

 ほら、私後ろから急に声かけられるの昔から苦手だから」


「確かにそうだよね。

 でも、もうそろそろ慣れてくれても……

 リシュリー、じゃあ行こう」


「う、うん」


 私はエリオットから差し出された手に応え、その手を取り、屋根裏部屋へと二人で向かった。

 




「あのさ〜、なんでそういう重要なこと、最初に言ってくんないのよ〜。

 そういう子にはお仕置きしちゃうわよん!」


「ごめん、ごめん。

 でも怖かったの。ただでさえ変な病を患ってるのに、それに加えて変な夢を見る変な人だと思われたら、誰にも相手されなくなるかもって思って」


「あたしがそんな小ちゃい人間なわけないでしょー!!

 ぷんぷん! みくびんないでっ!」


「ごめんよ、ヌッちゃん」


「まあ、仕方ない。許してあげるわ。

 でも、そのシエラって人の夢は確実に何かの鍵を握っているわ。

 でもその一方で、取り扱いには気を付けなければいけない。

 きっとリッちゃんの何かに大きく関わっている夢だからこそ、同時に大きな力を有してる。

 考えすぎてそれに取り込まれないようにしないとね」

 

「言われてみれば確かに。

 さすがヌッちゃん。考えの深さが違うね!

 あとね、ヌッちゃん。

 おしりがカラフルな渡り鳥って知ってる?」


「あら? なんでリッちゃんが越界飛鳥のこと知ってるの? この世界のトップシークレットの一つなのに」


「え?」


「え?」


 私とヌッちゃんが互いにマヌケな声を出し合った後、ヌッちゃんはオホホホホ、と笑った。

 異様に不自然に。

 顔にはやっちまったという言葉が書いてあるかのようだった。


「こればっかりは、あたしからは何も伝えられないの。神殿の決まりでね。

 ただ言えることは、もし越界飛鳥についてリッちゃんが知ることが出来ると決まっている人ならば、必ずいつか知ることが出来るわ。

 自然な流れに乗ってね」


「えー! そんなうすらボンヤリしたこと言わないでよー!

 なんとなく、シエラとも関係ありそうな気がしたから言ったのに」


 私は教えてくれなかったのが悔しくなり、ぷんすかと言った。


「え、マジ!?

 なるほど……シエラと越界飛鳥には関係ありかも、と。メモメモ。

 だとすると、シエラは……」


「なになに!?」


「秘密でーす」


「なんでよー!」


「でもさあ、あたし、この前のキャンプに行って、これが正しいことなのか分からなくなっちゃった。

 エリオット氏の、リッちゃんに対する気持ち。

 あたしの想像以上だった、

 もはやちょっとしたホラーよ」


「え? なんのこと?

 まあ色々あったけど、大方いつも通りだったけど。

 エリオットは少し心配症が過ぎるだけだよ」


「ハッ!!

 リッちゃん、正気?

 もしくはおばかさん? アンポンタン?

 あれ、もしかしたらこれも、もしや……?

 いや、ありえる……

 ねえ、リッちゃん。リッちゃんはエリオット氏の『約束』という言葉で血楔病を発症したでしょ。

 あたし思うの。きっとリッちゃんとエリオット氏には何らかの、すっごく強い繋がりがあるのよ。

 その繋がり、リッちゃんは感じない?」


「うーん…………

 感じない。

 エリオットのことは、幼馴染みとしてしか考えられない。

 もちろん、幼馴染みとしてはとても大切な人だよ」


「あの泥棒猫、じゃない、シルビアちゃんがエリオット氏と仲良くなって、結婚しちゃって、なんなら子供を五、六人作っちゃう想像してもなんとも思わない?」


「寂しい気持ちは確かにあるけど、おめでとうって気持ちの方が強いと思う」


「エリオット氏が、もしもリッちゃんに迫って来たらどうする?」


「断ると思う。

 どうしてもエリオットのことをそういう風には見れないし、エリオットと私がそういう関係になったらエリオットが不幸になる気がするの」


 ヌッちゃんは矢継ぎ早に私に質問を繰り出し、すごいスピードでメモを取った。

 そして、「ムフフハフ」と変な声で笑い、目を輝かせながら私に向かって、高らかに、歌うように言った。


「あたし、分かっちゃった。

 リッちゃんには血楔病と、約束が出来ないことのほかに、もう一つ呪いがかけられているのよ!

 エリオット氏のことを愛せない呪いよ!」



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