班分け
シルビアちゃんと、シルビアちゃんによく似た男の人がこちらに近付いて来た。
「あら、シルビア・ティヘラさん。
こんな所で会うなんて奇遇ね。
何しに来たの?」
エミルがなんだかほんの少しトゲのある口調で言った。
「お兄ちゃんとキャンプしに来たの。
せっかくの休息日だし。
そしたらみんな居るんだもん。びっくりしちゃった」
シルビアちゃんはニッコリ笑ってそう言った。
いつものように、その笑顔からは光が溢れている。
「どうも始めまして。
シルビアの兄のハンク・ティヘラです。
学び舎ではシルビアが大変お世話になってます」
シルビアちゃんに良く似た男の人は、シルビアちゃんのお兄さんだった。
なんとなく、そうではないかと思ったけれど。
シルビアちゃんに似ているので、ハンクさんはもちろんイケメンである。それも、超のつく。
髪や瞳の色合いもそっくりだ。
理髪店をやっているだけあって、シルビアちゃんと同じウェーブを生かした、とてもオシャレな髪型をしている。
そして、マリエッタの方を見ている。
ジトーッと、粘着質な目で。
フェルマー兄さん!!
ピンチだよ!!
「あらぁ〜? みなさんお知り合いな感じ?」
ヌッちゃんが皆を見回し言った。
「はい、みなさん、ヴェネラの街に来たばかりの私にとっても優しくしてくれるんです。
私とても嬉しくって。
あの……もし良かったら私達もみなさんの仲間に加わっても良いですか?」
それを聞いて、エリオットとエミルが見るからに嫌そうな顔をした。
エリオットに至っては、肩がびくっと跳ねた。
「ナイスアイディアだな、シルビア!
どうか俺からもよろしくお願いします。
俺もシルビアがお世話になってる方々にお礼をしたいと思ってたんです。
それに、俺自身も皆さんとお近づきになりたいですし」
まーたマリエッタを見ている。
ロックオンだこりゃ。
そして、エリオットのこともチラリと見た。
そうだ、ハンクさんはエリオットがシルビアちゃんに対して学び舎で起こした騒動を知っているのだ。
大丈夫だろうか。エリオットが意地悪されたりしないだろうか。
「どうする?
ってか、この状態で断れる人、手挙げて〜」
ヌッちゃんが、ヒソヒソ声で私達全員の目を見ながら言った。
「…………」
面と向かって断れる人は誰も居なかった。
こうして、シルビアちゃんとシルビアちゃんのお兄さんのハンクさんが私達に加わった。
合計八人の、まあまあ大所帯になったため、四人ずつの二つの班に分かれることになった。
ヌッちゃんがすばやくクジを作り、クジ引きをしたところ、第一班はヌッちゃん、シルビアちゃん、ハンクさん、エリオットで、第二班はエミル、セト先生、マリエッタ、私リシュリーであった。
エミルとセト先生が同じ班になったことに心底安心した。
そして、私も同じ班になれたので、サポートに徹することが出来る。
マリエッタには一応エミルとセト先生をくっつけたい旨は話してあるので、協力してもらえるだろう。
そして、エリオットとシルビアちゃん。
当初これは、エミルとセト先生、フェルマー兄さんとマリエッタをくっつける為のキャンプラブラブ大作戦だった。
しかし、運命の力によってエリオットとシルビアちゃんも、このキャンプによってラブラブへと近付いていくのかもしれない。
運命ってすごいんだな。
しかし、エリオットにシルビアちゃんを近づけると、この前のようにエリオットがブチ切れてしまわないか一瞬心配になったが、今回はハンクさんがいるからきっと大丈夫だろう。
学び舎での一件でベレトお兄さん達が銀のハサミに謝りに行ったことや、銀のハサミが鍛冶屋フェレールの重要な取引先だということを、エリオットもきっとちゃんと分かっているはずだ。
「よーし! 何から始めよっか。
そしたら、四人を二人ずつに分けて進めていくのはどうかな?
一方が野菜を切る係、一方が火を起こしたり、水を汲んできたり、言ってみればもろもろやる係!
私は野菜が切りたいです!」
私はマリエッタをチラリと見た。
マリエッタは私の意図に気付いたのか、ニコッと笑った。
「そうね、なんだか私も今日は不思議と野菜をめちゃくちゃ切りたい気分だわ。
切って切って、切りまくりたいわ」
「よし、決定!
私とマリエッタが野菜を切る係でーす。
さあ、エミルとセト先生はあっちの薪置き場まで一緒に行って薪を割って、持って来るのです」
「あ、はい……
持ってきます」
「行きましょう、セト先生」
エミルはセト先生の腕を取り、薪置き場へと歩いた。
そして私達の方を振り向くと、声を出さずに「ありがとう」と大きく口を動かしてニコッと笑った。
「ありがとう、マリエッタ。
ごめんね、今日はマリエッタにもキューピットになってもらうことになるかも」
エミルとセト先生が薪置き場へと仲良く向かったのを見て、私はマリエッタにそう言った。
「いいのよ、いいのよ。
私実は、人のキューピットになるの大好きなのよ。
レストラン・バンケットでも私がキューピットになって結婚したカップルが沢山いるのよ。
うふふ、任せてちょうだい」
「そうなんだ! とっても心強い味方が出来ちゃった。嬉しいな。
頑張ってエミルとセト先生をくっつけようね」
「ええ、くっつけましょうね」
良かった。とても心強い。
嬉しくなってニコニコ笑っていると、何か視線を感じた。
うっすら気配を感じた方に横目をやると、エリオットがこちらを見ているようだ。
駄目だ、今あっちの方を見てはいけない。
今日は頑張ってエリオットを見ないようにしなければ。
エリオットには少し可哀想だけれど、今日の私はエミルとセト先生のキューピットに徹しなくてはならないのだ。
エリオットと色々と計画を立てたけど、こうなってしまった以上私が一人でちゃんと二人をくっつけるから、安心して。
それに、エリオットとシルビアちゃんをくっつけようとする運命の力の邪魔をしてはいけない。
感覚だけエリオット達の方に向けると、エリオットはシルビアちゃんと何かの作業をしているようだ。
「エリオットー、ここどうしたら良いかなあ?
私不器用で、良く分からなくて」
「悪いね、エリオット君。
シルビアのやつ、甘やかされて育ったから色々分からないことが多いんだ。
理髪師としての腕は一人前なんだがな。
困るよな。
色々教えてやってくれ、頼む」
「…………はい」
「キャッ! ハンク様もあたしに色々教えて!」
なんだか楽しそうだ。良かった。
第一班の賑やかな声が聞こえてくる。
ヌッちゃんが上手いことやってくれてるようなので、きっと大丈夫だろう。
エリオットもハンクさんに意地悪されていないようだ。良かった。
チラッと見てみた。
シルビアちゃんはエリオットのすぐ近くで、カレー作りに必要な様々な段取りをエリオットから教えてもらっている。
上目遣いでエリオットを見上げていて、とても可愛い。
エリオットも仏頂面だが、ちゃんと教えている。
前までと違い、一応普通のコミュニュケーションが成立しているようだ。
きっと、これをきっかけに普通に会話が出来るようになっていくだろう。
距離も縮まっていくだろう。
何かを教えたり教えられたりすることで、それをする人達の間にはきっと強い絆が出来るのだ。
信頼や、愛情と一緒に。
そんな気がした。
「ねえ、リシュリー。
さっきからエリオットがこっちをチラチラ見てて、その目がなんだかゾッとしちゃう嫌な目なのだけれど、大丈夫なのかしら? 体調不良?」
「大丈夫、大丈夫。
マリエッタは知らないかもだけど、エリオットってちょっと目が悪いみたいだから、ああいう目つきになることがたまにあるの。
それより、私達はエミルとセト先生をなんとしてでもくっつけなくちゃ!」
「あら。そうなの。
それもそうね、頑張りましょうね、リシュリー」
私は、今回こそエリオットとシルビアちゃんのお邪魔虫にならないようにしなければならない。
この前の二の舞を踏まないように、あくまで自然に、二人に近づかないようにしよう。
そう心に決めた。




