プロメナリウム海浜公園
「なんでだよ! なんで今日に限って俺は風邪引いてるんだよ!うおー!!」
「しょうがないよ、兄さん。
家でじっとしてないと。
そんな高熱でキャンプなんてしたら死んじゃうかもよ。
ね、エリオット」
「そうだよね、リシュリー。
とても残念だけど体が一番大切だよ、フェルマー兄さん。
死んだら、マリエッタと仲良くなるもなにも出来なくなっちゃうんだから」
「私達が、マリエッタにそれとなーく兄さんのことどう思ってるか探り入れとくから。
そして、兄さんの良いところ沢山伝えとくからさ。
安心して、兄さん」
「うん。安心してよフェルマー兄さん」
「リシュリー、エリオット。お前ら……
ありがとな。
マリエッタに俺の良いところ、たくさん伝えといてくれよな。
自分でも自分の良いところ、良く分からないが」
「優しくて動物に好かれるところ」
「うん。特に動物に好かれることでフェルマー兄さんに勝てる人は居ないよね、リシュリー」
私達は即答した。
「へへっ、ありがとう。
他もあったりするか?」
「…………」
「…………」
私達は押し黙った。
「…………」
フェルマー兄さんも押し黙った。
そして私達は、嘆き続けるフェルマー兄さんを牧場に残し、プロメナリウム海浜公園でのキャンプへと出かけた。
キャンプラブラブ大作戦へと。
パロマが、自分がフェルマー兄さんの看病をしてあげると張り切りまくっていたので、きっと退屈はしないだろう。
風邪が良くなるかどうかは分からないが。
フェルマー兄さんが参加出来なくなってしまったことは残念だけれど、せっかく行くのだからフェルマー兄さんの分もキャンプを楽しまないとね、と思った。
そして何よりも、このキャンプの一番の目的はエミルとセト先生をくっつけることである。
心してこの重要な仕事に取り組まなければならない。
今日の朝もベモット拘禁の儀式をした。
私もエリオットもキャンプが楽しみで、血を奪い終わった後も抱き合いながらキャンプのことをずっと話した。
そして、どうしたらエミルとセト先生の距離を縮められるかも二人で考えた。
エリオットは苦しそうだったけれど楽しそうで、その上なんだか安らいだ表情をしていたので、私もいつもより罪悪感を感じずに済んだ。
動けるようになると、エリオットはいつものように髪を編み込んで結ってくれた。
今日は編み込み三つ編みだ。この髪型だと動きやすいので助かる。
私もエリオットも、今日は動きやすい格好できめた。
しかし牧場仕事用の服では何かが違う気がしたので、動きやすくてカジュアルな感じの服にした。
ヌッちゃんはプロメナリウム海浜公園は温かいと言っていたけど、念のためにマフラーや暖かい下着も何枚か大きなリュックに入れた。
エリオットも同じように動きやすくてカジュアルな感じの服だったが、この前ベレトお兄さんが着ていたのと同じようなファー付きの黒のブルゾンを着ていて、いつもよりカッコ良かった。
聞けば、ベレトお兄さんのお下がりだということだ。
ベレトお兄さんは同じようなブルゾンを沢山持っているらしい。
ヴェネラの街に入り歩みを進めると、レストランバンケットの前にマリエッタが居た。
そこで落ち合ってプロメナリウム海浜公園へと一緒に行くことにしていたのだ。
「リシュリー、エリオット。
おはよう。
あら? フェルマーは?」
「おはよう、マリエッタ。
それがね、フェルマー兄さん、ひどい風邪引いちゃって。本当アンラッキーだよね。
フェルマー兄さん今日のキャンプすっごく楽しみにしてたんだよ」
「あらあら。それはとても残念ね。
でも体が一番大切だから。
キャンプが終わったら何かお土産を持っていってあげましょうね」
マリエッタはいつもと同じように、おっとりとそう言った。
しかし、おっとりとした言葉の中に、残念な気持ちがとてもはっきりと見える。
嘘偽りなく、心からそう思っているのが分かる。
マリエッタの言葉にはいつも心がこもっていた。
いや、心をこめて言葉を発しているといった方が近いかもしれない。
私はそれがマリエッタが人気者の一番の理由だと思っていた。
もちろん、胸の上まであるクルクルとしたキャラメル色のなめらかな髪や、エメラルド色の宝石のような瞳と、おっとり可愛らしい顔立ちもマリエッタの人気の大きな土台だけど。
……あと、見ると安心感を抱く、あの大きな胸も。
ヴェネラの街の大通りを抜け、街から出て少し歩いた所に、プロメナリウム海浜公園はある。
イハの海に沿うように広がる大きな海浜公園で、行ったことは無かったが、その存在はもちろん知っていた。
サンティ=ハイメ神領島に住む人にも、巡礼に訪れる人にも、とても人気の場所であるらしい。
初めて実際にこの目で見たプロメナリウム海浜公園は、とても綺麗な場所だった。そして、温かった。
入口の門の先にはイハの浜辺がどこまでも広がり、それに沿うように、幅の広い遊歩道がずっと奥まで続いている。
その遊歩道には、等間隔にヤシの木が植えられていて、どれもとても大きく育っている。
遊歩道の海辺とは反対側の方には、芝生やいくつもの小さな庭園があり、アルコの丘やヴェネラの街ではあまり見かけない、南国風の花々や低木がきちんと手入れされてプロメナリウム海浜公園を明るく飾っていた。
この植物達も、地中にある溶岩の道の影響を受けてこんなに鮮やかに育っているのかも、と思った。
遊歩道をしばらく進むとキャンプ場があった。
浜辺がそのままキャンプ場になっている感じだが、なかなか広く、水回りや薪置き場などの設備もしっかり整っていた。
そして浜辺なのに、なんらかの整備がされているのか歩きやすかった。
「リッちゃーん!
こっちよ、こっち〜」
見ると、ヌッちゃんが居た。
いつもは白くて上下がつながっているワンピースのような神官服を着ているが、今日はありえないほどカラフルな服を着ていた。
全ての色が違うパズルがプリントされているような服だ。上下とも。
ヌッちゃんの服の好みが分かった。
そして、数秒遅れてエミルとセト先生も居ることに気付いた。
ヌッちゃんのファッションに気を取られていて気付くのに遅れてしまった。
エミルはいつも通り色っぽく微笑んでいた。
セト先生は手をモジモジさせていた。そして、エミルの方をチラッチラッと見ている。
これはもう確定だ。
「エリオット、これは……」
「もう、あとほんのちょっとって感じだね」
二人で顔を見合わせ、ニヤニヤしてしまった。
私達はヌッちゃん達と合流し、マリエッタのためにそれぞれの自己紹介をした。
そしてとりあえずやはりキャンプといえばカレーということで、みんなでカレーを作ることになった。
材料や鍋などの道具は、ヌッちゃんが何から何まで揃えておいてくれた。
ヌッちゃんはもしかすると、司書としてだけではなくあらゆる仕事が出来る人なのかもしれない。
そしてみんなで役割分担を決め、段取りを確認して、カレー作りに取り掛かろうとした時、元気な声が聞こえてきた。
「あれ? エリオット!
リシュリーちゃんやセト先生も居る!」
見ると、シルビアちゃんと、シルビアちゃんに良く似た、フェルマー兄さんやマリエッタと同じくらいの歳の男の人が居た。




