キャンプラブラブ大作戦
「え、セト先生、恋しちゃってるの!?」
どうしよう、エミルにライバル出現?
エミルはあんなにセト先生のことが好きで、セト先生を養いたいと言っているのに。
エミルの恋を応援していた私からしても、それは心配な情報だった。
「そうなのよ。あたし達、この神官養成学校の敷地内にある神官宿舎の同じ部屋に一緒に住んでるんだけど、もうバッレバレなの。面白いわよ〜」
「え、どんな風に!?
恋してる相手は誰だか分かる!?」
「ちょっと、リッちゃんどうしたの。
そんなに目を見開いて。
瞳孔開いてるわよ」
「いいから、いいから」
「あれはねー、多分学び舎の生徒よ。
だってさ、ため息ばっかりついて、ちょっと座っては立ち上がり、『罪深い……』とか、『この気持ち、どうしたら……』とか呟いててさ。
面白いけど、ちょっとウザーい。
ウザ面白いって感じよ」
ん? これは、もしかすると?
良い予感が心の中を駆け巡る。
「あのさ、ヌッちゃん。
学び舎の生徒と、先生の恋っていけないことなの?
生徒がもう成人年齢の十七歳になっていても?」
「別に、相手が成人年齢を迎えていれば、いけないことないわ。大人同士ですもの。
そりゃ、とっかえひっかえ生徒に手を出しまくるとかは論外だけど。
真面目な交際なら、別に悪いことないわ。
実際、学び舎の生徒と結婚した人も居た気がするし。
だけど、セトって超クソ真面目なのよ。
あたしの弟だとは思えないくらい。
融通きかないの。全く。
だから、生徒ってだけで罪悪感感じてるんだと思うわ」
「あのね。これは一応、私達だけの秘密にして欲しいんだけど、私の親友のエミル・エドラって子が、セト先生のことが大好きなの。
私としては、なんとか二人が結ばれればなーって思ってるんだけど。
光沢のある長い黒髪で琥珀色の目の、色っぽい美人なんだけど」
「多分その子よ!
なんか秋に、果樹園に学び舎の生徒達と行った時の写真を大事そうに持ってるんだけど、多分そのエミルって子とセトが隣同士で仲良く写ってるの。
それをさー、毎晩恋する瞳で見つめちゃって。
ぷぷぷ。面白いったらなんのって」
やった! やったぞ!
多分セト先生が恋している相手は、エミルだ。
エミルの願いが叶ったんだ。
良かったねエミル。本当に良かった。
あれ。でも、この前エミルから届いた手紙には、最近セト先生が冷たい気がするって書いてあった。
再誕日のデートに、なんとしてでも誘おうとしてるのに、上手いことはぐらかされてしまうとも。
しかし、必ず仕留めるとも書いてあった。
エミルらしい。
私はそのことをヌッちゃんに話した。
「なるほどねー。
両想いなのに、セトのクソ真面目さが邪魔してるってわけね。
バカねー」
「なんとか出来ないかな。
エミルは絶対諦めないから、なんかもの凄い手段を使っちゃわないか心配」
「エミルって子、一体……
そうね。あたし達が二人の為に出来ること、何か探しましょ。
それに、あたしもちょーっと気になってることがあるから、それも一気に解き明かせればね」
ヌッちゃんの言葉は、最後の方がボソボソ声になり、なんて言ったのか良く聞こえなかった。
「え? なになに?」
「なんでもなーい!
あ!あたし、良いこと考えついちゃった。
みんなで、休息日にプロメナリウム海浜公園に泊まりがけでキャンプに行くっていうのはどう?
それで、あたしとリッちゃんが上手いことやって、二人をくっつけるの。
少ない人数だと、セトがキャンプの意図に気付く可能性があるからさ、あたし達の他にも何人か誘ってさ」
「良いね。 その作戦大賛成!
でも、冬のキャンプって寒くないかな。
誰か弱っちい人が死んだりしない?
例えば私とか」
「あら、知らないの? リッちゃん。
プロメナリウム海浜公園は、ちょうど下に溶岩の道が通っているから温かいのよ。
足湯もあったりして、冬にこそうってつけの場所なんだから」
「そうなんだ。
プロメナリウム海浜公園って、ヴェネラの街から少し離れてるから行ったことなくて、知らなかったよ」
「もったいなーい。
ヌッちゃん的サンティ=ハイメ神領島オススメスポットベストスリーには必ず入るわ。
嫌なことがあった時、プロメナリウム海浜公園の遊歩道を全力のスキップで駆け抜けるの。
泣きながらね。
そして、足湯につかる。
そしたら、悩みなんて飛んでっちゃうんだから!」
「へー、私もやってみたいな。
そしたら、誰を誘う?
もちろんエリオットは誘うでしょ。誘わなくても多分ついて来るけど……
あ!フェルマー兄さんと、マリエッタっていう人を誘っても良い?
そこも今カップルになりそうな感じなの」
「良いわね! ぜひぜひよ!
あとは、あたしがちょっと考えとくわ。
……上手いこといけば、大きなヒントが見つけられるかも……」
また、最後がボソボソ声だ。
「こらー。 ボソボソ声で喋るの禁止!」
「てへっ。ごめんごめん。
でもさ、よく考えたらリッちゃんの約束が出来ないっていうのも、不思議なことよね。
こうして遊ぶ予定の取り決めとか、言ってみれば事実上の約束よね。
それについては出来る。
でも、『約束』という言葉を交わすことは絶対に出来ない。難儀〜」
「そうなの。『約束』をしようとすると、『約束』って言葉が封じられるみたいな、縛り付けられるみたいな、そんな感覚になるの。難儀〜。
エリオットの時はもっと酷かったけど。
そういえば、あの時は色々イレギュラーだったな」
「なぁるほどね〜……
あ!リッちゃん、もうこんな時間。
エリオット氏のお迎えの時間よ。
あたしも挨拶にいくわ。
イケメン成分の補給が出来るからねん」
エリオットには、ヌッちゃんのことは話していた。
万が一大図書館で生命力が枯渇してしまった時のことをエリオットはとても心配していたから、知り合いになった人がいて、尚且つその人は血楔病についてジャイム様から話を聞いていると言えば、一応安心させられるかなと思ったのだ。
それに、なんだか新しく友達が出来たのにエリオットに言わないのは不自然な気がした。
ヌッちゃんの話を最初にした時、エリオットは少し警戒していたようだけど、ジャイム様が信頼を置いている人だということ、そしてヌッちゃんの人柄を詳しく話して聞かせたら、なんだか大丈夫だと思ったようだった。
そして実際にヌッちゃんに会うと、意外にも少し仲良くなっていた。あの人嫌いのエリオットが。
私達二人で血楔病を治す方法を探っていることは、もちろん言ってはいなかったが。
大図書館の前でヌッちゃんとバカバカしい話をしてエリオットを待っていると、左からエリオットが走ってきた。
今日はとても調子が良さそうだ。
そういえば、朝ベモット拘禁の儀式をした後、目の下のクマも綺麗に消えていた。
やはり、"供物"への対価エネルギーというものは確実にあるようだ。
「リシュリー! お待たせ。
ヌトさん、今日もリシュリーを気にかけて下さって、ありがとうございました」
「いやーん! いいのよ! 気にせんといて!
キャッ。エリオット氏〜、今日もイケメンね。
今日もリシュリーちゃんは、エリオット氏を良い子にして待ってましたよ。
美人保育士のあたしが、ちゃんと見てましたからね。
あ、あとね、リッちゃんから詳しく話があると思うんだけど、今度みんなでプロメナリウム海浜公園にキャンプ行かない?
そこで、あたしの弟のセトと、エミルちゃんって子をくっつけようって作戦なの。
ほんとはジャイム様も連れてきて、あたしもくっつきたいんだけどね」
「そうなの、エリオット。
フェルマー兄さんとマリエッタも誘おうと思ってるんだ。
そしたらあの二人も距離が縮まりそうじゃない?
題してキャンプラブラブ大作戦だよ」
「それ良いね!
キャンプなんて僕達行ったことないし、二組をくっつけさせるのもすごく楽しそう。
今から楽しみになってきた。ね、リシュリー!」
エリオットが楽しそうにニコニコと笑っている。
良かった。
あの門外修羅場事件が起きてから、エリオットは何かを思い詰めているような感じで調子が悪そうだったけれど、今はとても調子が良さそうだ。
「いえーい、決定ね!
楽しみ〜。じゃあ、あたしはここでドロンするわ。
またね〜」
「またね、ヌッちゃん」
「さよなら、ヌトさん。また」
私とエリオットはヌッちゃんに手を振って、いつものように手を繋ぎ、神官養成学校の正門へと向かった。




