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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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冬の訪れ

 冬がやって来た。

 ピクニックの日に見た分厚い灰色の雲が示していた通り、例年より冷たく、春まで厳しい寒さが続きそうな冬だった。

 それでも、私は冬が大大大好きである。

 母さんやエリオットと一緒に編んだマフラーを巻いてモコモコになって出かけたり、温かい飲み物を自分だけのとっておきの配合で作って暖炉の近くで飲んだり、動物達のために冬用の防寒着を作ってあげている時、この上ない幸せを感じる。

 外が寒く厳しいからこそ、いかに暖かく快適に過ごせるか考えるのが好きだった。


 そして、冬と言えば、エリオットと私の誕生日がある季節だ。

 私達は二人とも、太陽が地上を照らす時間が一番短くなる日である、再誕日の一週前の週に一日違いで生まれた。

 私の方が一日先に生まれたので、実は私の方が一日だけ年上である。一日だけ、だけど。

 と言っても、私の出生時間はあと十分くらいでその日が終わるという夜中に近い時間で、一方エリオットは、私が生まれた数十分後に生まれたらしい。

 なので、一応日付は違うけれど、実際の出生時間は一時間も変わらない。


 そのため、いつも一緒に誕生日を祝っていた。

 一応エリオットが生まれた日、私が生まれた日、と一年ごとに日を交替させながら誕生日パーティーを行っていて、今年はエリオットの誕生日の日に私達の合同誕生日パーティーは行われる予定だった。


 毎年お互いに誕生日プレゼントを交換しているが、いつもこの時期になると、今年は何をプレゼントしようか悩む。

 でも、大切な人に何をプレゼントしようか悩むというのは、贅沢で幸せな悩みだ。


 去年は手編みの手袋をあげたから、今年は編み物じゃない方がいいかな?

 でも編み物以外、あまり思いつかない。

 私はエリオットほどには手先が器用とは言いがたい。

 ……つまり不器用である。

 なので編み物も、いつもやっとのことで完成させていたが、エリオットが物凄く喜んでくれるので毎回頑張って編み物をあげていた。

 そういえば、エリオットと友達になってお互いに誕生日プレゼントを交換するようになってから毎回ずっと編み物をあげている気がする。

 エリオットがくれる誕生日プレゼントも、そういえば毎回編み物だ。

 よく考えてみるとこれでは、誕生日プレゼント交換という名の、お手製編み物交換会である。

 なんとなく、ヴェネラの街の商工会館でたまに開催されている、素敵に歳を重ねた貴婦人達の趣味の集いの会みたい、と思った。

 みんなで作った手芸作品をみんなで交換し合う会で、とても平和で素敵な会なのだ。

 

 うん、やっぱり今年も編み物にしよう。

 ここまで来たら、もう編み物以外の選択肢は無い。

 エリオットはここ最近またどんどん成長してるから、セーターにしても良いかも。二年前もセーターだったけど。

 でもエリオット、あのセーターばっか着てだいぶボロボロになってたし。

 そういえば学び舎に行く時は、特にあればっかり着ていたっけ。

 着るものの替えは何着あっても良いだろう。

 よし、セーターを最有力候補としよう。



 今日は久しぶりに学び舎に行く日だった。

 昨日瞳の色が白銀色に戻ってしまって、ベモット拘禁の儀式をしたのだ。

 最近、エリオットはあの儀式が終わった後、倒れこんでも離してくれなくなった。

 プラタス果樹園に行った日の朝の時のように。

 いつも一時間くらいそのまま抱き合っている。


 エリオットによれば、血を飲み終わった後も抱き合っていた方が、くっつけたおへそからエリオットの生命エネルギーがより私に入っていく気がするらしい。

 そして、私からの対価エネルギーもエリオットにかなり多く流れてくる感じがするから、こうしていた方が良い、ということらしい。

 確かにそういう風にするようになってから、エリオットの肌や髪が前より更にツヤツヤと美しくなっている気がしたから、効果はあるのだろう。


 だけど、最近儀式の時のエリオットの苦しみ方が前より酷くなってきていた。

 血を奪っている時、すごい力で震えながらしがみついてくるのだ。

 倒れこんだ後もしばらくは私を抱きしめながら震えている。

 たまにだが、意識が半分くらいどこかに行ってしまっている時もあって、とても心配だ。

 そして、夜になって自分の体を見ると、あの太い蔓のようなアザが出来ていることが増えた。

 

 そしてそれを見るたび、私はあの決心を固くするのであった。

 その名も、血楔病を治す手掛かり見つけるぞ大作戦、冬。だ。

 この作戦を遂行し、成功させなければ、ならない。

 最近勇ましい気持ちでいるからか、バンダーとミグラの戦士っぽい口調が移ってきていた。


 バンダーとミグラはまだ相変わらず戦士っぽいのにハマっている。

 最近なぜかロバのケトラ夫妻のフワフワの背中の毛を引っこ抜くことにハマっているグレ雄鶏ハテに怒りの鉄槌を下そうとしては、返り討ちに遭っていた。

 なので、今度私が二人の上官になってあげようかと思ってるくらいだ。

 

 そしてもうすぐ、私の一大作戦を成功させるために必要不可欠な、エリオットが出席予定の神官養成学校での特別講義が始まる。

 ついに、作戦が始まるのだ。

 上手くやる方法は色々とシミュレーションしていたが、いよいよその日が近づいて来ると、武者震いというかワクワクするというか、今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じるのであった。

 


 もうすぐエリオットがやって来る時間だ。

 その前に、着替えを済まさなければ。

 エリオットも誕生日に編み物をプレゼントしてくれたが、誕生日以外の日にもちょっと作ってみたから、とそれらをプレゼントしてくれた。

 そのため、私のセーターとマフラーのコレクションはかなり豊富になっていた。

 そして、そのどれもに、髪留めに刻まれているのと同じエリオットの紋章が綺麗に編み込まれていた。

 ……本当に器用だね、エリオットさん。

 前に、私がなにか模様を編み込もうとしたところ、失敗して落ち込んでいたら、とても慈悲深く聖なる感じの笑顔で慰めてくれたっけ。

 頭まで撫でられて、なんだかバカにされた気がしてほんのちょっぴりムカついてしまったのだった。

 

 そんなことを思い出しながら、水色のセーター(エリオット製)と、茶色と黒のタータンチェックのロングスカートに着替えた。

 


 いつもと同じように、エリオットがやって来た。

 いつもと同じようにノックされ、部屋の中に入って良いか聞かれる。

 そして、いつもと同じように、あのザワザワとした感覚を感じる。

 部屋の扉の向こう側にエリオットが居ると思うと、そのザワザワは強くなる。

 だから、何も考えないようにして深く息を吸う、そして吐く。

 そして、いつもと同じように笑顔で扉を開ける。

 エリオットは私の顔を見ると、いつも同じようにとても嬉しそうに笑って、おはよう、と言う。

 そして、調子はどう?と聞く。

 私は、大丈夫だよ、と答える。

 エリオットはなぜか少し寂しそうに、良かった。と答える。

 いつもと同じように一日が始まっていく。


 でもきっと変えてみせる。

 牧場にいる日も、学び舎に行く日も、もうエリオットを縛り付けなくてもいいように。

 もうどんな痛みも苦しみも、エリオットに与えずに済むように。

 この冬は、とても重要な冬に、なるだろう。

 

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