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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第一章 一番熟れた甘い果実
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サンティ=ハイメ神領島

 アルコ牧場を出て、アルコの丘からヴェネラの街へと続くアルコの道を、エリオットと手を繋いで歩いていく。

 ここはなんでも、アルコ、アルコ、アルコ。アルコだらけである。おじさんのアルコ、双子のアルコもいる。ちなみに犬のペロ・アルコもいる。

 私もリシュリー・アルコで、その沢山のアルコの中の一つだ。


 父さんから聞いた話しでは、父さんの祖先が巡礼の旅にやって来た時にアルコの丘をとても気に入り、家族みんなで移住してきて、アルコの丘から名前を貰ってアルコ牧場を始めたという。

 その時、ファミリーネームまでアルコに変えてしまったそうだ。

 でもアルコという言葉の響きはなんだか可愛い感じで私はとても気に入っていた。

 

 丘の中腹にある鍛冶屋フェレールの横に差し掛かるとエリオットのお父さんのカルボおじさんが、工房の中の炉の前で火をおこして調節しているのが見えた。

 おーい、と二人で手を振ると、優しい笑顔で二コニコと手を振り返してくれた。

 カルボおじさんは、さすがエリオットのお父さんだけあって、エリオットをさらに優しくしたような人だった。


 血楔病のこと、そのせいで私が一生エリオットから血を貰わなければならないことを、父さんと母さんが泣きながら説明したあの時も、エリオットが良いと言っているのならそれを尊重します、と言ってくれた。

 そしてその後も私のことを怪物扱いせず、エリオットの幼馴染みとして人間らしく、優しく扱ってくれた。

 ちなみにエリオットの三人のお兄さん達も、ムキムキだけど、みんな優しい。

 エリオットのお母さんはエリオットが生まれて数年して亡くなっているから会ったことはないけど、きっととても優しかったのだろうと思う。


 鍛冶屋フェレールの少し先からカーブしている道の先まで行くと、丘の下に、白く輝くヴェネラの街と、その先に広がるエメラルドグリーンのイハの海が見えた。

 今日はイハの海の浜辺からその先の陸地へと続いている、潮の満ち引きで現れたり消えたりする、海の道も見える。いつも見れるものじゃないのでラッキーだ。

 ヴェネラの街から西の方角に少し離れた丘陵にそびえるレナトゥス大神殿もいつも通り荘厳である。


 ここから見える、私達が住むサンティ=ハイメ神領島の眺めは、変動の大きい私の好きなものベストテンに必ずランクインしているくらい、素敵で大好きなものだった。


 ヴェネラの街の建物の外壁や道路には、イハの海でたくさん取れるヴェネラ貝の貝殻を主な成分とした白い塗り壁が使われているから、街全体が白く輝いて見える。

 それはイハの海のエメラルドグリーンと相性抜群で、特に晴れた日に街も海もキラキラと輝いているのを見ると、こんなに綺麗な眺めは他にあるわけないと思うくらい美しい街だといつも思う。


 そして、このサンティ=ハイメ神領島は世界に数ある聖地と言われる場所のうちの一つであり、巡礼者がたくさん訪れる。

 魂からの信仰心で、命をかけた旅の果てに訪れる巡礼者も居れば、半分観光気分で訪れる巡礼者も居る。

 特に信仰心は無いが、有名だから来てみたという純粋な観光客も結構居る。

 そのため、ヴェネラの街は観光の街としての側面も待っており、美味しいヴェネラ貝料理を出すレストランや、様々な果実酒とおつまみを出すバルや、エミルの家がやってるような土産物屋がたくさんあり、そこを訪れる人々で街はいつも楽しく賑わっていた。

 確かに聖地と言うにはちょっと世俗的過ぎる気もしたけれど、その雰囲気も私は良いものだと思っていた。

 あまり行ったことは無いけれど、レナトゥス大神殿へと続く丘陵の道は、まさに巡礼の道といった神聖な雰囲気の道だった。


 私は誰かに呪われて無理矢理この世界に生まれさせられた、ということだったけど、その誰かに感謝しても良いくらいこのサンティ=ハイメ神領島の人や物の全てが大好きだった。

 天国があるって大人は子供達に教えるけど、ここ以上に良い場所ってあるのだろうか、と思うくらい。

 これで血楔病と約束が出来ない件さえ無ければ、もはや言うことは無い。私にとってここは天国だと思う。

 

 でも、もし、もしも、巡礼の旅に出るとしたら、ここではないだろうなと思った。

 丘を降りて島を一周しても、ただの近所の散歩に太い毛が生えたようなものな気がするからだ。

 朝家を出て、夕ご飯までに帰ってくる。

 それは巡礼の旅とは言えないような気が、する。


 そのままアルコの道を下っていく。ゆるやかな坂になっている。

 その途中でふと思いついたことをエリオットに話した。


「ねえ、エリオット。最近ガチョウのピートを見てるとね、どうやら自分が飛べると思ってるみたいなの。

 ちょっとした段差があるところで練習してるのを良く見かけるんだ。

 それで今思いついたんだけど、この下り坂を走らせたら思い込みの力で飛べるんじゃない」


 何かがツボに入ったらしく、エリオットは呼吸困難になるくらい笑っていた。


 そうこうしているうちに、ヴェネラの街に入り、学び舎へと向かう。

 大通りを歩いていると、エリオットが目だけ動かして何か、もしくは誰かを警戒している。

 綺麗な形の眉をひそめて、牧場では見ることが出来ない怖くて緊張した感じの顔つきになっている。

 

「どうしたの、エリオット。

 何か警戒してる感じがするよ。変な人でもいたの?」


「なんでもないんだ。大丈夫だよ。

 はぐれるといけないから、手をちゃんと繋いでて。

 もしはぐれても、絶対見つけるけど」


 そうふざけた感じで言ってはいたが、異様な雰囲気だった。

 エリオットは前から、ヴェネラの街に居る時にこういう風になることはあった。

 しかし、前はここまででは無かった。

 ここ最近はこっちが心配になるくらい、何かに怯えている感じがする。

 一体何をそんなに恐れているのだろうか。

 私の割と鋭い勘通り、ある誰かに会うことだろうか。

 でも、そうだとすると、どんな理由でその誰かと会いたくないのだろう。

 いつも一緒にいるけど、エリオットについてよく分からないことは結構あるのだった。

 

 いつもより少し距離が近い気がする。

 これなら確かにはぐれないだろうが、そんなに体をくっつけられたら秋とはいえ暑い。

 少し離れようとしても引き寄せられる。

 エリオットは力がかなり強いので、一度引き寄せられると中々離れられない。


 あーあ、誰かに見られたらまた何か言われるよ、と思った。

 そして悲しいことに、賑わう大通りはそのまま学び舎の門の前まで続いているため、学び舎の生徒達にジロジロ見られながら、私達はそのままの近さで校舎へと入っていったのだった。

 

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