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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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エリオットの猛追

 馬車の窓の向こう側には無数の蔓が張り付き、蠢いている。

 蔓の見た目はこれまでよりも毒々しさやグロテスクさが増していた。

 生々し過ぎる生命力の強さのようなものを感じる、恐ろしい外見だった。


「うわっwww すげぇ術だなこれwww

 いや、そもそもこれは術なのか?www

 術というよりも、魂の一部を変化させてるって感じか?www

 もしくは、変化してしまっている?www

 興味深ぇなあ、おいwww」


 ジュードさんが、蔓をまじまじと見ながら言った。


「ジュードさんにもこの蔓が見えてるんですか?」


 私はジュードさんのマントの中から少しだけ頭を出して言った。

 なんだか自分がカンガルーの子供になったように感じた。


「はいwww ばっちり見えてるっすよwww

 こんなのにずっと無理矢理絡み付かれて、生命力吸い取られ続けてただなんて、リシュリーさんもお気の毒様っしたねwww」


 すると、蔓が窓を激しく何度も殴りつけた。

 ジュードさんの言葉を聞いて怒り狂っているかのようだ。

 なんとかして窓を壊し、ジュードさんを攻撃しようとしているように見える。

 蔓からジュードさんに対する明確な敵意を感じた。


「うわwww 怒ったwww

 しかしこっちも、退くわけにはいかないんすよwww」


 ジュードさんはそう言うと、あの古い言葉で呪文を唱え始めた。

 すると馬車の窓に黄色く輝く六芒星が浮かび上がった。

 そしてその黄色い六芒星の輝きに触れた蔓は、石化しボロボロと崩れ落ちていった。

 窓から再び外の景色が見えるようになった。

 

「フフフwww 自分にかかればこんなもんすよwww フフッww

 呪縛蔓、退散!www

 お、呪縛蔓ってなかなか良いネーミングセンスじゃないっすかね?www

 リシュリーさんを呪って縛ってる蔓だから、呪縛蔓www

 リシュリーさん、これからこの蔓のこと呪縛蔓って呼びましょうwww 決定www」


 しかし呪縛蔓が消えると、今度は私の左手に異変が起き始めた。

 最初に感じたのは、優しく包み込まれているような、強く手を繋いでいる時のような、そんな感覚だった。

 安心感と同時に、ほんの少しの煩わしさも感じるような。

 それはいつもエリオットと手を繋いでいる時に感じていた、慣れ親しんだ感覚だった。


 だが次第に薬指に圧迫感のようなものを感じ始めた。

 いつものような締め付けの痛みは無い。

 しかし痛みこそ無いものの、いつもよりもそれは、複雑に、強く私の薬指に絡み付いている気がする。

 なかなかそれをほどくことが出来ないうちに、より複雑に、より巧妙に、より深く絡みつかれ、最後には全て絡め取られていくような。

 まるで、真綿でゆっくり包み込まれながら締め殺されていくような。


 私は自分の左手薬指を見た。

 すると、そこにあるアザはいつもの朱の色では無かった。

 そのアザは、深い海のような色だった。

 それはエリオットの瞳の色と同じ、紺碧の色だった。


 そして、エリオットの声がどこからか反響するように聞こえてきた。



「僕のリシュリーから離れろ

 僕のリシュリーから離れろ

 僕の婚約者から離れろ!!」



「えwww ちょwww

 いや、誤解っすよwww

 自分とリシュリーさんじゃ、歳いくつ離れてると思ってんすかwww

 流石の自分も、そういう趣味は無いっすよwww

 自分はもっと色黒で健康的な感じの子がタイプっすwww

 だから安心して下さい、エリオットさ……ってアチチチチチチ!www」


 ジュードさんが突然、何か熱い物に触れて火傷した時のような身振りをしだした。

 左手を私の肩からバッと離し、必死にバサバサと振っている。

 そしてニヤニヤした顔のまま、懸命に左手に向かって息をフーフー吹きかけている。

 その姿は、鷲がダンスを踊っているようだった。

 ……いけない。この緊迫した状況で決して感じてはいけない類のことを感じてしまった。

 しかし、心の底から面白く感じる。


 だがそんな気持ちは、再び聞こえてきたエリオットの声によってすぐさまどこかへ吹き飛んでいった。


「リシュリー……

 嫌だよリシュリー

 僕から離れていかないで

 僕以外の男を見ないで

 扉を開けて、この扉を開けてよ、リシュリー……」


 エリオットの声が、頭の中に反響する。

 とても悲しくて、とても切実な声だ。


「扉を開けちゃダメっすよ!www

 リシュリーさん、絶対に扉を開けないで下さいwww 物理的にも、心理的にもwww」


 バサバサ、フーフーしながらも、馬車の扉を自分の体で覆い隠すようにしながらジュードさんが言った。


「ねえジュード様、さっきから一体何が起こってるんですか!?」


 ヌッちゃんが言った。

 おそらくヌッちゃんには蔓が見えないのは勿論のこと、エリオットの声も聞こえていないのだ。

 というより、おそらくこれらを感知することが出来ているジュードさんの方がすごいのだ。


「リシュリーさんが逃げていくのを、エリオットさんが本気で止めにかかってきたんすwww

 エリオットさんは今、リシュリーさんの心になんとかして侵入しようとしてるっすwww

 リシュリーさん、今が正念場っすwww

 自分を強く持って下さいwww

 アチ!www アッチチチwww」


「はい。ありがとうございます、ジュードさん」



「リシュリー……

 その男と喋らないで……

 その男に体を触らせないで……

 リシュリーに触って良いのは僕だけ

 婚約者の僕だけ

 僕達は婚約してるんだ

 扉を開けて……扉を開けて……

 愛してるよリシュリー……愛してる」

 

 

 その声から、なんとかして私の心の一番奥まで入ってこようとする強固な意志を感じた。

 なんとかして拒まなければならない。


「エリオット、ごめんね。

 扉を開けることは出来ない」


 しかしそう答えた瞬間、ものすごい目眩を感じた。

 頭の中に渦が出来て、その中に吸い込まれていくような目眩だ。


「うっわwww 答えちゃいけないタイプのやつだったかwww

 リシュリーさん、気をしっかり持つっすwww

 リシュリーさんの方から開かなければ、リシュリーさんの心の扉は決して開くことはないっすwww

 心の扉っていうのはそういう風に出来てるっすwww

 心の扉は外開きタイプなんすよwww

 つまり、リシュリーさんが許可しなければ、エリオットさんは中に入ってくることは出来ませんwww

 あっつい!www あっつ!!www」


 ジュードさんのその言葉を聞きながら、私は渦の中へ吸い込まれていった。


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