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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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ジュード

「いやーwww

 はっちゃめちゃにでっかい蛇さんっすねwww

 あれ? そちらで金色に光ってるのは、ステラさんじゃないっすかwww

 どしたんすかwww そんなにピカピカ光っちゃってwww 発光www」


 その男の人は、フェルマー兄さんほどでは無いが、かなり背が高かった。

 そしてフェルマー兄さんよりもだいぶ脚が長かった。

 そのスラリと長い脚を颯爽と動かし、相変わらず語尾にwをたくさんつけながらこちらへと近付いて来る。


「いやーwww 驚きましたよwww

 自分、ただリシュリー・アルコさんを迎えに来ただけなのにって、あいたたたたた!!

 ちょwww やめて下さいよステラさんwww

 噛むのをやめて下さいwww 痛いっすwww」


 その言動にムカついたのか、金色になったステラが男の人のすねに猛然と噛みついた。

 ステラの顔には、こいつマジムカつく、と書いてあった。

 そしてその男の人は痛いと言っていたが、その口調のせいか全く痛く無さそうに見えた。


「あの、あなたは……?」


「おっとwww 自己紹介が遅くなってしまってすみませんwww

 自分、ジュードっていいますwww 以後お見知り置きをwww

 いやーwww それにしても、想像してたより白いっすね、リシュリーさんwww 真っ白じゃないっすかwww

 って、痛い痛い!! ステラさん、噛むのをやめて下さいよーwww」


 ステラはまだジュードさんに噛みつき続けていた。段々鼻息が荒くなって、目も血走ってきている。

 しかし、ステラの気持ちも分かる。

 なにかこう、害意のようなものは全く感じられないものの、ジュードさんの言葉には人を絶妙にムカつかせる何かがあった。

 語尾にたくさんついたwのせいだろうか。

 というか、wって何なのだ。


「こちらこそ、どうぞよろしく。

 あの、ジュードさん。なんでジュードさんの言葉の語尾にはwが付いてるんですか?

 そのwって何なんですか?」


「あ、これっすかwww

 これを語尾に付けると、なんかこう陽気な感じがでるんすよwww

 ほら、楽しい感じになるでしょwww

 リシュリーさんも真似していいっすよwww

 ってもう! 痛い痛い! そろそろ、本気でやめてくださいステラさんwww

 折れちゃうwww そろそろ本気で折れちゃうwww」


 その言葉を聞いて、ステラはやっとジュードさんのすねから口を離した。

 ステラが噛んでいた部分はズボンが若干破れていた上、破れた部分から見える素肌にはステラの歯形がくっきりとついていた。

 そうか、wにはそういう意味があったのか。

 確かにwを付けることで、陽気な感じにはなる。

 でも真似するのはやめておこうと思った。


「ジュードさんは、神官様なんですか?」


「いやwww 自分は神官じゃないっすwww

 自分、こう見えて色々出来るんで、神殿に力を貸してるって言い方が一番しっくりくる感じっすかねwww

 ジャイムさんと同じような感じっすwww」


「へー。ジュードさんてすごいんすね」


 おっといけない、ジュードさんの口調が移ってしまった。

 というか、本当にジャイム様と同じような感じだとするのなら、ジュードさんって相当すごい人なのでは?

 気軽にさん付けで呼んではいけない人だったりして。


「すみません。軽々しい口をきいてしまって。

 ジュード様ってお呼びした方が良いでしょうか?」


「いやいやいやwww 自分、そういうの苦手なんでwww

 気軽にジュードさんって呼んでくださいwww

 なんなら、ジュード、ジュンジュン、ジュド吉、どんな呼び方でもオッケーっすwww」


「じゃあ、ジュードさんってお呼びします。

 あの、神官じゃないジュードさんがどうして私をアイオラス海中湖神殿から迎えに?

 そして、アイオラス海中湖神殿は何の用があって私を呼んでるんですか?」


「それはっすね、自分がいないとリシュリーさんは無事にアイオラス海中湖神殿まで辿り着けないんでwww

 多分ヤバいことになっちゃうんでwww

 巡礼の旅どころか、一生牢屋みたいな部屋に閉じ込められて外に出られなくなっちゃうんでwww

 あの世界線はヤバイっすよねwww

 まあ、あっちの方が正規ルートっちゃ正規ルートなんすけどねwww

 そんで、なぜアイオラス海中湖神殿がリシュリーさんを呼んでるかっていうのは」


 ジュードさんがそこまで言ったところで、ヌッちゃんが戻って来た。


「ハサミ持ってきたわよー!

 あら? そこにいるカギ鼻イケメンはジュード様じゃない! 

 ねえリッちゃん、前に信頼出来る神官にリッちゃんのこと話しても良いかって聞いたでしょ?

 その後リッちゃんのことを何人かに話したんだけど、そのうちの一人がジュード様なの。

 ジュード様は神官じゃないけどね。

 それはそれは、もんのすごい力を持ってらっしゃるすごいお方なのよ!」


「いやーwww ヌトさんwww

 誉め殺しっすか?www

 まあそれほどでも、あるかなwww」


「ヌト、早く金色の羊の毛のお守りを作ってしまいなさい」


 ジャイム様がヌッちゃんに続いて、丈の長い草の中から出て来た。

 いつもに比べ、どこか表情が固い。


「あ、ジャイムさんwww

 お久しぶりっすwww」


「ああ。久しぶりだな、ジュード」


 声もなんとなく強張った感じだった。

 ジャイム様は確かに厳しい人ではあるが、こんな風に人を敬遠するような雰囲気やそぶりを見せることなど決して無かった。

 どのような人でも、懐を開いて温かく迎え入れるのがジャイム様だった。

 こんなジャイム様は初めて見た。

 人を自分のテリトリーに入れないように、遠ざけようとするジャイム様は。

 まるでジャイム様ではなく別の人のようだと、そんな風に思ってしまうくらい、ジャイム様らしくない。

 一方のジュードさんは、ジャイム様のそんな様子など一向に気にしていない様子だった。

 単に気付いていないだけかもしれないが。


「リシュリーちゃん、今のうちに家に戻って荷物をまとめるんだ。

 これからアイオラス海中湖神殿へ行く。

 私やヌトや、ステラも一緒に行くから安心しておくれ。

 おそらく、長い間ここには戻って来れなくなるだろう。忘れ物をしないようにな」


「分かった」


 そう言うと、私は湖岸のふちへと近づいた。

 こちらを見つめ続ける、大氷蛇の方へと。


 私が湖岸のふちに立つと、大氷蛇は私の顔の高さまで顔を下ろし、目を合わせてくれた。

 星の砂子をのんだからか、その目は美しい金色に光り輝いていた。

 温かい命を持つ光だった。


「本当にありがとう、大氷蛇さん。

 あなたのおかげで今死なずに生きてるし、巡礼の旅にも出られそう。

 巡礼の旅が終わったら、また会ってくれる?」


「我々は、もちろんあなたを待っている。

 我々は、またあなたに会いたい。

 いってらっしゃい、我々のあなた」


 大氷蛇は無数の魂が同時に発しているような不思議な声で、優しくそう言った。

 そして私のおでこに、その大きなおでこをくっつけてくれた。

 そのおでこは冷たかったが、確かに命のぬくもりを有していた。

 

 大氷蛇は私とおでこを離すと、星の砂子が落ち続ける空へ向かって大きく鳴いた。

 すると、キノル湖の凍りついた湖面が割れ始めた。

 あらゆる方角の湖岸から氷結した湖面へと亀裂が入っていき、そこから次々氷が割れていく。

 物凄い勢いで氷は割れ続け、どんどんその塊は小さくなっていく。

 極限まで小さくなった氷は、瞬く間に水へと変わっていった。

 白い氷の煙を立ち上げながら、今の今まで凍りついていたはずのキノル湖は、あっという間に元のキノル湖へと戻った。

 深い輝きを持つ澄んだ湖水を、なみなみと湛えたいつものキノル湖の姿へと。


 そして大氷蛇は私とステラを優しいまなざしで見つめた後、体をくねらせながら深く深く潜っていった。

 キノル湖の底へと。

 静寂の中眠り続ける、湖底へと。


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