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リシュリー・アルコは約束が出来ない  作者: 入海詩魚
第二章 金色の羊の毛のお守り
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双角海蛇座流星群

 左手薬指を右手でギュッと強く掴んで押さえた。

 痛いところを強く押さえると、その圧迫感で痛みがマシになる。

 朱いアザの締め付けるような痛みにもそのやり方は効果があるのだろうか、と一瞬思ったが、やってみたら案外効果はあった。

 押さえているうちに、痛みはすんなり消えていった。

 アザが成長した様子は無いし、赤みもすぐに引いていった


 いつもより痛みが全然しつこくなかった。

 ふと、そう思った。

 これが再誕日の守りの力の効果なのだろうか。

 だけど逆に言えば、再誕日の強い守りの力の影響下においても、私に痛みを与えることが出来たこの朱いアザは、相当強力な力を持っているということなのではないだろうか。

 もしくは、今私がアムニアという星の存在を知ったことが、再誕日の守りの力の影響下でも暴れられるような強いエネルギーを、朱いアザに与えたのだろうか。

 しかし、そうだとしたらそれは何故?

 

「あ! 一番乗りの星の砂子ちゃんよ!

 いよいよ双角海蛇座流星群が始まったわ!」


 ヌッちゃんの声が聞こえ、私はいよいよ始まった双角海蛇座流星群の天体観測に集中することにした。

 朱いアザとアムニアの関係については今どんなに考えても分かることなんて何もないし、何よりも、大事なこの時間のどこにも朱いアザを侵入させたくなかった。



 一番最初はただ一粒、星の砂子がぱらりと空から落ちてきただけだった。

 ヌッちゃんが言ったように、双角海蛇座が表す双角海蛇の額の部分にあたる星、アムニアから星の砂子がきらめきながらこぼれ落ちてきたように見えた。

 

 その最初の星の砂子の出現から二十秒ほど間隔を空けて、二番目の星の砂子が現れた。

 二番目の星の砂子は、最初の星の砂子とは違う方向へと流れるように落ちていった。

 そしてそれから十秒くらい経った後、それまでに出現した二つの星の砂子に比べてかなり大きな星の砂子が現れた。

 その星の砂子が現れた時、まるで雷が光った時のように一瞬あたりが明るくなり、暗い室内で夜空を見上げる私達の顔を照らし出した。

 

 そしてその大きな星の砂子を皮切りに、それはそれは沢山の星の砂子が次から次へと現れ出した。

 一つ見つけたと思ったら、反対の方角に別の星の砂子。そして、その星の砂子に重なるようにして大きさの違う星の砂子が別の方角に流れ落ちていく。

 もはやその出現の時間の間隔を数えられないくらいに、次から次へと空から星の砂子が落ちてくる。

 その様子は、アムニアから星の砂子が無限に湧き出てきていると言っても過言では無いくらいだった。

 

 アムニアから四方八方へと飛び出した沢山の星の砂子達は、またたきながら、きらめきながら、輝く光の線を作り地上へときらきら落ちていく。

 まるで神様が天の上から金の星の砂を撒いているかのような光景だ。


「これは凄い。今回の双角海蛇座流星群は、私がこれまでに見てきた大きい流星群の中でも群を抜いている。物凄い規模の流星群だ」


 ジャイム様が感嘆した様子で言った。


「やっぱりそうですわよね!

 星の砂子の量も輝きも、ちょっと別格よこれは!」


「メーー!! メーー!!」


 みんな揃って興奮していた。

 最初は飲んだり食べたりしながら天体観測を楽しむ予定だったが、誰も夜食やはちみつジンジャーティーに手をつけず、ただひたすら双角海蛇座流星群を見つめていた。

 この光景から一瞬でも目を離してはいけない、始まりから終わりまでの全てを目に焼き付けなければいけない。

 見た者全てが当たり前のようにそう思う光景だった。

 いや、強制的にそう思わせる力を持った光景だった。


「本当にすごいね!

 なんだか星の砂子が落ちる音が聞こえてきそう」


「いやんリッちゃん、ぼくとつとしてるように見えて実はロマンチックなんだから〜!

 でも確かに音が聞こえそうね……キラキラ、シャランシャランって……」


「メ〜〜〜」


 ヌッちゃんがうっとりとした様子でそう言うと、ステラもうっとりと鳴いた。

 私の隣に可愛くちょん、と座っているステラを見た。

 ステラの黒い瞳いっぱいに、夜空を流れ落ちていく数多の星の砂子が映っていた。

 必死に小さな頭を上へと向けて星の砂子を見つめるステラの様子は、なんだか一生懸命星の砂子に願い事をしている乙女みたいでとても可愛かった。

 その姿を見ただけで幸せな気持ちになった。

 そしてそんな幸せな気持ちが私の五感、もしくは第六感まで高めてしまったのか、本当に音が聞こえてきた。

 気のせいなどではなく、本当にそれまでは聞こえていなかった音が聞こえている。

 

「あれ? 本当に音が聞こえてきた。

 バリバリ、バキバキっていう音」


「え、えー? なんか全然ロマンチックな音じゃないわね、それ。

 あら? でもあたしも聞こえる? 聞こえてる?

 聞こえてるわ!!

 バリバリ、バキバキって音が聞こえてる!!

 やだー! もっとロマンチックな音がいいー!」


 だが、そのバリバリ、バキバキという音はどんどん大きくなっていった。

 そしてボボボボボボボボ、という低い音へと変化した。

 そして一際大きな、ボォーーーーーンという音が鳴ると同時に、キノル湖に出現している大氷蛇が高く盛り上がり始めた。


「あわわ!? 大氷蛇がでっかくなり始めたわよ! 

 やだこれ! 盛り上がるにしても、盛り上がりすぎじゃない!? 山みたいになってくじゃない!」


 ヌッちゃんが言う通りに、大氷蛇は大音響を発しながら、とどまることなく盛り上がり続けていた。

 大氷蛇は元々、私達が今いる部屋から一番近い湖岸から反対側の湖岸まで、ジグザグと蛇行するように出現していた。

 今、まるでこちら側の湖岸を尾、あちら側の湖岸を頭とするかのように、大氷蛇は隆起しようとしているように見える。

 その頭を天へと突き出そうとしているかのように、あちら側の湖岸の氷堤が特にどんどん高さを増していっている。

 そのまま放っておけば本当に山のような高さになってしまいそうだ。

 しかも頭の部分が、本当の蛇の頭のような造形になっていく。目や口といったパーツも出来ていっている。


「な、な、な、なな、な……な?」


 ヌッちゃんはあまりのことに、「な」しか言えなくなっていた。

 私も目と口を最大限にポカンと、ただただ開けてその信じられない光景を見ていることしか出来なかった。


「メー! メーメ! メーメメ!」


 ステラが私とヌッちゃんを見て、そう言った。

 ステラは男前な顔でこう言っていた。


「あんた達、ついて来なさい!

 外へ行くわよ!

 あたしの本気、見せてあげる」


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