両想い切符
「おい、川内。本当に三島さんは来るのか?」
今日は七月の第三日曜日、つまり大会当日の朝。駅前に俺らは集合していた。
あれから一週間、三島さんは学校にもクライミングジムにも来ていなかった。
「来る」
だって、俺は約束したんだ。傍にいるって、三島さんの挑戦を見届けてやるって。
強い口調で返事をしたからか、早川たちは俺が怒ったと勘違いして固まってしまった。
「いや、大丈夫、怒ってないから! 絶対来るって、夢枕にも立ってたから!」
「そそ、それだとまさか、し、死んでるんじゃ?」
「こら、すみちゃん。不謹慎!」
「な、なんで私が……」
加藤先輩の泣き言を聞きながら通りを走っている車を眺めていると、一台のクラシックなアメ車が、駅前ロータリーに入り込んできた。
もしかしたら、親父の顧客かもしれないと運転席をジロジロ覗いていると、……なんだか、どこかで見たことあるな、白髪をオールバックにしてサングラスをかけた、あの老人。
車体で隠れて見えないけれど、助手席に座っていた人を降ろすと、その老人はなぜか俺に手を振って走り去って行った。
……何これ、モテ期到来しちゃった?
そして、車の去った後に残っていたその人は、……
「三島さん!」
「ん」
先日は気づかなかったけど、ずっと家に籠っていたからか、三島さんはいくぶん青白くなっていた。
早川たちとは久しぶりの再会になるので、お互いぎこちない挨拶を交わしていた。
「ヒメちゃん、……本当によかったー! どう、太った?」
「ん」
「よお、三島。僕が送った、井上馨の伝記読んだか? 元老だって引きこもるんだ、気にするなよ」
「ん」
「わ、私も天宇受売命の薄い本送ったけど、で、出てきたってことは読んでくれたんだ……」
「ん?」
こいつら、もっとましな挨拶はできないのか!
あと、変な本を送るな!
まあ、ぎこちなかったのは最初の挨拶ぐらいで、改札に向かう間には、またいつものように打ち解けて話していた。
そして、みんなが改札を通っているとき、三島さんが立ち止って話しかけてきた。
「ねえ、ちょっとお金貸して」
「……カツアゲ?」
「違う、財布忘れた」
「大会当日に財布忘れるとか、……はい、往復の料金」
「ん」
三島さんは切符を買ってくると、今度はその切符を立ち止って眺めていた。
「どうした? 小学生じゃないんだから、まさか買い間違えたりはしないよな?」
「見て、両想い切符」
「は?」
三島さんは切符に印刷された、四桁の券番号を指さしていた。数字は「1001」。
「両サイドの数字がゾロ目でしょ? で、真ん中の二桁が両想いのパーセンテージ」
「じゃあ、その切符は両想い度ゼロパーセントってことか」
「違う。二桁でしか表示できないから、ゼロが並んだ場合は百パーセントってこと」
出たよ、迷信にありがちな詭弁! そもそも、これは誰との両想い度なんだ? 券売機?
「それにしても、三島さんもこういうの、信じるんだね」
「……今は、信じたいときなの」
わかるよ、(都合の)いい占い結果は誰でも重宝するよね。大会前だし、なおさら。
「だから、またお金貸して」
「は?」
「これは保存するから、切符代」
……仕方ない。こうして来てくれたんだから、少しぐらいのわがままは許すとしよう。




