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いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
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グラウンドフォール その1

 日差しだけは一丁前に夏のようになり、ぐんと気温の上がった六月下旬、俺のクライミングレベルもさすがに上昇してきた。

 今は11aのルートに挑戦しているんだ。

 調子に乗って、堀田先輩に俺の成長の早さについて訊いたら「まあ、……普通」だって。

 こういう、シンプルな返答が一番ヘコむよね!

 一方、勝手にライバル視している早川は、11aなどとっくに登ってしまっていた。

 加藤先輩も経験者だったとはいえ、もう11cに挑戦しているし、もはや俺が、普通レベルの進度で成長できているのかも疑わしい。

 まあ、周りに上手い人がいると、刺激になっていいって言うよね。心は泣きそうだけど。

「アップ、赤バツ印の10c行くから」

「りょーかい。今日も楽しい一日を」

「ん」

 三島さんはどうかと言うと、俺の見立てだと少し、伸び悩んでいるような気がした。

 この間登っていた、11bのルートも落とせずにいたし、それよりレベルの低いルートを登っているときも、危なっかしい感じがする。

「よお、川内。調子はどうだ?」

 すぐ横で加藤先輩のビレイをしていた早川が、壁を見上げながら話しかけてきた。

 口元のゆるみを見る限り、俺の調子はどうでもよくって、自分が絶好調であることを自慢したいオーラがプンプンしている。

 まあいい、話してやろう。

「いい感じですよ、はい。絶好調です!」

「ハハ、絶好調でも俺よりグレード低いじゃないか」

 ほらね、俺を出汁にして、自分の自慢話する気だよ、こいつ!

「僕は順調にグレードも上がっているし、体に疲れもない」

「はあ」

「それに、僕は競技経験もあるからな、精神面でも落ち着いている。どうやら大会では、新人の一年生は一年生だけで競技するらしいし、今度は入賞できるかもしれない」

 競技の経験ありって、ぼろ負けだったじゃないですか……。

「あれ、そういえば大会要項って、もう発表されてんの?」

「ネットで見た。七月の、第三週の日曜日にやるらしい」

 へー、もう一か月ないのか。そういや、堀田先輩は大会について何も言わないな。

「なんか、大会に向けた用意とかないのかな。エントリーとか」

「さあな、堀田さんに訊いてみたら」

 それもそうだな。もしかしたら、堀田先輩が万事済ませているのかもしれない。

「テンション」

「あ、はーい。……あの、三島さん、固まらないでいいから」

 三島さんの登りに余裕はなかったけど、いつも通り終了点では固まっていた。ただ、ロープで叩くとすぐに壁から離れてしまう。保持力が落ちたのか?

「お疲れー。三島さん、調子悪い?」

「ううん、……大会が近いから、緊張してる」

 なんだ、緊張していただけか。これなら、壁からはがす手間が省けていいや。

「三島さんも緊張したりするんだね、俺も大会って名のつくものに初めて出るから……あ、堀田先輩、ちょっと聞きたいことが」

「んー?」

「あの、大会ってどういう形式でやるんですか? あと、そもそもエントリーとかは?」

「んー?」

 この感じ、絶対ど忘れしていやがったな!

「いや、小首かしげてる場合じゃないでしょ(かわいいけど!)。大丈夫なんですか、申し込みの締め切りだってありますよね!?」

「そんなに怒鳴られても、……引率の顧問すらいないもん」

 ちょ、顧問も必要なのかよ! 顧問なんて、アニメなら序盤で解決すべき問題なのに!

「今さらやばいですって、部活じゃないのにどうすれば……」

「あ、あの……、ちょっといい?」

 殺気立った俺の背後から、怯えて縮こまっていた加藤先輩が話しかけてきた。

「どうかしましたか?」

「いや、あ、あの、よく単独登山の禁止されている山に、ほ、ほかの登山隊に名前だけ貸して申請して、単独登山とかするの……。だからどこか、よその部活に名前だけ貸せばいいかと」

 なるほど、それなら顧問をゲットできて、普段の練習にも口出しされなくてよさそうだ。

「あ、でも、どこの部活に名前を貸すんですか?」

「わ、私の妹が、ささ、山岳部だから、そこなら……」

「わー、さすがすみちゃん! ね? そんなに焦らないでも何とかなるものでしょ?」

 と、加藤先輩に後ろから抱きつきながら、堀田先輩がのんきにほざいていた。

 何が「ね?」なんだ! 加藤先輩がいなかったら出場も怪しかったぞ、これ?

「じゃあ、その話は加藤先輩にお任せして……」

「え、ち、ちょっと、それは。ふみ……妹とはあんまりしゃべらないから、ついてきて!」

「妹ともしゃべらないって、どんだけ人見知りなんですか……」

「い、いや、許可してもらえるかわからないし、それに、さ、山岳部の顧問への挨拶もしないといけないし。せせ、川内君って明日レストでしょ?」

「まあ、そうですけど。三島さんとかは?」

「んー」

「僕も明日は登る。山岳部のみなさんによろしく」

「まかせたぞー、後輩よ!」

 ちくしょう、みんなして面倒くさがりやがって。三島さんはせめて何かしゃべってくれ!

「仕方ない、俺が話しつけてきます。じゃあ、加藤先輩、明日の放課後でいいですよね?」

「う、うん、よよ、よろしく」

 そうして、俺は大会の出場を賭けて(?)、話をつけに行くことになってしまった。

 そんな俺に対して、堀田先輩が一言付け加えて、

「あー! 申込書も印刷して、顔の知らない顧問さんに署名してもらってきてー!」

「……はい」


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