表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかのクライマー  作者: 大田区トロフィーモフ
PR
27/48

告白 その2

「もう十時半だ。そろそろ、いいんじゃないか?」

「おう……」

 夜のこんな時間になるまで、アホで暇な高校生である俺らは、鼻息荒く告白のセリフをお互いに考えて、話し合っていた。

 まあ、こういう興奮したときにはありがちだけど、話が盛り上がった割には一つとして、気の利いたセリフなんて思い浮かばなかったんだけどね。

 だから不安で、堀田先輩が家に帰ったと思われる時間が来ても、「まだ手を洗っている」とか「夕食中かも」とか逃げを打っていたけど、もうこれ以上は引き延ばせないだろう。

「よし、男になってくる!」

「行ってこい。玉砕しても泣くなよ、アイスくらいなら買ってやる」

 早川のネガティブな応援を背に、俺は堀田先輩に電話をかけるため、一旦店外に出た。

 二人で話し合ったんだけど、直接会って告白するのはハードル高いし、メールだと軽い感じがするから、折衷案で電話で告白することにしたんだ。

 単に、チキンなだけなんだけどね!

 いきなり電話するのは緊張するので、メールで「今、電話してもいいですか?」とワンクッションを入れると、「いいよー?」と許可兼疑問の返信が来た。

 いよいよだ……。

 メールをした直後なので、ワンコール半で堀田先輩は電話に出た。

「も、もしもし?」

「こーんばーんわー。今日はたくさん登って、疲れちゃったー」

 うひょ、ただでさえ甘えた猫のような堀田先輩の声が、スピーカーから耳の中に、一気になだれ込んでくるから蕩けちまいそうだ!

 のんきな感じに話すのは、電話の意図を敏感に察した、先輩流の照れ隠しかもしれない。

「おっ、お疲れさま……」

「あの、き、今日はね! すみちゃんが一つグレードを上げたんだよ! すごい調子がよくってね、……あ、あとあと! 三島さんは緑十字の11a/bがなかなか……」

「あの! ちょっと、いいですか?」

 堀田先輩が緊張を隠すためか、今度は怒涛のトークを始める気配だったので、まるで会話を交わしもせず、無理に止めてしまった。あるのは告白、それのみだから!


「あ、あの! 俺、堀田先輩のことが、その……好き、なん、です、けど……? つ、付き合ってください……」

 

 標的、沈黙。

 ああ!

 何時間も甘い告白のセリフを考えたというのに、こんなにしょぼいセリフをフェードアウトしながらつぶやいてしまった!!

 それも唐突に!!!

 そもそも、こちらからの一方的な告白なのになんで、「けど?」なんて語尾につけちゃったんだ!?

 「で、お前はどうなのよ?」みたいな、偉そうな感じになってしまったじゃないか!

 と、スピーカーから、ワンテンポ遅れた堀田先輩のリアクションが聞こえてきた。

「え、……えええー!? どど、どうしよう。わかんない、わかんない、わかんない!」

 今度は俺が沈黙する番だった。

 堀田先輩は驚いたあまり、「わかんない」を連発して、俺が話しかけられる状態じゃなかった。

 まあ、目立った特技も活躍も、アプローチすらなかった俺に告白されても困るよね、わかんないよね。

 正常な反応ですよ、間違いなく……。

「あの、しばらくの間、考えてもいいかな?」

「はあ」

「うん、……それじゃあ」

「はあ」

 電話を切ってから三秒後、冷静さを取り戻した俺は、店内に戻った。

「………………」

「……よう、お帰り」

「………………」

「……どうした?」

「はーやーかーわー、てめええええ!! なぜだ? なぜ俺を煽ったんだあああ!」

 そう叫ぶと、俺は早川のネクタイを極限まで引き絞った。

「う、やめっ、なんだ、やっぱり失敗したのか? おい、怒るな、……お前、結構ノリ気だったじゃないか!」

 そうさ、ノリ気だったさ! でも今から思えば、これは若さゆえの悪ノリだったよ、恋愛経験皆無ゆえの暴挙だったよ!

「わからないって連発されたよ。そりゃそうだよな、いきなり意味不明だよな。はぁ……」

 ああ、なんで上手くいくかもなんて、自信が湧いてきたんだろう。非リア充な童貞が、時たま思いもつかない行動に出るって言うけど、俺の勝機のない告白がまさにそれだったのか?

「まあ、座れ。とりあえず、何があったか聞かせろよ」

「うん……」

 そして俺は、電話をする前にメールをしたことと、それから堀田先輩の返信が来て、告白の電話をかけたことを話した。

「返信って、どんな内容?」

「これがその返信だ。一言だけ」

 そう言ってスマホを取り出すと、ちょうどメールを受信してバイブしていた。

「なんだろう、お母さんからかな?」

 メールが来ると、とりあえずメルマガか、お母さんからだと思っちゃうよね。

「あー、んん? おいこれ、堀田先輩からだ!」

「な、ちょっと見せろ!」

 早川がスマホを奪い取ろうと伸ばした腕を、俺は机の下に屈んでかわして、メールの文面に目をやった。

「なんだ、なんて書いてあるか音読しろよ! おい!」

 早川も恋に飢えた高校生男子として、やたらと食いついてくる。

「……うるさいなあ、『さっきはありがとう』が件名になってる」

「それで? おい早く、続きを早く読め」

「『いきなり電話していいかって、メールが来て驚いちゃった』って一文から始まってる」

「文面に絵文字はないのか? そっけないな」

「絵文字は音読できねーよ。で、ごちゃごちゃと俺を傷つけないように長々断った後、『考えたんだけど、川内君のことは友達としてしか見ていません』って……」

「友達? ……ハハハ、なんだ! 堀田さんが気を使って、アフターフォローのメールを送って来ただけか! 初めから失敗するってわかってたけど、まあ気にするなよ!」

 これだけ聞いてしまうと、早川は憎たらしいほど上機嫌になってしまった。

「うるせー! 慰める気がないなら、ほっといてくれ!」

「そう、怒るなって。よし、アイス食うか?」

 早川は、今読んだのがメールの全内容で、俺が完全に振られたと思ってご機嫌だった。

が、実は「友達としてしか見ていません」に続いて、最後に一言、こう書いてあった。


『だからお返事は、今は保留させてください』


 ……保留!

 家に帰って一人になってから、俺は何度この単語を、その希望を眺めたことか!

 つまり、俺は別に振られたわけじゃないし、今後の判断によっては……フヒヒ!

 ただ、この返事にちょっとした不安も覚えていた。それもやっぱり、《保留》だからかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ