告白 その2
「もう十時半だ。そろそろ、いいんじゃないか?」
「おう……」
夜のこんな時間になるまで、アホで暇な高校生である俺らは、鼻息荒く告白のセリフをお互いに考えて、話し合っていた。
まあ、こういう興奮したときにはありがちだけど、話が盛り上がった割には一つとして、気の利いたセリフなんて思い浮かばなかったんだけどね。
だから不安で、堀田先輩が家に帰ったと思われる時間が来ても、「まだ手を洗っている」とか「夕食中かも」とか逃げを打っていたけど、もうこれ以上は引き延ばせないだろう。
「よし、男になってくる!」
「行ってこい。玉砕しても泣くなよ、アイスくらいなら買ってやる」
早川のネガティブな応援を背に、俺は堀田先輩に電話をかけるため、一旦店外に出た。
二人で話し合ったんだけど、直接会って告白するのはハードル高いし、メールだと軽い感じがするから、折衷案で電話で告白することにしたんだ。
単に、チキンなだけなんだけどね!
いきなり電話するのは緊張するので、メールで「今、電話してもいいですか?」とワンクッションを入れると、「いいよー?」と許可兼疑問の返信が来た。
いよいよだ……。
メールをした直後なので、ワンコール半で堀田先輩は電話に出た。
「も、もしもし?」
「こーんばーんわー。今日はたくさん登って、疲れちゃったー」
うひょ、ただでさえ甘えた猫のような堀田先輩の声が、スピーカーから耳の中に、一気になだれ込んでくるから蕩けちまいそうだ!
のんきな感じに話すのは、電話の意図を敏感に察した、先輩流の照れ隠しかもしれない。
「おっ、お疲れさま……」
「あの、き、今日はね! すみちゃんが一つグレードを上げたんだよ! すごい調子がよくってね、……あ、あとあと! 三島さんは緑十字の11a/bがなかなか……」
「あの! ちょっと、いいですか?」
堀田先輩が緊張を隠すためか、今度は怒涛のトークを始める気配だったので、まるで会話を交わしもせず、無理に止めてしまった。あるのは告白、それのみだから!
「あ、あの! 俺、堀田先輩のことが、その……好き、なん、です、けど……? つ、付き合ってください……」
標的、沈黙。
ああ!
何時間も甘い告白のセリフを考えたというのに、こんなにしょぼいセリフをフェードアウトしながらつぶやいてしまった!!
それも唐突に!!!
そもそも、こちらからの一方的な告白なのになんで、「けど?」なんて語尾につけちゃったんだ!?
「で、お前はどうなのよ?」みたいな、偉そうな感じになってしまったじゃないか!
と、スピーカーから、ワンテンポ遅れた堀田先輩のリアクションが聞こえてきた。
「え、……えええー!? どど、どうしよう。わかんない、わかんない、わかんない!」
今度は俺が沈黙する番だった。
堀田先輩は驚いたあまり、「わかんない」を連発して、俺が話しかけられる状態じゃなかった。
まあ、目立った特技も活躍も、アプローチすらなかった俺に告白されても困るよね、わかんないよね。
正常な反応ですよ、間違いなく……。
「あの、しばらくの間、考えてもいいかな?」
「はあ」
「うん、……それじゃあ」
「はあ」
電話を切ってから三秒後、冷静さを取り戻した俺は、店内に戻った。
「………………」
「……よう、お帰り」
「………………」
「……どうした?」
「はーやーかーわー、てめええええ!! なぜだ? なぜ俺を煽ったんだあああ!」
そう叫ぶと、俺は早川のネクタイを極限まで引き絞った。
「う、やめっ、なんだ、やっぱり失敗したのか? おい、怒るな、……お前、結構ノリ気だったじゃないか!」
そうさ、ノリ気だったさ! でも今から思えば、これは若さゆえの悪ノリだったよ、恋愛経験皆無ゆえの暴挙だったよ!
「わからないって連発されたよ。そりゃそうだよな、いきなり意味不明だよな。はぁ……」
ああ、なんで上手くいくかもなんて、自信が湧いてきたんだろう。非リア充な童貞が、時たま思いもつかない行動に出るって言うけど、俺の勝機のない告白がまさにそれだったのか?
「まあ、座れ。とりあえず、何があったか聞かせろよ」
「うん……」
そして俺は、電話をする前にメールをしたことと、それから堀田先輩の返信が来て、告白の電話をかけたことを話した。
「返信って、どんな内容?」
「これがその返信だ。一言だけ」
そう言ってスマホを取り出すと、ちょうどメールを受信してバイブしていた。
「なんだろう、お母さんからかな?」
メールが来ると、とりあえずメルマガか、お母さんからだと思っちゃうよね。
「あー、んん? おいこれ、堀田先輩からだ!」
「な、ちょっと見せろ!」
早川がスマホを奪い取ろうと伸ばした腕を、俺は机の下に屈んでかわして、メールの文面に目をやった。
「なんだ、なんて書いてあるか音読しろよ! おい!」
早川も恋に飢えた高校生男子として、やたらと食いついてくる。
「……うるさいなあ、『さっきはありがとう』が件名になってる」
「それで? おい早く、続きを早く読め」
「『いきなり電話していいかって、メールが来て驚いちゃった』って一文から始まってる」
「文面に絵文字はないのか? そっけないな」
「絵文字は音読できねーよ。で、ごちゃごちゃと俺を傷つけないように長々断った後、『考えたんだけど、川内君のことは友達としてしか見ていません』って……」
「友達? ……ハハハ、なんだ! 堀田さんが気を使って、アフターフォローのメールを送って来ただけか! 初めから失敗するってわかってたけど、まあ気にするなよ!」
これだけ聞いてしまうと、早川は憎たらしいほど上機嫌になってしまった。
「うるせー! 慰める気がないなら、ほっといてくれ!」
「そう、怒るなって。よし、アイス食うか?」
早川は、今読んだのがメールの全内容で、俺が完全に振られたと思ってご機嫌だった。
が、実は「友達としてしか見ていません」に続いて、最後に一言、こう書いてあった。
『だからお返事は、今は保留させてください』
……保留!
家に帰って一人になってから、俺は何度この単語を、その希望を眺めたことか!
つまり、俺は別に振られたわけじゃないし、今後の判断によっては……フヒヒ!
ただ、この返事にちょっとした不安も覚えていた。それもやっぱり、《保留》だからかな?




