告白 その1
翌日、俺と早川は駐輪場で待ち合わせた。女子三人は、今ごろ壁を登っているはずだ。
それにしても、レストのありがたさ!
自分の体調に合わせて、休む日を自由に決められるなんて、怠惰な俺にとって何と素晴らしいことか!
いや、そもそも部活が全員同じ日に、休日を設けることがおかしかったのか?
体力や疲労なんて個人差ありまくりだし、休養のタイミングなんて自分で決めるのが、一番合理的なのかもしれない。
さて、休みを共に謳歌する男、早川は漫画を読みながら駐輪場へやってき来た。
早川は自転車の横で待っている俺に気づいても、一向に読むことをやめようとしない。
というか、うざいくらいに、見せびらかしている感じすらする。
どうやら加藤先輩の読み通りに、二次元の底なし沼にハマってしまったようだね。
「今日はどうする? 俺は海野スポーツで、半パンでも買おうかと」
「うん……」
なんという生返事。さては漫画のことに触れるまで、スルーするつもりだぞ、これ……。
と、そこへドブで拾ったジャガイモのような顔をした、野球部の男がやって来た。
「すんませーん、自転車取りまーす」
「ごめんなさい」
早川は、野球部員には瞬時に反応したから、やっぱり意図的に俺をスルーしていたようだ。
で、二人してなんとなく、自転車を押して歩いていく野球部員のことを目で追うと、彼の向かう先には、ロリかわいい女の子が待っていた。
性格は違えど、俺ら二人は健全な男子高校生として、その去って行くカップルの後姿を執拗に見送ってあげた。
見せびらかしていた漫画を置くと、早川が口を開いた。
「おい、今の見たか!? なんで、あんな汚らしい顔した男が、まあまあかわいい彼女を連れているんだ!」
「……くやしいが、おそらく、やつの野球のプレーに惚れたのを、あのか弱い女子が恋心と勘違いしたんじゃないのか? マスメディアも球児のことを、一途で、純粋で、さわやかな好青年だなんて持ち上げるから、今のカップルみたいな悲劇を助長してしまうんだ!」
などと、俺らは滅茶苦茶なリア充論を展開して、嫉妬に燃える心の消火に励んだ。
早川はモテるとはいえ、俺独自の調査によると、生まれてこの方彼女なしの童貞だから、リア充批判についてなかなか話せる口だった。
少し落ち着いてくると、俺らの話題は今日はレストしていない、女子三人の中で誰が一番かわいいか、ということに及んだ。
「川内は誰がいいと思う? 三島さんか?」
「三島さんもいいけど、加藤先輩もいいね。ディープなオタトークをするから、いろいろと混沌とした人かと思いきや、よく見ると整った顔立ちだし。あと、堀田先輩のあの包み込むというか、聖母のような優しさもいいよな。年上の余裕ってやつを感じるよ」
「結局、誰がいいんだ?」
「みんな。アイ・ラブ・みんな」
そもそも、飢えた男子高校生に対して、美女たちの中から一人だけ選ぶという、究極の選択を迫ること自体が酷なんだよね。
「早川は?」
「そうだな、俺は落ち着きのある堀……」
「堀田先輩ねえ! いいねえ、俺も好きだよ。誰にも負けないくらい!」
かといって、誰が気になるのか公表されると、思わず対抗したくなっちゃうよね。現実世界も課金ができれば、愛の差を明らかにできるんだけど!
「なんだ、お前もか。堀田さんは性格が明るいし、モテるのも仕方ないか」
「ほかの二人については、どう思ってるんだ?」
「三島はいろいろとストイックで話しづらいな。加藤さんは、普段は陰気なくせに、オタトークになるとスイッチ入ってうるさいし、背が小さくて、僕とは釣り合わない」
「なるほど、身長差か。……確かに早川の背なら、堀田先輩と合うかも。あの人、一七○センチ超えてるからね。でかいよな」
胸もでか……って、まずい。お似合いだなんて、早川をその気にさせてはならない!
何も、俺が現実的に堀田先輩とカップルになれるとは思っていないよ? だけど、誰かに奪われてしまうのは面白くない。それも、早川ごときに!
「ただ、あの人って人当たりが良すぎて、かえってどんな人なのか、わからないんだよな」
「そ、そうだなー! どんな人かわかるまで、あきらめよう! そうしよう、なっ?」
「ふん、……そうだな、もう少し様子見るか」
おお、かなり強引な誘導だったけど、関心を逸らすことに成功してやったぜ!
「じゃあさ、お前がひとまず告ってみろよ」
「は!? な、なぜいきなり、そんな……」
うっ、強引には強引で返してきやがった。あと、ひとまずってなんだ、ひとまずって!
「いや、わからないからこそ、回りくどいことなんてしないで、いきなりぶつかってみたらいいんじゃないか? 頼む、実験動物になってくれ!」
「私は人間でありたい!」
元々自分勝手なやつだが、それにしても、なんで俺が早川のために、犠牲にならなくちゃならないんだ!? 実験台になんか、なるものか!
「冗談半分でいいから探りを入れてくれよ。失敗したとしても、告白されてから意識しちゃいましたとか、そういうパターンってよくあるだろ?」
「嫌だ! 絶対、告白なんてしない!」
「もしかしたら、とりあえず付き合ってみて、良し悪しを判断するタイプかもしれないぞ?」
「いや、ないだろ……」
「じゃんけん、ぽん」
「え、ホイ! う、負けたけど、……いやいや、ありえない」
そう、口では嫌がりつつ、気持ちは少しずつ揺らいでいた。恋愛経験皆無のせいか、早川に口説かれているうちになんだか、訳もなく告白が上手くいきそうな気がしてきた。
告白されてから意識し始めるという可能性も、魅惑的な響きを持っている!
「えっと、……どうしよう、マジで言っちゃおうかな」
これは決して、若さゆえの悪ノリなんかではないぞ! 俺はいつでも真剣だ。
「お、その気になってきたな? なら、気の変わらないうちに電話……」
「待て待て! 今電話したら、一緒に登ってる加藤先輩や、三島さんにバレるだろうが!」
「そうか、まあタイミングはお前次第だ。僕は口出ししない」
なんだか、俺の発案で告白するみたいになっちゃてる気がするが、まあよかろう。
「じゃあ、作戦会議しよう、作戦会議! 早川も何か、告白のセリフを考えてくれ」
「ああ、お前が撃沈する瞬間も見届けてやる。確か、堀田さんの引き上げる時間は……」
こうして、妙にテンションの上がった俺らは、今日予定していたことはすべて忘れて、いつものファミレスへと向かった。




