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おっぱいコンプレックスの私を、幼馴染が全肯定してくる  作者: 黒猫と珈琲


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16/20

第16話 冬の夜は、みんなでお鍋!

「莉子、白菜って一玉で足りると思う?」

「えっと……四人だから、半分でもいいんじゃないかな?」

「そうよね。ほかにも具材いっぱいあるし」


 十二月に入って最初の土曜日。私は美月と一緒に、大学近くのスーパーに来ていた。


 今日は待ちに待った鍋パーティーの日だ。場所はもちろん、朔也の部屋。秋の交流イベントで航平くんが言い出した計画が、ついに実現することになった。以前のたこ焼きパーティーも楽しかったけれど、寒い季節にみんなで囲むお鍋も、きっとおいしいはずだ。


 今夜のメニューは豆乳鍋。朔也がスープとお肉を用意してくれるので、私たちは野菜と豆腐の買い出し担当だ。カートにはすでに長ねぎやきのこ、春菊などが入っている。


「ねえ、美月。朔也って、豆乳鍋好きだったかな?」

「好きなんじゃない? 莉子が食べたいって言ったら即決だったし」

「えっ、そうだった?」

「自覚ないの? 莉子が『豆乳鍋おいしそう!』って言った瞬間、柊先輩が『じゃあ、それにしよう』って」


 私は思わず笑ってしまった。


「そういえば、そんなこと言ってたかも」

「まったく、あの人は莉子に甘すぎるのよ」


 美月は呆れたように言いながらも、楽しそうに笑っていた。


 買い物を終えてスーパーを出ると、冷たい風が頬を撫でた。街路樹にはイルミネーションが飾られ、商店街からはクリスマスソングが聞こえてくる。ついこの間まで秋だったのに、街はすっかり冬の装いだ。私は買い物袋を持ち直しながら、きらきらと輝く飾りを見上げた。


「もうすぐクリスマスだね」

「ほんと、一年って早いわよね。莉子は柊先輩とデートするんでしょ?」

「うん! まだ何するか決めてないけど」

「ふふっ。楽しみね」


 私は笑顔で頷いた。


 朔也と恋人になってから、初めて迎えるクリスマス。幼馴染だった頃も一緒に過ごしたことはあるけれど、今年はきっと特別な一日になる。プレゼントは何にしようかな。せっかくだから、朔也が本当に喜んでくれるものを選びたい。


 そんなことを考えていたら、今からわくわくしてきた。


     ◇


「お邪魔しまーす!」

「お邪魔します!」


 朔也の部屋に着くと、キッチンからいい匂いが漂ってきた。


 玄関には見慣れた靴が一足増えている。どうやら航平くんは、もう到着しているみたいだ。リビングからは、何やら楽しそうな声が聞こえてきた。


「おっ、女子組到着!」


 顔を出した航平くんが、両手を広げた。


「ようこそ、冬の鍋パーティーへ!」

「航平、あんたの部屋じゃないでしょ」

「細かいことは気にするな!」

「お前、さっきから何もしてないだろ」


 キッチンから朔也の声が飛んできた。


「いやいや! 飲み物とうどん持ってきただろ!」

「それで仕事終わったと思うなよ」

「柊が冷たい!」


 私は笑いながら靴を脱いだ。


 リビングのローテーブルには、すでに卓上コンロと大きな土鍋が用意されている。コンロの周りには取り皿や箸が並び、朔也が手際よく準備してくれたことがわかった。


「朔也、準備ありがとう!」

「うん。重くなかった?」

「大丈夫! 美月と半分ずつ持ってきたから」

「そっか。じゃあ、野菜切ろうか」

「うん!」


 私は買い物袋をキッチンに運んだ。


 狭いキッチンに三人で立つのは難しいので、朔也が白菜と長ねぎを切り、私はテーブルでしめじとえのきの石づきを取ることになった。美月は別のまな板を借りて、豆腐を切り分けている。みんなで手分けすると、思っていたより準備が早く進みそうだ。私はほぐしたきのこをざるに移しながら、ふとソファのほうを見た。


 その間、航平くんは一人でくつろいでいた。


「……航平くん?」

「ん? どうした、莉子ちゃん」

「航平くんも、何かする?」

「もちろん! 俺に任せて!」


 勢いよく立ち上がった航平くんは、キッチンを覗き込んだ。


「柊! 俺は何すればいい?」

「じゃあ、テーブル拭いて」

「おう!」

「そのあと飲み物出して」

「任せろ!」

「あと、ゴミ袋も準備して」

「……俺、雑用係?」

「今まで座ってた分ね」


 美月のひと言に、航平くんは肩を落とした。


 でも、文句を言いながらもちゃんと働いてくれるところが、航平くんらしい。テーブルを拭き終わると、飲み物を人数分並べ、ゴミ袋まできちんと用意してくれた。


「よし! 完璧!」

「じゃあ、最後にうどんを冷蔵庫に入れといて」

「まだ仕事あんの!?」


 航平くんの叫び声に、みんなで笑ってしまった。


     ◇


「いただきまーす!」


 四人の声が重なった。


 土鍋の中では、豆乳スープがことことと煮えている。白菜に長ねぎ、きのこ、豆腐、鶏肉。それから、朔也が用意してくれた豚肉も入っていて、とても豪華なお鍋になった。湯気が立ち上るたびに、優しい香りが部屋いっぱいに広がる。


「うわ、めっちゃうまそう!」

「航平、まだ熱いから気をつけなよ」

「わかってるって!」


 航平くんが勢いよく白菜を口に運ぶ。


「熱っ!?」

「だから言ったでしょ!」


 美月が呆れた顔でお茶を差し出した。


「お前、学習しないな」

「柊まで冷たい! 莉子ちゃん、俺を慰めて!」

「えっ? だ、大丈夫?」

「莉子、甘やかさなくていい」


 朔也が落ち着いた声で言いながら、私の取り皿に鶏肉と白菜を入れてくれた。


「はい、莉子。好きなやつ」

「ありがとう!」

「豆腐もいる?」

「うん! でも、朔也もちゃんと食べてね」

「食べてるよ」


 そう言いながら、朔也は私の好きなしめじも取り分けてくれる。


 私はその手元を見て、ふと思った。


 朔也って、いつもこうして私のことを気にかけてくれるなぁ。気づいたら飲み物が用意されていたり、好きなものを取り分けてくれたり。特別なことのように振る舞わず、当たり前みたいにしてくれるけれど、本当は当たり前じゃない。


 ……そうだ!


 私は自分の箸を置き、取り箸を持った。


「朔也、ちょっと待ってて」

「ん?」


 鍋の中から、朔也が好きな長ねぎと鶏肉を選んで取り皿に入れる。


「はい! 朔也の分!」

「……俺の?」

「うん。いつも朔也がしてくれるから、今日は私も!」


 朔也は少し驚いたように私を見た。それから、ふっと笑う。


「ありがとう」

「えへへ。どういたしまして!」


 なんだか、それだけで嬉しくなった。


 すると、向かい側から大きな声が飛んできた。


「ちょっと待ったあああ!」

「な、何!?」

「俺にも! 俺にも取り分けサービスをお願いします!」


 航平くんが取り皿を差し出した。


「お前、自分の皿に山盛り入ってるだろ」

「違うんだよ、柊! そういう問題じゃないんだ!」

「どういう問題よ」


 美月が尋ねると、航平くんは真剣な顔で答えた。


「誰かに優しく取り分けてもらうことに意味があるんだ!」

「じゃあ、はい」


 美月が航平くんの取り皿に、白菜を一枚入れた。


「……白菜?」

「優しく取り分けたわよ」

「もうちょっとこう、愛情とか!」

「贅沢言わない!」


 私が吹き出すと、朔也も珍しく声を出して笑った。


     ◇


 鍋も半分ほど減った頃、航平くんが突然、箸を置いた。


「……なあ、みんな」

「何よ、急に」

「俺、決めたわ」


 航平くんは真剣な顔で三人を見回した。


「今年こそ、クリスマスまでに彼女を作る!」

「あと何日あると思ってるの?」

「まだ三週間くらいある!」

「去年も同じこと言ってなかった?」

「美月! 過去は振り返らない主義なんだよ!」


 私は思わず笑ってしまった。


「でも、航平くんって明るいし、優しいし、きっといい人が見つかると思うよ?」

「莉子ちゃん……!」


 航平くんが感動したように私を見た。


「やっぱり莉子ちゃんは天使だ!」

「大げさだよ!」

「柊、お前は幸せ者だな!」

「……知ってる」


 朔也がさらりと答えた。


 一瞬、場が静かになる。


 そして。


「うわああ! 出た! 無自覚の惚気!」

「柊先輩、今のは反則ですね」


 美月まで笑い出した。私は朔也を見上げる。


「……朔也?」

「ん?」

「今の、ちょっと恥ずかしい……」

「本当のことだから」


 また、そんなことを普通の顔で言う。


 私は照れくさくなって、温かいお茶を一口飲んだ。


「……あれ?」


 いつの間にか、朔也のマグカップが空になっていた。


 私はそれを見て、そっと立ち上がる。


「朔也、お茶のおかわりいる?」

「うん。もらおうかな」

「じゃあ、私が淹れてくるね!」

「ありがとう」


 電気ケトルでお湯を沸かし、朔也の好きなほうじ茶を用意する。マグカップを二つ持って戻ると、朔也が少し嬉しそうに目を細めた。


「はい、朔也!」

「ありがとう、莉子」

「熱いから気をつけてね」


 そう言うと、航平くんがまた騒ぎ始めた。


「待て待て! 何その新婚夫婦みたいなやり取り!」

「新婚って、航平くん!」

「俺、今ものすごく彼女欲しい!」

「さっきからずっと言ってるじゃない」


 美月が笑いながら、鍋に残っていたきのこを航平くんの取り皿へ入れた。


「ほら、これ食べて元気出しなさい」

「……美月」

「何?」

「お前、なんだかんだ優しいよな」

「そのきのこ、あんたが最後に入れたやつだけど?」

「感動を返せ!」


 部屋中に笑い声が響いた。


     ◇


 鍋の締めは、航平くんが持ってきたうどんだった。


 豆乳スープを吸ったうどんは、つるつるしていておいしい。四人で最後まできれいに食べ終えると、全員が満足そうに息を吐いた。身体の芯まで温まって、さっきまで外が寒かったことも忘れてしまいそうだ。


「はあー! 食った食った!」

「航平、三杯も食べてたよね」

「だってうまかったんだよ!」

「朔也、スープの味つけ、本当においしかったよ」


 私がそう言うと、朔也は穏やかに笑った。


「莉子たちが野菜切ってくれたからね」

「みんなで作ったから、おいしかったんだね!」


 食器を片づけたあとは、航平くんの希望でカードゲームをすることになった。


 選んだのは、数字と色を揃えて出していくゲーム。最初は順調だったのに、途中から航平くんが何度も大量のカードを引くことになり、手札がどんどん増えていった。


「なんで俺ばっかり!」

「航平、顔に出すぎなのよ」

「美月、お前絶対わざとだろ!」

「さあ?」


 美月が楽しそうにカードを出す。


 私は手元のカードを見つめた。あと一枚。でも、その一枚がなかなか出せない。何度も順番が回ってくるのに、肝心の色が合わなかった。


「うーん……」

「莉子、頑張れ」


 隣に座る朔也が、小さく声をかけてくれた。


「うん!」


 私は山札から一枚引いた。


 すると、ちょうど出せる色のカードだった。


「あっ! やった!」


 嬉しくて勢いよくカードを置く。


「上がり!」

「えええ!? 莉子ちゃん!?」

「やったあ!」


 私は両手を上げた。


 すると、朔也が隣で笑った。


「おめでとう、莉子」

「えへへ! 勝っちゃった!」

「強かったね」

「だって、朔也にも勝てたんだもん!」


 そう言うと、朔也は少し目を細めた。


「……そんなに喜ばれると、負けた甲斐があるな」

「…………」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、航平くんがテーブルを叩いた。


「おい、柊! ゲーム中に惚気るなあああ!」

「別に惚気てない」

「今のが惚気じゃなかったら何なんだよ!」


 美月はお腹を抱えて笑っている。


「もう、柊先輩は莉子限定で甘すぎ!」


 私は恥ずかしくなって、カードで顔を隠した。


「朔也……みんなの前でそういうこと言わないでよぉ……」

「……ごめん」


 朔也は少しだけ笑いをこらえているようだった。


「でも、嬉しそうだったから」

「もう……!」


 そんなやり取りをしているうちに、またみんなで笑ってしまった。


 時計を見ると、いつの間にか夜の九時を回っていた。


     ◇


「今日は楽しかったね!」


 帰り道。私は朔也と手を繋ぎながら、駅へ向かって歩いていた。


 美月と航平くんは途中で別れ、今は二人きりだ。夜の空気は冷たく、吐く息が白い。街路樹のイルミネーションがきらきらと輝き、冬の街を彩っていた。


「うん。楽しかった」

「航平くん、相変わらず面白かったね」

「……あいつ、今日何回彼女欲しいって言ったんだろ」

「ふふっ。数えきれないね!」


 私たちは顔を見合わせて笑った。


 しばらく歩いていると、ふと今日の鍋パーティーでのことを思い出した。朔也が私の好きな具材を取り分けてくれたこと。私がお茶を淹れたとき、嬉しそうに笑ってくれたこと。ほんの小さなやり取りだったけれど、なんだか心に残っていた。


 私は繋いでいる手を、ぎゅっと握った。


「……ねえ、朔也」

「ん?」

「私、今日ちょっと思ったことがあるんだ」

「何?」


 私は朔也を見上げた。


「朔也って、いつも私のこと甘やかしてくれるでしょ?」

「……そうかな」

「そうだよ! すっごく!」


 自覚がなさそうな朔也に、思わず笑ってしまう。


「だからね、私ももっと朔也に何かしてあげたいなって思ったの」

「……莉子?」

「いつもごはん作ってもらったり、カフェラテ淹れてもらったり、いろいろしてもらってるから」


 私は少しだけ足を止めた。そして、朔也の前に回り込む。


「私だって、朔也を甘やかしたいもん!」


 思いきって言うと、朔也が目を丸くした。


「……俺を?」

「うん!」

「……甘やかす?」

「そう!」


 朔也はしばらく私を見つめていた。それから、ふっと笑う。


「……じゃあ、今度お願いしようかな」

「えっ、本当!?」

「うん。楽しみにしてる」


 その言葉に、私は嬉しくなって大きく頷いた。


「任せて! 朔也がびっくりするくらい甘やかしてあげる!」

「……それは楽しみ」


 朔也が私の頭を優しく撫でた。私はその手をそっと掴む。


「もう! 今は朔也が甘やかされる番なんだから!」

「……今から?」

「えっ? あ、えっと……」


 突然そう聞かれると、何をすればいいのかわからない。


 私は少し考えてから、両手で朔也の手を包み込んだ。


「……じゃあ、手、温めてあげる!」


 朔也が一瞬驚いたあと、声を出して笑った。


「……ありがとう」

「えへへ。どういたしまして!」


 大きな朔也の手を、私の両手でぎゅっと包む。


「……莉子」

「なぁに?」

「俺、今でも十分甘やかされてると思うけど」

「えっ? どこが?」

「こうしてくれるだけで、嬉しいから」


 そう言って、朔也は私の手をそっと握り返した。


 ……もう。


 そういうことを言うから、また好きになっちゃうんだよ。


 でも、今日は私の方が先に言ったんだから。


「それじゃあ、もっともっと嬉しくしてあげる!」

「……期待してる」


 朔也が楽しそうに笑った。


 冷たい風が吹き抜ける中、私たちは再び歩き始めた。


 ……さて。


 びっくりするくらい甘やかすって、自分で言っちゃったけど。


 いったい、何をすればいいんだろう?


 ごはんを作るのもいいし、朔也の好きなものを用意するのもいいかもしれない。でも、せっかくだから、もっと特別なことをしてあげたい。


 私は隣を歩く朔也をちらりと見た。


 いつも私を大切にしてくれる、大好きな恋人。


 よし。


 次は絶対、私が朔也を甘やかすんだから!

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