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おっぱいコンプレックスの私を、幼馴染が全肯定してくる  作者: 黒猫と珈琲


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14/20

第14話 今度は、私が伝える番

「……朔也」


 夕暮れの公園で、私は隣に座る朔也を見つめた。


 さっき、有坂くんに告白されたことを話したばかりだ。朔也は怒っていないと言ってくれたし、私の気持ちも信じていると言ってくれた。それなのに、いつもより少しだけ口数が少ない。繋いだ手は温かいけれど、何かを考えているような横顔が気になった。


 そして、最後にぽつりと呟いた言葉。


『……ちょっと、妬いてるだけ』


 その言葉が、まだ胸の奥に残っていた。


「……朔也、こっち向いて?」

「ん?」


 朔也が私のほうを向いた。


 私は繋いでいた手をそっと離すと、思いきって彼の胸に飛び込んだ。


「……っ、莉子?」


 突然抱きつかれた朔也が、驚いた声を上げる。私はそのまま彼の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。身長差があるから、座っていても私の顔は自然と彼の胸元に収まる。


「私が好きなのは、朔也だよ」

「……莉子」

「有坂くんは優しいし、いい人だと思う。でも、私が恋人になりたいって思ったのは、朔也だけなの」


 言葉にしてみると、不思議なくらいすんなり出てきた。


 少し前の私だったら、恥ずかしくてこんなことは言えなかったと思う。朔也に好きだと言われるだけで、顔が真っ赤になって、どう返したらいいかわからなくなっていたから。


 でも、今日は違う。


 朔也に、安心してほしかった。


「……だからね、朔也には私の気持ちを、ちゃんと知っててほしいの」


 私がそう言うと、朔也の腕がゆっくりと背中に回った。大きな手が私を包み込むように、優しく抱き返してくれる。


「……うん」


 耳元で、低い声が聞こえた。


「わかってる」

「ほんと?」

「うん。莉子のこと、疑ったりしてないよ」


 朔也は少しだけ腕に力を込めた。


「……もう少し、このまま」

「……うん」


 私は彼の胸に頬を寄せた。


 秋の夕方は、思っていたよりも肌寒い。けれど、朔也の腕の中は温かくて、まるでそこだけ違う季節みたいだった。少し離れたところからは子供たちの笑い声が聞こえ、公園の入り口では犬を連れた人がゆっくりと歩いている。そんな何でもない景色の中で、私たちはしばらく抱き合っていた。


     ◇


「……ねえ、朔也」

「ん?」

「朔也って、あんまり嫉妬しない人だと思ってた」


 少し身体を離して尋ねると、朔也は意外そうに私を見た。


「なんで?」

「だって、いつも落ち着いてるし。私が誰と話してても、そんなに気にしてないみたいだったから」

「……そう見えてた?」

「うん」


 朔也は一瞬黙ったあと、小さく笑った。


「……結構、気にしてるよ」

「えっ!?」

「莉子、自覚ないだろうけど」

「な、何の自覚?」

「人との距離、近いときあるから」


 そう言われて、私は首を傾げた。


「そうかな?」

「うん。誰にでも普通に笑いかけるし、話しかけられたら嬉しそうに返事するだろ」

「だって、話しかけてもらえたら嬉しいもん」

「知ってる。そういうところも好きだよ」


 さらりと言われて、今度は私が言葉に詰まってしまった。


「……もう、朔也ってば」


 思わず頬を押さえると、朔也は少し楽しそうに笑った。


「だから、そこを変えてほしいわけじゃない」

「……うん」

「ただ、俺が勝手に妬いてるだけ」


 朔也は私の手を取り、指先をそっと包み込んだ。


「有坂が莉子を好きになるのも、わからなくはないし」

「えっ?」

「一緒に課題やって、話してたら……そりゃ、好きになるやつもいるだろ」

「そ、そんなことないと思うけど……」

「あるよ」


 即答だった。私は思わず目を丸くする。


「……だって、俺もそうだったから」


 朔也が静かに続けた。


「中学の頃、莉子のこと好きだって気づいてから、今までどおりに話すだけでも結構大変だった」

「……えっ? そうなの?」

「うん。普通にしてるつもりだったけど、内心は全然」


 その言葉に、私は思わず彼の顔を見つめた。


 ……全然、知らなかった。


 中学生の頃の朔也は、今より少し無口で、いつも落ち着いていた。私がくだらない話をしても、呆れたように笑いながら聞いてくれたし、帰り道で偶然会えば、当たり前のように一緒に帰ってくれた。


 私はずっと、それが幼馴染だからだと思っていた。


「……朔也、いつから私のこと好きだったの?」

「中学に入ってからかな。はっきり自覚したのは」

「そんなに前から……」

「うん」


 朔也は少しだけ照れたように視線を逸らした。


「でも、当時は誰にも言えなかった」

「どうして?」

「恥ずかしかったし。莉子に知られて、今までみたいに話せなくなるのも嫌だったから」


 私は思わず、繋いだ手に視線を落とした。


 ……そっか。


 朔也は、幼馴染の関係が変わってしまうのが怖かったんだ。


「高校も別々になっただろ」

「……うん」

「あの頃は、結構焦ってた」

「えっ、朔也が?」

「毎日会えなくなったし、莉子に新しい友達も増えたから」


 朔也は少しだけ苦笑した。


「そのうち、誰かに好きだって言われるんじゃないかって」

「……そんなこと考えてたの?」

「うん。でも、告白して振られたら、幼馴染にすら戻れないかもしれないだろ」


 その言葉に、胸がきゅっとなった。


 私にとって朔也は、いつでも会える大切な幼馴染だった。でも、朔也にとっては、ずっと片思いの相手でもあったんだ。


 同じ時間を過ごしていても、見えていた景色は少し違っていたのかもしれない。


「……ねえ、朔也」

「ん?」

「中学生の頃、私がほかの男の子と話してたら、嫌だった?」


 朔也は少し考えてから答えた。


「……嫌っていうか、羨ましかった」

「羨ましい?」

「俺は好きって言えないのに、何も気にせず莉子と話してるやつがいてさ」

「……うん」

「でも、莉子が楽しそうなら、それでいいとも思ってた」


 私は思わず、朔也の手を両手で握った。


「……朔也」

「ん?」

「そんなに長い間、私のこと好きでいてくれたんだね」

「……まあね」


 朔也が少し照れたように笑う。


「でも、今はちゃんと彼氏になれたから」

「……うん!」

「だから、昔よりずっと欲張りになったかも」

「えっ?」

「莉子に、もっと好きになってほしいって思う」


 その言葉に、胸がどきんと鳴った。


 ……もう。


 そんなこと言われたら、どうしたらいいの?


 私は今だって、こんなに朔也のことが好きなのに。


     ◇


「……じゃあ、今度は私の話を聞いて?」


 私はベンチに座り直すと、朔也の顔を覗き込んだ。


「うん」

「私ね、最初は朔也のこと、幼馴染としか思ってなかったの」

「……知ってる」

「えへへ。でも、いつからか、朔也がほかの女の子と話してると気になったり、二人で出かけるって聞くとすごく嬉しくなったりして……」


 話しながら、あの頃の気持ちを思い出す。


 水族館で告白された日。好きだと伝え返した日。初めて恋人として朔也の部屋に遊びに行った日。どの日も、今では大切な思い出だ。幼馴染だった頃には当たり前だった時間が、恋人になってから少しずつ違って見えるようになった。


「朔也が私を好きだって言ってくれたとき、すっごく嬉しかった」

「……うん」

「でもね、今はそれ以上に嬉しいことがあるの」

「何?」


 私は彼の目をまっすぐ見つめた。


「私も、朔也を好きでいられること」


 朔也が目を瞬かせた。


「……それ、どういう意味?」

「えっとね……」


 うまく説明できるかな。


 私は少し考えてから、言葉を選んだ。


「朔也に好きって言ってもらえるのは、もちろん嬉しいよ。でも、私も朔也に好きって言いたいし、朔也が喜ぶことをいっぱいしたいの」

「……莉子」

「だから、朔也が嫉妬してるなら、今度は私が安心させてあげたいなって思ったの」


 言い終わる頃には、少しだけ恥ずかしくなっていた。


 でも、後悔はしていない。これは全部、本当の気持ちだから。


 朔也はしばらく黙って私を見つめていた。そして、ふっと視線を落とす。


「……参ったな」

「えっ?」

「今日の莉子、ずるい」

「ず、ずるい!?」


 思わず声が裏返った。


「私、何か変なこと言った?」

「いや。嬉しいことばっかり言うから」


 朔也はそう言って、片手で口元を隠した。


 ……あれ? もしかして。


「朔也、照れてる?」

「……少し」

「ええっ!」


 あまりにも素直な返事に、私は思わず笑ってしまった。


「ふふっ! 珍しい!」

「そんなに笑う?」

「だって、いつも私ばっかり照れてるんだもん!」


 私が笑いながら言うと、朔也は困ったように眉を下げた。


「……莉子には敵わないな」


 その表情が、普段のクールな朔也とは少し違って見えた。


 私はなんだか嬉しくなって、もう一度彼の手をぎゅっと握った。


「ねえ、朔也」

「ん?」

「私、これからもっと好きって言うね!」

「……え?」

「だって、言わないと伝わらないこともあるでしょ?」


 朔也が驚いたように私を見る。


 私はにっこり笑った。


「大好きだよ、朔也!」

「…………」

「……あれ?」


 返事がない。


 よく見ると、朔也は私から少しだけ顔を背けていた。


「朔也?」

「……ちょっと待って」

「どうしたの?」

「……今、顔見ないで」

「えっ、なんで?」


 私は不思議に思って、そっと横から覗き込んだ。


 すると。


「……あ!」


 朔也の耳が、赤くなっていた。


「朔也! 耳、赤い!」

「……莉子」

「ふふっ、可愛い!」

「それは言わないで」


 いつも私を照れさせる朔也が、こんなふうに余裕をなくしている。なんだか、とても新鮮だった。


 私は笑いながら、彼の肩にこつんと頭を寄せた。


「……ねえ、朔也」

「……何?」

「私ばっかりドキドキしてると思ってたけど、違うんだね」


 朔也は少し黙ってから、静かに答えた。


「……違うよ」

「ほんと?」

「うん。莉子に好きって言われたら、普通に嬉しいし」

「……うん」

「……結構、ドキドキしてる」


 その言葉に、今度は私の頬が熱くなった。


 なんだ。同じだったんだ。


 朔也も私と同じように、嬉しくなったり、照れたり、ドキドキしたりするんだ。私の言葉がちゃんと彼に届いていることがわかって、胸の奥がくすぐったくなった。


     ◇


 気がつけば、公園の街灯がすっかり明るくなっていた。


 私たちはベンチから立ち上がり、駅へ向かって歩き始めた。さっきまで少しだけ冷たく感じていた風も、今は不思議と気にならない。朔也はいつものように私の手を握ってくれたけれど、今日は私もその手をしっかり握り返した。


「……ねえ、朔也」

「ん?」

「これからも、嫌なこととか、心配なことがあったら言ってね」


 朔也が私を見た。


「私、朔也の気持ちもちゃんと知りたいから」

「……うん」

「嬉しいことも、困ったことも、半分こしよう?」


 朔也は少しだけ目を細めた。


「……それ、いいね」

「でしょ?」

「じゃあ、俺もちゃんと言う」

「うん!」


 私たちは顔を見合わせて笑った。


 恋人になったからって、何でもわかるわけじゃない。幼馴染として長い時間を一緒に過ごしてきても、知らなかった気持ちはまだまだある。でも、だからこそ、これからが楽しみなのかもしれない。少しずつ、お互いのことをもっと知っていけるのだから。


 駅が見えてきたところで、朔也がふいに足を止めた。


「……莉子」

「なぁに?」

「今日はありがとう」

「えっ?」

「ちゃんと話してくれて。……それから、安心させてくれて」


 朔也が私を見つめた。


 その表情は、もういつもの穏やかなものに戻っていた。


「俺、莉子と付き合えてよかった」


 その言葉に、胸がじんわり温かくなる。


 私は繋いだ手を少し持ち上げて、彼に笑いかけた。


「私も!」


 そして、少しだけ背伸びをする。朔也の肩に手を添えて、耳元にそっと顔を近づけた。


「……世界で一番、大好きだよ」

「……っ」


 囁いた瞬間、朔也の肩がぴくりと動いた。


 私はすぐに離れて、にっこり笑う。


「えへへ。今度は私がドキドキさせちゃった!」


 朔也はしばらく私を見つめていた。そして、困ったように笑う。


「……ほんと、敵わない」


 そう言って、繋いだ手を優しく握り直した。


 私はその手を握り返し、隣に並んで歩き出す。


 いつもは朔也に甘やかされてばかりの私。でも、今日わかったことがある。私の言葉一つで、朔也もこんなに嬉しそうな顔をしてくれるんだ。それなら、これからはもっと伝えたい。


 好きだよって。


 大切だよって。


 私にとって、朔也がどれだけ特別な人なのか。


 だって、恋人って、きっとどちらか一人が愛されるだけじゃない。


 二人で、お互いを幸せにしていくものなんだから。

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