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おっぱいコンプレックスの私を、幼馴染が全肯定してくる  作者: 黒猫と珈琲


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12/20

第12話 四人で過ごす、秋の休日

「莉子ー! こっちこっち!」


 大学の正門をくぐった途端、聞き慣れた声が飛んできた。顔を上げると、美月が大きく手を振っている。その隣には航平くん。そして、少し離れたところに朔也が立っていた。


 今日は大学の秋の交流イベント。普段は講義で使っているキャンパスに、たくさんの模擬店やゲームコーナーが並び、朝から大勢の学生で賑わっている。中央ステージからは軽快な音楽が聞こえ、どこからか焼きそばのいい匂いまで漂ってきた。


 私は三人に向かって駆け寄った。


「おはよう! みんな早いね」

「莉子が最後だよ。まあ、集合時間ぴったりだけど」

「俺なんか楽しみすぎて三十分前に来たからな!」

「航平、それは単に暇だっただけでしょ」

「違う! 今日は運命の出会いがあるかもしれないだろ!」

「はいはい。頑張ってね」


 美月の適当な返事に、航平くんが大げさに肩を落とす。そのやり取りがおかしくて笑っていると、朔也が私の隣に来た。


「おはよう、莉子」

「おはよう、朔也」

「ちゃんと寝られた?」

「うん! 楽しみでちょっと早く起きちゃったけど」

「子供みたい」

「もう、朔也だって楽しみにしてたでしょ?」

「……まあね」


 そう言って、朔也が私の手を取った。指と指が自然に絡まり、温かな手のひらが重なる。恋人になってから、こうして手を繋ぐことにも少しずつ慣れてきた。以前なら人前で手を繋ぐだけで緊張していたのに、今では自分から握り返せるようになっている。それでも、こうして隣にいてくれることが嬉しい。


 すると、隣からわざとらしいため息が聞こえた。


「はいはい、朝から仲良しですねー」

「航平、うるさい」

「俺にもおはようの握手くらいしてくれよ」

「嫌だ」

「即答!?」


 美月が吹き出し、私もつられて笑ってしまった。


 こうして四人で過ごす休日は、なんだか特別なものになりそうだった。


     ◇


「まずは食べ歩きでしょ!」


 美月のひと言で、私たちは模擬店が並ぶ広場へ向かった。


 焼きそばにフランクフルト、クレープ、揚げたてのポテト。どのお店も学生たちが工夫を凝らしていて、見ているだけで楽しい。手書きの看板や色とりどりの飾りつけも、お祭りらしい雰囲気を盛り上げていた。


 航平くんは早速、大きな焼きそばを買っていた。


「うまっ! こういうイベントの焼きそばって、なんでこんなにうまいんだろうな」

「雰囲気じゃない?」

「それだ! 美月、お前たまにはいいこと言うな」

「たまには余計よ」


 私はクレープのお店の前で足を止めた。


 看板には、いちごチョコ、生クリームバナナ、キャラメルナッツと、魅力的な名前がずらりと並んでいる。甘い香りに誘われて、ついつい目移りしてしまった。


「わあ、どれにしよう……」

「莉子、いちご好きだろ」

「うん。でもバナナも捨てがたいんだよね」

「じゃあ、両方頼んで半分ずつ食べる?」

「えっ、いいの?」

「俺も食べたいし」


 結局、いちごチョコとチョコバナナを一つずつ買い、朔也と交換しながら食べることになった。


「んー! おいしい!」

「よかったね」

「朔也も食べてみて。こっち、いちごが甘いよ」

「うん」


 私が差し出したクレープに、朔也がそのまま口をつける。


 ……あれ?


 今、普通に食べさせちゃった?


 自分から差し出したくせに、急に恥ずかしくなってしまった。朔也は何事もなかったように頷いている。


「おいしい」

「そ、そうだね!」


 そんな私をよそに、航平くんが口を開いた。


「なあ、美月。俺たちもクレープ半分こしない?」

「自分で買いなさい」

「冷たっ! もうちょっと優しさをくれよ!」

「じゃあ、一口ちょうだいって言えば?」

「おっ、いいのか?」

「私のじゃなくて、朔也の」

「柊ー! 俺にもクレープ!」

「もう食べた」


 朔也が最後の一口を食べ終えると、航平くんがその場に崩れ落ちた。


「こいつ、親友に対する愛情が足りない……」

「航平くん、私の少し残ってるよ?」

「莉子ちゃん、天使!」

「莉子、あげなくていい」

「お前、独占欲をクレープにまで発揮するなよ!」


 航平くんの言葉に、美月がとうとう声を上げて笑った。


「もう、航平ってば! そんなに食べたいなら買ってあげるから!」

「えっ、マジ!?」

「ただし、自分でお金払ってね」

「それ、買ってあげるって言わないだろ!」


 私も笑いすぎて、お腹が痛くなってしまった。


 ……ああ、楽しい!


 朔也と二人で過ごす時間も大好きだけど、こうしてみんなで騒ぐのも、やっぱりいいなぁ。


     ◇


 午後になると、中央ステージで学生たちによるパフォーマンスが始まった。


 ダンスサークルの発表や軽音楽部の演奏が続き、広場には朝以上の人が集まっている。私たちも見に行ったけれど、前に背の高い人が何人もいて、ステージがほとんど見えなかった。楽しそうな音楽は聞こえるのに、演奏している人たちの姿が見えない。


「わっ、すごい歓声!」


 背伸びをしてみても、見えるのは前の人の肩ばかり。もう少し右に移動すれば見えるかな、と考えていると、朔也が私の手を軽く引いた。


「莉子、こっち」

「え?」

「あっちの端なら見えると思う」


 朔也に連れられて少し移動すると、ステージを斜めから見渡せる場所があった。しかも、人が比較的少なくて、背伸びをしなくても演奏している学生たちがよく見える。


「わあ! ここ、すごく見やすい!」

「よかった」

「ありがとう、朔也!」


 嬉しくて見上げると、朔也が小さく笑った。


「楽しんで。手は離さないから」


 その言葉に、胸の奥がきゅっと温かくなる。


 人混みの中でも、朔也はいつも私を気にかけてくれる。大げさなことを言うわけじゃないけれど、こういうさりげない優しさが、私は大好きだった。私の身長では見えにくいことにも、何も言わなくても気づいてくれる。


「おーい! そこの二人!」


 振り返ると、航平くんがこちらに向かって手を振っていた。


「俺たちのこと忘れてない!?」

「忘れてないよー!」

「柊、お前さあ、莉子ちゃんのことになると行動が早すぎるんだよ!」

「普通だろ」

「その普通を俺にも分けてくれ!」


 美月が呆れた顔で航平くんの背中を軽く叩く。


「ほら、騒いでないでステージ見ようよ」

「はいはい。まったく、カップルってやつは……」


 そう言いながらも、航平くんは楽しそうだった。


 私たちは四人で音楽に合わせて手拍子をし、最後の曲では周りの学生たちと一緒に大きな拍手を送った。いつの間にか私も夢中になっていて、終わったあとには少し手のひらが痛くなっていた。


     ◇


「次はゲームコーナー行こうぜ!」


 ステージを見終えたあと、航平くんに連れられて体育館横の特設エリアへ向かった。


 輪投げやボール投げ、射的などが並ぶ一角は、まるで小さなお祭りみたいだった。特に射的コーナーには可愛い景品がたくさん飾られていて、私は思わず足を止めた。


「あっ、あのくまさん可愛い!」


 棚の上に、手のひらほどの大きさの白いくまのぬいぐるみがあった。首には淡いピンク色のリボンが結ばれていて、ちょこんとした丸い耳がとても可愛い。


「莉子、欲しいの?」

「うん。でも射的って難しそう」

「やってみる?」

「えっ、朔也が?」

「うん」


 朔也は受付で料金を払い、コルク銃を受け取った。


 ……そういえば、朔也が射的をするところなんて見たことがない。小さい頃から一緒にいるけれど、まだ知らないこともあるんだなぁ。


「柊、勝負しようぜ!」


 航平くんも隣に並び、得意げに銃を構えた。


「俺、こういうの結構得意だからな!」

「そうなの?」

「中学の文化祭で射的やったとき、三個も景品取ったんだぜ!」

「へえ、すごい!」

「だろ? 莉子ちゃん、見ててくれよ!」


 航平くんが狙いを定めて引き金を引く。


 ぱんっ。


 コルクは景品の横を通り過ぎ、後ろの壁に当たった。


「……あれ?」

「航平、外したね」

「今のは銃の調子が悪かった!」


 二発目も外れ、三発目は景品にかすっただけだった。


「おかしいな……昔はもっと当たったのに……」

「昔の栄光にすがらないでよ」


 美月の容赦ない言葉に、航平くんががっくりと肩を落とす。


 その隣で、朔也が静かに銃を構えた。狙いを定める横顔はいつもどおり落ち着いていて、余計な動きがない。


 ぱんっ。


 軽い音がして、棚の上の小さなくまがころんと後ろに倒れた。


「えっ!?」


 私が驚いている間に、係の学生が景品を取ってくれる。


「おめでとうございます! 一発で当てるなんてすごいですね!」


 朔也は軽く会釈して、受け取ったぬいぐるみを私に差し出した。


「はい、莉子」

「えっ、いいの?」

「欲しかったんでしょ」

「うん! ありがとう!」


 両手で受け取ったくまは、ふわふわしていて可愛かった。小さな黒い目と丸い耳を眺めていると、自然に笑顔になってしまう。


「朔也、すごいね! 射的得意だったの?」

「昔、ちょっとやったことあるだけ」

「ちょっとで一発命中するか!?」


 航平くんがものすごい勢いで振り向いた。


「柊! 俺にも取ってくれ! あの恐竜!」

「自分で取れよ」

「親友だろ!?」

「だから?」

「だからって何だよ! 少しは友情を見せろよ!」


 朔也は涼しい顔で銃を返した。


「莉子のは取れたから、もういい」

「出た! 莉子ちゃん限定サービス!」

「航平も自分で頑張りなよ」


 美月が笑いながら言うと、航平くんは再び銃を構えた。


「よーし! こうなったら意地でも取ってやる!」


 結局、航平くんは追加で二回挑戦した。


 そして。


「やったあああ!」


 最後の一発で、小さな恐竜のキーホルダーを見事に落とした。


「おめでとう、航平くん!」

「ありがとう! 見たか、柊! これが努力の勝利だ!」

「……お金、結構使ってたけど」

「美月! そこは黙っててくれ!」


 航平くんは嬉しそうにキーホルダーを掲げている。


 ……ふふっ。


 なんだか、男の子って可愛いところがあるんだなぁ。


 そう思いながら朔也を見ると、彼は私が抱えているくまのぬいぐるみに視線を落としていた。


「……気に入った?」

「うん! すっごく!」


 私が笑顔で答えると、朔也は満足そうに微笑んだ。


     ◇


 夕方になると、交流イベントも終わりに近づいていた。


 私たちは最後に温かい飲み物を買い、広場のベンチでひと休みすることにした。昼間はあんなに賑やかだったキャンパスも、少しずつ落ち着いた雰囲気になっている。夕日に照らされた木々の葉は赤や黄色に染まり、秋の深まりを感じさせた。


 私は隣に座る朔也の肩に、そっと自分の肩を寄せた。


「今日、楽しかったね」

「うん」

「私、こういうイベントって久しぶりかも」

「俺も楽しかった」


 朔也がそう言ったところで、向かいのベンチにいた航平くんが勢いよく立ち上がった。


「よし! 次はクリスマスだな!」

「気が早すぎない?」

「何言ってんだ、美月! 今から準備しないと間に合わないだろ!」

「何の準備?」

「彼女を作る準備!」

「それ、毎月言ってない?」

「うっ……!」


 航平くんが胸を押さえる。


「俺だってさあ、クリスマスに彼女とデートしたいわけよ。イルミネーション見たり、ケーキ食べたり!」

「まず好きな人を見つけたら?」

「そこから!?」


 美月が肩をすくめ、私はくすくす笑った。


「でも、クリスマスにまた四人で集まるのも楽しそうだよね」

「莉子ちゃん、いいこと言う!」

「私は別にいいけど。鍋パーティーとか楽しそうじゃない?」

「鍋! いいな、それ!」


 航平くんが目を輝かせる。


「柊! お前んちで鍋やろうぜ!」

「……また俺の部屋?」

「だって、お前んち落ち着くんだよ」

「片づけるの、いつも俺なんだけど」

「今度は俺がやる!」

「前も言ってた」

「今度こそ!」


 そんな二人のやり取りを聞きながら、私は思わず笑顔になった。


 朔也と恋人になって、二人で過ごす時間が増えた。でも、こうして四人で笑い合う時間も、やっぱり大好きだ。


 大学に入ってから知り合った美月と、幼い頃から朔也と仲がいい航平くん。最初はそれぞれ違う関係だったのに、今ではこうして一緒に休日を過ごしている。


 これから先も、こんな時間がたくさん増えていったらいいな。


     ◇


 イベントが終わる頃には、空がすっかり茜色に染まっていた。


 美月と航平くんとは大学の正門で別れ、私は朔也と二人で駅へ向かうことになった。


「じゃあね、莉子! また月曜日ね!」

「うん! 美月も気をつけてね」

「莉子ちゃん、柊! また遊ぼうな!」

「航平くんも気をつけて!」


 大きく手を振って二人を見送る。


 姿が見えなくなると、さっきまで賑やかだったのが嘘みたいに、周りが静かになった気がした。


 朔也が隣から手を差し出す。


「帰ろうか」

「うん!」


 私はその手を握り、ゆっくり歩き始めた。


 大学から駅へ続く並木道には、落ち葉がたくさん積もっている。歩くたびにかさかさと音がして、秋の夕方らしい少し冷たい風が頬を撫でた。


 私は今日もらった白いくまを、バッグにつけた。


「見て、朔也! ここにつけたら可愛いと思わない?」

「うん。いいと思う」

「えへへ。大事にするね」

「そんなに喜んでくれるなら、取ってよかった」

「だって、朔也が取ってくれたんだもん」


 そう答えると、朔也が少しだけ目を細めた。


 私は繋いだ手を軽く揺らしながら、今日一日のことを思い返した。


「本当に楽しかったなあ。クレープもおいしかったし、ステージもすごかったし、航平くんの射的も面白かった!」

「最後は取れてたけどね」

「うん! あんなに喜ぶとは思わなかった」

「あいつ、単純だから」

「ふふっ。でも、そういうところが航平くんらしいよね」


 夕焼けの向こうに、駅の建物が見えてきた。


「ねえ、朔也」

「ん?」

「これからも、四人でいろんなところに行きたいね。映画とか、遊園地とか、旅行とか!」

「うん。いいと思う」

「みんなで思い出、いっぱい作りたいな」


 私が笑顔でそう言うと、朔也は少し考えるように黙った。そして、繋いだ手をきゅっと握り直す。


「……俺は、二人の時間も欲しいけど」

「えっ?」


 思わず見上げると、朔也は前を向いたままだった。


「四人で遊ぶのも楽しい。でも、莉子と二人で出かけるのも好きだから」

「……朔也」


 何気ない言葉なのに、胸がきゅんとする。


 そうだ。今日はみんなで過ごすのが楽しくて、次の予定も四人で考えていたけれど、私だって朔也と二人でデートしたい。


 私は少しだけ歩く速度を落とした。


「じゃあ、次のお休みは二人で出かけようよ」

「いいの?」

「もちろん! 私も朔也とデートしたいもん」

「……そっか」


 朔也がこちらを向いて、ふっと笑った。


「じゃあ、どこ行きたい?」

「うーん。雑貨屋さんも見たいし、映画も行きたいし……あっ、新しくできたカフェも気になる!」

「全部行く?」

「えっ、全部?」

「一日あれば回れるだろ」

「ふふっ、欲張りなデートになっちゃうね」

「いいんじゃない?」


 私は嬉しくなって、朔也の腕にぎゅっと抱きついた。


「じゃあ、朔也の行きたいところも一つ入れよう!」

「俺の?」

「うん。私ばっかり行きたいところ決めるの、ずるいもん」

「……そうだな」


 朔也は少し考えてから、私を見下ろした。


「最後は、俺の部屋に来て」

「おうち?」

「うん。新しい豆、買ったから。莉子に飲ませたい」

「わあ! カフェラテ?」

「もちろん」


 その答えが嬉しくて、私は思わず笑った。


「楽しみにしてるね!」


 朔也も笑って、私の手を握り直した。


 四人で笑い合った、賑やかな休日。そして、二人で過ごす次の休日の約束。どちらも私にとって、かけがえのない大切な時間だ。


 ふと隣を見ると、朔也もこちらを見ていた。


「……莉子」

「なぁに?」

「今日、楽しかった?」

「うん! すっごく!」

「なら、よかった」


 その優しい声を聞いて、私はもう一度、繋いだ手に力を込めた。


「でもね、朔也」

「ん?」

「今度のデートも、今日と同じくらい楽しみだよ」


 朔也は一瞬だけ驚いたような顔をして、それから嬉しそうに微笑んだ。


「……俺も」


 秋の夕暮れ。隣にいる大好きな人と、次のデートの話をしながら歩く。こんな何気ない時間が、私はたまらなく幸せだった。


 そして、次の休日が待ち遠しくて仕方なくなった。

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