真逆《まさか》の邂逅 ー2ー
真面目で実力のある期待の新人。それが、蓮希の奈律に対する評価である。
その期待に違わぬ奈律の返答を聞いて、蓮希は笑みを深くした。
「ああ、頼んだぞ。詳細は本人から聞いてくれ」
蓮希に目配せされて立ち上がった久瀬が、彼女の背後に回りオフィスチェアの背面部分に手をかける。
蓮希越しに顔を覗かせる久瀬と正面から対面する形になった。
でかい。
改めて彼の容姿を目の当たりにしたが、想像よりも上背がある。奈律も高身長の部類にあるが久瀬の顔を見るには仰ぎ見るしかなかった。
「はいはい。では改めて、俺は久瀬。バナナちゃんの先輩で、蓮希の幼馴染みで〜す!」
「だから千葉で、す……は、幼馴染み?」
間延びした口調で久瀬の発言に驚いて蓮希を見る。蓮希は特に否定することもなく、静かに奈律達の様子を眺めていた。
確かに随分気安い態度で接していると思っていたが、それが幼馴染みだからとは思わなかった。
「そ〜、幼馴染みで、クランの創設メンバーでもありま〜す!」
「……創設、メンバー!?」
その言葉に、奈律の背筋が伸びる。
つまり、ネクサスが今よりも小さかった頃から蓮希と一緒にいたということ。一からクランを作り上げてきたということだ。
それならば、自分が知らないのも無理はない。久瀬は奈律よりもずっと前から、このクランに在籍していた先輩なのだから。
「す、すみませんでした! 先輩に対して失礼な態度を——」
「気にしてないって〜。俺には楽に接していいからね、バナナちゃん」
奈律は青ざめた顔で謝罪し、久瀬はそれを軽く流した。許して貰えたことに安堵しつつも、それとこれとは話が別である。
先輩なのだから、これから失礼な態度を取るつもりはない。
だからといって、勝手に渾名で呼ばれることを受け入れたわけでもない。
奈律は少しだけ考えてから、これは当然の権利であると自分を納得させた。
「千葉です。久瀬先輩」
「頑固だね。そっちが折れてくれないんだ」
「それはこちらの台詞です。先輩が後輩に配慮して下さるべきでは?」
「え〜、先輩として後輩を可愛がってるだけなのに」
「久瀬、いい歳したオッサンがぶりっ子するな。ちっとも話が進んでないぞ」
「…………」
蓮希に注意された久瀬はつまらなそうに唇を尖らせて、大袈裟にため息をついた。
「蓮希に怒られたし話し戻そっか。えーと、どこまで話したっけ?」
「久瀬先輩がマスターの幼馴染みで、創設メンバーという自己紹介で止まってます」
「あ、そお? そうそう、俺さァ六時間後に死ぬかもしれないんだよね」
六時間後。
やけに具体的だが、嘘をついてるようには見えなかった。久瀬の発言が真実だとして、何故六時間後に死ぬ可能性を彼は知っているのだ。
「その根拠は? 具体的に教えてくれなければ対策も練れません」
「ん〜未来が見えんの。……って言ったら信じてくれる?」
久瀬がうっすらと目を細めて小首を傾げる。世間話の延長のような軽い口調で話す久瀬の態度はどこまでも軽薄に感じた。
「……未来視のようなスキルで予知したと?」
「ありゃ、信じるの? そんなスキル見たことも聞いたこともないでしょうに」
予想外だ、と言わんばかりに目を丸くした久瀬に、奈律は苦虫を噛み潰したような顔で口を噤んだ。
久瀬の言う通り「未来を視る」スキルなんて初めて聞いた。そんな規格外のスキルが存在するのか、という疑問は残っている。
「私は久瀬先輩ではなく、マスターを信じています。貴方だけの発言なら切り捨てていました」
しかし、蓮希は一度も否定していない。
その事実が、奈律の中で大きな判断材料になっていた。
「ずいぶん信頼されてんね。ちょっと羨ましいかも」
「日頃の行いだ」
「手厳しい……でね、その原因を何とかする為に君の力を借りたいんだ。いつもは別のバディがいるんだけどなんか手が空いてないらしくて。だから、今回限りの依頼だと思ってくれて大丈夫」
「分かりました。それで、久瀬先輩の死因は? 六時間後に何が起こるんですか?」
「んー、分かんない!」
ぶん殴ってしまおうか。
久瀬を殴って、訴えられて、裁判で争って……これ以上想像するのはやめよう。心なしか胃がキリキリしてきた気がする。
舌を出してすっとぼける久瀬に奈律は真顔で苛立った。やっぱり、嘘をつかれているのかもしれない。
蓮希が奈律に嘘をつくなんて信じられないが、久瀬という人間に信憑性がなさすぎる。
「……それで、私にどうしろと」
「だから一緒にいてほしいんだよね〜」
「なるほど。つまり護衛任務ですね。そちらの方が分かりやすい」
久瀬の言葉に奈律は頷いた。
役割が絞られれば話が早い。最初からそう言ってくれればこんなに話が長引かなくて済んだのに。
護衛対象《久瀬》は気に入らない。
問題ない。
久瀬の発言も死因も不明瞭である。
問題ない。
奈律の手に負えるかも分からない。
問題ない。
これらの懸念は、全て些事である。
根拠はない。でも奈律は、自分なら出来るという確信がある。
バチッ。
奈律の頭の奥で、何かが弾けた。
“第六感”
奈律の保有スキルであり、自動で発動するスキルである。
「やった〜! 改めてよろしくね、バナナちゃん」
「千葉です。いい加減にして下さい。こちらこそよろしくお願いします」
「え〜諦めてよ」
「久瀬先輩こそ」
久瀬と顔を見合せて握手を交わす。
一歩も引かない姿勢を貫く二人に見かねた蓮希が間を取り持つ為に立ち上がった。
「話はまとまったようだな。では、奈律はしばらく久瀬と行動するように。お前はあまり奈律に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「はい」
「なーんか、俺とバナナちゃんで態度違くない?」
「……それが原因では?」
「そんなわけないじゃーん」
久瀬は一度自分の行動を振り返った方がいい。そんな思いを込めてジト目で苦言を呈した奈律を久瀬は簡単にいなした。




