7 未練がましい婚約者 ①
ティファリーは父たちの話し合いが終わるのを自室で静かに待った。
たとえ、ノーリーとのことが認められずとも、ゲッティは数多くの女性と浮気をしていると、彼の両親も把握している。
ゲッティの両親は、婚約の破棄に応じないわけにはいかないだろうことは頭でわかっていた。しかし、ゲッティがティファリーをなだめてくれると期待して、この日を迎えていた。そのため、上手くいかなかったことがわかると、何とかして婚約破棄を阻止しようとした。
約1時間後、ノウンがティファリーの部屋にやって来て言った。
「少し質問したいことがある」
「何でしょうか」
ソファに座ってもらい、ティファリーもその横に腰掛けた。ノウンはティファリーを見つめながら、眉尻を下げて尋ねる。
「伯爵が言うには、息子は遊んでいただけで浮気をしていたわけではない。口づけを交わしたことはあるが、一線を越えるようなことはしていないと言うんだ」
「……それは、ノーリーお姉様とのことですか?」
「いや。ノーリーとの件は認めていない。ただ、ウノユ侯爵からの報告書は読んだ。だから、改めて調べ直すことにするから心配しないでくれ」
「……ありがとうございます」
前置き段階で口を挟んでしまったことを詫び、ティファリーは父に話の続きを促した。
「で、結局、向こうはなんとおっしゃっているのでしょうか」
「パス伯爵は、息子は一線を越えていないし、他の女性たちとの関わりは全て遊びだった。二度とそんな馬鹿なことはしないし、させないから、息子を許してやってくれと言っている」
「ふざけたことをおっしゃいますのね。許すわけがないでしょう」
ティファリーは失笑して首を横に振った。
(ノーリーお姉様は自分とのことが遊びだったと聞いたら、どんな顔をするのでしょうか)
馬鹿にされていると思い、苛立つと同時に、好奇心も湧いた。しかし、さすがに性格が悪いと反省する。
(人の不幸を笑うのはよくありません。それよりも今は婚約を破棄することに集中しなければなりません!)
黙って自分を見つめているノウンに、ティファリーは苦笑する。
「お父様申し訳ございません。婚約を破棄すれば、次の婚約者を見つけるのは難しいかもしれません。一生独身である覚悟もしていますし、家を出ていけとおっしゃるのなら」
「出ていけなど言うわけがないだろう。確認をしただけだ」
ノウンはそう言ってティファリーの肩に優しく触れる。
「そこまでの覚悟があるのなら、それでいい。やっぱり婚約し直したいなんて言い出されても困るんだ」
「絶対に言いません」
「わかった」
ノウンはうなずいて立ち上がり「話をしてくるから、もう少し待っていてくれ」と言って部屋を出ていった。
そして、十分も経たないうちに、ノウンは再度、ティファリーの部屋を訪れた。
「婚約を破棄しようとしたが、相手は同意の署名をしないんだ。裁判で争うつもりらしい。公爵家の権限を使ってもいいが、裁判で争ってもこちらの勝ちは見えている。クリーンなやり方でいくか迷っているところだ」
「……ご迷惑をおかけして申し訳ございません。裁判の費用は、働いて貯めますので」
「何を言っているんだ。私が出すに決まっているだろう」
「……いいのですか?」
ティファリーは父の言葉が、なぜか信じられなかった。
(今まで傷ついてきた心は、自分でも気づかないうちに、お父様を信頼する気持ちも削っていたのですね)
ノウンは悲しげに微笑んでうなずく。
「もちろんだ。それから、ゲッティの主な収入源だった宝石店の名義をティファリーに変更した。この件については、向こうも署名してくれたので問題ない。あの店は明日からティファリーが管理しなさい。わからないことがあれば教える。いつでも相談に乗るので勝手な判断をしないように」
「……っ、お父様、ありがとうございます! 信じられなくてごめんなさい! 大好きです!」
「まだまだ、ティファリーは子供だな」
可愛い娘に抱きつかれ、ノウンの厳しかった表情は一変して笑顔に変わったのだった。




