54 姉だった者と祖母の後悔 ②(エレインSide)
ティファリーがノーリーに絶縁状を突きつけていた頃、エレインはノーリーからの手紙を受け取っていた。
そこには、助けてくれないエレインを責める言葉だけで、彼女の苦労に対してのねぎらいや、感謝の言葉は一切書かれていなかった。
「なんてこと……! ティファリーが使えるようになったと思ったら、ノーリーから裏切られるなんて!」
ノーリーの環境が彼女にとって過酷であることは理解している。ノーリーが可愛いからこそ、助けてやろうと思ったのだ。
希望をかなえてやれなかったことを申し訳なく思うが、かといって、自分が彼女を助け出し、同居しようとは思えなかった。
(出来損ないの娘から生まれた子供だもの。ずっと一緒にいたら憎くなるに決まっているわ)
娘さえも愛せなかった自分が、孫を本気で愛せるとは思えなかった。
ノーリーを可愛いと思うのは、たまに会うからであり、毎日顔を合わせるとまた違ってくる。
しかも、今となっては、その可愛いという気持ちは消え去り、ノーリーはエレインにとって厄介な存在になった。
逆に今まで疎ましく思っていたティファリーが、金の卵にも思えた。
(ティファリーに取り入ることができれば、私は今まで以上に皆から羨ましがられるし、もっと贅沢な暮らしもできるはずよ)
王子に気に入られているティファリーと上手くやることができれば、社交界でちやほやされることは間違いない。
そして、今は公爵家からの仕送りで悠々自適に暮らしているが、やはりもらえる金は多ければ多いほどいいと考えた。
この目的を達成するには、ティファリーの機嫌を取るしかない。ノーリーとの連絡もしないほうがいい。
そう考えたエレインは、ノーリーからの手紙をゴミ箱に放り捨てると、ティファリー宛に手紙を書いた。
あなたにもう一度謝りたい。そして、新たな関係を築きたい。
そう書き綴ったが、すでにノーリーが同じようなことをティファリーに伝え、相手にされていないことを知らない。
エレインは、早くて3日後には返事が来るかもしれないと、指折りを数えて待った。しかし、5日経っても返事はこない。痺れを切らしたエレインは、また筆を執った。
(私は祖母なのよ。無視するなんてありえない)
怒りの感情が字ににじみ出ないよう、呼吸を整えながら丁寧に手紙を書き、フットマンにティファリーに直接手渡すように指示をした。
数日後、フットマンは無事に渡せたと報告したが、ティファリーからの返信は持ってこなかった。
そして、三十日以上経って、ようやくエレインのもとにティファリーからの返信があった。
(まったく! いつまで待たせるのよ!)
愚痴をこぼしたくなったが、バラ色の未来が待っている。そう考えるだけで、返事の遅さへの怒りは消え、自然と笑顔になった。
日当たりのよい窓際に置かれている安楽椅子に座り、メイドが淹れてくれた紅茶を一口飲む。
空を見上げると雲一つない快晴だ。
(まるで空も私を祝福してくれているようだわ)
満面の笑みを浮かべて、ティファリーからの手紙を読み始めた。しかし、読み進めていくうちに、エレインの表情は険しくなり、とうとう怒りの形相で立ち上がった。
「ティファリー! 一体どういうことよ!」
ティファリーからの返信は、エレインの望んだ和解を承諾するものではなく絶縁状だった。
それだけでなく、自分の母――アンへの仕打ちに対しての抗議として、三十日ごとに送っていた仕送りの金額を半分にすると書かれていた。しかも、このことに対して文句を言うために、アンの前に現れた時は、仕送りを全額打ち切るとも書いてあった。
ティファリーの名前の隣には、公爵であるノウンの署名まで書かれている。
「こ、こんなこと許されるわけがない! わ、私の優雅な生活はどうなるのよ!」
(ティファリーからは絶縁状が送られてきたけれど、アンからはない。会いに来るなということなら、手紙を送ればいい。あの子は私に逆らえないからね!)
「あはははは! 甘い! 私がこれくらいで諦めるわけがないでしょう!」
エレインが突然声を上げて笑い始めたので、傍らに立っていたメイドがびくりと体を震わせた。
エレインはアンに冷たく当たっていたが、幼い頃のアンは母からの愛情を求め、エレインの言うことには逆らわずに生きていた。
エレインはそのことをよく知っていた。
『ティファリーが馬鹿なことを言っているわ。仕送りを半分にするなんてありえない。今までの状態に戻しなさい。そして、ティファリーとの仲を取り持ちなさい。私の言うことを聞かなければ、どうなるかわかっているわよね?』
恫喝ともとれる手紙を書き、今度はアンに手渡すようにフットマンに頼んだ。
今までに、アンが逆らってきたことはあった。その度にこうして言うことを聞かせてきた。今回も『お母様の言う通りにいたします』と返ってくるはずだった。
しかし、アンからの返事はいつまで経ってもこないばかりか、仕送りは半分以上減らされた。
エレインにとっては理不尽な話を誰かに聞いてほしくて、彼女はお茶会を開くことにした。いつも集まるメンバーで公爵の義母となった自分にチヤホヤしてくれる人たちでもあった。
招待状を送ったならば、すぐに出席の返事がきていた。だが、予想に反し、いつものメンバー全てが欠席の返事を送ってきた。そして、しばらくは忙しく、お茶会に誘ってもらっても出席できないこと。孫や娘を大事にするようにという言葉も添えられていた。
エレインが自分が被害者だという嘘を誰かに話す前に、ティファリーが個々に連絡を取っていたのだ。
(どうして……! どうしてこんなことに!)
今までアンやティファリーの育ち方が悪いのだと思い込んでいた。それなのに、今はティファリーは社交界では注目の的である。
「私が……間違っていたと言うの?」
孤独になってやっと、自分のしてきたことが本当に正しかったのか。考えるきっかけになったのだった。




