51 母と姉の後悔 ⑦(ノーリーSide)
絶縁状と書かれた紙を握りしめ、ノーリーはティファリーを睨みつける。
「絶縁状って……、あ、あなた、一体、これはどういうことなの」
「そのままの意味です」
ティファリーはにこりと微笑み、一呼吸おいて話を続ける。
「お父様たちがあなたとの縁を完全に断ち切るのは難しいと思っています。そして、私も無理に縁を切ってほしいとも思いません」
「それなら、この絶縁状というのは何なの!?」
「ですから、縁を切れないのはお父様たちと申し上げたはずです」
「家族であることに変わりはないじゃない!」
「私とあなたは元々他人のような関係だったでしょう? 良い思い出なんて一つも思い出せません」
ティファリーの突き放すような言葉は、事情を知らない者が聞けば、とても冷たく感じるものだろう。
そう考えたノーリーは、黙って話を聞いているケインに訴えかけた。
「ケイン殿下! この仕打ちはあんまりだと思いませんか? 私は本当にティファリーと仲良くしたいと思っているのです!」
ケインは眉間の皺を深くしただけで、すぐには答えを返さなかった。
(何よ! まさか、ティファリーの肩を持つんじゃないでしょうね?)
ノーリーが苛立ちを覚えた時、ようやくケインが口を開く。
「君は本当に反省しているのか?」
「……はい?」
「だから、君がティファリーにしてきたことについて、悪いと思っているのかと聞いているんだ」
厳しい口調で問いかけられ、ノーリーは焦った様子で頷く。
「もちろんです! これからはティファリーに尽くしていこうと思って許してほしいと言っているのにティファリーは頑なに私を拒むのです!」
「本当に反省しているのなら、ティファリーの望みを聞いてやってもいいんじゃないか?」
「はい?」
ケインの言葉の意味がわからず、ノーリーはぽかんとした表情で彼を見つめた。
「これは俺の個人的な考えになるが、本当に反省しているなら相手の気持ちも考えるんじゃないだろうか」
「……とおっしゃいますのは?」
「婚約者を奪ったり、自分の嘘のせいで色々とティファリーに迷惑をかけてきたんだ。彼女が自分のことを嫌っていて当たり前だと思わないか?」
「そ、それはわかっています! ですから、関係を再構築しようとしているんです!」
「それが違うんじゃないかと言っているんだ」
「……違う?」
(ケイン殿下は一体、何を言おうとしてるの?)
ノーリーは予想外の展開に焦りながら、事態を好転させようと良い方法がないか、必死に考える。
「無理に関係を良くしようとは思わず、二度とティファリーの前に現れないことが、君なりのけじめになるんじゃないか?」
「そ、そんな……」
(そんなことをしたら、私はいつまでも家に帰れないじゃないの!)
助けてくれると思っていたわケインにまで見放され、ノーリーは唇を噛む。目の奥が熱くなり、泣くつもりはないのに、目に涙が溜まった。
(悔しい。どうして殿下までティファリーの味方をするの?)
嘘泣きではなく、本当の涙があとからあとから溢れてくる。
「うっ……うっ……」
絶縁状を床に落とし、しゃくりあげながら泣き始めたノーリーに、ティファリーが話しかける。
「ノーリーお姉様が私を鬱陶しく思った気持ちは、少しは理解できます。華やかなポジションを私に奪われるような形になったわけですからね」
「そ、それならっ……」
「気持ちがわかるのなら許せとおっしゃりたいのかもしれませんが、それは違います。何事もやり過ぎはいけないのですよ」
ティファリーは絶縁状を拾い上げ、ノーリーの手に握らせて続ける。
「あなたに嘘ばかりつかれてきた私です。ですから、あなたの言葉は嘘ばかりだと思っています。反省したなんて嘘でしょう?」
「酷い! 酷いわ! 殿下、助けてください!」
ノーリーは絶縁状を投げ捨て、ケインの胸に飛び込もうとした。
「近づくな」
しかし、ケインの冷たい眼差しと突き出された手に阻まれ、その場で立ち尽くすことしかできなかった。




