48 母と姉の後悔 ⑤
ティファリーは無言でノーリーを見つめた。
(本当に反省していたら、自分から許してほしいと言わない気がするのですけど、そう思ってしまうのは、私の性格がひねくれてしまっているからでしょうか)
ノーリーのことを許さないと決めている。ただ、謝罪の言葉を述べている人を、冷たく突き放すのは、一般的には温情がないと言われるのかもしれない。
ティファリーの胸に少しの不安がよぎった時、反応しないティファリーにしびれを切らしたノーリーがケインに話しかけた。
「殿下、聞いてください! 私は何度もティファリーに謝ったんです! それなのに、ティファリーはまったく聞く耳を持ってくれなくて!」
「自分に酷いことをした相手を、そう簡単に許せるわけがないだろう」
「で、ですが、私たちは家族なのです!」
「家族から何をしても許されると思っているのか?」
「そうではないんです! ……ただ、ただっ!」
いい言葉が思い浮かばなかったノーリーは、両手で顔を覆って泣き始めた。今までは嘘泣きが多かったが、今回は悲しくて本当の涙を流していた。
……といっても、ティファリーへの罪悪感からなどではなく、今の環境が厳しいことについての悲しみだった。
「私とあなたの血は繋がっておりますし、家族であることに変わりはないかもしれません。ですが、許す許さないは別ものです」
「家族だからこそ大目に見るのが普通でしょう!」
反論したノーリーは顔を上げ、ケインに訴えかける。
「ケイン殿下、ティファリーは昔から冷たい子でした。だからつい、両親や弟たちに必要以上に甘えてしまっていました。それがきっかけで、ティファリーから恨まれるようになってしまったのです!」
「ティファリーが冷たいとは思えないが、それはそれとして、どうして両親たちに必要以上に甘える必要があるんだ?」
ケインは家族に甘えることを悪いとは思っていない。ただ、嘘をついてまでティファリーを貶めるのは違うと思っていた。
ケインが自分に興味を持ってくれていると思ったノーリーは、涙で頬にくっついた髪など、気にする様子もなく答える。
「家族が何とかして、ティファリーを止めてくれると思ったんです」
「君の答えは俺にはいまいち理解できない」
胸の前で腕を組み、ケインは眉をひそめた。不快感を表すようなその姿は、ノーリーにとってたまらないものだった。
ノーリーはうっとりとした目でケインを見つめながら話す。
「あの時の私はティファリーの嘘にうんざりしていて、自分のことを信じてくれる家族に依存していました。ですから……」
「可哀想な君をティファリー以外の家族が守ってくれると思ったのか?」
「そうです」
息をするように嘘をつく姉に、ティファリーは驚きを隠せなかった。
(ゲッティも酷かったですが、ノーリーお姉様も同レベルですね)
ティファリーはこれ見よがしに大きなため息を吐く。すると、ノーリーはティファリーにすがりついた。
「本当に反省しているのよ! 私をここから出して! 家に戻れたら、ちゃんと素敵な相手を探して家から出ていくから!」
ノーリーの噂は社交界に知れ渡っている。いくら容姿が良かろうとも、問題の多い女性をめとりたいという同年代の男性はいないだろう。
冷静に考えればわかることだ。しかし、ティファリーは、もう少しだけ話を聞くことにした。
「お姉様、素敵な相手というのは、どのような人のことでしょう」
「それはもちろん、独身で素敵な方よ」
「独身で素敵な方はたくさんいらっしゃると思いますが、そのような方には婚約者がいらっしゃるのではないでしょうか」
「婚約者がいない人に決まっているでしょう!」
「でしたら、かなり数が限られてきますよね」
「ええ。でも、絶対に存在することは確かよ」
ノーリーは大きく頷き、ちらりとケインに視線を送った。ケインの視線はティファリーに注がれており、ノーリーと目が合うことはない。
ティファリーはノーリーが未だにケインを諦めていないことに気が付き、ケインに話しかける。
「婚約者がおらず、独身で素敵な方といいますと、殿下もそうですわよね」
「お、俺が?」
「はい」
ティファリーはただ真実を述べただけだったが、ケインは恥ずかしそうに目を逸らした。
(ケイン殿下って、こんなタイプでしたっけ?)
「ティファリー、それよりも今日、あなたが私に話そうとしていた内容がどんなものなのか教えて!」
ケインの様子がおかしいことに気がついたノーリーは、不安を覚えて話題を変えた。




