40 離れていく人たち ②
「ケイン殿下、ティファリー様、ようこそいらっしゃいました」
ティファリーたちが鳩舎に近づいていくと、近くにある世話係の作業小屋から責任者が飛び出してきた。
「わたくしが鳩の世話係の責任者のダーリと申します」
「先日は連絡をありがとうございました」
「ティファリー様のお役に立てたのであれば、至極光栄に存じます」
「とても助かりました。何かお礼をさせていただきますね」
「いえいえ、そんな!」
恐縮していたダーリだったが、鳩舎から聞こえてきたゲッティたちの声が気になり、後ろを振り返った。
ティファリーとケインも揃って、そちらに目を向けた。
「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いてくれよ! 君たちは僕を愛しているんだろう!?」
「愛していたけれど、あなたは私が考えていた人じゃなかった! こんなに思いやりのない人だったなんて思ってもいなかったのよ!」
「そうよ! 私たちのことなんて金蔓にしか見ていない。ティファリー様は遠回しにそのことを伝えてくださっていたけど、まさにその通りだったわ!」
「本当! もうやってられない! ダーリさんと今後のことについて話をさせてもらうわ!」
女性たちは信じなかった自分たちが馬鹿だったと、頭を振りながら外へ出てきた。そして、ティファリーたちの存在に気づくと、慌てて駆け寄ってきて頭を下げた。
「この度はご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
挨拶後、女性の一人が謝罪すると他の女性たちもそれに倣った。
「ゲッティを好きになったのは、別に悪いことではありません。好みは人それぞれですからね。ですが、いくら別れる気があると言っていても、婚約者がいる人とお付き合いをすることは良いことではありません。今回のことをしっかり胸に刻んでくださいね」
そう話したあと、今回の件で女性たちには慰謝料請求をしない旨を告げた。手を合わせて感謝し、後悔して涙を流す女性たちにティファリーは微笑む。
「人生はやり直すことができます。苦しいことや悲しいことはやはり起きるでしょう。ですが、きっと幸せになれる日はくると思っています。過去にとらわれるのではなく、前を向いて歩いていってくださいね」
ティファリーの言葉に女性たちは何度もうなずいて涙を流した。
彼女たちは本気でゲッティを信じていた。しかし、彼は嘘ばかりで他人を思いやれない人物だとわかった。
夢中になって善意の声が届かなくなっていた自分は、なんて馬鹿だったのだろうと、責め続けてしまいそうだったが、ティファリーの言葉に慰められた。
(人生で一度も選択を誤らない人がいるとは思えません。……それに誰かを好きになることが過ちだとは思えませんしね。彼女たちには今度こそ良い人と出会ってほしいものです)
希望を持った彼女たちが、鳩舎の仕事をこれからどうするのか。場所を変えて話すことになり、ダーリは女性たちと共に歩き出す。
作業小屋に向かっていく女性たちの背中を温かく見守っていた彼女に、ケインが注意を促す。
「ティファリー、ゲッティが君を見てる」
「えっ?」
振り返ると、鳩舎の前にゲッティが立っているのが見えた。ティファリーたちが話をしている間に、鳩舎から外に出てきていたのだ。
涙目のゲッティはティファリーのもとに駆け寄ってこようとしたが、ケインたちの護衛に止められ地面に倒された。
地面に顔を打ち付けた痛みで表情を歪めながら、ゲッティはティファリーに訴えかける。
「ティファリー様っ! 助けてください! 本当に本当に反省しています! このままじゃ僕は鉱山送りにされてしまいます! そんなのっ、絶対に嫌です!」
「悪いことをしたから罰を受けるのです。絶対に嫌なことをされたくなかったのなら、馬鹿な真似をしなければ良かった。ただ、それだけです」
「そこを……、そこを何とかっ! お願いします!」
「何とかなりません。あなたはまだ自分が交渉できる立場にあると思っているのですか?」
ティファリーは冷ややかな表情でゲッティに尋ねた。




