39 離れていく人たち ①
ゲッティが鳩舎で働き始めて十日が経った頃、ティファリーはケインに会うために登城していた。
兄二人とのやり取りのために使われていたポッポとポポーポは、ここ最近はティファリーとケインの文通のために飛んでいるようなものだった。
二羽もティファリーに会いに行くと可愛がってもらえるし、美味しいご飯も用意してもらえる。そんなこともあり、天気のいい日は喜んで往復していた。
ティファリーが登城した理由は、五日前にゲッティと女性たちの関係に変化が出てきたと、ケインを経由して鳩舎の世話係の責任者から連絡があった。
なぜケイン経由なのかと不思議に思ったが、ポッポたちに運ばせたほうが速いことを思い出して納得した。
責任者への返信とケインにゲッティの様子を見に行くことにしたことを知らせると、彼も一緒に様子を見に行きたいと手紙を返してきた。
なぜ一緒に行こうとするのか。
不思議に思ったものの、断る理由もなかったため、ティファリーはケインの申し出を承諾した。
そして、今日の昼過ぎ、ティファリーは城門を入った所でケインと合流した。
2日ほど続いていた雨は今日になってぴたりと止んだ。清々しいほどの快晴で気温も心地好い。鳩舎へと続く石畳の小道も太陽のおかげですっかり乾いていた。
久しぶりの晴れの日を喜ぶように、野鳥たちも嬉しげに鳴いているし、時折風邪に揺れる花たちはキラキラ輝いて見えた。
「ケイン殿下、今日はお付き合いいただき、誠にありがとうございます」
「俺が行きたいと言い出したんだ。礼を言われることじゃない。むしろ俺が謝らなければならないだろう」
「とんでもないことでございます。ケイン殿下とご一緒できて嬉しいです」
にこりと微笑むと、ケインは「……それなら良かった」と視線を逸らした。
「何か気になることでもありましたか?」
「ゲッティがどうなるのか気になっていたんだ」
「そうだったのですね」
(国民が不幸になると目に見えているのに、何もしないわけにはいかないといったところでしょうか)
ティファリーたちは領民のことを一番に考える。王家の場合は国民になるため、スケールが違う。
しみじみと考えていたティファリーに、ケインが話しかける。
「女性たちについて、ティファリーの予想はどんなものなんだ?」
「どんなもの、ですか?」
「ああ。彼女たちは目を覚ましただろうか」
女性たちがゲッティに愛想を尽かしたかどうか。ケインが自分に尋ねているのはそのことだろうと考え、ティファリーは少し思案してから答える。
「……そうですね。ゲッティのことで女性たちに話をした時、彼女たちは私の話を信じてくれませんでした。口には出しませんでしたが、ゲッティを諦めさせるための嘘ではないかと疑ったのだと思ったんです」
「公爵令嬢がそんな嘘をつく……って、そうか。君の姉という事例があるか」
「そうなんです。疑う人がいることもおかしくはありません。それに彼女たちは私がどんな人物かも知りません。なら、話を鵜呑みにしなくてもおかしくはないと思い始めたんです」
彼女たちにとっては、ティファリーはゲッティよりも付き合いのない人物。しかも、恋敵が語る話を信じられないことは仕方がないのかもしれない。
「それで、ゲッティと長い時間、一緒にいるようにさせたのか」
「そうです。劣悪な環境にいれば本性も露呈されることでしょう。私の言葉が信じられないのであれば、実際に体験してもらったほうが納得できるのではないかと考えたのです」
実際、その狙いは成功していた。今日、ティファリーがここに来たのは、彼女たちがどうしたいと思っているのか、確認したかっただけだ。
(目を覚ましているなら、ゲッティを見捨てるでしょう)
ティファリーとケインの目に鳩舎が見えてきた時、中から叫び声が聞こえてきた。
「ホッホローホッホロとうるさいんだよ! 静かにしろ!」
「もうやめて! ゲッティ、鳩に当たるなんて、あなたは本当に最低な男ね!」
「何も言わないでおこうと思ったけれど無理だわ! 私、やっぱり被害届を出します!」
「えっ?」
ゲッティの情けない声が、まだ少し離れた場所にいるティファリーの耳にも届いた。




