34 迷惑客扱いされる祖母
エレインは自分が注目されるのであれば、誰かに迷惑をかけても気にしないタイプの人物である。そのため、ティファリーが言うことを聞かないことに腹を立てた。
そして、まるで自分はさも被害者のように訴え始めた。
「ティファリー、どうしてそんな冷たいことを言う子に育ってしまったの? 私は悲しいわ! あなたは公爵令嬢でしょう。恵まれた環境で生まれておきながら、人を思いやる心も持てないの?」
「人を思いやる気持ちを持てとおっしゃるのであれば、先に予約をしてくださっている方のことを考えてもおかしくないですよね?」
「あのねティファリー、私は老人なのよ! アンから年長者は大事にしろと教えられたはずよ!」
「お祖母様よりも年配のお客さまもいらっしゃいますが、事情を説明し、すぐにお品物をご用意できないことをご理解いただけましたが?」
ティファリーだって何も考えていないわけではない。大病を患っている人や体調を崩していて、先は長くないと言われている老人がいる場合は、要相談にしている。
祖母の場合も素直に相談にのってほしいと言われていれば話を聞いていた。しかし、エレインは全く悪びれる様子もなく、自分の要求だけ伝えてきたのだ。
今になってやっと、エレインは手を合わせて懇願する。
「お願いよ。先程も言ったけれど、友人に手に入れると約束してしまったのよ。あなた、私に恥をかかせるつもりなの?」
「約束する前にご相談いただけていれば多少は優先的にお作りできたかもしれません。連絡もなく約束をしてしまったのはお祖母様です。手に入らないわけではありませんから、正直にお話をすれば相手の方もわかってくださると思います」
ティファリーはにこりと微笑んで言った。
エレインにとってティファリーのこの微笑みは、馬鹿にされていることと同じで屈辱でしかない。
ノーリーとダシェルが言っていたように、ティファリーは腹黒い女性に育ってしまったと、エレインは思った。
この場で叱り飛ばしてやりたいところだが、店内には少ないながらも客がいる。店員と共に訝しげな顔で自分を見つめる視線に気づき、エレインは心を落ち着かせた。
「ああ、駄目ね。年を取るとついつい怒りっぽくなってしまうわ。あなたにも当たってしまってごめんなさいね。お詫びにお茶を一緒にするのはどうかしら」
背後に控えていたメイドに向かって手を出すと、黒色の扇を彼女に手渡した。扇を開き、口元を隠してエレインは続ける。
「あなたが仕事を頑張っていることはわかっているわ。だけど、仕事ばかりじゃ駄目よ。家族との時間も大切にしなくちゃ」
エレインはどうしてもティファリーに言うことを聞かせたかったし、聞かせることができると考えていた。
ティファリーは、そんな彼女を見て思う。
(人前だから断っているだけで、陰で命令すれば何とかなるとでも思っているのでしょうか)
エレインのこの行動は、ティファリーや店にとっては営業妨害でしかない。エレインが出入り口の扉の前に立っているせいで、店内の客は出るに出られない状態だ。
この状況を何とかしようと、ティファリーは口を開く。
「家族との時間を大切にすることは良いことだと思います。ですが、今は勤務時間中ですから遠慮いたします」
「ティファリー! あなたはこの店で一番偉いのよ!? 好きなように動けばいいじゃないの!」
「お祖母様、この店が成り立っているのは私一人の力ではないのですよ」
ティファリーは笑みを絶やさずに続ける。
「お祖母様、ご友人にお断りの連絡を入れにくいのであれば、私から連絡いたしますので、お相手の方のお名前を教えていただけますか」
「……っ! もういいわっ! 帰るわよ!」
エレインはヒステリックに叫び、口元に当てていた扇をピシャリと閉めてメイドに投げつけた。
メイドは眉尻を下げながら、無言で床に落ちた扇を拾う。
「お気をつけてお帰りくださいませ」
ティファリーが深々と頭を下げると、様子を見守っていた店員たちもそれに倣った。
(お姉様たちを相手にしているような感覚でしたね)
エレインが出ていくと、ティファリーは大きく息を吐き、店内にいた客の一人一人に謝罪をした。
その頃、怒りに任せて出て行ったエレインは、メイドから「第二王子殿下と仲が良いようだから、ティファリー様とも仲良くするとおっしゃっておられたのでは?」と尋ねられていた。
そのことを思い出し、慌てて店内に戻ろうとしたエレインだったが、兵士に迷惑客として止められてしまい、店内に戻ることはできなかった。




